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大阪高等裁判所 昭和42年(ラ)68号 決定 1967年5月10日

抗告人 破産者大神商事株式会社破産管財人 尾嶋勤

相手方 山口正憲

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は原決定に対し、抗告を申立て、その理由として、別紙抗告の理由記載のとおり主張した。これに対する当裁判所の判断はつぎのとおりである。

抗告の理由第一について

競売法第三二条第二項により同法による競売手続に準用される民訴法第六八七条第二項所定の管理命令は、競落許可決定後競落人に競落不動産の引渡があるまでの間に右不動産の現状に対して物理的又は法律的な変更が加えられると、競落人の権利が害せられひいては債権者の権利も害せられるおそれが多分にあるので、このような事態の発生を防止して競落人又は債権者の権利を保全しようとする保全処分であるから、競売手続が順調に進行し競落許可決定があつて後短期間内に競落代金の支払及び競落人に対する競落不動産の引渡がある場合には、このような保全処分の必要は全くないとは言えないまでも比較的に稀薄であるのに対して、競落許可決定後競落人に対する競落不動産の引渡までの間に右決定に対する即時抗告の申立又は競売手続の停止を命ずる仮処分決定若くは一時停止決定等の執行があつて、そのために競売手続を進行させることが許されなくなり、長期間に亘つて競売手続が終止しない場合には、このような保全処分の必要がある事例も比較的多くその必要の度も濃厚であるわけであつて、これらの事情から見て前記の法条は、主として、基本たる競売手続がその競落許可決定に至つて何らかの事情でこれを進行させることが許されなくなる場合を予想して、このような場合に対処して競落人又は債権者の権利を保全する応急的な仮の処置を採ることを許す趣旨の規定であると解するが相当である。したがつて、競落許可決定後にその競売手続の停止を命ずる仮処分の執行があつた場合において、競落人又は債権者の申立によつて競落不動産について右法条による管理命令を発するのは、まさに右法条本来の趣旨に適合した運用であると言うべきである。右管理命令を競売手続停止の仮処分命令に背反する裁判である旨非難する抗告人の主張は、法律の誤解によるものであつて是認できない。また、民訴法第六八七条第三項所定の引渡命令は、第二項所定の管理命令があつたにもかかわらず債務者が競落不動産の任意引渡を拒む場合において第二項の裁判を執行する裁判であつて、同項の裁判ないしその執行は基本たる競売手続上の裁判ないしその執行には当らない。したがつて、右第三項による引渡命令又はその執行をしたからと言つて基本たる競売手続を進行させたものと言うことはできない。抗告人の本項の主張は理由がない。

抗告の理由第二、第三について

相手方には本件不動産の競落人としての同人の権利を保全するために本件管理命令の申立をする必要があること、このような場合には、民訴法第六八七条第二項所定の管理命令をもつて、競落不動産を管理している破産管財人の管理を排して競落人の選任した管理人にこれを管理させることができること、右法条による管理命令を発する場合には、他の証拠により、競落人にその権利を保全するために管理命令申立の必要があることが証明せられたときは、必ずしも債務者又は破産管財人を審尋する必要がないことについての判断は、原決定理由欄(二)、(三)項の記載と同一であるので、これをここに引用する。

抗告人は、競売債務者が破産して競落不動産を現に管理している者が破産管財人である場合には、右競落不動産に関し民訴法第六八七条第二項所定の管理命令を発することは許されないと主張する。しかしながら、破産管財人は破産債権者らの利益を代表して破産者の財産を管理する者であるから、破産債権者の利益のために行動すべきであつて、一般の破産債権者らとは利害相反する立場にある別除権者や同人の抵当権の実行により抵当不動産の競落人となつた者の利益のため、又は同人らと破産債権者のいずれにも偏しない公平な立場で、その行動をすべきではない。右破産管財人の職責に徴すれば、競売裁判所が破産管財人を破産債権者らの利益を代表する者として普通一般の場合の競売債務者同様に取扱い公益の代表として取扱わないのはむしろ当然のことであつて、少しもその弁護士としての学識、経験、人格、法律上の能力を軽視したことにも、また破産管財人としての職務の遂行に違法又は不当な干渉をしたことにもならない。抗告人の前記両項の主張はすべて理由がない。

以上の理由により、原審が抗告人の本件異議申立を認容しなかつたのは正当である。そのほか記録を調査しても原決定を取消すべき違法は見当らない。本件抗告は理由がない。

よつて民訴法第八九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 村瀬泰三 長瀬清澄 田坂友男)

別紙

抗告の理由

第一、原決定は(一)に於て、管理命令を出したからといつて基本たる競売手続を進行させることにはならない、と説明しているが、之は詭弁である。民事訴訟法第六八七条(2) の命令が発せられた場合に次に来るものは、同条(3) の執行吏保管の命令が発せられることは当然である。従つて同条(3) の命令は実質的には競売手続の進行である。

第二、(二)破産管財人は破産裁判所が弁護士より選任するもので、其の学識、経験、人格、法律上の能力は執行吏より遙かに上位に位するものである。此の破産管財人が適当なりとして許した行為を一回の審尋をも為さずして其の重大なる能力を奪うのは弁護士破産管財人を無視した不当なる法律解釈である。

相手方は判示の如き危険ありと認めたる場合には須く破産裁判所に対し本件管財人の免職を申請すべく、此の方法をとらずして民事訴訟法第六八七条(2) に基く申請を為し、この申請を許容したる管理命令は違法である。

第三、原決定(三)の理由に至つては法規の字句に拘泥し法の真に企図する処を解せざる誤論である。

即ち現在の破産管財人が弁護士中相当信用ある人士より選任せられることの実情、従つて之等管財人の職務行為について裁判所は十分の敬意と其の職務執行に対し信頼をおくべき義務がある。然るに本件の如く破産管財人の職務上の行為に付、疑点あらば裁判所は須く之を審尋し、其の弁解を聞く義務がある。裁判所と破産管財人とは措信し、密接なる連絡を保つてこそ双方が其の職を円満に執行し得るのである。

之冒頭に原決定は法規の字句に拘泥した誤論であるという所以である。

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