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大阪高等裁判所 昭和42年(行コ)11号 判決 1968年2月14日

大阪市北区竜田町七三番地

控訴人

大塚株式会社

右代表者代表取締役

大塚直人

右訴訟代理人支配人

高智誠一

同市同区中之島四丁目一五番地

被控訴人

北税務署長

芝本正春

右指定代理人

伴喬之輔

西村省川

山西偉也

吉田秀夫

右当事者間の法人税更正決定等取消請求控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、昭和三九年一〇月一六日付でなした控訴人の昭和三六年六月一日より同三七年五月三一日までの事業年度の法人税についての所得金額を七二一万五、八二一円、法人税額を二五六万五、七〇〇円とした再更正決定および過少申告加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人負担とのする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は、次のものを付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるが、それをここに引用する。

控訴人の主張

1  昭和三九年一二月三一日まで施行された租税特別措置法(以下措置法という。)五五条一項は、単なる取引の態様を列挙したものであるとすれば、輸出業者たるものは製造業者たり得ずという結論になる。控訴人は、同条は取引の態様と行為者を併せて規定しているものと主張するのであって、控訴人のように一法人が数種の輸出取引をすれば、その態様に応じて段階的な控除特権を有するのである。このことは被控訴人が更正決定において措置法五五条一項一号の取引と四号の取引の控除特典を認めたことによって自らも認めているところであり、控訴人の取引は、同条一項一号にも四号にも五号その他にも該当するのであり、被控訴人が控訴人に物品を購入して輸出する者として一項一号の、加工賃と原材料を負担した輸出取引については、一項四号の適用を認めているのであるから、一項が取引態様を定めたもので、行為者の取引の多様性を認めたものでないというのであれば、控訴人については、全取引につき一項一号の適用をなすべきこととなり、不当である。

被控訴人の主張する輸出業者の概念は、一項六号の法人たる加工業者、すなわち一項二号、四号の法人がその製造または製造に準ずる行為の中に当然包括する加工とは、別の場合の加工(輸出業者よりうける輸出物品の加工行為)をなさしめた業者であって、このことは、国税庁審理課の富山哲が税務弘報昭和四二年二月号で「一項六号に規定する輸出業者とは輸出商社のことをいい、製造業者は含まれない。」と発表しており、ここにいう製造業者等とは、控訴人のような製造問屋を含むことは明らかである。

更に、国税庁通達(昭和二八・一二・七・直法一―一三四)は、その一二の中において、製造等に準ずる行為の中に製造問屋の行為が入らぬとされているのは、理解に苦しむところであり、また同通達の一一が「輸出業者が自己の製造、採掘、採取、栽培、養殖、その他これに準ずる行為により取得した物品を輸出のため、他の輸出業者に販売した場合には、当該物品の販売は、法五五条一項三号または五号に規定する販売に該当することとなるが………」として、同条四項一号の適用を除外している。かくては、控訴人は、輸出を自ら開拓せず輸出商社に売却した方が利益となり、本法制定の根本趣旨と甚しく背馳する。

然るに、被控訴人が控訴人を輸出業者と称し、他面措置法上の製造に準ずる行為をなすものとして統一を欠く扱いをしているのは、製造問屋なる用語に起因している。製造問屋とは、自ら製造設備を有することを必要とせず、原材料、設備資金等を貸し付ける方法により、自己と別個の経済主体たる下請業者があたかも一つの製造主体のような結合関係を有する場合の親企業をいうのであって、控訴人がこれに該当する。故にこの機能的結合を認め、あえて商社たる問屋を製造者として取扱っているのであり、加工、下請を前提としなければかかる表現は成り立ち得ない。四号における加工、下請は、親企業たる製造問屋と従属関係にあるため、輸出控除を加工、下請に及ぼさず、六号における加工、下請は、かかる従属性を有しないから、親請たる輸出業者の控除特典の中から応分の特典を割譲させるのである。原判決が多少の不均衡は立法上の政策問題だから極端でない限り受忍すべきであるというのは不当である。すなわち控訴人は、製造業者であって、輸出業者ではない。

