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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)397号 判決 1969年10月30日

第三九七号事件控訴人(第三〇号事件附帯被控訴人)

徳倉建設株式会社

第三九七号事件控訴人(第三〇号事件附帯被控訴人)

平口政弘

代理人

酒井信雄

復代理人

滝敏雄

第四〇一号事件控訴人(第三〇号事件附帯被控訴人)

大島浩一

代理人

深田和之

第三九七号事件第四〇一号事件被控訴人(第三〇号事件附帯控訴人)

河原朴

代理人

山下潔

浜田次雄

主文

一、控訴並びに附帯控訴に基づき、原判決を左のとおり変更する。

(一)  控訴人(附帯被控訴人)ら三名は各自被控訴人(附帯控訴人)に対し金三、九五六、九〇〇円及びこれに対する昭和四一年二月二日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分し、その四を被控訴人(附帯控訴人)の、その余を控訴人(附帯被控訴人)ら三名の負担とする。

三、この判決は第一項(一)に限り仮りに執行することができる。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下省略)ら三名訴訟代理人らは控訴につき「原判決中、控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴に対し附帯控訴棄却の判決(但し、控訴人徳倉建設株式会社、同平口政弘は「附帯訴費用は附帯控訴人の負担とする。」との判決とともに)を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下省略)代理人は控訴に対し「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を、附帯控訴につき「原判決を左のとおり変更する。附帯被控訴人らは各自附帯控訴人に対し金七、七二五、二二二円とこれに対する昭和四一年二月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも附帯被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。<中略>

(被控訴人の主張)

一、被控訴人が原審において本件事故車に関する控訴人徳倉建設株式会社(以下、控訴会社と略称するの保管責任を主張したのは、自賠法三条所定の運行供用者の概念の成立要素として主張したものである。

二、被控訴人が従来請求してきた損害金額を左記の限度で変更し、結局被控訴人は控訴人ら各自に対し、合計七、七二五、二二二円の損害金及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四一年二月二日から右支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

すなわち、

(一)  治療費

従前どおり。

(二)  逸失利益

(イ) 事故による休業期間中の逸失利益二、三七五、三二四円

被控訴人は本件事故により昭和四一年二月二日から同四三年一一月三〇日まで合計三三カ月と二九日大工職を休業した。被控訴人の当時の得べかりし月収は七万円であつたから、右期間中の逸失利益は合計二、三七五、三二四円となる。

(ロ) 就業後の逸失利益 二、三四三、四三二円

被控訴人が就業を再開した昭和四三年一二月一日現在の年令は四一才であり、以後の就労可能年数は二二年間であるところ、被控訴人の労働能力喪失率は二〇パーセントを下らないから、月収七万円の二〇パーセントに右期間二二年を乗じ、さらに毎年五分によるホフマン係数14.580を乗ずると合計2,449,440円となる(70.000×12×0.2×14.58=2.449.440)から、右金額のうち原判決の認容した限度で二、三四三、四三二円を請求する。

(三)  慰藉料 二〇〇万円

被控訴人は未だに足の痛みがあり、大工職に就けず日雇労務に服している状況で、そのため妻に約三年間看病をさせ、また内職をさせるほかなく、子供の教育も十分に果せず、ために悶々した日々を送つているもので、生活のための借金も嵩み、万策つきて本件被控訴代理人から毎月三万円の生活援助を受けるに至つているほか、有形無形の苦痛を味つており、その慰藉料は二〇〇万円をもつて相当とする。なお、これの状況は一種の家団たる被控訴人の家族が蒙つた精神的苦痛でもある。

(四)  弁護士費用 一〇〇万円

被控訴人は前記のとおり大工職であり、もとより法律的知識とてなく、自ら控訴人らに損害金を請求しその支払いを受けることは容易でなく、弁護士に事件を委任して訴訟を追行してその目的を達するほかなかつたものである。

現に、当審では数回にわたり裁判上の和解が試みられたが、控訴会社の拒否にあつて不成立となつており、被控訴人としては結局本件被控訴代理人に訴訟提起当審での応訴、附帯控訴等を委任させるを得なかつたのであるから、右委任に要する費用はすべて本件交通事故に因つて発生した通常の損害というべきである。しかして、被控訴人は本訴提起について被控訴代理人弁護士山下潔、大阪弁護士会との三者契約をなし、訴訟に要する実費の立替を受けるともとに、判決で認容された損害金額の二割相当額の報酬謝金を支払うことを約しているから、そのうち一〇〇万円の支払請求をするものである。

