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大阪高等裁判所 昭和42年(う)935号 判決 1967年9月26日

被告人 宇佐美正吾 外一名

主文

被告人宇佐美正吾についての本件控訴を棄却する。

原判決中被告人坂本秀夫に関する部分を破棄する。

被告人坂本秀夫を懲役一年に処する。

理由

被告人宇佐美についての本件控訴の趣意は同被告人の弁護人中山福蔵同阿部幸孝連名作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原判決の量刑過重を主張するのであるが、記録を精査して検討するに、原審で取調べた各証拠によれば、被告人宇佐美は暴力団池田組傘下の美甘組の若者頭補佐の地位にあつたものであるが、暴力団益田組組長の益田啓介からけん銃及び実包を入手できる方途を知つたことから、右美甘組若者頭の被告人坂本とともに、けん銃及び実包を右益田から買い受け、これを池田組内の幹部組員等に、売却して利益を得ていたものであること、そして原判示第三のけん銃一丁及び実包一〇数発は右の如く益田から買い受けたうえ、同判示の永田繁造に売却するため同人方に持参していたものであること、また被告人宇佐美、同坂本が右の如く池田組内の幹部組員にけん銃及び実包を売却したことから、池田組内に相当数のけん銃及び実包が入手されているものとして警察でその捜査を開始しようとしている旨の噂が生じたため、池田組組長池田大次郎の指示によつて被告人宇佐美、同坂本が池田組の組員の売却したけん銃及び実包の回収を計り、原判示第一のけん銃一丁及び実包六発も右の指示によつて回収されたものであるが、被告人宇佐美、同坂本は右池田組長及び美甘組長からこれを廃棄すべきことを命じられながら、なお時期を待つて他に売却して利益を得ようと考え、右けん銃及び実包を隠匿所持していたものであることが、それぞれ認められるのであつて、右の如き本件犯行の経過及び罪質、態様に照らし、その犯情は悪質なものであるといわざるを得ないこと、並びに被告人の累犯前科等の前歴その他記録に現われた諸般の情状を総合して考量すると、原判決の量刑は相当であつて、所論の如く重きに過ぎた不当なものであるとは認められないので、本論旨は採用できない。

よつて、被告人宇佐美についての本件控訴は理由がないので刑事訴訟法三九六条によりこれを棄却することとする。

被告人坂本についての本件控訴の趣意は、同被告人の弁護人植木幹夫作成名義の控訴趣意書記載のとおりであつて、所論は要するに原判決の量刑過重を主張するのであるが、右論旨について考究する前に職権をもつて原判決を審査するに、原判決引用の証拠によれば、原判示の如く同被告人は昭和三九年七月一六日大阪地方裁判所において暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の罪によつて懲役八月に処せられ、控訴及び上告がいずれも棄却せられて昭和四〇年一二月七日確定し、昭和四一年九月一三日右刑の執行を受け終つたことが明らかである。ところで原判決は右前科と同被告人の本件犯行(原判示第一及び第二の犯行)とは、刑法五六条一項の関係にあるものとして同法五七条を適用し、再犯の加重をなした処断刑の刑期範囲内で刑の量定をしているのであるが、同被告人の本件犯行のうち原判示第二の犯行は原判示認定の如く昭和四一年三月下旬頃に犯されたもので右犯行当時は未だ右前科の刑の執行を受け終つていなかつたことが明らかであるから、右犯行について再犯の加重をしたのは明らかに法令の適用を誤つているものといわねばならない。また原判示第一の犯行は同被告人が昭和四〇年六月下旬頃から昭和四一年一〇月一七日までの間原判示のけん銃及び実包を不法に所持していたというものであるが、右の如き不法所持の犯行は、その最初の所持行為に着手したときに全体としての不法所持罪の着手があつたものと見るのが相当であるから、その最初の所持の始められた当時未だ前刑の執行を終了していなかつたときは、たとえその後右所持の継続中に前刑の執行を終了したとしても、全休として再犯の要件をそなえるに至るものと解することはできない。

従つて右前科の刑の執行が終了したのは右の如く昭和四一年九月一三日であつて、その最初の所持が始められた時には、未だ右刑の執行を受け終つていなかつたことが明らかであるから、原判決が右犯行を再犯と認めて、これに対して刑法五六条一項五七条を適用して刑の加重をしているのも、明らかに法令の適用を誤つたものである。

そして右法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、被告人坂本に関しては原判決は既に右の点において到底破棄を免れないものである。

そこで量刑不当の論旨について判断するまでもなく、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決中被告人坂本秀夫に関する部分を破棄したうえ、同法四〇〇条但書により当裁判所において直ちに判決する。

被告人坂本に関する原判示認定事実に原判示各法条(但し刑法五六条一項、五七条を除く。)を適用し、その所定刑期範囲内で被告人坂本が本件犯行に至つた経過、その罪質及び態様を考量して同被告人を懲役一年に処することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥戸新三 中田勝三 梨岡輝彦)

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