2  原判決は、取引量、取引形態、設備状況等により控訴人を輸出業者と認定しているが、控訴人の輸出部人員は、全従業員の二割に充たない少数であり、輸出取引の総額は、内地取引額の過半に達していない。通常税法上、判断の基準になる数的概念は、過半数をもって行なわれているのであり、製造設備の有無とか、僅少により製造問屋でないことにはならない。控訴人は、製造問屋であるから、控訴人のなす加工の委託は、一項六号と四項一号の加工の委託ではない。

3  控訴人は、製造問屋として下請業者に製造、加工させた物品を輸出商に販売していた当時は、輸出額の全額について三%の控除特典が認められていたのに、貿易部門を自ら開発したため輸出業者と認定され、輸出金額から原材料費と加工賃を除いた残り一〇%の三%、すなわち輸出金額の〇、三%の特典に縮少されたのであり、これは不合理であり、単に立法政策の問題として片づけられることではない。たとえば、住宅に接して工場を増築すれば全部が工場となり、住宅としての呼称評価がなくなるというのと同じで不合理である。

4  被控訴人は、措置法は、下請企業に恩典を及ぼす趣旨であると主張するが、そうではない。物品の製造には、各種の要素が入りまじり、その恩典を下請業者、原材料提供者、部品附属品の提供者に及ぼすことは不合理であり、下請者ばかりでなく、紡績会社や一流商社に対して原材料提供者として特典を割譲せねばならないという解釈はあたらない。

被控訴人の主張

1  措置法五五条一項四号は、法人が製造または製造に準ずる行為により取得した物品の規定であるが、同号の取引主体には輸出業者と非輸出業者が含まれていることは、同項六号と四項一号の規定との関連から明白であるから、一項四号の物品を製造輸出する者と輸出業者という概念は、矛盾排斥する関係にはない。それ故控訴人が一項四号の取引をしている限り製造業者であり、製造業者である以上輸出業者ではないという論理は成り立たない。したがって、控訴人が一項四号の取引をしたことは、争いがないのであるから、控訴人が四項一号の適用上輸出業者であるか否かを判断すれば足りる。

2  輸出業者の要件は、(1)他から購入した物品の販売を主たる業者とすること、(2)常時物品の輸出を行うことの二点であって、輸出取引額が内地取引額以上でなければならぬ等という限定はない。

3  控訴人は、控訴人の加工委託が一項六号、四項一号の加工委託に当らないといい、その理由として、控訴人は、製造問屋であり、下請企業は控訴人と従属的関係に立ち、両者は、あたかも一つの製造主体のような結合関係にあることをあげているが、一項六号、四項一号の適用上委託者と受託者との関係が従属関係にある場合を除外する根拠はない。下請企業が委託者と従属的関係に立つのは、通常の事例であり、この場合に一項六号の適用を制限すれば、同号が下請企業にも恩典を及ぼそうとする趣旨の大半が失われる。また控訴人と下請企業が別人格を形成し、別個の経済主体として企業活動を行なっていることは、控訴人の認めるところであるから、これを一個の製造主体と見得ないことはいうまでもない。

4  同一法人が物品の製造、輸出、卸売を行うことは、当然であるが、控訴人は、その場合、その法人が物品を製造している範囲では製造業者であり、輸出をしている範囲では輸出商社であり、卸売をしている範囲では卸売業者であるというように用いているものと思われるが、その用法は、恐らく通常の用法ではあるまい。通常の用法は、同一の法人が数種の業務を営んでいる場合には、その主たる業務を取り上げて「何々業者」と呼ぶのである。物品製造を主たる業務とするものについては、同時に物品の購入販売を行っていても製造業者と呼び、物品を購入し輸出することを主たる業務とするものについては、同時に物品の製造を行なっていても輸出商社と呼ぶのである。

国税庁通達(昭和二八・一二・七・直法一―一三四)の一〇によれば、「法五五条一項六号に規定する輸出業者には、他から購入した物品を常時輸出し、通常貿易商社と呼称されているものはこれを含むものとする。」とあり、このことは、輸出業者に含まれるものの主たるものが通常貿易商社あるいは輸出商社と呼ばれているものであるとしても、それに限られるものではないことを表わしている。したがって、内地取引の比重が高く、通常輸出商社と呼ばれていない法人であっても、物品の購入販売を主たる業とし、常時物品の輸出を行っている限り輸出業者に該当する。

