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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)975号 判決 1968年3月14日

控訴人 増田万亀雄

被控訴人 壺阪製薬株式会社

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、控訴人

原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金二八八万円及びこれに対する昭和三九年八月三一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文と同旨。

第二、当事者の主張、証拠の提出、援用、認否。

(控訴人の主張)

被控訴会社は、昭和二二年三月増田卯造、川西勝美、谷口理太郎等が発起人となって設立したものであるところ、営利会社を設立する目的は重役報酬と株主利益を期待したものであり、かつ、株式会社の重役は役員報酬を期待して重役の業務を引き受けたものであるから、設立と同時にその報酬請求権は当然に発生するものというべきである。

理由

被控訴会社は昭和二二年三月設立された株式会社であり、控訴人の父である増田卯造は、設立当初の二年間被控訴会社の取締役として、その後は監査役として、昭和三九年八月まで就任していたことは、当事者間に争いがない。

ところで、商法第二五四条第三項、第二八〇条、民法第六四八条第一項によれば、株式会社の取締役または監査役は、会社との間の特約がない限り、当然には会社に対し、その取締役または監査役としての職務に関する労務の提供の対価としての報酬を請求することはできないものとされているのであるが、そのような報酬付与の特約は、特に無償とすべき特別の事情がない限り、通常は、会社との任用契約中に黙示的に含まれているものと解するのが相当である。しかしながら、取締役ないし監査役が、自己の受くべき報酬の額を自由に定めることができるものとすると、その地位を利用してみずからの利益のみを図り、会社の利益をかえりみないおそれもあるから、このようないわゆるお手盛りを防止するため、商法第二六九条、二八〇条は、取締役または監査役の受くべき報酬は、原則として定款にその額を定めるものとし、定款にその額を定めなかったときは株主総会の決議をもってこれを定めることとしている。従って、任用契約において明示または黙示に報酬付与の特約がなされても、定款または株主総会の決議をもってその報酬の額)前記法条の趣旨から考えて、取締役及び監査役全員に対する報酬総額または限度額さえ定めておけばよい)を定めなければ、報酬請求権の具体的内容は確定せず、結局、取締役または監査役は会社に対し報酬請求権を行使することはできないものというほかはない。

本件の場合、被控訴会社の定款に、取締役または監査役の受くべき報酬の額についての定めがなく、かつ、これについて株主総会の決議もないことは、控訴人の自認するところであるから、被控訴会社の取締役である川西勝美、谷口理太郎、岩郷洋一等が控訴人主張の額の報酬を現に支給されているとしても、だからといって、増田卯造が被控訴会社に対し控訴人主張の額の報酬請求権を有するものといえないことは明らかである。

次に、退任取締役または監査役に対する退職金は、通常はその在職中の職務執行に対する対価としての性質を有するものとみるべきものであるから前記法条にいう報酬の一種であり、従って、その額は定款または株主総会の決議をもって定めることが必要であり、かりに、右退職金が在職中の特別功労に対するものとしての性質を有するものとすれば、右にいう報酬には該らないけれども、なお前記法条の精神に照らして、同じく定款または株主総会の決議をもってその額を定めることを要するものと解するのが相当である。控訴人は、被控訴会社の定款または株主総会の決議をもってその額が定められている旨の主張をしないし、その立証もないから、増田卯造が被控訴会社に対し控訴人主張の額の退職金請求権を有するものといえないことが明らかである。

さらに、取締役または監査役に支給される賞与金は、報酬が経費から支払われるのと異り、会社が利益をあげた場合にその利益金の一部を与えるものであって、利益金の処分の一方法であるから、これを支給するためには、毎決算期における株主総会の決議を要するものといわなければならない(商法第二八三条第一項)。控訴人は、被控訴会社の株主総会においてそのような決議がなされたことを主張しないし、その立証もないから、増田卯造が被控訴会社に対し控訴人主張の額の賞与金請求権を有するものといえないことが明らかである。

そうすると、増田卯造が被控訴会社に対し右報酬、退職金、賞与金合計金二八八万円の請求権を有することを前提とし、これを譲り受けたとして、被控訴会社に対し右金二八八万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める控訴人の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく理由がないことに帰するから、右請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。<以下省略>。

(裁判長裁判官 小石寿夫 裁判官 宮崎福二 松田延雄)

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