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大阪高等裁判所 昭和43年(う)1587号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(二) 次に、本件事故発生に至るまでの被告人らの運転状況をみるに、原審および当審で取調べた証拠を総合すると、それは次のとおりである。すなわち、被告人神脇は、自動二輪車を運転し、五条通西行車道第二通行帯を時速約四〇キロメートルで西進中本件交差点の東端から約二〇メートルの地点にさしかかつた際、右斜め前方約30.25メートルの五条通中央緑地帯の切れ目の南端付近は車首をほぼ南に向けた被告人島本運転の小型四輪貨物自動車を発見し、当初は同車が停止しているものと思つたものの、やがてそれが微速で南進しているのを知つたけれども、同車が自車を先に通過させてくれるものと考え、ただ同車との間隔に余裕をもたせるため、ハンドルをやや左に切つて進行を続け、また、そのころ左斜め前方約14.4メートルの第一通行帯上に五条通を横断すべく佇立待機中の通行人二名の姿を認めたが、なおも南進中の被告人島本の車の前を通過し得ると思い、さらにハシドルを左に切つて第一通行帯に入り、右通行人の手前約6.4メートルの地点に接近した際、被告人島本の車が既に自車の右斜め前方約9.5メートルの第二通行帯上に至つているのを知り、はじめて右島本車との衝突の危険を感じ、急停車の措置をとるとともに同車と通行人との間を通過すべくハンドルをやや左に切つたが及ばず、右通行人のうち大槻実に自車前部を衝突させて同人をその場に転倒させ、よつて同人をして原判示日時場所において原判示傷害により死亡させたこと、他方、被告人島本は、小型四輪貨物自動車を運転し、五条通東行車道から南方大黒町通に進入すべく五条通中央緑地帯の切れ目で右折して同切れ目の南端付近で一旦停車した後、五条通西行車道を西進する数台の車をやり過ごしてから発進し、時速約一〇キロメートルで同車道を横切つて南進を続け同車道の第三通行帯まで南下したところ、折から同車道第二通行帯上を西進してくる被告人神脇の車を東方約22.1メートルの地点に発見したが、同車よりも先に本件交差点を通過し得るものと考え、時速約二〇キロメートルに加速して進行を続け第一通行帯に至つた際、前記のように大槻実に衝突した右神脇車にさらに自車の左側に衝突されたことが認められる。

二各所論に対する当裁判所の判断

(一) 隅田弁護人は、右五条通は前記緑地帯によつて東行車道と西行車道とに二分され、これによつて大黒町通との交差点も南北二個存するのであり、本件事故現場である緑地帯南側の五条通西行車道と大黒町通との交差部分はそれ自体一個の独立した交差点とみるべきであるから、緑地帯の切れ目から南方大黒町通に向つて同交差点に入ろうとする島本車は、道路交通法三六条三項により同通に比し明らかに幅員の広い五条通西行車道を直進して同交差点に入ろうとする被告人神脇の車の進行を妨げてはならない義務があり、また、左方車両優先の原則を定めた同法三五条三項によつても同様の結論になる、ところが、原判決は五条通の東行・西行両車道およびその間にある緑地帯の切れ目部分を含めた五条通の全体と南北大黒町通との交差する全域をもつて一個の交差点と解し、その前提のもとに島本車を右折完了車として同車に優先通行権を認め、被告人神脇の通行権を劣位のものとしたのであつて、この点原判決には同被告人の過失責任の存否ないし信頼の原則の適用の有無についての判断の前提となる法令の解釈適用の誤りがあると主張する。

