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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)14号 判決 1969年8月05日

控訴人

甲野太郎

(仮名)

代理人

黒田宏二

被控訴人

乙野花子

(仮名)

代理人

津田猛

主文

控訴人の本訴各請求は、いずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

<省略>

理由

第一主位的請求について。

一、<証拠>によれば、昭和二五年一〇月頃当時五五才で洋がさの修理を業とする控訴人は、たまたま当時五三才で病弱の被控訴人と、茶飲友達として付き合おうということで、いつしか懇ろな仲となり、被控訴人が、在学中の息子をかかえ、家計が苦しいこともあつて、その後ほぼ二年足らずの間、被控訴人が控訴人宅を訪ねては情交関係を重ねるたびに、その都度控訴人から被控訴人に対し金一〇〇円宛を支給し、また時には将来は結婚してもよいなどと話合つたこともあり、情交関係は、その後も昭和三七年頃まで間欠的に続けられていたことが認められるが、右認定の如き二人のなれそめ、年令、間柄、金銭の支払状況並びに本件弁論の全趣旨等から考えて、右両名の間に交された右認定の如き結婚の話合は、一時の情感の趣くままになされたその場限りのもので、いまだこれをもつて、控訴人と被控訴人両名が誠意をもつて真摯に将来夫婦たるべきことを誓い合つたものとはいい難く、右両名の前記認定の如き関係は、年を経た独身男女の単なる私通関係と認めるのを相当とするから、右両名間には、いまだ法律的保護に値する程度の確実な婚約成立の事実は到底これを認め得ず、原、当審における控訴本人尋問の結果中右認定に抵触する部分は、たやすく信用することはできないし、他に右認定を左右するに足る証拠は何もない。

二、してみれば、控訴人主張の如き婚約の成立並びにその不履行を前提とする控訴人の本訴不当利得金の返還請求は、その余の判断に及ぶまでもなくその理由なきに帰し、失当たるを免れない。

第二予備的請求について。

一、(訴の変更の適否)

(一) 本件記録によれば、被控訴人主張の如く、控訴人は、当初、被控訴人に対し、昭和二五年一二月一日から同三三年七月三一日までに毎日金一〇〇円合計金二八万円を貸与したとして、右貸金の返還を請求し、その後昭和四一年九月一二日の原審第七回口頭弁論期日において、予備的に本訴慰藉料請求の訴を追加していわゆる訴の追加的変更をなすに到つたものであることが明らかであるが、右貸金の返還請求と右予備的に追加された婚約不履行による慰藉料請求とは、民事訴訟法第二三二条所定の訴変更の要件たる「請求の基礎」を異にするものと解するのを相当とするから、同旨の理由で、控訴人の右訴の追加的変更の申立を却下した原審の判断は、右両訴の関係を前提とする限りにおいては、一応正当というべきである。

(二) しかしながら、他方控訴人は、昭和四四年六月二六日の当審第一二回口頭弁論期日において、当初の前記貸金請求の訴を、本訴の主位的請求たる控訴人主張の如き不当利得金返還請求の訴に交換的に変更し、被控訴人も異議なくこれに同意したことは、当裁判所に顕著な事実であるところ、右主位的請求たる不当利得金の返還請求と前記予備的請求たる慰藉料請求とは、いずれも被控訴人の婚約不履行を前提とし、これによつてじやつ起されたとする社会的紛争を法律的に解決しようとするものであつて、右両訴は、その訴の基礎となる社会的生活事象を同じくするものであることは、その主張自体から明らかであるから、それは民事訴訟法第二三二条にいう「請求の基礎」を同一にするものと解してよく、かつ当審における審理経過に徴し、右両訴の間に訴の追加的変更を許しても、これがために著しく訴訟手続を遅滞せしめるものとも考えられないから、前説示のように、原審当時右法条所定の訴の変更に関する要件を欠いていた本訴予備的請求は、前記の如き訴の交換的変更を媒体とすることによつて、そのかしを治ゆされるに至つたものと解すべく、右請求は、本訴主位的請求たる不当利得金返還請求の予備的請求として、その追加的訴の変更は許されてしかるべきものと解するのが相当である。

二、(本案の判断)

(一)  そこで、本案について判断するに、控訴人は、被控訴人主張の婚約を不履行し、ために控訴人は多大の精神的、肉体的苦痛を被つたとして、その慰藉料を請求するものであるが、控訴人主張の如き婚約成立の事実は、到底これを認め難いこと説示のとおりであるから、右婚約の成立を前提とする本訴予備的請求もまたその判断をまつまでもなく失当といわざるをえない。

第三以上説示のとおり、控訴人の本訴各請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡垣久晃 島崎三郎 平峯隆)

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