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大阪高等裁判所 昭和43年(く)49号 決定 1968年9月14日

少年 M・T(昭二四・二・一一生)

主文

原決定を取消す。

本件を京都家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は申立人両名連名作成の抗告申立書及び附添人弁護士上村昇作成の抗告趣意書と題する書面記載のとおりであるから、これを引用するところ、原決定には重大な事実の誤認と処分の著しい不当があるから取消されるべきであるというのである。

よつて本件少年保護事件記録及び少年調査記録に基づき調査するのに、原決定が認定した罪となるべき事実は「少年は昭和四三年六月○○日午後九時二五分頃京都府久世郡○○国道市境南方において普通乗用自動車を運転し、法定の六〇粁毎時を二五粁超えた八五粁毎時で進行したものである」。というのであつて、右違反事実は本件検挙に当つた警察官が交通パトカーで少年の右自動車に約一五米間隔で約三〇〇米追尾してこれを現認した旨の現認報告書と少年の司法警察職員に対する供述調書により肯認できるのみならず、少年も原審審判定において自白しており、事実誤認の点は存しない。そこで原決定の処分の当否について検討するのに、少年は過去に自動車の運転による業務上過失傷害罪で三回罰金刑に処せられたほか、道路交通法違反で検挙された前歴が五回(但しそのうちスピード違反は一回)あり、家庭裁判所において不処分決定や不開始決定の際保護的措置がなされたものとみられるのに、本件違反を犯したものであるから、少年自身交通法規を遵守しようという自覚と反省に欠けており、保護者である少年の父母にも今後少年が違反を繰り返さないように監督できるかどうかに不安があると認められるのみならず、鑑別結果通知書や少年調査表によると、少年は現に梅毒に罹患し、その性格や素行にも問題となる点があることが窺われるから、なんらかの保護処分に付する必要があると考えられる。しかしながら、少年の保護者は田畑一町歩を耕作する篤農家であり、本件後反省して今後少年に自動車修理工をやめさせ少年の自動車も売却処分して農業に専念させ梅毒の治療もさせたい意向を申し述べ、家庭裁判所調査官も指摘するように少年も本件により少年鑑別所収容後自覚反省し適応意図を示していると認められるから、保護観察機関等の補導によつて在宅保護により更正が期待できないものとは考えられないから、従来の審判不開始や不処分決定の際の保護的措置や罰金が違反防止に効果がなかつたといつて、前記の如き本件非行事実によつて直ちに少年を中等少年院に送致した原決定は処分が著しく不当であるものと認められ、この点の論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるから少年法三三条二項により原決定を取消して、本件を原裁判所である京都家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 畠山成伸 裁判官 八木直道 裁判官 西川潔)

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