仮りに右損害賠償請求が認められないとしても、本件は前記のような状況であつたから、被控訴人は控訴人らに対し本件訴訟を提起し、控訴についても応訴をなし、附帯控訴をするほかなかつたもので、これらの過程は、実体法的にみれば本件損害金債権の満足の一過程にほかならず、これに要する弁護士費用は債権取立費用というべきである(現行法上の「訴訟費用」だけを敗訴者負担とし、最大の必要費ともいうべき弁護士費用を勝敗にかかわらず当事者の各自負担とする合理性はないから、弁済費用債務者負担を定める民法第四八五条の趣旨を類推して右一〇〇万円の支払いを求める(大阪地裁昭和四四年三月二八日判決判例時報五五九号六五頁参照)。

三、過失相殺の割合は原判決認定のとおり被控訴人側一〇パーセントとするのが相当である。

(控訴会社、控訴人平口政弘の主張)

一、被控訴人の損害額に関する主張を争う。殊に、逸失利益に関する計算には誤算がある。

二、控訴会社は本件事故車を運行の用に供していたものではない。この点に関する主張を左のとおり詳述し、これにする限度で原審の主張はこれをあらためる。

(一)  控訴会社使用人永谷正がかつて控訴人大島浩一から本件事故車の一時保管を頼まれたことはある。しかし、永谷は現場監督補助者であつて、控訴会社大阪支店の車庫の管理権限を有するものではないばかりか、同人は控訴人大島が保管場所に困つているというので、控訴会社と無関係に、内密に個人として好意的一時的に預つたに過ぎない。また、同人は現に数日後にはこれを控訴人大島方の小川運転手に返還しており、その後は生野区西足代の現場近くのモータープールに置かれていたもので、いずれにしても控訴会社としては無関係である。

(二)  控訴人大島の工事現場が西足代に変つてからは、同控訴人は自ら本件事故車を付近モータープールへ保管していたもので、その間、控訴会社従業員中右現場へ出向を命ぜられた者数名が往復用に右事故車を使用したことがあるかも知れないが、もとより控訴会社は無関係である。控訴会社はこれら使用人には交通費を支払つていたもので、同人らは勝手に横着をして事故車を利用したに過ぎない。

(三)  また、控訴会社は修繕業者から自動車の修繕費の請求を受けたことがあるが、それが果して本件事故車のものかわからない。

以上、いずれにしても、控訴人平口の本件事故車の運転はいわば盗用運転の如きもので、控訴会社が事故の責任を負ういわれは全くない。

三、本件事故につき、控訴人平口に運転上の過失があつたことは否みえないけれども、他方、被控訴人にも重過失があつたことは明らかである。すなわち、原審で主張したとおり、被控訴人には、自車と事故車との車間距離をおかなかつたため、事故車の左折信号を見落とし、または見ることができなかつた過失があるほか、本件では事故車が左折すべき道路角に電柱が出張つて立つているため、控訴人平口としては左折するためには若干中央寄りにハンドルを切つた上左折する必要があつたところ、被控訴人は漫然これを右折するものと軽信して、自車の速度を落とさなかつた過失があり、運転手としての基本的な注意に不忠実であつたものである。

(証拠関係)<省略>

理由

一控訴人平口政弘が昭和四一年二月一日午後二時半頃普通貨物自動車(トヨペット一九六二年RK四五型大四は九一三三、以下、事故車と略称する)を運転して大阪府道枚方八尾線を北進中、門真市下馬伏一六二番地先附近道路にさしかかり、左折しようとしたところ、折からその左背後を第二種原動機付自転車(以下、被控訴人車と略称する)を運転して同一方向に進行していた被控訴人と衝突し、よつて被控訴人が傷害を蒙つたことは、すべての当事者間に争いがない。

二、まず、右事故車の運転者控訴人平口の責任について、前記交通事故が同控訴人の後方不注意、左折不適当の過失によつて生じたものであることは同控訴人の自認するところであるばかりか、後記のとおり、証拠により本件事故の具体的情況を検討してみても同控訴人の過失を認めるに十分であるから、同控訴人が被控訴人に対し民法第七〇九条に基づく不法行為責任を負うことは明白である。

