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大阪高等裁判所 昭和42年(行ケ)9号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、そこで進んで、本件選挙の無効原因の有無について検討する。

(一) 選挙公報に関する主張について、

<証拠>によると、大阪市は、公職選挙法第一七二条の二の規定に則り、大阪市議会議員および大阪市長の選挙(選挙の一部無効に因る再選挙を除く。)における選挙公報の発行に関し、大阪市選挙公報条例(以下、公報条例という。)を制定していること、右公報条例(ただし本件選挙当時有効な条例を指称する。)の第二条ないし第四条の規定によると、市議会議員の選挙については、大阪市選挙管理委員会は、その候補者の氏名、経歴、政見等を掲載した選挙公報を選挙ごとにかつ各選挙別に一回発行する、候補者は氏名、経歴、政見等を選挙公報に掲載したいときは、その掲載文を添えて、区の選挙管理委員会を経由して大阪市選挙管理委員会に文書を以て申請すべく、その申請をうけた同管理委員会は、右掲載文を原稿のまま写真印刷して選挙公報に掲載する旨定められていることが認められる。

ところで、本件選挙に関し候補者Yに対する選挙公報の登載、発行について考えてみるに、<証拠略>候補者Yは、本件選挙に際し自己の氏名、経歴、政見等を選挙公報に登載してもらうべく、その文章ならびに様式において、選挙公報に現実に登載を受けたものと全く同一の原稿を(区の選挙管理委員会を経由して)大阪市選挙管理委員会に提出し、右原稿を受領した同管理委員会は、同原稿の文章および様式その儘に写真印刷して、選挙公報を発行したこと、なお右の原稿中の経歴欄には「現在東住吉区、阿倍野区の教職員組合委員長」と記載があつたから、選挙公報にも同様その経歴欄に「現在住吉区、阿倍野区の教職員組合委員長」と登載されていることが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、大阪市選挙管理委員会は、候補者Yから提出された原稿をその儘選挙公報に登載したものというべく、その際、原告の問題としている「現在住吉区、阿倍野区の教職員組合委員長」の文言の登載がなされたとはいえ、結局、同管理委員会は、公職選挙法ならびに公報条例の規定に基き、かつその規定のとおり選挙公報の登載をなしたものであつて、そこには、同法第二〇五第第一項にいう「選挙の規定」には形式上少しの違反も存しないものというべきである。

(二) それのみならず、公報条例が、候補者の経歴、政見等を原稿の儘(かつ写真印刷して)登載させようとした本旨は、その準拠法と目すべき公職選挙法第一六九条第二項の規定の趣旨と同様、大阪市選挙管理委員会に候補者の経歴、政見等の内容を審査検討して登載の許否を決めさせては、究極において候補者の経歴、政見の発表の自由を阻害し、或は阻害するおそれがあり、延いては公職選挙法第一条のいう選挙が公明かつ適正に行われなくなり、民主政治の健全なる発達を妨止することとなるので、これを禁じているところにある。かような見地から看ると、候補者Yの提出した前記原稿中、経歴欄に「現在住吉区、阿倍野区の教職員組合委員長」とある部分が、かりに原告指摘のとおり全く虚偽の事項に属するものであつたとしても(いやかりに、その儘選挙公報に登載することが公職選挙法第二三五条の虚偽事項公表罪を以て問疑されるおそれありとしても)、大阪市選挙管理委員会は、その登載を拒否し、或は原稿を訂正する権限は少しも存しないのは勿論、拒否、訂正する必要(ないしは義務)もないものと解するのが相当である(附言すると、前判示のとおり、候補者から提出のあつた原稿を、その儘「写真印刷」に付して選挙公報の発行をするという、事柄の性質上から看ても、大阪市選挙管理委員会は、原稿につきいかなる微細明白な誤謬と雖もこれを補訂しがたいものであつて、かつ公報条例等を精査してみても、かような誤謬の補訂ないしは候補者に対する補訂の勧告権限を認めた条項は、発見することができないところであり、結局、大阪市選挙管理委員会は、法律上原稿の補訂に関し少しの権限も義務も存しないものというべきである)。

従つて、候補者Yの原稿中「現在住吉区、阿倍野区の教職員組合委員長」なる経歴事項が、原告指摘のとおり全く虚偽であつたからといつて、大阪市選挙管理委員会がこれに訂正を施すことなく原稿の儘選挙公報(甲第八号証)に登載しても、(形式上)少しも前記「選挙の規定」に違反するところは存しないというべきである。

(三) しかるところ、原告は、更に候補者Yの経歴中「現在東住吉区、阿倍野区の教職員組合委員長」なる事項は、全く虚構のことであつて、同候補者が当選を得る目的を以て自己の経歴を誇張し、選挙公報を悪用しようとして右経歴中に加えた事項に過ぎず、かようなことが明白であるのに、大阪市選挙管理委員会が何ら補正の措置を採らず、形式的に、原稿のまま選挙公報に登載したことは、結局選挙法の基本理念たる選挙の自由、公正の原則が著しく阻害され、これ即ち、実質的に前記「選挙の規定」に違反しているものとというべきである、と主張している。

1 公職選挙法第二〇五条第一項にいわゆる「選挙の規定に違反することがあるとき」には、選挙管理執行機関が選挙の管理執行手続に関する明文の規定に違反することがあるときのほか、直接明文の規定が存しないが、選挙法の基本理念たる選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを包括するものと解すべきことは、原告所論のとおりである。

また、前記認定のとおり、公報条例によれば、候補者提出の原稿は、補訂されることなく、その儘写真印刷に付され選挙公報ができあがるわけであるが、それは、選挙の自由公正を保障するため採られている措置であつて、決して候補者のする専恣かつ虚構な事項の登載に左袒しているものではなく、況んや当選を得る目的を以て選挙公報の悪用を計らしめたものでは到底ありえないものであつて、虚偽事項の登載ということが、刑罰法規等に触れ、以て当該候補者個人に責任が生ずる場合の存すること、勿論というべきである。

しかしながら、選挙公報に虚偽事項の登載がなされても、選挙管理委員会には前述のとおり補訂の権限も義務も存せず、また選挙が複合的な行為としての性質を有することから看れば、当該候補者の個人的な帰責事由となるに止まり、当該候補者のみに責任を課するを足りるものであつて、虚偽事項登載の程度が極めて著大、悪質であり、選挙全体の自由公正に重大な影響を及ぼさしめる特段の事情が存しないかぎり、選挙全体の無効を来す事由とはなりえないものと解するのが相当である。(三谷武司 西内辰樹 砂山一郎)

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