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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1441号 判決 1971年11月30日

控訴人

立川電機株式会社

右代表取締役職務代行者

木村正雄

右代理人

山田利夫

五味良雄

被控訴人

立川日出夫

右代理人

東野俊夫

主文

一、原判決を取り消す。

二、昭和三六年一〇月一二日開催の控訴人の臨時株主総会における「会社が発行する株式の総数を五万六、〇〇〇株に変更する。」旨の決議は存在しないことを確認する。

三、控訴人の臨時株主総会における決議不存在確認を求める被控訴人の請求のうち、前項を除くものを却下する。

四、昭和四〇年二月二〇日開催の控訴人の臨時株主総会における決議の取消しを求める被控訴人の請求を棄却する。

五、訴訟費用は第一、二審を通じて四分し、その三を被控訴人の負担とし、その一を控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

<前略>

四昭和三七年四月一〇日および昭和三八年二月二〇日の控訴会社の各臨時株主総会における決議の不存在確認を求める請求について

控訴会社は、被控訴人のみぎ各請求は、いずれも、過去の法律関係の確認を求めるものにほかならないので、不適法として却下すべきものであると主張するので、先づこの点について判断する。

被控訴人の本項の各請求は、いずれも、もつぱら各臨時株主総会における控訴会社の取締役らおよび監査役らの退任決議の不存在確認の請求であるところ、係争の各決議によつて選任された各会社役員らがいずれも既に退任しその就任登記が抹消され、後任の会社役員らが選任され、その就任登記を経由していることは、弁論の趣旨に徴し当事者間に争いがないところと認められる。(なお、控訴会社の現在の役員らは、いずれも、控訴会社の代表取締役の職務代行者が当裁判所の許可を受けて招集した株主総会の決議により選任され、就任の登記を経由したことは当裁判所に顕著である。)当裁判所は、このように、係争の株主総会の決議によつて選任され会社役員らがすべて退任しその就任登記が抹消され、後任の会社役員らが選任されてその就任登記を経由した後においては、係争の株主総会決議の不存在または無効の確認請求をする利益がなく、このような請求は不適法として却下すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

(1)  後記のように、臨時株主総会の招集決議をした取締役会の構成員である取締役らや取締役会の決議により臨時株主総会を招集した代表取締役がその資格を有していなくても、その資格がある者として登記されている以上、みぎ招集手続によつて招集された臨時株主総会の決議の取消原因にならないこと、すなわち、先の株主総会における取締役選任決議の不存在または無効は、それだけではその取締役らが招集手続に関与して招集された後の株主総会の決議の取消原因とならないこと(この点については後で詳述するので、ここではこれ以上の説明は省略する。)

(2)  確認判決の実際の効用が極めて少く、当事者および裁判所の確認訴訟に費す労苦に値しないこと。すなわち、株式会社は対外的には表見取締役の法律行為につき責任を負わねばならないから、対外関係に関する限りでは、その取締役の退任に関する登記手続を経由した後には、取締役を選任した株主総会の決議の不存在ないし無効を確認する利益は皆無と云うことができるし、また、対外的には、その表見取締役の退任登記が終つた後においても、表見取締役が取締役の業務執行上の裁量権を根拠として会社に対する不法行為ないし債務不履行による責任の免責を主張するおそれがある場合のように、みぎ責任の原因である行為当時における取締役の資格の欠をみぎ責任の有無に関する訴訟前に予め確認することの効用が皆無であると云うことができない場合もあるにはあるけれども、このような確認判決は前記表見取締役の会社に対する責任の有無の決定的な決め手となることは極めて稀で、みぎ責任の有無についての後の訴訟において、先の確認判決があるために当事者の攻撃防禦や裁判所の審理を著しく簡略化することができることは余り期待することができないのが常であるから、それならば、当事者や裁判所の骨折損になるおそれが多分にある前記選任決議の不存在または無効の確認訴訟に時間と労力を浪費するよりも、一そのこと、みぎ責任の有無が問題となつた都度取締役の資格の有無についても審理判断することにして、二度の訴訟を一度に減らした方が、当事者にとつても裁判所にとつても訴訟経済上望ましい。