三、そこで、次に、控訴会社と控訴人大島浩一の自賠法第三条に基づく責任の存否について検討する。

<証拠>を綜合すると次の事実が認められる。すなわち、

(一)  本件事故車は、もともと控訴人大島が自己の営業(土建業)用に購入したものではあるが(但し、自動車登録原簿上の所有名義は大阪トヨタ自動車株式会社のまま)、同控訴人はかねてから控訴会社の請う道路工事の下請をしていた関係上、右事故車を自ら使用する一方、控訴会社大阪支店の従業員が自由に運転することをも許容していた(控訴会社大阪支店は、控訴人大島に下請させた場合でも、重機を必要とするような特定の工事は自ら直接仕事をしていたため、両者共同で工事現場にあることが多かつたので、このような使用関係が生じた)。ところが、控訴人大島は昭和四〇年一〇月頃(吹田市千里方面の道路工事が終つた後)になつて、本件事故車が車検の期間が切れたため、当時他にも自動車三台を保有していたので、右事故車は原則として使用しない建前とし、その保管場所もなかつたので、差し当りこれをエンジンキイとともに控訴会社大阪支店の現場責任者である永谷正に右事情を告げて預けてしまつた。永谷は本件事故車を主として控訴会社大阪支店にある車庫に保管し、それ以来車検切れであることは了知しながらも、仕事の必要に応じて、同人はもちろん、控訴人平口ら控訴会社大阪支店の従業員は、本件事故車を工事現場に往復する等のため恰かも自社所有の自動車と同様に自由に運転し(バッテリーの充電等も自らこれを行い)、よつて本件事故日である、昭和四一年二月一日までこれを控訴会社のため使用していたもので、その間、控訴会社大阪支店長米沢新之助もこれを黙認していた。

一方、控訴人大島は以上の事情で一旦控訴会社車庫に保管を託したものの、同会社の従業員が平気でこれを使用する状況を見て、従前の経緯殊に控訴会社従業員がかねてから事故車を使用していたことを認めて居た事情等から、今更これを峻拒する訳にもゆかず、事実上黙認の形でその使用を認め、時には同控訴人自身も仕事の便宜上、当初の不使用の建前に反して自らこれを使用したこともあつて自己使用関係を絶つたわけではなかつた。

(二)  控訴人平口は、かねてから重機オペレーターとして控訴会社大阪支店に勤務し、他の従業員とともに右支店と作業場を往復する等のため本件事故車を運転使用していたもので、事故当日はたまたま仕事休みの日ではあつたが、いつものとおり大阪支店から事故車を運転して一旦本件事故現場附近にある控訴会社アスファルト合材工場へ行き、そこで同僚米田邦顕を助手席に同乗させた上私用のため控訴人平口は自己の条件のよい転職先を尋ねるためという)同人の友人方を訪ねた後、右工場へ帰り着く直前、本件事故を起こした。

以上の事実が認められ、<証拠判断>

右事実関係によれば、

(一)(控訴会社の責任)控訴会社(大阪支店)は本件事故車を所有するものではないが、その従業員が事故発生の約四カ月前に前記のような経緯で自社の下請人たる控訴人大島から当初は寄託を受けてこれを保管するに至つたものであるが、右保管中に同控訴人の黙示の承諾の下に無償使用を開始し、それ以後恰かも自社所有の自動車と同様に扱い、右支店と工事現場の往復に供していたもので、このことは支店長も黙認していたことが明らかである(控訴会社は会社として正式に保管したものではなく、従業員が個人として勝手に預り、乗り廻していたに過ぎないから、控訴会社には本件事故の責任はないかの如く主張するけれども、前記事実関係によれば、控訴会社の従業員が、会社と無関係に個人として本件事故車を運転していたとは到底認め難いから控訴会社は本件事故車の運行を支配し、運行による利益をも享受していたと解するのが相当であり、また、本件事故はたまたまその従業員控訴人平口政弘が私用のためこれを運転していたさい発生したものではあるが、客覧的に見て、一般的には控訴会社のための運行の下における事態と認めるに妨げはないから、他に特段の免責事由の主張立証もない本件にあつては、控訴会社が自己のため事故車を運行の用に供していた者として、被控訴人に対し自賠法三条に基づく責任を負うものといわなければならない。

