大阪高等裁判所 昭和42年(う)622号 判決
判決理由〔抄録〕
論旨は、原判決の事実誤認を主張し、被告人には、原判示のように自動車の運転を差し控えるべき注意義務はないというのである。
よって原審で取り調べたすべての証拠に当審における事実取調の結果を参酌して考察すると、原判示事実は証明十分である。所謂注意義務の点について、被告人は、検察官に対する昭和四一年一月二二日付供述調書中で「北野病院を退院するとき医者から自動車の運転は止めた方がよいと注意された」旨供述しているのみならず<証拠略>を総合すると、被告人は昭和三六年七月から同年九月まで「アルコールてんかん」の診断で入院加療したが、退院後も飲酒、過労等によりてんかん性発作を起すことを認識しながら、昭和三七年六月六日三輪貨物自動車を運転し、運転中にてんかん性発作を起し該自動車を暴走させて通行人に傷害を負わせ、業務上過失傷害罪として同年一二月二七日大阪地方裁判所で禁錮八月三年間執行猶予の判決を受けたこと、被告人は、右判決前の同年八月二二日頃から同年一一月一七日頃までてんかんの発作を伴う脳血管腫の診断で北野病院に入院加療し、この間に頸動脈の結紮手術を受けたが完全に治癒しないままにこれ以上よくも悪くもならないからということで退院することとなり、退院の際は、担当医である西村医師から直接、あるいは少なくとも被告人の妻ヨシ子を通じて、退院後も坑けいれん剤を継続服用すること、自動車の運転は差し控えることなどの注意を受けていたことが認められるのであって、右の事実によれば、かりに所論のように被告人は、正確な病名を知らされておらず、「脳血管腫による症候性てんかん」あるいは「てんかん」であることを知らなかったとしても、少なくとも自己の病気がいわゆる「てんかん」様のけいれん発作を伴うものであることの認識をもっていたことは明らかであり、そのうえ医師からも右のような注意を受けていた被告人に、原判示のように自動車の運転を差し控えてその運転中にてんかん性発作を起すことによって生ずる事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があることは明白であり、その他記録を精査しても原判決には所論のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。