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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1218号 判決 1969年10月02日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、

控訴代理人において、

一、控訴人は、自動車の販売を業とする会社であるが、昭和四一年一〇月末頃訴外大正鈑金工作所(宮代福一)から本件事故をいわゆる下取車として受領し所有していた。

二、同年一一月九日控訴人と曾根政七郎との間で、中古車(一、九六四年式・ニツサンジユニヤ・二トン車)を代金二六四、三九二円で売渡す旨の契約が成立したのであるが、右売却車の検査期間が同年一一月二一日であるから車検手続およびこれに附随して整備等の手続に約一〇日余の日数を要し、直ちに引渡ができなかつた。

そこで曾根としては右中古車を買受ける話もできたことであるし、その日からでも塗装業の注文取りや仕事に出向くためどうしても自動車の必要を控訴人に訴え、前記中古車の車検等の手続完了まで別の自動車を貸してほしい旨懇請があつた。

よつて控訴人は、右曾根の申入れを承諾して、同年一一月一一日前記売買中古車のいわば代替品として本件事故車を曾根に貸与したのである。

一般に自動車の買主は、契約成立と同時にその目的物件の引渡を受けることを要求し、かつそのことが業界における慣例である。従つて事故車の貸与は右売却車の引渡と同一の経済的効果と必要を満すものであつて、控訴人は、一般自動車販売業界において広く行われている慣行に従つたまでである。貸与すること自体は営業利益につながるものではない。

原判決は「賃料一日三〇〇円位」の約定があつた旨認定しているが、これは賃料ではなく本件事故車の自賠責任保険料を日割計算によつて曾根から徴収することを約したものである。

三、控訴人の守口営業所では本件事故車の引渡期間中曾根の従業員岡良和から本件事故車につきラジエーターの水漏れの事実を聞いたが、修理してほしい旨の申入れはなく、曾根の方で適宜修理するよう申渡した。

以上のとおり本件事故車は、曾根が買受けた自動車と全く同一の状態でその営業のために使用運行していたものであつて、控訴人は事故車につき全く運行支配権もなく、かつ運行による利益も享受していない。

原判決は、この点において、事実の認定および法律解釈につき重大な誤りを犯している。

自動車を他人に貸与し借受人がその引渡をうけてこれを自己の営業のために運行の用に供する場合には、特段の事情のない限りその運行は専ら借受人の意思によつて決定されるのであつて、貸与者はその運行自体について直接の支配力を及ぼし得ない関係にあり、運行に関する注意義務を要求される立場にない。(最高裁判例解説、昭和三九年度四八六頁)

と述べた。

証拠(省略)

ほか原判決事実摘示と同一(ただし原判決五枚目表四行目係の下に「(昭和四一年九月二三日より勤務)」と挿入し、同末行「二〇九、三五〇円」を「二〇九、二五〇円」と訂正する)であるから、これを引用する。

理由

一、当裁判所も、被控訴人らの本訴請求は、少くとも原判決認容の限度においては、正当と認めるものであり、その理由は、控訴人の責任原因について左記のとおり補正するほかは、すべて原判決の説示理由(原判決の書証の認定と争点に対する判断の各項中控訴人関係部分)と同一である(但し原判決一三枚目裏四行目の「大正鍍金株式会社」を「大正鈑金株式会社」と訂正する。)から、これを引用する。

(一)  控訴人が本件事故車の所有者であり、一審被告曾根政七郎に対し別途販売した車を引渡すまでの間事故車を貸与し、右曾根に使用させていたことは当事者間に争いがなく、原審証人芝池久子の証言により成立を認める甲第六号証の一、二、原審証人鈴木恵三、当審証人曾根政七郎の各証言(ただし鈴木証人の証言中後記認定に反する部分を除く)、原審における相被告岡良和本人尋問の結果に、弁論の全趣旨を総合すると、

(1)  控訴人は、自動車の販売会社であるが(旧商号浪速日産モーター株式会社)、昭和四一年一〇月末頃株式会社大正鈑金工作所から本件事故車(中古車)をいわゆる下取車として受領し、所有、保管していたこと。

