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大阪高等裁判所 昭和42年(く)54号 決定 1967年10月31日

被告人 山口五郎

決  定 <被告人氏名略>

右の者に対する業務上過失致死被告事件につき昭和四二年三月二三日布施簡易裁判所がした略式命令に関する、同年六月二六日付同簡易裁判所による正式裁判請求棄却の決定に対し、被告人の代理人と称する広瀬勇から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、原決定は支配人が被告人を代理して略式命令に対する正式裁判の請求をすることは法令上の方式に違反しているとの理由で本件正式裁判の請求を棄却したが、商法三七条に示すごとく支配人は営業主の業務に関し一切の代理権を有するから、右原決定の見解は誤つており、原決定を更正または変更されたい、というのである。

調査するに、被告人山口五郎に対する業務上過失致死被告事件において布施簡易裁判所が昭和四二年三月二三日に発した本件略式命令の謄本は同年六月七日同被告人に送達され、同月一二目、申立人として同被告人の氏名を記載し、文書作成者を「右申立人代理人支配人広瀬勇」(名下に広瀬の押印あり)とする正式裁判申立書をもつて右略式命令に対する正式裁判の請求があつたこと、および、被告人はその営業(詳細不明)につき右広瀬勇を支配人に選任していることが記録上明らかである。

しかしながら、略式命令に対して正式裁判の請求をなし得る者は該略式命令を受けた者(すなわち被告人)または検察官であり(刑事訴訟法四六五条)、他に、被告人の法定代理人または保佐人および略式命令発付当時被告人の刑事訴訟上の代理人または弁護人であつた者に限り被告人のために独立して右請求をなし得る(同法四六七条、三五三条、三五五条)が、これらの者以外の者で被告人を代理して右請求の申立行為をなし得る者は略式命令発付後あらたに被告人の弁護人に選任された者に限ると解すべきである。支配人が営業主に代わり一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限を有することはまことに商法三八条に規定するとおりであるが、支配人は商人がこれに営業をなさしめるために選任するものであり、右代理権限の範囲も同法条に明文があるとおり営業主の営業に関する事項に限られるのであつて、ある者が刑事の公訴を提起され、これに応訴し、これに附随して各種の刑事訴訟上の申立その他の行為をすることは、本質的にその者の営業に関する事項とはいえず、支配人の裁判上の代理権限も刑事訴訟上の諸行為に及ぶ余地はない。然るに本件正式裁判請求の申立行為は、被告人自らがこれをなしたものではなく、前記広瀬勇が被告人を代理すると称してしたものであることは前記申立書の体裁からして明らかなところ、同人は、被告人の支配人であるとしても、刑事訴訟法四六七条、三五三条、三五五条に規定する前記法定代理人以下のいずれの者でもなく、被告人の弁護人として選任された者でもないから、同人が被告人を代理して本件正式裁判請求の申立をなし得る権限はなく、原決定が本件正式裁判の請求を法令上の方式に違反しているとして棄却した措置は正当である。

してみれば本件抗告は理由がないから、刑訴法四二六条一項後段により主文のとおり決定する。

(裁判官 山田近之助 鈴木盛一郎 岡本健)

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