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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1927号 判決 1969年5月29日

被控訴人 株式会社大阪相互銀行

理由

本件家屋が控訴人の所有するものであること、右家屋について被控訴人らが控訴人主張の各登記をしていることは、当事者間に争いがない。

被控訴人株式会社大阪相互銀行(以下被控訴人銀行という。)は、右(一)、(二)の登記は、控訴人と被控訴人銀行との間に成立した本件契約にもとづいてなされたと主張する。

控訴人本人が被控訴人銀行と直接右契約をしたことを認めるにたりる証拠はない。乙第一、二号証の控訴人名下の印影が控訴人の印章により顕出されたものであることは、控訴人の認めるところであるが、《証拠》によると、右印影は、訴外東谷一郎が控訴人の印章を冒用して顕出したものであることが認められるから、これをもつて右事実を認めることはできない。

《証拠》を総合すると、被控訴人銀行は、昭和三九年四月三〇日控訴人の夫である訴外東谷一郎が代表取締役をしている訴外東谷鈴木株式会社との間に相互銀行取引契約を結んだが、そのころ控訴人は、その印章および本件家屋の権利証を佐藤喜久満に保管を託していたところ、東谷一郎は、控訴人に無断で佐藤から右印章と権利証を受けとり、被控訴人銀行との取引約定書(乙第二号証)、および右契約にもとづき訴外会社が負担する債務について元本極度額を一二〇万円とする本件家屋についての根抵当権設定契約および代物弁済予約をする旨の根抵当権設定契約証書(乙第一号証)、登記申請委任状(乙第五号証、同第七号証)に東谷キミと記名し、その名下に右印章を押印して被控訴人銀行係員に提出し、本件(一)、(二)の各登記をしたこと、そのことが原因で控訴人と東谷一郎とは昭和三九年八月三一日協議離婚したことが認められ、《証拠》中右認定に反する部分は、《証拠》に対比してたやすく信用できないし、他に右認定を妨げる証拠はない。

そうすると、東谷一郎は、右根抵当権設定契約および代物弁済予約につき控訴人を代理する権限がないのであるから、右契約は、同人の無権代理行為であるといいうべく、右について東谷一郎に代理権ありとの主張は理由がない。

つぎに被控訴人銀行は、東谷一郎の右行為は、民法第一一〇条の表見代理行為であると主張し、その基本代理権として、東谷一郎は、控訴人から本件家屋の敷地を控訴人名義とすることについて代理権を与えられていたと主張するけれども、右事実を認めるにたりる証拠はなく、かえつて、《証拠》によれば、東谷一郎にこのような権限のなかつたことが明らかであるから、右基本代理権の存在を前提とする被控訴人銀行の主張は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

被控訴人銀行は、控訴人が東谷一郎に対し訴外栄商事株式会社から本件家屋を担保として借入れ、弁済、抵当権設定ならびに抹消等につき代理権を与えていたと主張する。そして《証拠》によると、控訴人は、昭和三八年二月ごろ本件家屋を買入れる資金を栄商事株式会社から借入れるため東谷一郎にその印章を預けて手続を委任し代理権を与え、昭和三八年二月二一日抵当権設定契約を原因とする債権額五〇万円、抵当権者栄商事株式会社、債務者東谷キミとする昭和三八年二月二二日受付第二三三四号抵当権設定登記がなされていることが認められる。しかし、《証拠》によると、佐藤は昭和三九年三月控訴人から控訴人の印章と権利証を預かつたことが認められるから、そのころには控訴人と東谷一郎との前記委任関係は終了したと認めるのが相当である。したがつて、昭和三九年四月三〇日の本件契約時においては、東谷一郎は、控訴人を代理するなんらの権限をも有しなかつたのであるから、同人が控訴人を代理してした本件契約は、基本代理権の存在を欠く故にそのままでは民法第一一〇条にいわゆる表見代理行為にあたらないことはいうまでもない。しかし、代理権消滅後従前の代理人がなお代理人と称して従前の代理権の範囲に属さない行為をした場合においても、もし相手方が過失なくして代理権消滅を知らないときは、従前の代理権ある以上さらにそれ以外の事項についても代理権があるものと信ずることがあるし、相手方がかく信ずるについて正当の理由を有するときは、かかる相手方は保護に値するから、本人は相手方に対してその責に任ずべきものとするのが相当である。しかし、この場合には相手方は、従前の代理権の存在を知り、かつこれを知るが故に従前の代理権消滅後の、しかもその範囲をこえた無権代理行為につき権限ありと信ずべき正当の理由を有するに至つたことを要するものと解するのを相当とする。本件についてみるに、本件契約当時相手方である被控訴人銀行の係員が東谷一郎が従前栄商事株式会社との抵当権設定につき控訴人を代理する権限を有していたことを知つていたことを認めるにたりる証拠はないので、かりに被控訴人銀行において東谷一郎が本件契約について控訴人を代理する権限があると誤信したとしても、これがため東谷一郎の右無権代理行為につき控訴人をしてその責に任ぜしむべきではないばかりではなく、同銀行においてかく信ずるにつき過失がないということはできないので、同銀行は権限があると信ずべき正当の理由を有しないというべきである。すなわち、《証拠》によると、被控訴人銀行は、東谷一郎と交渉したが、控訴人の意思を確かめることをせず、本件家屋の調査に行き控訴人と面接しながらその点の確認を怠つたまま本件契約をしたことが認められる。もつとも、《証拠》中には被控訴人銀行係員吉田功が本件家屋の調査に控訴人方に行き控訴人に面接し根抵当権設定の意思を確認したところ、同人は承諾したという供述ないし記載があるが、これらは、《証拠》に対比してたやすく信用することができないし、他に右認定を妨げる証拠はない。本件において被控訴人銀行において控訴人に直接その意思を確かめるときは東谷一郎が控訴人を代理する権限を有しないことを知りえたのにこれをなさず本件契約をしたのは、少くとも取引上必要とする注意を欠いたものであるといわなければならない。そうすると、被控訴人銀行の表見代理の主張は理由がないから、本件契約は訴外東谷一郎の無権代理行為であつて、控訴人に対してその効力を生ぜず、被控訴人銀行の本件家屋についてなした(一)、(二)の各登記は、登記原因を欠くものであつて無効である。よつて、控訴人の被控訴人銀行に対する本訴請求を認容すべきである。

