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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)800号 判決 1970年11月30日

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地を明渡せ。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四、この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、控訴会社代理人

主文第一、二、三項同旨の裁判および仮執行の宣言

二、被控訴代理人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、控訴代理人

(一)  請求原因

控訴会社は別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地と云う)を所有しているところ、被控訴人はみぎ土地上に権原に基づかずして同目録(二)記載の建物(以下本件建物と云う)を所有し、みぎ土地を占有している。

よつて、控訴会社は被控訴人に対して本件建物の収去、本件土地の明渡しを求める。

(二)  抗弁に対する答弁

被控訴人の抗弁(1)のうち(イ)の事実については、戦災による罹災前の本件土地上の五戸一棟の建物(以下旧建物と云う。)のうち、被控訴人が賃借していた北から三軒目の店舗兼住宅一戸の敷地の面積が約三〇坪(九九・一七平方メートル)であつたことは否認するが、その余の事実は認める。みぎ敷地の面積は約一三坪(四二・九八平方メートル)であつた。

同(ロ)、(ハ)、(ニ)の各事実については、被控訴人がその主張の頃本件土地二八坪二合上にバラック建の店舗兼住宅一棟を建築して居住したことは認めるが、その余の事実は否認する。控訴会社は、大正一一年頃、前記旧建物のうちの一戸に本社を置き、当時その附近で控訴会社が経営していた日の出市場およびその附近の控訴会社所有の貸家(旧建物を含む)の管理に当つていたのであるが、昭和一〇年頃日の出市場を閉鎖して後は、事実上本社を当時の控訴会社の代表取締役石川春男の自宅である奈良県高市郡高取町下土佐に移転し、空家となつた前記本社事務所跡の一戸を訴外藤本ミツに無償で貸与して同人にみぎ空家の留守番をさせていたのであるが、被控訴人が控訴会社の代理人と主張する藤本某とはみぎ藤本ミツの二男藤本洋二のことと思われるが、同人は昭和一四、五年頃から昭和二〇年頃まで藤本ミツと共にみぎ事務所跡の一戸に居住し、同所で木彫人形を作成していたのであつて、控訴会社の雇人その他控訴会社と関係のある者ではなく、もとより控訴会社の代理人ではなかつた。

同(2)、(3)の事実は全部否認する。控訴会社は被控訴人から被控訴人主張の借地の申出を受けたことはない。

なお、物件令は昭和二一年九月一五日廃止され、同条一項の規定による滅失建物敷地使用権は、建物の所有を目的とするものについては臨時処理法施行の日(昭和二一年九月一五日)から二年間に限り存続し(処理法二九条本文、以下みぎ使用権を敷地の臨時使用権と云う)、みぎ敷地の臨時使用権は処理法二条一項の適用については借地権ではないものとみなし(同法三一条)、みぎ敷地の臨時使用権に基づいて建物所有の目的で罹災建物の敷地またはその換地を自ら使用する者については同法二条の規定を準用した(同法三二条)から、仮に被控訴人が物件令四条一、二項により本件土地の臨時使用権を取得したとしても、臨時処理法施行後二年間内に、被控訴人から控訴会社に対し同法三二条により準用される二条一項による本件土地についての借地の申出がなかつたので、みぎ二年の期間の満了した昭和二三年九月一四日限り本件土地についての前記臨時使用権は消滅した。

また、臨時処理法にいわゆる借地の申出は、同法が地主に対して申出拒絶の権利を認めていることおよびみぎ拒絶することができる期間を三週間内に制限していることにかんがみると、地主において何時借地の申出があつたかを明確に認識することができる方法、すなわち、書面または口頭による地主に対する意思表示をもつてされるべきもので、事実上目的土地上に建物を建築することによつて暗黙の借地の申出がなされたと解すべきものではなく、また、みぎ申出は旧建物の賃借部分の敷地についてのみ同法による借地の申出としての効力があり、同敷地以外の土地については同法による借地申出としての効力がないところ、被控訴人は、本件土地上の旧建物が戦災によつて罹災した後、控訴会社に無断で本件土地約二八坪二合(九三・二二平方メートル)上に本件建物を建築してその敷地の占有を開始したのであつて、その前後に控訴会社に対してみぎ土地の借地の申出をしたことがなく、しかも、みぎ方法により占拠した土地の面積は被控訴人が賃借していた旧建物の部分(北から三軒目の一戸)の敷地の面積約一三坪(四二・九八平方メートル)を遥かに超過していたから、このような事実上の占有を同法にいわゆる借地の申出に当ると云うことはできない。

