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大阪高等裁判所 昭和43年(て)452号 決定 1968年12月20日

主文

本件執行異議の申立を棄却する。

理由

本件裁判の執行に関する異議申立の理由は申立人提出の異議申立書記載のとおりであって、その要旨は、申立人は昭和三九年五月一二日神戸地方裁判所において、業務上横領等被告事件につき懲役四年の判決を受けたことにより保釈が失効し収監されるに至ったが同年九月一一日同裁判所は右収監手続に違法があるとの理由による申立人の人身保護の請求を容れ申立人(被拘束者)を釈放する旨の判決を言渡したため、申立人は釈放された。一方右懲役四年の言渡を受けた判決に対しては控訴の申立をし、昭和四二年三月三〇日大阪高等裁判所の判決があり、これに対しさらに上告の申立をしたが昭和四三年九月二四日上告棄却の決定があり、それが確定したためその執行名下に再び拘束処分を受けるに至った。しかし、右のとおり一旦人身保護法によって救済を受けたものは同一犯罪に因り重ねて拘束されるものではないから右上告棄却の決定が確定し、その執行名下に再び申立人を拘束することは人身保護法二五条、人身保護規則四五条の解釈適用を誤った違法がある(申立人は違憲の主張をしているけれどもその実質は右の法令の解釈適用の誤りを主張する趣旨と解する。)から右裁判の執行は取消されるべきものであるというにある。

よって按ずるに人身保護法二五条によれば「この法律によって救済を受けた者は裁判所の判決によらなければ同一の事由によって重ねて拘束されない」と規定されている。これはこの法律による釈放の効力と再収監の制限を定めたものであって、その趣旨はもしこの法律によって一旦救済を受けた者が重ねて同一の事由によって拘束されるのでは同一事由による救済と答弁が繰返されることとなり、本人は勿論裁判所も煩わしい結果となり、救済をしたことが全く無意味となるからこのような結果を避けようとするにあるのである。もっともこの法律によって救済を受けた者であってもその救済は拘束が違法であることに因るものであるから一度救済を受けた者でも他の事由によって再拘束することは固より妨ぐるところではない。したがって、例えば拘束行為そのものに重大な手続違反があるとして釈放された場合においては同一の拘束事由によっては再拘束は許されないことは勿論であるけれどもその釈放の判決によって判断された拘束の事由とは無関係の他の理由により例えば別の犯罪の場合は勿論同一犯罪を理由とする場合でもその有罪の確定判決に基づきその執行として本人を収監して拘束すること(刑事訴訟法四八四条ないし四八九条)は何ら差支えはないのである。

そこで本件についてこれを見るに申立人に対する業務上横領等被告事件記録及び取寄せにかかる人身保護請求事件記録、大阪高等検察庁検察官西川伊之助の「裁判経過ならびに刑執行状況について」の回答書によれば、右被告事件の裁判の経過、申立人の身柄拘束、釈放、刑執行等の概要は

昭和三一年二月一二日 勾留(業務上横領の被疑事実)

同   年二月二五日 神戸地方裁判所に起訴(業務上横領、詐欺、公文書偽造行使)

同   年三月 九日 神戸地方裁判所に起訴(業務上横領、詐欺)

同   年三月二九日 神戸地方裁判所に起訴(業務上横領、詐欺、有印私文書偽造行使、詐欺、銃砲刀剣類等所持取締令違反)

昭和三二年五月三一日 保釈許可決定

同   年六月一〇日 釈放

昭和三九年五月一二日 神戸地方裁判所(第一審)判決宣告(懲役四年)

即        日 保釈失効に因り収監

同   年五月一四日 被告人(申立人)控訴申立

同   年五月二三日 検察官控訴申立

同   年八月一九日 神戸地方裁判所に人身保護請求

同   年九月一一日 同裁判所、前記五月一二日保釈失効に因る収監手続に違法があるとの理由により「被拘束者(申立人)釈放」の判決言渡―釈放

同   年九月一五日 同裁判所がした昭和三一年五月一七日付勾留更新決定に基づく残存期間が一四日あることを理由に収監

同   年一一月二一日 大阪高等裁判所、申立人の同年九月二四日神戸地方裁判所がした勾留更新決定に対する抗告を認め右「勾留更新決定を取消す」旨決定……釈放

昭和四二年三月三〇日 大阪高等裁判所(控訴審)判決宣告(懲役五年)

同   年四月一〇日 被告人(申立人)上告申立

昭和四三年九月二四日 最高裁判所決定宣告(上告棄却)

同   年一〇月四日 上告棄却決定確定

同   年一一月四日 刑執行のため収監となっていることが認められる。

そうだとすると申立人のいう人身保護法による救済を受けて釈放されたというのは懲役刑の言渡しを受けたことにより保釈が失効したとして収監されたところ右収監手続が違法であったことを理由とするものであるのに対し、本件において申立人の主張する収監は申立人に対する業務上横領等被告事件の有罪の確定判決の刑執行のためであって、両者は犯罪事実は同一であるとはいえその拘束の理由を全く異にするものであることは極めて明らかであるから申立人がさきに人身保護法による救済を受けた者であったとしても重ねて拘束することは毫も人身保護法二五条に反するところはない。従って検察官のした右確定判決の刑執行指揮により申立人を再収監したことは固より正当である。

なお申立人は人身保護法二五条の「裁判所の判決」とは主文において「重ねて拘束する」旨の判決のあった場合を意味するものと解すべきであるとし本件の有罪の確定判決はこれに該らない旨主張するけれども全く根拠のない独自の見解であり、固より採用の限りではない。又申立人はさきの人身保護法による救済を受けて釈放されたことは人身保護規則四五条一項但書にいう仮出獄とみなされるべきものであるとも主張するけれども同条において仮出獄とみなされるのは人身保護法一〇条一項による仮の処分のあった場合をいうものであることはその規定自体に徴し自ら明らかであるから右の主張も採用できない。申立人はその他本件拘束の許されない理由をるる主張するけれどもいずれも人身保護法及び人身保護規則の誤った解釈を前提とするものであって、固より失当たるを免れない。

以上要するに本件有罪の確定判決の刑執行のための収監は正当であって申立人の執行異議申立は理由がない。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西尾貢一 裁判官 瓦谷末雄 上田次郎)

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