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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)1677号 判決 1972年5月17日

控訴人

平井栄太郎

他一名

右代理人

川村寿三

被控訴人

武本善策

右代理人

辻武夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一、本件建物は元竹田義の所有に属し登記簿上も同人名義になつていたが、神戸地方法務局姫路支局昭和四〇年三月八日受付第六一一九号を以て被控訴人を権利者とし昭和三八年九月三〇日付金一九〇万円の金銭消費貸借に基づく債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を登記原因として停止条件附所有権移転仮登記がなされていること、右建物については同支局昭和四一年六月二日受付第一五七三九号を以て訴外高部ふさえを権利者とし同年五月二〇日付贈与を原因とする所有権移転登記がなされ現に登記簿上同訴外人が所有名義人となつているが、同人は昭和四二年六月二四日死亡し竹田義外五名が共同相続したこと、なお、右建物については控訴人平井栄太郎を権利者とし同支局昭和四一年六月一七日受付第一七二五六号を以てする同日付金銭消費貸借(債権額金七〇万円、利息年一割五分、損害金年三割、債務者高部ふさえ)を原因とする抵当権設定登記、及び同支局同日受付第五一七二五七号を以てする右消費貸借上の債務不履行を停止条件とする賃貸借を原因とする停止条件附賃借権設定登記がなされ、更に控訴人森下博を権利者とし同支局昭和四二年五月三〇日受付第一七二五一号を以てする同月二四日付金銭消費貸借(債権額金六五万円、利息年一割八分、損害金年三割六分)を原因とする抵当権設定登記がなされていること、しかるに被控訴人は竹田義及び高部ふさえを相手方として神戸地方裁判所姫路支部に貸金請求訴訟を提起(同支部昭和四〇年(ワ)第四五号)していたところ、昭和四〇年三月三〇日左記条項の裁判上の和解が成立したこと、

一、竹田義及び高部ふさえは被控訴人に対し連帯して貸金債務残一三〇万円(弁済期昭和四〇年一二月三一日、利息年一割五分、昭和四〇年四月一日以降毎月末日その月分支払、遅延損害金年三割)の支払義務あることを認め、昭和四〇年四月から同年一二月まで毎月末日限り右利息を、同年一二月末日限り右元金一三〇万円を被控訴人方に持参又は送金して支払うこと、

二、竹田義は前各項の債務を担保するため被控訴人に対し本件建物について順位第一番の抵当権を設定し速かにその登記手続をなすこと、

三、竹田義が右抵当権設定登記を完了したときは、被控訴人は竹田義に対し本件建物につきなされた前記仮登記の抹消登記手続をなすこと。

以上の各事実は当事者間に争いがない。

二、<証拠略>によれば、被控訴人は昭和三八年九月三〇日竹田義及び高部ふさえを連帯債務者として金一九〇万円を弁済期同年一〇月三〇日、利息損害金年三割利息の支払時期毎月末日その月分の約定で貸付け、竹田義は被控訴人との間に本件建物につき右債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結しその旨の仮登記を経由(尤も右仮登記経由の点は当事者間に争いがない。)したほか、登記手続は経由しなかつたが順位第一番の抵当権設定登記をなすことを約したこと、

しかるに竹田義らは右元利金を完済しなかつたので被控訴人は竹田義に対し昭和四二年九月二八日付その頃到達の書面で同月一日現在の貸金残一三〇万円及び損害金四四万六五〇〇円につき債務不履行による停止条件が成就し(仮りに前記停止条件附代物弁済契約が代物弁済予約の性質を有するものとすれば、予約完結の意思表示をなしたことにより)同日代物弁済により本件建物の所有権を取得した旨通知したこと、被控訴人は竹田義らに対し右仮登記の本登記手続請求訴訟を提起し昭和四三年二月一〇日被控訴人勝訴の判決があり該判決は同年三月二日確定したことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の各事実によれば、被控訴人は本件建物につき停止条件が成就して代物弁済により同建物の所有権を取得し竹田義に対し前記仮登記の本登記手続請求権を取得し本件建物につき登記簿上利害関係を有する控訴人らは被控訴人の竹田義に対する右仮登記の本登記手続請求を承諾する義務を負うに至つたものというべきである。

三、これに対し控訴人は、右停止条件附代物弁済契約はその後被控訴人と竹田義間に成立した裁判上の和解によつて合意解除されたから被控訴人の竹田義に対する本登記請求権は発生せず控訴人らの承諾義務も発生しない旨抗争するので考えるに、当審証人竹田義の証言及び当審における控訴人森下本人尋問の結果によれば、前記高部ふさえが被控訴人から金一九〇万円を借受ける際本件建物敷地附近には都市計画が進められており本件建物に対しても買収費四〇〇万ないし四五〇万円が支払われるとの噂があり、同女はこれを右貸金債務の支払に充てる予定であつたこと、前記裁判上の和解の際にも同女及び竹田義は右買収代金を引当にすれば右和解により確認された残債務一三〇万円の支払は確実と考えたであろうことは推察するに難くないが、そのことから債権者たる被控訴人が右和解の際、和解条項に定められた本件建物に順位第一番の抵当権設定登記後ならば格別、右登記以前に無条件で前記仮登記を放棄し前記停止条件附代物弁済契約を合意解除したと認めることは困難である。