原判決の訂正

原判決一〇枚目表四行目の範時とあるの個所は、範疇と訂正する。

理由

当裁判所は、控訴人の請求を失当として棄却すべきものと認めるが、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の理由と同一(ただし、原判決一二枚目裏七行目と八行目に「金五四、三九一、三二五円」とあるのを「金五四、三九一、三三五円と、同一三枚目表一二行目に「範時」とあるのを「範疇」と、同一七枚目裏一行目の「五四、三九一、三五五円」とあるのを「五四、三九一、三三五円」とそれぞれ訂正する。)であるから、これを引用する。

控訴人が当審において陳述するところは、要するに、措置法五五条一項は、取引の態様と行為者を併せ規定したもので、控訴人のように一法人が数種の輸出取引をすれば、その態様に応じ、段階的な損金の控除特権を有し、右一項一号または四号法人として損金算入が認められ、控訴人は製造問屋で輸出業者ではないから同条四項一号の適用はなく、右一項四号による損金算入が認められるべきである、右のように解釈しなければ、課税上不均衡を生じて不当である、というにある。しかしながら、措置法五五条などの輸出所得に対する課税上の特例のもうけられた立法の理由および同法五五条一項四号、六号、同条四項一号の関係、二重損金算入回避等に関する説明および解釈適用についての当裁判所の判断等は、その引用する原判決の当該部分のとおりであって、同法五五条一項各号は、輸出に関する取引のうち取引の態様の面から列挙して各号に該当する取引につき、その収入金額の一定割合の額を損金に算入する特例を認めたものであり、取引の主体の面から規定しているものではない。ただ右各号の取引をした主体が輸出業者であるとともに輸出商品を製造している法人が、他に委託加工して製造した物品を輸出した場合には、その商品の輸出取引により得た収入金額から当該委託により委託加工をした者に支払う金額に相当する金額を同条一項二号または四号に掲げる取引による収入金額から控除した金額につき、右二号、または四号の損金の算入が認められるのであって、輸出業者であるか否かにより右二号または四号の適用の範囲を異にするだけである。控訴人が措置法にいう輸出業者であることは、当裁判所の引用する原判決の認定するとおりであるから、控訴人が他に委託加工することにより製造した物品を輸出して得た収入金額から右委託加工賃を控除した金額につき、一項四号に定める一〇〇分の三の損金算入が認められるにすぎないことは明らかであり、これに反する控訴人の主張は、理由がない。次に、控訴人は、製造問屋で輸出業者でないと主張するが、仮に、控訴人がその営業面でいわゆる製造問屋としての営業をしているとしても、控訴人は、前認定のように輸出業者として営業をしているのであるから、措置法にいわゆる輸出業者であるというを妨げないから、前記のように同法五五条一項四号の取引については、同条四項一号による損金算入の制限があるのであって、控訴人の輸出する物品の下請加工業者が控訴人の委託により加工した同条一項四号の物品に対しては、右加工業者に同項六号の適用があると解するのを相当とする。もし控訴人の主張するように右委託を受けた加工業者に右六号を適用すべきでないとすれば、輸出業者たる控訴人のみが右五五条一項による損金算入の特例の利益を受け、委託を受けた加工業者の利益を奪うこととなり、措置法の立法の趣旨に反することとなる。控訴人の右主張は、採用できない。控訴人は、以上のように解すると、課税上の不均衡を生じ不当であると主張するが、多少の不均衡を生ずること、それも立法上の政策問題であって、受忍すべきものと解すべきことは、当裁判所の引用する原判決の当該部分の判断のとおりであって、同法五五条四項一号により損金算入を制限しても、同法一項四号による輸出による収入金額よりその輸出した商品の製造につき加工業者に支払った委託加工賃が控除されるだけであって、控訴人主張のように〇、3%のみの損金しか算入が認められないというような著しい不均衡はない。控訴人のこの点の主張は、法規の解釈を誤解しているものと解される。

されば、以上と同旨の原判決は、相当であって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 宮本勝美 裁判官 菊地博)

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