つぎに被控訴人松永浅一に対する請求について判断する。被控訴人松永浅一は、被控訴人松永と控訴人との間に登記原因である根抵当権設定契約、代物弁済予約がなされたと主張するが、控訴人本人との間に右契約がなされたことを認めるにたりる証拠はない。もつとも、丙第一号証中控訴人名下の印影が控訴人の印章により顕出されたものであることは控訴人の認めるところであるが《証拠》によると、右印影は訴外東谷一郎が控訴人の印章を冒用して顕出したものであることが認められるから、これをもつて右事実を認めることはできない。

つぎに被控訴人松永は、東谷一郎が控訴人を代理して右契約をしたと主張するが、これを認めるにたりる証拠はない。

さらに被控訴人松永は、表見代理を主張する。まずその基本代理権について被控訴人松永は、東谷一郎は控訴人から本件家屋の敷地を控訴人名義にすることについて代理権を与えられていたと主張するが、これを認めるにたりる証拠はない。よつて、右代理権の存在を前提とする民法第一一〇条の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

つぎに被控訴人松永は、控訴人が東谷一郎に対し訴外栄商事株式会社から本件家屋を担保として借入れ、弁済、抵当権設定ならびに抹消等について代理権を与えていたと主張する。《証拠》によると、控訴人は、昭和三八年二月ごろ本件家屋を買入れる資金を栄商事株式会社から借入れるため東谷一郎にその印章を預けて手続を委任し代理権を与え、昭和三八年二月二一日抵当権設定契約を原因とする債権額五〇万円、抵当権者栄商事株式会社、債務者東谷キミとする昭和三八年二月二二日受付第二三三四号抵当権設定登記がなされていることが認められる。しかし、《証拠》によると、佐藤は、昭和三九年三月控訴人から控訴人の印章と権利証を預かつたことが認められるから、そのころには控訴人と東谷一郎との前記委任関係は終了したと認めるのが相当である。したがつて、昭和三九年六月二九日の右契約当時においては東谷一郎は、控訴人を代理するなんらの権限をも有しなかつたものであるから、同人が控訴人を代理してした契約は、基本代理権の存在を欠く故に、そのままでは民法第一一〇条にいわゆる表見代理行為にあたらないことはいうまでもない。しかし、代理権消滅後従前の代理人がなお代理人と称して従前の代理権の範囲に属さない行為をした場合においても、もし相手方が過失なくして代理権消滅を知らないときは、従前の代理権ある以上さらにそれ以外の事項についても代理権があるものと信ずることがあるし、相手方がかく信ずるにつき正当の理由を有するときはかかる相手方は保護に値するから、本人は相手方に対しその責に任ずべきものとするのが相当である。しかし、この場合には相手方は、従前の代理権の存在を知り、かつこれを知るが故に従前の代理権消滅後の、しかもその範囲をこえた無権代理行為につき権限ありと信ずべき正当の理由を有するに至つたことを要するものと解するのを相当とする。本件についてみるに、被控訴人松永は、右契約当時東谷一郎が従前栄商事株式会社との抵当権設定につき控訴人を代理する権限を有していたことを知つていたことを認めるにたりる証拠はないので、かりに被控訴人松永において、東谷一郎が控訴人を代理する権限がありと誤信したとしても、これがため東谷一郎の右無権代理行為について控訴人をしてその責に任ぜしむべきではないというべきである。そうすると、被控訴人松永の表見代理の主張は理由がないから、訴外東谷一郎の行為は無権代理行為であつて、控訴人に対しその効力を生ぜず、被控訴人松永の(三)、(四)の各登記は、登記原因を欠くものであつて無効である。よつて、控訴人の被控訴人松永に対する本訴請求を認容

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