また<証拠略>によれば右和解調書に基づく順位第一番の抵当権設定登記は経由されてないことが認められ、被控訴人が竹田義に対し右抵当権設定登記の履行を請求したことを認めるに足る証拠はないが、被控訴人は本件建物につき前記仮登記を有しているのであるから、債権回収の方法として右仮登記の本登記を求めると、前記和解に基づく抵当権の設定をうけるとはその選択に任されているものというべく、同和解調書による抵当権設定登記請求権の行使を義務づけられているわけではないから、これを行使しないことは右請求権を放棄したことにもならず、その不行使が被控訴人の過失ということもできない。右請求権不行使の事実は何ら前記停止条件附代物弁済契約の合意解除を推測させるに足るものではなく、この点の控訴人らの主張は採用し難い。

却つて前記裁判上の和解においてはその条項からすれば、当事者双方は右停止条件附代物弁済契約は竹田義が被控訴人に対し本件建物につき順位第一番の抵当権設定登記が経由されることを停止条件として合意解除されるべきことを約定したと解するのが相当であり、右登記が経由されてないことは前段説示のとおりであるから右合意解除の効果は発生しないものというべく、控訴人らのこの点の抗弁は失当である。

四、次に控訴人らは右裁判上の和解により債務の更改がなされた旨主張するが、前段認定のとおり右和解は被控訴人と竹田義・高部ふさえ間の貸金債務一九〇万円の残額一三〇万円につきその支払方法の確認、担保設定約定等を定めたにすぎず、債務の要素に変更はないものと解せられるから債務の更改があつたとはとうてい認められず、右抗弁も採用し難い。

五、更に控訴人らは、右停止条件附代物弁済契約の性質につき判例にいわゆる清算型担保契約と主張するので判断する。

前記認定の事実によれば右停止条件附代物弁済契約は本件建物に対する順位第一番の抵当権と併用されていること(尤も登記は未了)が認められる一方、被控訴人が同建物の所有権取得を重視していたと認められる証拠はないことからみても、被控訴人の竹田義、高部ふさえに対する前記昭和三八年九月三〇日付金一九〇万円の貸金債権を担保するためのものに外ならず停止条件附代物弁済であつても本来の代物弁済を成立させるためのものではなくその実質は単に代物弁済の形式をかりて目的不動産から債権の優先弁済をうけるもので担保権と同視すべきものであるというべく、被控訴人は債務者たる竹田義らの前記債務の不履行を停止条件として本件建物の所有権を取得する方法によつて右債権の満足を図ることになるが、その権利の実質が担保権と同視すべきものである以上、被控訴人は本件建物を他に処分しまたは適正に評価してこれにより具体化する右建物の価格が自己において優先弁済を受けるべき債権額より合理的均衡を失する程度に上廻るときはその残額を清算金として竹田義らに支払うことを要するものと解するのが相当であり以上のような債権担保契約としての性質をもつ本件停止条件附代物弁済契約を原因とする仮登記権利者である被控訴人が登記上利害関係をもつ後順位債権者である控訴人らに対して右仮登記の本登記請求の承諾を求めるには、控訴人らに対しその地位に応じた前示清算をなす義務を負い、控訴人らはその優先順位に応じて右清算金の支払と引換えにのみ右承諾請求に応ずる旨の引換給付の抗弁を提出しうるものと解するのが相当である。

そして右清算金の有無及び金額は本件口頭弁論終結時である昭和四七年三月二二日を基準時として評価した本件建物の時価と、被控訴人の竹田義らに対する同日現在における前記貸金債権の残存額とを対比して決すべきであり、右清算が公平の観点から判例上認められたものであつて後順位債権者に支払わるべき清算金も債務者に支払わるべき清算金に対する法定代位的色彩を帯びたものと解すべきであるから、右清算については元来多数債権者間の利害の調整のための規定である民法三七四条の準用はないものというべく、債権者、債務者双方につき、右清算金の利息、損害金は民法三七四条を準用して満期となつた最後の二年分のみを計上すべきであるとの控訴人らの主張は採用し難い。

ところで<証拠略>によれば、本件建物の昭和四五年四月一五日現在の時価は金三五二万四三〇〇円でありその後さしたる価格の上昇もなく停滞していることが認められるので右昭和四七年三月二二日においても右価格であつたと認めるのが相当であり、また被控訴人の竹田義らに対する債権額は前記当事者間に争いのない裁判上の和解により確認された元本残一三〇万円と昭和四一年一月一日以降右昭和四七年三月二二日までの年三割の割合による損害金であるところ、昭和四一年一月一日から昭和四六年一二月末日まで六年分の損害金のみで二三四万円となり右昭和四六年末において元利合計三六四万円となつて目的物件の価格を上廻るのであるから、昭和四七年三月二二日の時点においてはなおさらであつて、被控訴人は竹田義にも控訴人らにも上来説示した意味の清算金の支払義務を負担していないというべくこの点の控訴人らの抗弁は結局立論の前提事実の立証を欠き排斥を免れない。

六、してみれば控訴人らは被控訴人の前記仮登記の本登記請求を承諾する義務があることは当然でこれを求める被控訴人の本訴請求は正当であるから認容すべく、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(加藤孝之 今富滋 藤野岩雄)

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