さらに、仮に被控訴人が控訴会社に対しいわゆる借地の申出に当る意思表示をした上で本件土地の占有使用を開始したとしても、本件土地の面積が同土地上の旧建物の被控訴人賃借部分の敷地の面積を遥かに超過していたことは当時被控訴人自身も知悉していたから、このように被控訴人において占有使用する権限のない土地を併せて占有使用を開始するのは地主に対する不信行為に当り、臨時処理法二条一項による借地の申出をすることを許された土地部分についても同法条所定の賃貸借関係を生じない。

同(4)の事実はすべて否認する。

(三)  再抗弁

被控訴人は本件土地上の旧建物が罹災した直後、被控訴人が従来賃借していた一戸の敷金として控訴会社に差入れていた金二〇〇円を控訴会社から返還を受け、みぎ一戸についての賃貸借関係を解消したから、みぎ賃借部分の敷地についての物件令ないし臨時処理法による借地申出権を喪失した。よつて、その後において、仮に被控訴人がみぎ敷地について借地の申出をしても、みぎ各法令による賃貸借関係は生じない。

二、被控訴代理人

(一)、答弁

控訴会社が本件土地を所有していること、および、被控訴人が同土地上に本件建物を所有して同土地を占有していることは認めるが、不法占有であることは否認する。

(二)  抗弁

被控訴人は、つぎに述べる理由のいずれか一つによつて、本件土地について賃借権を有していて、同賃借権に基づいて本件土地上に本件建物を所有し、同土地を占有しているので、同占有を不法占有と云うのは当らない。被控訴人は、先順位の主張が理由ない場合につき、次順位の主張を予備的に主張するものである。

(1) 被控訴人は、控訴会社との間の賃貸借契約により本件土地につき賃借権を有する。すなわち、

(イ)、被控訴人は昭和一九年八月頃控訴会社から控訴会社が戦災前に本件土地(当時大阪市東区南玉造町二七番地の四)およびその附近の控訴会社所有の土地上に所有していた五軒長屋の北から三軒目の店舗兼住宅建坪を賃借し、同所で家屋金物日用品等の小売商を営んでいたところ、昭和二〇年六月一五日頃みぎ建物は戦災で焼失した。

(ロ)、そこで、被控訴人は従来の場所で営業を継続しようと考え、同年八月頃当時控訴会社所有の土地の管理人で控訴人を代理して土地を賃貸する権限を有する訴外藤本某の疎開先である布施の居宅を訪問して本件土地の賃借方を懇請し、即日同人との間に、控訴会社から被控訴人に対して本件土地二八坪二合を地代は地代家賃統制令によつて定める最高額で、毎月末日支払いの約定で賃貸する旨の契約が成立し、即時地代の先払金として金三〇〇円を同人に支払つた。

(ハ)、みぎ賃借権に基づいて、被控訴人は昭和二〇年九月頃本件土地上にバラツク建の店舗兼住宅一棟を建築して居住していたところ、その後約二ヶ月を経過した頃、訴外藤本が被控訴人方を訪れ、控訴会社も前記の被控訴人に対する本件土地の賃貸を承認した旨を被控訴人に報告した。

(ニ)、ちなみに、訴外藤本は、当時、玄関に「宗鉄土地建物株式会社」と表示した看板を掲げた控訴会社所有の建物一戸に居住し、控訴会社所有の貸家の家賃金の集金に従事し、控訴会社の代表者と親族関係にあり、控訴会社を代理して同会社所有の土地家屋を賃貸する権限を有していた。

(2) 被控訴人は戦時罹災土地物件令(昭和二〇年七月一二日施行勅令第四一一号、以下物件令と云う。)により、本件土地につき賃借権を有する。

(イ)、仮に控訴会社と被控訴人との間に本件土地について前述の賃貸借契約が成立するに至らなかつたとしても、被控訴人は控訴会社の代理人である藤本を介して控訴会社に対して本件土地の使用の申出をした上で、本件土地上に前記建物を建築しこれに居住し、以来現在までみぎ状態を継続しているから、物件令四条一、二項により、前記建物に居住した時に本件土地について賃借権を取得し、みぎ賃借権は現在も存続している。

(ロ)、仮に被控訴人が控訴会社に対し本件土地賃借の申出をした事実が認められないとしても、被控訴人は前記のように本件土地上に建物を建築して居住していたところ、当事控訴会社の担当社員が少なくとも月一回以上控訴会社所有の土地の状況を見廻つていて、被控訴人が本件土地上に建物を建築して居住していたのを目撃して知悉していたから、控訴会社の事務所の所在地が明確でない当時の混乱した社会状勢下では、被控訴人は控訴会社に対して借地の申出をしたものと解するのが相当である。