しかしながら、右五条通は第二次世界大戦中にいわゆる疎開道路として拡幅のうえ(このことは公知の事実である。)一個の道路として建設されたものであり、その中央に緑地帯が設けられたのも街の美観を保つ趣旨によるものであつて、同地帯の幅が約一〇メートルに及ぶにしても、五条通自体が南北両側の歩道を含め幅員約五〇メートルの広い道路であるから、同通が右緑地帯によつて南北二個の道路に分離されているものとは解し難いこと、他方、これと交差する大黒町通は緑地帯の切れ目をとおして結局南北に直線に通じていることにかんがみると、原判示のように五条通全体と大黒町通との交差する全域(別紙図面中を結ぶ線で囲まれた地域のうち緑地部分を除いたもの)を一個の交差点と解するのが相当である。もつともこのように解すると、緑地帯が前記のようにかなり広い幅をもつうえ、樹木が植えられているので、交通の安全保持の点からある程度の支障を来すおそれがないとはいえず、従つて、専ら交通規制上の便宜のみを考えると本件交差点について所論のように南北それぞれ独立した二個の交差点が存するものと解する見解も一理あるように思われるが、しかし、本件交差点をそのように二個と解さなければ交通規制が不可能であるというわけではないし、ことに本件五条通は、多数の道路と交差しておりその交差道路にも広狭の差があり、また中央緑地帯をとおしての相互見とおし状況にも異同があり、その間各交差点における交通安全保持のあり方にはおのずから異るものがあると考えられるところ、交通規制上の便宜のみを余りにも重視すると、それらの交差点は、その場その場の状況に応じ、或いは全体として一個とされ或いは南北二個とされる結果におちいり、道路交通法上一義的に定義されている交差点の範囲(二以上の道路の交わる部分)を単なる便宜によつてほしいままに左右することとなるのみならず、右五条通全体に交通の混乱を生ぜしめるおそれさえあつて、右見解にはとうてい賛成できない。そうすると本件交差点を南北二個と解する見解を前提として車両の通行権の優劣を云為する所論は採用できない。<中略>

(四) 隅田弁護人は、さらに、被告人神脇が本件交差点につき島本車に対して優先通行権をもつていたことを前提として、被告人神脇が島本車を発見した際、同被告人は島本車が交通法規を守り自車に進路を譲つてくれるものと確信し、本件交差点内の原判示場所に佇立していた被害者大槻を発見後、時速約三〇キロメートルに減速して第二通行帯を進行し、しかも、島本車との間に余裕をもたせるためハンドルをやや左に切つたのであつて、そのまま進行すれば同車および被害者大槻との衝突を優に避け得たのであり、その運転操作にはなんらの注意義務違反はない、ところが、島本は交通法規に違反し五条通西行車道の横断を開始したのみならず、その際同車道上の直進車両の有無を確認せず、しかも、右横断の途中で急に加速して被告人神脇の車の進路直前を横断しようとしたのであつて、被告人神脇は島本の右の如き違反行為を予見し得た時点において直ちに急停車措置をとつたが、なお進行を続ける島本の車との衝突を避けることは距離的に不可能であつたので、やむなく左に転把したのであり、その運転操作は島本の無謀な進路妨害によつてもたらされた不可避的措置である、被告人神脇において島本が右の如き無謀運転に出ることなく自車に進路を譲つてくれるであろうと信頼したのは車両の運転者として極めて当然のことであり、従つて、本件事故は専ら島本の違法な進路妨害による一方的過失に起因するものであつて、被告人神脇に対してはいわゆる信頼の原則を適用してはいわゆる信頼の原則を適用して無罪の言渡がなされるべきであると主張する。

他方、三木弁護人は論旨摘記のような理由で原判決には事実の誤認があるとしたうえ、被告人島本に対しては右信頼の原則を適用して無罪の言渡がなされるべきであると主張する。