また、(二)(控訴人大島の責任)控訴人大島の場合も同人は本件事故車を実質上所有して自己の業務に使用していたところ、保管場所の都合上、事故発生の約四カ月前からこれを控訴会社大阪支店(従業員永谷正)にエンジンキイとともに寄託し、時には自分が使用する一方、同社の従業員がこれを使用することをも事実黙認していたことが認められ、本件事故当時、事故車の運行を支配していたと解するのが相当であるから、控訴人大島もまた事故車の運行供用者として被控訴人に対し自賠法三条に基づく責任があるといわねばならない。

四よつて、すすんで損害額について検討する。

(一)  治療費

<証拠>を綜合すると、被控訴人は本件事故により右下腿複雑完全骨折の傷害を受け、直ちに松原市立松原病院に入院し、骨の癒合手術等の治療を受け、昭和四一年六月末に一旦退院し、同月二九日から同年一二月九日まで通院治療を受けたが経過が思わしくなかつたので同月一二日から翌四二年六月三〇日まで再入院し二回目の手術を受けた結果、前記通院期間中は二五、〇三七円、再入院期間中は二八四、二三一円合計三〇九、二六八円の治療費の支出を要したことが認められ、他に反証はなく、被控訴人は右同額の損害を蒙つた(なお、被控訴人は初回入院治療費相当の損害金の請求はしていない)。

(二)  逸失利益

<証拠>を綜合すると、(イ)被控訴人は件本事故により昭和四一年二月二日から同四三年一一月三〇日頃までほぼ三四カ月間自己の生業である大工仕事を休業するほかなくなつたほか、その後もほぼ症状は固定したものの(但しやがて骨髄内釘抜社手術をする必要がある)。なお患部に痛みを感ずることもあり、また右下肢約一ないし二センチメートル短縮のやむなきにいたり、これによる運動機能(右膝、右足関節屈伸)障害も認められ将来は大工職に復しうる見通しはあるが、前記後遺症のため、その労働能力は以前より低下したことが認められ、その低下の程度はその職業が可なり技術的な肉体労働を主とする点等を考えると、被控訴人主張の二〇パーセントを下廻らないと認めるのが相当である(現に、当初は雑役等に就き、右率を下廻る収益しか挙げえなかつた)。(ロ)また、被控訴人は事故当時三九才(昭和二年八月一四日生)にして、従来は大工職により月額七万円を下廻らぬ収入を得ていたもので、本件事故なかせばその余命の範囲で、再就職(昭和四三年一二月初)後少くとも2.2年間は従前どおり就労可能であり、引続き前記同額の収入を得ていたであろうことが拒認され、他に右推認事実を左右すべき証拠はない。

そうすると、被控訴人は、前記休業期間中は得べかりし収入金額相当の、再就職後は得べかりし減収額相当の各収益を失つたことが認められ、その現価を月毎複利式ホフマン法により中間利息年五分を差引いて求めると、(イ)休業期間中は、二、二二一、四七八円、(ロ)再就職後は二、二六四、〇八八円、合計四、四八五、五六六円となり、右同額の損害を蒙つたことが認められる。

(月収) (3カ月のホフマン係数)

(イ)  70.000×31.7345=2.221.478

(減収額) (23年34カ月のホフマン係数)(減収額)(34カ月のホフマン係数)

(ロ)

(三)  慰藉料

<証拠>によれば、被控訴人はこれまで妻と女子三人(昭和二七年、二九年、三四年生の家族をようし一家の主柱として生活していたものであるが、本件事故により定収入を得られなくなり、親戚から一時金借をする等生計も思うままにならず、また妻にも看病をわずらわせ、内職をさせる等家庭生活上少なからぬ支障を来たしたことが認められ、精神上可なりの苦痛を蒙つたことが明らかであるところ、右苦痛を慰藉すべき金額は、以上のほか被控訴人の受けた傷害の部位、程度、治療期間、後遺症の程度等を勘案すると金一〇〇万円をもつて相当と考える。

(四)  弁護士費用

<証拠>に照らすと、本件交通事故の被害者である被控訴人は大工を職とするもので、もとより法律的知識とてなく、事故によりたちまち一家の生計に困る程度の生活をしていたのに対し、加害者側、殊に本来自賠法上の責任を負うべき立場にあつた控訴会社は名古屋に本社を置く相当著名の建設会社であるが、本件事故責任については終始これを争い、被控訴人としては自己の権利携護のためには、殊に早急に救済を得るためには、法律専門家である弁護士を委任して訴訟を提起するほかなかつたこと、事件の委任を受けた山下潔弁護士は昭和四一年一〇月一一日被控訴人との間で謝金は取高の二割以内とする等の報酬契約を締結するとともに直ちに控訴会社に対し損害金の仮払いを求める仮処分を申請して認容の裁判を得て急場をしのぎ、本訴を提起し、さらに控訴人らの控訴に応訴して今日に及んだことが認められ、他に右認定事実を左右する証拠はない。右事実によれば、本件の場合被控訴人の支払うべき弁護士費用の一部は、本件不法行為(交通事故)と相当因果関係があり、その損害金の取立てに必要不可欠であつた費用として、損害賠償の対象に加うべきものということができ、その額は事案の難易、請求額、認容額、報酬契約の内容等を斟酌すると、八〇万円(実費立替額を含む)を相当と考える。

