大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)1959号 判決 1968年12月23日
主文
一、第一、九五九号事件について、
1、原判決をつぎのとおり変更する。
2、第一審被告は各第一審原告に対し金二六万九、九三三円およびこれに対する昭和四〇年五月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3、第一審原告らのその余の請求を棄却する。
4、第一審の訴訟費用および第一、九五九号事件の控訴費用は二分し、その一を第一審原告らの負担とし、他の一を第一審被告の負担とする。
5、第二項は仮りに執行することができる。
二、第二、〇〇二号事件について、
1、第一審原告らの控訴を棄却する。
2、第二、〇〇二号事件の控訴費用は第一審原告らの負担とする。
事実
第一、九五九号事件被控訴人兼第二、〇〇二号事件控訴人(以下第一審原告と略称する)らの代理人は、
第一、九五九号事件について、「本件控訴を棄却する。」との、第二、〇〇二号事件について、「原判決主文二項を取り消す。
被控訴人は控訴人両名に対し各金二〇万円およびこれに対する昭和四〇年五月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
第一、九五九号事件控訴人第二、〇〇二号事件被控訴人(以下第一審被告と略称する)の代理人は、
第一、九五九号事件について、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との
第二、〇〇二号事件について、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、つぎのとおり追加するほか、原判決事実欄の記載と同一であるので、みぎ記載を引用する。
第一審原告らの主張について、
原判決三枚目表二行目末尾の次に、行を変えて、つぎのとおり追加する。
「(六) 建設大臣の定めた宅地建物取引業者の報酬規定は、契約が成立した場合の報酬に関する規定であつて、本件の場合のように契約が解除となり依頼者が違約金を取得した場合の報酬に関しては、報酬金額を制限した規定なく、自由にその額を約定することができる。」
第一審被告の主張について、
原判決三枚目裏七行目に「兵庫県告示」とあるのを「建設省告示」と変更し、同八行目末尾の次に、つぎのとおり追加する。「宅地建物取引業者は建設大臣の定めた報酬規定によらずして、いかなる名目をもつてするも依頼者から報酬を得てはならない。これに反する特約は無効である。」
証拠関係について、(省略)
理由
当裁判所は、第一、九五九号事件について、原判決を主文一、2記載のとおりに変更し、第一審原告のその余の請求を棄却し、第二、〇〇二号事件について、第一審原告らの控訴を失当として棄却するものであるが、その理由は、つぎのとおり変更、追加および削除をするほか、原判決の理由欄の記載と同一であるので、みぎ記載を引用する。
一、原判決四枚目表一〇行目に「原告」とある次に、「ら」と追加し、同枚目裏三行目に「証人」とあるのを「原審証人」と、「原告」とあるのを「原審における第一審原告」と改め、同一〇行目冒頭から同五枚目表四行目末尾までの記載を削除する。
二、同五行目に「甲第一号証」とある次に、「成立に争いがない乙第一号証、当審証人富島慶喜の証言および原審における第一審」と追加挿入し、
同七行目に「との間に、」とある次に、「本件取引を媒介した宅地建物取引業者である第一審原告ら両名と訴外武知徳市との三名は、本件取引当事者である第一審被告および訴外会社の各人から、みぎ媒介の報酬として、兵庫県知事指令の報酬基準最高額、すなわち、宅地建物取引業法一七条一項の規定に基づいて建設大臣が定めた昭和四〇年建設省告示第一、一七四号の規定する宅地建物取引業者が宅地または建物の売買、交換または貸借の代理または媒介に関して受けることのできる報酬の最高額の支払を受ける旨、および、」と追加し、