よつて、先ず、隅田弁護人の所論について案するに、前記二の(一)(二)(三)において順次説示したとおり、本件交差点の範囲が五条通全体と大黒町通との交差する全域であり、右交差点においても道路交通法三七条二項の適用が排除されることなく、島本車が同条項にいう「既に右折している車両」であると解すると、右条項により直進車である被告人神脇の車は島本車の進行を妨げてはならないのであるから、交通法規上も優先通行権が被告人神脇の車にあつた旨の主張は理由がなく、右主張を前提として被告人神脇について信頼の原則の適用を求める所論も理由がないことに帰する。もつとも、前記二の(二)のとおり被告人神脇は当初島本車を発見した際、同車が自車の進行を待つていてくれるものと認識していたことが認められ、そう認識するにつき過失があつたとも認め難いから、その時点において同被告人が同速度のまま進行を続けたことは至極当然であり、この間における同被告人の運転操作に注意義務違反はない。しかし、同被告人は、前記一の(二)のとおりその後まもなく島本車が微速で南進を続けていることを認めたのであるから、その時点に至つては既に同被告人は法規上優先通行し得ないことを慮り、直ちに徐行もしくは停止して、優先通行権を有する島本車の進行を妨げてはならなかつたのである。なるほどつ五条通西行車道は前記のように四通行帯に区分された広い県道であり、島本車は微速であつたから、被告人神脇が、車の進路を左方に変えさえすれば容易に島本車の前面を通過し得ると考え、ハンドルをやや左に切つて進行を続けたのには無理からぬ点があり、情状において大いに酌むべきであるが、島本車に交通法規上の優先通行権が存する以上、同車が加速進行することも法して予想し得ないわけではなく、被告人神脇において島本車が自車に進路を譲つてくれるものと信頼することはできない筋合であるから、本件に信頼の原則は適用すべき限りでなく、同被告人がハンドルをやや左に切つただけで進行を続けたのは、優先車の通過を待つて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠つたものといわざるを得ない。また、被告人神脇が法規を誤解した結果自車に優先通行権があるものと誤認したとしても、そして、本件交差点における交差各道路の幅員、制限速度、交通量などから誤認しやすい状況にあつたことは否めないとしても、右折車両ないし先入車両に優先通行権のあることは自動車運転者として自明の理のはづであり、右誤認につき過失がなかつたとはいえないので、信頼の原則はやはり適用すべき限りでない。しかも、被告人神脇は、既に、島本車において南進を継続していることを認識しているのであるから、同車との衝突のおそれは十分に予想し得たはづであり、同車が自車の進行を妨げることはないと信頼するのが相当である状況にはもはやなかつたものと解するのが相当であるから、後記被告人島本について詳細説示するところから明らかなように本件に信頼の原則は適用されない。そして、被告人神脇において前記注意義務を怠らず、同被告人が島本車の微速南進を認識して直ちに減速最徐行等適宜の措置をとつておれば、優に本件衝突を避け得たと認められるから、所論中不可抗力を主張する点も理由がない。なお、所論中被告人神脇が大槻を発見後時速約三〇キロメートルに減速した旨主張している点があるが、右主張にそう同被告人の原審および当審における供述は、同被告人の捜査官に対する供述調書にてらし信用できず、他に右減速を認めるに足る証拠はない。要するに、被告人神脇が過失責任を免れ得ないことは明らかであり、所論はすべて理由がない。