(2)  控訴人は、同年一一月九日、前記曾根政七郎(その頃塗装業を開業)との間に、中古車(ニツサンジユニヤ)一台を代金二六万円余で売却する旨の売買契約を締結したが(保険料、登記手続費用を含めて右代金の内金六万円余を受領、残額は月賦払の約)、右売却車について整備、登録、車検等の手続を了するには一〇日余の日数を要し、直ぐには引渡し得なかつたところ、右曾根からその間仕事に差支えるから代わりの車を貸してほしい旨依頼されたので、同月一一日、右売却車を引渡すのと引換えに返えして貰う約束で本件事故車を同人に貸与したこと。その際控訴会社の係員から使用料の要求があり、話合いの結果曾根は一日三〇〇円の割合による借賃を支払うことを承諾したこと。しかし右車の貸与は控訴人の顧客に対するサービスの一種として好意的になされたもので、借賃といつても収益的な対価ではなく、使用による損耗料の意味合いのものであつたこと。

(3)  曾根は、本件事故車を借受けてから本件事故発生までの一〇日間、これを自己の営業所に保管し、運転資格を有する前記岡良和に運転せしめて主として注文取りに使用していたが、右車はブレーキが効きにくく、タイヤも相当摩耗していたほか、前照灯の光力も弱く、ラジエーターの水洩れが甚だしい等整備不良の状態だつたので、岡は本件事故発生の三日程前に、控訴会社守口営業所の係員に対し修理してほしい旨申入れたが、同係員からもう暫らくそのまま乗つていてくれといわれたので仕方なくそのまま使用しているうち本件事故が発生したこと。

(4)  本件事故の発生は原判決認定のような運転者岡の過失によるものであるが、本件事故車の右整備上の不良も右事故発生につき関係がなかつたとはいゝ得ないこと。

(5)  本件事故車を借受けるに当り、曾根は、控訴会社の係員からできるだけ車を大切に使用してくれといわれたほか、その使用、運転につき格別の注意も指示も受けなかつたこと。

以上の事実を認めることができ、前記鈴木証人の証言中前記一日三〇〇円の金員は本件事故車の使用料ではなく、事故車の自賠責任保険料の日割計算であるとなす部分、本件事故車には整備上の不良は全くなく、岡から修理を求められたこともないとなす部分は、前記曾根証人および一審被告岡本人の各供述に照らし措信し難く、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  右認定の事実によれば、本件事故当時、本件事故車の運行につき直接支配力をもち、運行による直接の利益を享受していた者は曾根であることが明らかであるけれども、控訴人もまた事故車の運行につき支配力を及ぼし得る関係にあり、かつ運行による利益を間接的に享受していたものといわなければならない。すなわち、本件事故車の貸与は、控訴人が曾根に他車を販売したことに関連して顧客に対するサービスの一種として好意的に暫定的になされたものであるから、通常の自動車の賃貸の場合と異り、貸与車の運行につき、その支配力が控訴人の手から全く離れてしまつたものとは認め難く、貸与期間中といえども控訴人において貸与車の使用、運転方法等につき適宜指示し、支配力を及ぼし得る関係にあつたものと認むべく、殊に本件貸与車は中古車で、かつ、整備も不良であつて、借受人側から修理の申出があつたのに暫らくそのまま使つていてくれと云つて使用を継続せしめていたものであるから、本件事故車の運行は控訴人の支配力の及ぶ範囲内で行われたもので、かつ、運行管理上控訴人にも責められるべき点があつたものといわなければならない。また控訴人が本件事故車を曾根に貸与し、その使用を許したことは結局控訴人の営業上の利益につながるものであることを否定し得ないから、本件事故車の運行による利益を控訴人において何ら蒙らなかつたものということはできない。

そうすると、控訴人は本件事故車につき訴外曾根と競合的に「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するものと認めるのが相当であるから、自賠法三条により本件事故による損害賠償責任を免れない。

控訴人は、本件事故車の貸与はいわば売却車の代替品の貸与で実質的には売却車の引渡と同視すべきものであるから、控訴人には本件事故車の支配力も、利益の帰属も全くなかつた旨主張するけれども、前認定の事実関係から見れば本件事故車の貸与をもつて、車の支配権が全く買主に移転する売却車の引渡と同視することはできないから右主張は理由がなく、また控訴人は本件事故車の貸与は一般自動車業界において広く行われている慣行に従つたものである旨主張するけれども、当審証人高野増利の証言によつても本件の如き形の自動車の貸与が行われている事例はそう多くないことが認められ、仮にかゝる慣行があるとしても、その一事により自動車販売業者が常に自賠法三条の責任を負わないものと解すべき根拠はない。

二、よつて、原判決は、相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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