同一二行目末尾の次に、「みぎ認定に反する証拠はない。第一審被告の甲第一号証の契約書中みぎ媒介の報酬に関する規定は不動文字で第一審被告はこれに従う意思はなかつた旨の第一審被告の主張は採用しない。」と追加する。
三、前項の追加に続けて、行を変えて、つぎのとおり追加する。
「三、第一審被告は、宅地建物取引仲介業者は宅地建物取引の代金の授受、目的物件についての所有権移転登記手続ないし目的物件の引渡しが完了した後でなければ報酬の請求をすることができないから、本件の場合のように売買契約が解除された場合には報酬を請求することはできないと主張するので、以下みぎ主張の当否について判断する。
なるほど、宅地建物取引業者の行う宅地建物の取引の代理媒介等の業務は商事仲立営業に該当するから、みぎ業者の業務上の契約中の報酬に関する約定は、契約中に別段の定めがなければ、報酬額は取引代金の授受および所有権移転登記手続ないし目的物件の引渡等が完了するまでの業務に対する報酬として約定されたものと認むべきであつてこれら業務が完了しなければみぎ約定の報酬金の全額の請求をすることができない趣旨の約定であると解すべきであるが、この点に関する商法五五〇条は、契約書を作成して契約を成立せしめたときは報酬を受領することを許しているから、仲介(代理および媒介)契約の当事者は当然に報酬金の支払いに関し、その対象である業務の範囲、支払方法、支払時期等につき別段の約定をすることができる。前認定の本件媒介報酬金の支払いに関する約定中、第一審被告が違約金を取得した場合に関する約定は、買主(訴外会社)が違約金を支払つて売買契約を解除したために本件媒介契約における媒介対象である売買契約が未履行のまま終了した場合において、売主(第一審被告)が媒介業者(第一審原告らほか一名)に支払うべき報酬額の予定であつて、その支払期限を売買契約解除の時と定めたものと解するのが相当である。そして、仲立営業者が仲立契約中に定めたこのような契約終了の場合の報酬額の約定はもとより有効であつて、本件売買契約が買主の解約により解消され、第一審被告が違約金を取得したことは前述したとおりであるから、第一審被告は第一審原告らほか一名の媒介業者に対して約定のいわゆる違約金を取得した場合の報酬金を支払わねばならない。この点に関する第一審被告の主張は理由がない。」
四、原判決五枚目最終行目冒頭以下同理由欄末尾までの記載を削除し、その代りに、つぎのとおり追加する。
「四、第一審被告は第一審原告らの請求する報酬額は宅地建物取引業法一七条に基づく建設省告示に違反するから無効である旨主張するので、以下みぎ主張の当否について判断する。
宅地建物取引業一七条一項の規定により建設大臣が定めた宅地建物取引業者が宅地または建物の売買、交換または賃借の代理または媒介に関して受けることのできる報酬の額に関する昭和四〇年四月一日建設省告示第一、一七四号は、みぎ報酬の額を、当分の間、昭和四〇年三月三一日現在において宅地建物取引業法一七条一項の規定により都道府県知事が定めていた額とする旨を定め、みぎ指定時においてみぎ法条により兵庫県知事(本件は兵庫県内に所在する土地に関する事件であること本件土地の所在地により明白である。)が定めていたみぎ報酬の額のうち、みぎ業者が売買の媒介を行つた場合の報酬の額に関する部分には、当該取引の当事者双方につき、それぞれ取引金額に次の率を乗じて算出した額の合計額以下とする旨およびみぎ比率として、取引金額二〇〇万円以下の部分は一〇〇分の五、同五〇〇万円以下二〇〇万円を超える部分は一〇〇分の四、五〇〇万円を超える部分は一〇〇分の三とする旨を定めている。
宅地建物取引業法一七条一、二項は宅地建物取引業者の受け得る報酬の最高額を定め、みぎ額を超える額をもつてする報酬の受領を禁止する行政上の取締法規であつて、みぎ額を超える額をもつてする契約の実体的効力に関してはなんらの明文の規定を設けていないけれども、みぎ法条の趣旨は、一般大衆の無知困惑等に乗ずる業者の暴利行為を罰金、科料、免許の取消、営業停止等の罰則をもつて禁圧することのほかに、業者を一方当事者とする宅地建物取引の仲介報酬契約のうち告示所定の額を超える額をもつてする部分の実体的効力を排除し、みぎ契約の実体上の効力を所定最高額の範囲に制限し、これによつて一般大衆を保護する趣旨も含んでいると解すべきであるから、みぎは強行法規と解すべく、所定最高額を超える契約部分は無効であると解するが相当である。
