大阪高等裁判所 昭和42年(行コ)7号 判決 1970年3月23日
大阪府吹田市四、三一九番地の四
控訴人
勇我光政
右控訴代理人弁護士
前田常好
大阪府茨木市片橘町六の一二
被控訴人
茨木税務署長
山本三薫
右指定代理人検事
川井重男
同
東隆一
同法務事務官
矢野留行
同
赤藤信一
同大蔵事務官
本野昌樹
同
辻本勇
同
三上耕一
右当事者間の所得税課税標準等裁決取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和三七年一一月三〇日附を以て、控訴人の昭和三六年度分所得税の課税所得金額を七、八七一、九〇〇円として為した更正決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用認否は、
控訴代理人において、当審証人勇我勲、同土取徳次郎の各証言を援用し、後記乙号各証の成立を認め
被控訴代理人において、乙第五号証、第六号証の一ないし三を提出し
たほか、原判決事実摘示と同一(但し、原判決四枚目裏一〇行目の「三三年」を「三三号」と訂正し、六枚目裏九行目の「買い受け」の次に「(但し、その所有権移転登記は未了)」を加え、七枚目裏七行目の「得したこと」の次に「(但し、所有権移転登記未了)」を加え、同一〇行目の「三六年」を「三五年」、八枚目表一行目の「借した」を「供した」、同一二行目の「甲第一ないし第三七号証」を「甲第一ないし第二六号証、第二八ないし第三一号証」と各訂正し、同末行の「提出し」の次に「(第二七号証は欠号)」を加え、同裏三行目の「被告」の次の「ら」を削る)であるから、これをここに引用する。
理由
当裁判所は控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものとするのであつて、その理由は原判決理由に示すところと同一であるから、これをここに引用する。当審証人勇我勲の証言中、第四物件につき昭和三六年七、八月頃以降控訴人の次男良助において大豆類を播き収獲した旨(恐らく宅地化のため土盛りした後に大豆程度のものを態々耕作する手間を加える必要性に之しく、たやすく信を措けない)、及び第二物件の離作料につき北野土地株式会社からの追加金五二万円余を受取つていない旨の部分は到底真実を述べたものとは受取れず、(右金員の受取りにつき控訴人の領収証が発行されていないことは、原審における証人山岡藤太郎、勇我勲の各証言により認められるが、単に領収証がないということだけでは、右の判断を左右するに足りない)、同土取徳太郎の証言中、第四物件につき勇我勲に売渡以後は同人が耕作した旨の証言部分も駿味であつて、多分に同証人の推測を加えた供述と認められ、これまた信を措くに足らず、以ていずれも前認定を覆えすに足らない。
のみならず、第四物件について勇我薫(控訴人の子)から控訴人への売買契約があつたことは、当事者間に争のないところではあるが、右売買につきいまだ所有権移転登記手続を経ていないこと(この点は当事者間に争がない)、真実売買代金が授受された確証がないこと(成立に争のない甲第四号証によれば、昭和三六年六月三〇日の右契約当日に手付金六五〇万円を授受した旨の記載があるが、残金は登記と同時に支払う約定であつて、登記未了ならば少くとも右残金は支払う必要はない筈にも拘らず、証人勇我薫は原審において右契約の翌年頃にこれが支払われた旨証言し、当審でも右代金は授受済の如き証言を為し、他方に右代金授受を裏付ける資料は何も存在しないところより見ると、右証言は措信するに足りないばかりか、右手付金授受の真実性さえも疑わしく(これを肯定する原審、当審証人勇我勲の証言の信憑力も疑がある)、さらに、被控訴人主張の被写体の写真であることに争のない検乙第一号証の一ないし六により認められる右第四物件上の小屋に現に勇我薫が自ら所有者と表示して「売宅地」の広告を出していること、控訴人が子の勇我薫から今更顧々右物件を買取る格別の必要性も認められないこと(当審証人勇我薫は、右売買の目的として、勇我薫自身が病気で金が要つたことと、控訴人が別の物件を処分したために一年内に買替える必要があつたことを挙げるが、前者はたやすく措信できず、後者の必要性が恐らく真相と認められるが、さればこそ却つて右売買行為の真実性に疑が持たれるのである)を綜合して考察すると、右第四物件の勇我薫から被控訴人への形式的売買契約には果して真意が伴つていたかの点に多分に疑念が持たれ、いまだこれを肯定するに足るだけの心証を生じない。
してみれば、控訴人の請求が棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長判事 宮川種一郎 判事 竹内貞次 判事 畑郁夫)