次に、三木弁護人の所論について案ずるに、およそ自動車運転者が交通整理の行なわれていない交差点を通過しようとする場合には前方および左右を注視して他からその交差点に進入してくる車両等の有無を確かめ、もし交差点に進入してくる車両があつてそれが自車の進路と影響を及ぼすおそれがあると認められる場合には、その動静、進行の程度等に注意し、具体的事情に応じ、あるいは減速または停止する等適宜の措置を講じ、もつて衝突、接触等の危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのであり、交通法規上優先通行権のある車両であるからといつて、その一事をもつて当然に交差道路の交通状況に注意を払うべき義務が免除されると解すべきものではなく、ことに優先通行権を無視して進行してくる車両を発見し、これとの衝突、接触等の危険の発生が予測され、しかも自車の運転操作により極めて容易にその危険の発生を防止し得る状況にある限り、いかに優先通行権のある車両の運転者であつても、速やかに減速停止等適宜の措置を講ずべき注意義務があると解するのが相当である。けだし、道路交通法がいわゆる優先通行権に関する諸規定を設けたゆえんは、互いに通行の支障となるべき車両相互間においてその通行順位に優劣を定め、もつて交通の安全と円滑とを図ろうとするにあり、現に彼我の進路、速度、距離ならびに道路状況等の関係から相手車両との衝突等危険の発生を容易に予見しまたは回避し得る場合においてさえも、優先通行権のあることを理由にその予見義務または回避義務を免除する趣旨のものとはとうてい認められないし、また、信頼の原則も相手車両が法規に従い正常に進行するものであると信頼するのが相当であるときにはあえて相手車両が法規に違反し危険な行為に出ることまで予想して事故の発生を未然に防止する特別の措置を講ずべき注意義務はないというのであつて、相手車両が法規に従い正常に進行するものであると信頼するのが相当でないとき、たとえば相手車両が交通法規に違反しその他危険な行為に出ていることを容易に認識し得又は現認したときには、信頼の原則はこれを適用すべき限りではないからである。これを本件についてみるに、前記一の(二)に認定したような被告人島本の運転行為の過程に徴すると、同被告人には先ず中央緑地帯の切れ目から五条通西行車道に進入しようとした際、左方から同車道を西進してくる車両の有無の確認を怠つた過失がある。同被告人は右折完了車として西進車に対し法規上優先通行権のあつたことは前記のとおりであるが、優先通行権のある車両であつても交差道路から当該交差点に進入する車両の有無確認の注意義務があることは前説示のとおりであるし、ことに本件交差点には約一〇メートル幅の中央緑地帯があるため右折完了車と五条通西行直進車両との関係は前者が中央緑地帯切れ目の南端付近に進出したとき初めて生じこと、五条通西行車道からは緑地帯の切れ目の地域の見とおしが良好でないこと、本件交差点における交差各道路の幅員、制限速度、交通量などから西行直進車両において南進車両(右折車、南行直進先入車)に対し優先通行権をもつものと誤認しやすい状況があるうえ、被告人島が緑地帯切れ目の南端で一時停車して数台の西行直進車両をやり過していたため後続の神脇車も被告人島本の車がなお自車に進路を譲つてくれるものと考えやすい状況が加わつていたことなど諸般の事情にてらすと、なおさら同被告人としては左方確認の注意義務を守らなければならなかつたのであり、もし同被告人が右義務を怠らなければ当然いとも容易に神脇車が接近中であることを認識し得たはづであり、過失の程度としても重大である。次に被告人島本は、自車が五条通西行車道第三通行帯まで進出したとき東方約22.1メートルの地点の第二通行帯上を時速約四〇キロメートルの速度で西進し接近してくる神脇車を発見し、かつ、同車が自車の進行を妨げるおそれのあることを知つたのであるから、そのまま南進を継続すれば同車と衝突する等の事故が発生するかも知れないことを容易に認識し得、同車が自車の南進を妨げることはないと信頼するのが相当である状況にはもはやなく、従つて、前説示のとおり信頼の原則は適用の限りでなく、被告人島本としては事故の発生を回避すべく速やかに減速停止すべき注意義務が生じたのであり、しかも、当時未だ微速であつたから直ちに停車して神脇車を通過させることにより容易に事故の発生を回避し得たのである。それにもかかわらず、被告人島本は、あえて神脇車より先に通過しようとして加速して南進を続けたことはまことに重大な過失といわざるを得ない。ことに、本件西行車道は四個の通行帯に区分された広い車道であるから、同被告人が同車道の途中まで南下して来ても、微速でもあるので、同車道第二通行帯を西行直進する神脇車としては被告人島本の車が直ちに停止して進路を譲つくれるものと考えやすい状況にあつたと考えられる。ところが、同被告人は右のとおり停車しないばかりでなく、却つて突如加速して南進を続けたのであつて、このことが神脇に意外の感を与えたことは明らかであり、右加速進行により神脇をしてその運転操作を誤まらせ、その結果本件事故を発生させるに至つた以上、本件事故は所論のように神脇の一方的過失により発生したものではなく、むしろ被告人島本により重大な過失があつたと認められるのである。そうすると、原判決が被告人島本に過失責任を認めたのは相当であり、記録を精査し、当審における事実の取調の結果を検討しても、原判決中同被告人に関する部分に所論のような事実誤認ないし誤つて信頼の原則を適用しなかつた違法は発見できず、論旨は理由がない。(河村澄夫 滝川春雄 吉川寛吾)

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