本件媒介契約の対象である売買契約の目的物件は甲第一号証に農地と表示されていて、それが農地であることについて当事者間に争いがないけれども、その買受人である訴外会社が農業を営む者でないことは常識上自明のことであるから、みぎ売買は実質上宅地である土地または売買と同時に農地を宅地に転用する目的でなされたものであつて、宅地または宅地に準ずる土地の売買と認めることができる。よつてみぎ売買の仲介に関し宅地建物取引業者が受けることのできる報酬金額についての約定のうち前記告示に定める額を超える部分は無効である。また、本件媒介報酬金に関する約定中、いわゆる違約金を取得した場合についての約定は、仲介業務の一部に対する報酬金の約定であつて、前記宅地建物取引業法の法条による最高報酬額の対象である仲介業務の全部に対する報酬金の約定には該当しないことは既に前述したとおりであるけれども、仲介業務に対する報酬金であることに変わりはないから、宅地建物取引業者はいかなる名目をもつてするも取引の仲介に関し前記告示所定の額を超える金員を受取つてならない趣旨(甲第一号証末尾添付の建設省告示によつて効力を認められた兵庫県知事の告示四項参照。)の前記法律一七条二項の規定にかんがみて、当事者が違約金を取得した場合についての報酬金額についても、前記法条および告示の適用があると解するが相当である。
そこで前記告示の定める率に従つて本件媒介報酬金の最高額を計算すると、みぎ媒介の対象である売買契約における代金額が金二、四六六万円であることは当事者間に争いがないので、みぎ売買の媒介に対する最高報酬金額は金八〇万九、八〇〇円となる。
前記法条に基く告示による最高報酬額は、特定の売買目的物件についての一回の媒介行為により売買当事者の一方から媒介をした業者が受けることができる報酬の最高額を定めたものであつて、一個の売買に関し媒介者が数人あり、且つ各媒介者が当該取引に関して数人の媒介者が関与することを予め承諾したときは、みぎ数人が一体となつて前記最高報酬額以下の報酬を受領することができる趣旨であつて、数人が各別にみぎ最高額に達するまでの額の報酬金を受取ることができる趣旨ではないと解するのが相当である。そうすれば、前認定のように本件売買契約の媒介者は第一審原告らほか一名の三名であつて、前顕甲第一号証の売買契約書にみぎ三名が同契約の媒介者として連名で署名捺印している事実に徴すれば、みぎ三名はいづれも互に他の者がみぎ契約の媒介に関与することを承諾していたことが認められるから、媒介報酬金も三名で合計金八〇万九、八〇〇円を受け得られるに止まり、報酬金の約定(損害賠償額の予定)中みぎ額を超ゆる部分は無効である。そして、別段の主張も立証もないのでみぎ三名は平等の割合で前記報酬金合計額の三分の一宛を取得したものと認めるべきである。よつて各第一審原告は第一審被告に対しみぎ報酬金合計額の三分の一に当る金二六万九、九三三円の請求権があるわけである。
五、以上の理由により、第一審原告らの請求のうち、各第一審原告が第一審被告に対し、金二六万九、九三三円およびこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年五月九日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるので認容し、その余は失当であるので棄却すべきものである。」
以上のように、当裁判所の判断は、原判決の認容した第一審原告の請求のうち一部を認容し、その余の部分および原判決の認容しなかつた第一審原告の請求を失当として棄却するものであるので、結局、第一、九五九号事件については第一審被告の控訴の申立の一部を容れて原判決を当審判決主文二、2、3のとおりに変更し、第二、〇〇二号事件については第一審原告らの控訴を棄却すべきものである。
よつて民訴法三八六条、三八四条、九六条、九五条、九二条、八九条、一九六条を適用し主文のとおり判決する。