(五)  過失相殺

<証拠>を綜合して、本件事故の具体的情況をみるに、(イ)本件府道は幅約一二メートルあり、その北進路線は、西端路肩部約二メートルが地道であるほかは、アスファルト舗装がなされており、本件事故現場付近には西側に入る幅約3.8メートルの道路があつて三叉路をなしており、当日は曇天であつたこと。(ロ)控訴人平口は当日同僚米田邦顕を左側の助手席に乗せて事故車を運転し、前記府道を時速約三〇キロメートルで北進し、本件事故現場にさしかかり、控訴会社のアスファルト合材工場に帰るべく、三叉路手前で時速を一五キロメートルぐらいに減速し、ハンドルをやや右に切つた上前記府道を左折しようとしたが、そのさい自車の左折方向指示灯をつけただけで、自らまたは前記米田に依頼して後方を確認する等左折をする場合の充分な注意義務を払うことなく、漫然帰りを急いで左折を開始したため、折からその左側直後を同方向に並進、追尾してきた被控訴人の自転車に気付かず、これを自車の左後輪附近に衝突させ、よつて、被控訴人に前記のような右足骨折の傷害を負わせたものであること。(ハ)一方、被控訴人は当日自宅を出て枚方市の警察学校の増築現場へ行くため、被控訴人車に乗つて前記府道を時速約四〇キロメートルで北進し、事故現場手前約三〇メートルの地点で控訴人平口運転の本件事故車に殆んど追いつき、やがては同車を追い抜きかねない態勢で、一時そのすぐ左後方を並進するような形になつたが、そのさい、何ら相応の車間距離を置こうとせず、漫然事故車が直進するものと考えて右先行車の動静にも充分な注意を払わずこれに追随、直進を続けたため、事故車の左折開始態勢や左折信号にも気付かず、そのまま事故車の左後輪附近に自車を衝突させたものであること、以上の事実が認められ、<証拠判断>。

右事実関係によれば、控訴人平口の運転に後方不注意、左折不適当の過失があることは明白で、この点はまた同控訴人の自認するところでもあるけれども、他方、被控訴人としても、先行する事故車に後方より積極的に近付いたもので、事故当時その車間距離も十分に置くことなく、かつ、事故車も自車と同様に直進するものと軽信して注視を怠つて進行した点に相当な過失があることもまた明白であり(道路交通法第二六条の趣旨参照)、右被控訴人の過失は本件損害額算定上これを斟酌すべきものであつて、その割合は前記事故発生の態様に照らすと、その蒙つた損害額から四割相当額減額するのを相当とする。

(六)  結論

以上のとおり、被控訴人が本件事故によつて蒙つた損害額は財産上の損害((一)治療費、(二)逸失利益、(四)弁護士費用)五、五九四、八三四円、精神上の損害((三)慰藉料)一、〇〇〇、〇〇〇円以上合計六、五九四、八三四円であるところ、これに前記の過失相殺を施すと結局三、九五六、九〇〇円(円以下四捨五入)となる。

そうすると、控訴人ら三名は被控訴人に対し各自右損害金三、九五六、九〇〇円並びにこれに対する本件事故発生の翌日である昭和四一年二月二日から右支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いをする義務がある。

五よつて、被控訴人の本訴請求は右の限度で理由があり、その余は失当であるから、右限度(但し、そのうち原審主張に照応する部分)を越えて被控訴人の請求を認容した原判決は控訴人の控訴により一部変更を免れず、また右限度中当審主張に照応する部分についてはこれを棄却すべく、被控訴人の附帯控訴は一部理由があるから、結局控訴及び附帯控訴に基づき原判決を変更し、前記限度内において被控訴人の請求を認容し、その余はこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(宮川種一郎 竹内貞次 畑郁夫)

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