(3)  実例について検討しても、取締役を選任した株主総会の決議の不存在または無効の確認をその取締役の退任後に求める訴訟は、その訴訟において勝訴判決を得て、これをその後の訴訟に利用しようと云うのではなく、もつぱら会社の内紛に際して相手方と会社を苦しめてその譲歩を強いることによつて自分に有利な解決を計ることを目的としているのであつて、たとえみぎ確認訴訟に確定勝訴判決を得ても、その頃には取締役の会社に対する責任を問う訴訟は短期時効や提訴期間の制限のために追求できない事態に至つているので、前記確認訴訟が後の損害賠償請求訴訟手続の簡略化に役立つた実例は皆無と云つても差支えがない。そうすると、取締役が退任し、その旨の登記を経由した後においても、なお、その取締役を選任した株主総会の決議の不存在または無効を確認する利益がある場合があると云うのは、実社会の生きた法律関係を離れた机上の空論にすぎない。

以上の理由により、本項の各臨時株主総会の決議不存在確認の請求は、いずれも、確認の利益を欠く場合に当るから、その余の争点について判断するまでもなく、みぎ確認を求める被控訴人の請求は不適法で、却下すべきものである。

五昭和四〇年二月二〇日の臨時株主総会における決議の取消請求について

(一)、本項の請求に関する事実関係について、

訴外木村正雄が控訴会社の代表取締役の職務代行者に選任され(取締役の職務代行者には選任されていない。)、同訴外人が控訴会社の臨時株主総会の招集の決議をするために取締役会を招集し、同取締役会においてみぎ臨時株主総会の招集を決議し、同決議に基づいて同訴外人が臨時株主総会を招集した経過の詳細、および、同株主総会における決議の内容は、原判決一六枚目表二行目の「二月二日」との記載の次に、「に開催された取締役会に、当時控訴会社の取締役として登記されていた五名(いずれも、前記昭和三八年二月二〇日の臨時株主総会の決議によつて取締役に選任された者として取締役就任の登記を受けた。)のうち四名が出席し、」と追加するほか、同一五枚目裏二行目冒頭から同一六枚目表五行目末尾までの記載と同一であるので、みぎ記載をここに引用する。

みぎ事実関係によると、控訴会社の代表取締役の職務代行者である木村正雄が、会社の常務に属しない昭和四〇年二月二〇日開催の臨時株主総会を、裁判所の許可を受けることなく招集したのであるから、みぎ招集に先立ち取締役会のみぎ臨時株主総会招集の決議があることを要し、みぎ取締役会の決議を欠くときはその臨時株主総会における決議には取消原因となるべき瑕疵があることになるところ、みぎ臨時株主総会招集の決議のために同月二日に開催された取締役会には、当時控訴会社の取締役として登記されていた五名のうち四名が出席し、出席取締役全員が前記臨時株主総会の招集に賛成したから、みぎ取締役会の決議は、定足数を満たす人数の取締役の出席した取締役会において、過半数の賛成によつて成立したものと云うことができる。そうすると、代表取締役の職務代行者であつて取締役でも取締役の職務代行者でもない木村正雄が、裁判所の許可を受けることなく会社の常務ではない臨時株主総会招集を決議する取締役に出席して決議に参加したからと云つて、みぎ取締役会の決議の効力に影響を及ぼさないから、別段の事由がなければ、みぎ臨時株主総会の招集手続は適法に行われたと云うことができる。

