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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)509号 判決 1971年4月20日

控訴人

佐藤酉三

代理人

平井勝也

被控訴人

小山田静子

代理人

加堂正一

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

本件につき大阪地方裁判所が昭和四二年三月二三日にした強制執行停止決定はこれを取消す。

前項は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一控訴人は、「仮りに別紙目録記載の建物(本件下屋と略称)が被控訴人の所有に属するとしても、被控訴人は右建物の処分権限を訴外小山田茂(以下茂と略称)に付与したものであり、且つ前訴判決(本件債務名義)の控訴審判決理由でその旨述べているが、このような確定判決の理由を無視した本件訴訟の提起は、執行の遅延を目的とし、且つ前訴訟で解決された紛争をむし返すもので、既判力制度の趣旨から是認し得ず、信義則上許されない」旨主張する(原判決事実摘示中「原告は右建物の処分権限を被告に付与した」との記載(二枚目裏二行目および六行目)は、前訴の被告であつた茂に付与したことを表わす趣旨の記載と見做し得る。)ので、まずその点から判断する。

本件債務名義は大阪簡易裁判所昭和三八年(ハ)第五五四号建物収去、土地明渡請求事件の判決であるが、成立に争いのない乙第二号証の二、四(右判決正本とその控訴審たる大阪地方裁判所昭和四〇年(レ)第一七〇号事件判決正本)によると、右判決は茂に対し、本件下屋の収去と下屋敷地部分の明渡を命じたものであるところ、その理由とするところは、概ね「本件下屋の北側に接続する家屋(別紙添付図面中佐藤酉三家屋と記載の部分)がもと茂の所有であつたところ、昭和三〇年九月一六日、控訴人がこれを買受けてその敷地の賃借権(その範囲は本件下屋の底地部分を含む)を地主(馬渕淳)の承諾の下に譲受けたが、その際、本件下屋の底地部分の土地(右判決が明渡を命ずる範囲の土地)については、控訴人から茂に対し更に賃料一ケ月一二〇円、使用目的を本件下屋およびこれに東接する被控訴人所有家屋の通路の用に供するため期間三ケ月(茂が間もなく郷里の四国へ引揚げる予定のため)の一時使用の転貸借契約を締結し、右期間はその後更新せられて存続していたところ、控訴人の大阪簡易裁判所昭和三八年(ハ)第五五四号事件の第一四回口頭弁論期日における解約の申入により終了したので、その原状回復義務として茂に対し本件下屋の収去を命ずる」というにある。

しかして、他方<証拠略>によれば、右茂と控訴人間の本件下屋敷地部分の一時転貸借契約の締結は当時茂が病身であつたため、その妻である被控訴人がこれを代理してしたものであるところ被控訴人はその代理方式として直接茂の名でこれを行い、本件下屋の将来の帰属に関する約束をした文書(乙第一号証)を作成するに際しても、その文面上本件下屋およびこれに東接する被控訴人所有家屋が自己の所有である旨は何ら表示せず、かえつて、それらも茂所有であると読みとれる記載のままこれを茂名義で作成したことが認められる。

当審における被控訴本人の供述中、前段前訴判決の認定した使用契約は本件下屋の敷地の転貸借ではなく、売却した本屋の一部に荷物を置かせて貰うためのもので、本件下屋の敷地部分の転貸借契約を結んだことはない旨の部分は、前顕<証拠略>に照らしたやすく措信し難い。

二右認定の事実によれば、本件債務名義の基礎となる控訴人の茂に対する本件下屋の収去請求権は、控訴人と茂との間の土地転貸借契約の終了に伴う原状回復義務の履行を求めるものとして生じたものであるところ、被控訴人は、右転貸借契約の締結に際し、茂の代理人としてこれに関与してその契約締結にあたりながら、右転貸借契約終了の際には収去すべきこととなる本件下屋の所有権が自分に帰属することには何ら触れることなく、敢えて茂所有と表示したのであるから、転貸人である控訴人との関係においては、自ら本件下屋の所有権の帰属如何に拘らず、右転貸借契約上の債務履行については、すべて茂の契約関係に依存してこれと運命をともにすべく、したがつて、茂において実体法上契約終了に伴う原状回復義務としての収去義務が生ずべきときは、自らもその拘束を受けることを暗黙に承認したものと認められても已むを得ないところである。しかも以上に掲げたすべての証拠によると、控訴人より茂に対する右の訴においても、茂が病身のため、被控訴人が実質上当事者として、弁護士の選任その他応訴に必要な一切の行為をした上、被控訴人に所有権があることは、茂に収去義務を肯定するにつき何らの障害とならない旨の判断を受けたのである。

このような状況の下においては、右茂の名においてした転貸借契約の終了に伴う原状回復義務の履行として本件下屋の収去を命じた本件債務名義の執行に対し、被控訴人は今さら本件下屋の所有権が自己にあたることを理由としてこれを阻止し得る実体法上の権利を有しないものといわなければならない。

本訴において控訴人が被控訴人は右建物の処分権限を茂に付与したと主張しているのは、以上のごとき法律関係の主張をも含むと解し得る。

三 されば本件下屋の所有権が仮に被控訴人にあるとしてもこれを理由として本件債務名義の執行の排除を求める被控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れない。よつて被控訴人の請求を認容した原判決を取消すべきものとし、民事訴訟法第三八四条、第九六条、第五四八条第二項、第五四九条第四項を適用して主文のとおり判決する。(沢井種雄 賀集唱 潮久郎)

(別紙目録・図面省略)

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