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大阪高等裁判所 昭和42年(ラ)63号 決定 1967年12月22日

抗告人 高見雄幸

右訴訟代理人弁護士 中村源次郎

相手方 祇園年子

主文

一、原決定を取り消す。

二、大阪地方裁判所執行官は、大阪地方裁判所堺支部昭和四〇年(ヌ)第一九号不動産強制競売事件について、別紙目録記載の不動産に対する相手方の占有を解いてこれを抗告人に引き渡せ。

三、申立並びに抗告の費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨及び理由は別紙に記載のとおりである。

二、大阪地方裁判所堺支部昭和四〇年(ヌ)第一九号不動産強制競売事件の記録並びに原審における抗告人、相手方に対する審尋の結果によれば、次の事実が認められる。

(1)  抗告人は新井幸一に対する金銭債権の執行を保全するため、昭和三四年七月一三日大阪地方裁判所堺支部の仮差押決定を得、右新井所有の別紙目録記載の不動産(本件建物)に対してこれを執行し、同日その旨の登記がなされた。

(2)  新井は昭和三六年二月一七日本件建物を相手方に売り渡し同月二三日その旨の所有権移転登記を経由した。

(3)  その後抗告人は、前記仮差押の被保全債権につき新井に対する債務名義を得、仮差押に基く本執行として本件建物に対する強制競売の申立をし、大阪地方裁判所堺支部昭和四〇年(ヌ)第一九号事件として、昭和四〇年七月二三日本件建物につき、債務者を新井、所有者を相手方とする強制競売開始決定がなされ、即日その旨の登記がなされた。

(4)  右競売手続において、昭和四一年九月一〇日抗告人を競落人とする競落許可決定がなされ、抗告人は競落代金を完納し、同年一一月九日本件建物につき競落による所有権移転登記を経由した。

(5)  相手方は、前記仮差押執行後の昭和三五年四月頃、新井から本件建物を賃借し、その引渡を受けて占有を始めたものであるが、その後、前記(2)のとおり賃借建物の所有権を取得し、前記強制競売開始決定当時所有者としてこれを占有していたものであり、現に引き続きこれを占有している。

三、不動産強制競売手続において、競落代金の全額を支払った競落人は、民事訴訟法第六八七条によって、債務者に対し競落不動産を自己に引き渡すべきことを求めることが認められている。右引渡命令は、競売手続によって単に競落人に競落不動産の所有権を取得させ、その対抗要件たる所有権移転登記を得させるばかりでなく、競落不動産の所有者として当然行使しうる占有の引渡をも、他の特別の手続を経ないで簡易に取得させることが、競売手続の目的を達成する上で望ましいところから、認められた制度であって、同条が引渡命令を発することのできる相手方として、債務者と規定する趣旨は、強制競売手続は債務者所有の不動産に対してのみこれを実施しうるのが原則であり、債務者は通常所有者であるから、競落によって債務者がその所有権を失い、競落人が所有権を取得した以上、債務者が従前の所有権に基いてなしていた競落不動産の占有はその占有権原を失うことはまことに明白であり、従って、特段の調査をまたないで債務者に対し競落人への占有の引渡を命じても、債務者の利益を不当に害するおそれがほとんどないという点にある。そうだとすれば、同条にいう債務者を必ずしも執行債務者に限ると解する必要はなく、その一般承継人を含むことはもち論、執行債務者ではないが強制競売手続上これと同視し得べき所有者、例えば、債務者と所有者の地位が分化し第三者が完全に所有権を取得したのにかかわらずなお強制競売を受忍すべき場合(民事訴訟法第六五〇条第二項)の所有者の如きものも、引渡命令制度の認められた趣旨から考えて、前記法条にいう債務者に含まれるものと解してよかろう(なお、任意競売手続においては、右にいう債務者とは、被担保債権の債務者をいうのではなく、これを担保権設定者たる不動産所有者と読み替えるべきものであることは、疑いがない)。

四、しからば、本件のように仮差押執行後強制競売開始前に所有権を取得した第三取得者は、右にいう債務者と同視してよいであろうか。

仮差押執行後に仮差押債務者から目的不動産の所有権を譲り受けた第三取得者がある場合において、仮差押債権者が後日その被保全債権につき債務名義を得たときは、右仮差押の本執行として右第三取得者の所有権を競売に付し得るのである。そして強制競売は一般に債務者の処分権限をとり上げてこれを処分し、競落人にその所有権を取得させる手続であって、所有権そのものが債務者から競落人に移転する点に着目すればそれは一種の売買であるところ、本件のような第三取得者のある場合その売主たる地位にあるのは右の第三取得者であって、執行債務者ではない。

このようにみてくると、本件の第三取得者は執行債務者ではないけれども、競落によって直接その所有権を失い、従前の所有権に基く占有権原を失うに至る点において、前示引渡命令の認められた趣旨からして一般の場合の執行債務者と同視してなんらさしつかえないものというべきである。そして、裁判所は、このような第三取得者所有の不動産に対して強制競売手続を開始するにあたっては、当然その競売申立が仮差押に基く本執行として許容される場合であるか否かを審査しなければならず、これを肯認したればこそ、債務者以外の第三取得者の所有不動産を競売に付したのであるから、その競売手続において、競落人に対し競落を許可し、第三取得者に対し競落人への不動産の引渡を命じても、第三取得者の利益を不当に害するおそれはほとんど考えられないのであって、引渡命令制度の趣旨目的をいささかも逸脱するものではない。

かくして、本件のような第三取得者は、前記法条にいう債務者に含まれるものと解するのが相当であり、これに対し競落人への引渡命令を発することができるものというべきである。

五、そうすると、原決定が、引渡命令を発することのできる相手方は、債務者、その一般承継人及び競売手続開始決定による差押が対抗力を生じたのちに不動産を占有するに至った第三者に限るとの見解のもとに(当裁判所も一般論としては右見解を妥当と考える)、本件相手方のような第三取得者は右のいずれにも該当しないとして、抗告人のなした引渡命令の申立を却下したのは、違法として取消を免れない。よって、手続費用は相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小石寿夫 裁判官 宮崎福二 松田延雄)

<以下省略>

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