(二)、被控訴人は、みぎ取締役会に出席して決議に参加した取締役四名は、いずれも、昭和三八年二月二〇日に開催されたと称する臨時株主総会の決議によつて取締役に選任されたとして取締役就任の登記を受けた者らであるところ、みぎ臨時株主総会の決議は存在せず、みぎの者らはいずれも取締役の資格を有せず、したがつてみぎの者によつて構成された取締役会における昭和四〇年二月二〇日開催の臨時株主総会招集の決議も無効であるから、結局、代表取締役の職務代行者木村正雄は、取締役会の決議がないのに、裁判所の許可を受けないで会社の常務に属しない昭和四〇年二月二〇日の臨時株主総会を招集したことになり、みぎ臨時株主総会の決議には取消原因となるべき瑕疵があると主張するので、判断するに、臨時株主総会の招集決議をした取締役会の構成員に取締役の資格を欠く者があつて、それらの者を除けば、その取締役会に出席した取締役数が定足数に達しない場合や、決議が過半数に達しない場合においても、みな取締役の資格を欠く者らが当該取締役会開催当時取締役就任の登記を受けていて、みぎ開催以前に正規の手続(例えばこれらの者を取締役に選任した株主総会の決議の不存在もしくは無効の確認、または同決議取消の確定判決を受ける等)によつて取締役の職務から排除された事実がなく、しかも、これら表見取締役を加えると、その取締役会に出席した取締役数が定足数に達し、且つ出席取締役の過半数をもつて決議が成立したときには、みぎ取締役会の決議に基づいて代表取締役が招集した臨時株主総会は有効に成立し、同総会における決議には、他に別段の事由がなければ取消原因となるに足りる瑕疵はないと解するのが相当である。そして、みぎ法理は取締役欠格の事由がその者を取締役に選任した株主総会決議の不存在であると無効であるとによつても、また、取締役の資格を欠く者の数が一、二名であると取締役会構成員全員であるとによつても、なんらの差異を来たさないものと解する。その理由はつぎのとおりである。

(1)、最初の取締役選任の株主総会の決議が不存在、無効または取消し得べきものであるために、その後の株主総会招集前にその不存在もしくは無効の確認または取消しの判決その他表見代表取締役をその職務から排除する正規の手続もないのに、その後の取締役の選任が次々と数珠繋ぎに果てしなく取消し得るものなることは、会社の法律関係を長期にわたつて不安定なものとする弊害があるから、みぎ不安定状態をなるべく早期に遮断して安定した法律関係を招来するために、株主総会のその他の招集手続や構成等に瑕疵がなく、且つ決議が適法に成立している場合には、株主総会の良識に信頼して、株主総会の招集手続に関与した会社役員の資格欠に基づく招集手続上の瑕疵は、招集の決議をした取締役会の構成員である表見取締役の資格に関するものも、その決議に基づいて株主総会を招集した表見代表取締役の資格に関するものも、当該株主総会の決議によつて治癒され、みぎ株主総会の決議の取消原因となるに足りる瑕疵には該当しないものとなると解するのが相当であること。

(2)、株主総会招集の決議をした取締役会の構成員やみぎ決議に基づいて株主総会を招集した表見代表取締役が資格を欠いていても、これらの者が当時取締役ないし代表取締役として登記されている以上、外観上はその資格を有していたのであるから、取締役と会社との間に実体法上の法律関係を生ずるおそれのない表見取締役ないし表見代表取締役の行為は、会社の内部関係においても有効なものと認めるのが相当であつて、このように認めてもその弊害はほとんどないこと。

以上の理由により、昭和四二年二月二〇日開催の控訴会社の臨時株主総会の決議については、同総会の招集を決議した取締役会の構成員が仮に取締役としての資格を欠いでいても、同総会における決議の取消原因にはならないから、みぎ資格の欠を前提として同総会における決議の取消を求める被控訴人の主張はすべて理由がなく、その余のみぎ決議の取消事由について被控訴人の主張も理由がないので、みぎ決議の取消しを求める被控訴人の請求は失当として棄却を免れない。

六結論

以上の当裁判所の判断と異る原判決は取消しを免れないので、民訴法三八三条、三八六条、九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(三上修 長瀬清澄 岡部重信)

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