(3)、被控訴人は罹災都市借地借家臨時処理法(昭和二一年八月二七日公布、法律第一三号、以下臨時処理法と云う。)により本件土地につき賃借権を有する。

(イ) 被控訴人は本件土地上に戦前所在していた建物が戦災により滅失した当時のみぎ建物の借主であつて、臨時処理法施行(昭和二一年勅令四一〇号により同年九月一五日施行)以前に、前述の方法により、土地所有者である控訴会社に対し、本件土地につき借地の申出をなし、または、本件土地上に建物を建築、居住して借地の申出をしたと解される者であるところ、控訴会社は同法律施行後三週間以内に被控訴人に対して賃貸拒絶の意思表示をしなかつたので、みぎ三週間の期間の満了日に当る同年一〇月六日の経過をもつて、被控訴人の申出を承諾したものとみなされ、被控訴人は本件土地について賃借権を取得した。

(ロ) 臨時処理法によつて設定された賃貸借の期間は一〇年間であるが、昭和三一年一〇月六日みぎ賃貸借の期間が満了した際に、控訴会社は被控訴人に対して賃貸借関係を終了させる意思表示をしなかつたので、賃貸借関係は更新され、通常の建物所有を目的とする土地賃貸借として更に三〇年間継続することになり、被控訴人は現在においても本件土地につき賃借権を有する。

(4) 被控訴人は控訴会社との間の和解契約により本件土地につき賃借権を有する。

(イ) 被控訴人が、昭和四〇年一月九日、当時本件土地上に所有していた平屋建建物を二階建に増築するについて、控訴会社の担当者(岩井、古川)らに承諾を求めたところ、控訴会社から被控訴人に対して、本件土地を含むその隣接土地上に鉄筋コンクリート造高層建物を建築するので協力して欲しいとの申出があり、被控訴人も控訴会社のみぎ申立を受諾する趣旨で交渉した結果、つぎの内容の和解契約が成立した。

(い)、控訴会社が本件土地およびその附近の控訴会社所有の土地上にビルデイングを建築する際には、被控訴人は異議なく本件建物を収去して本件土地を明け渡す。その場合には、建物の収去費用は控訴会社の負担とする。

(ろ)、控訴会社は被控訴人に対して本件土地上に新築した建物の一階部分を賃貸当時の相場で賃貸する。

(は)、控訴会社は、(い)に記載するビルデイングの建築期間中、被控訴人が本件土地附近の控訴会社所有の土地上にバラツク建店舗兼住宅用の簡易建物を建築し、みぎ期間中被控訴人に賃貸する。

(に)、控訴会社は被控訴人が前記バラツク建の建物に移転するために要する費用およびみぎバラツク建の建物から新築ビルデイングに移転する費用一切を負担する。

(ほ)、被控訴人は控訴会社に対立して以上の約定以外に立退料を請求しない。

(へ)、その他の事項は当事者間の協議によつて定める。

(と)、被控訴人が以上(い)ないし(へ)の各条項を承認した時には、控訴会社は被控訴人に対して二階建増築工事を承認する。

(ロ)、被控訴人は、みぎ和解契約により、控訴会社が本件土地およびその附近の土地上にビルデイングを建築する計画を立て被控訴人の一時の立退先としてバラツク建の建物を用意するまで、本件土地上の建物に居住を続けることを許されることになつたので、控訴会社がみぎビルデイング建築の計画を具体化していない現況下では、控訴会社に対して本件建物を収去して本件土地を明渡す義務がない。

(三)  再抗弁に対する答弁

控訴会社の再抗弁事実は全部否認する。

第三、証拠関係(省略)

理由

一、争いのない事実

本件土地(別紙目録(一)記載のとおり)が控訴会社の所有に属すること、被控訴人が本件土地上に本件建物(別紙目録(二)記載のとおり)を所有しみぎ土地を占有していること、被控訴人が昭和一九年八月頃控訴会社から同会社所有の本件土地およびその附近の土地(成立に争いのない甲第一号証によると、当時は、大阪市東区南玉造町二七番地の四)上の控訴会社所有の五戸建一棟の建物(旧建物と云う。同号証によると、家屋番号同町一一号、木造瓦葺東向二階建五戸一棟)のうち北から三軒目の一戸を賃借していたが、同建物は昭和二〇年六月一五日頃戦災により焼失したこと、その後、被控訴人が同年九月頃みぎ焼跡の本件土地(被控訴人賃借の前記一戸の敷地と本件土地とが地域および面積について一致しているかどうかについては当事者間に争いがある。)上にバラツク建の店舗兼住宅を建築しこれに居住し始めたこと、ならびに、その後、みぎ建物は増改築されて本件建物となつたことは当事者間に争いがない。

二、本件土地についての賃貸借契約の成否について

被控訴人は、昭和二〇年八月頃、控訴会社と被控訴人との間に本件土地についての賃貸借契約が成立したと主張し、原審証人立平文の証言および原、当審における被控訴人本人の各尋問の結果中にはみぎ被控訴人の主張に副う各供述部分があるけれども、みぎ各供述部分は後記の認定および同認定に用いる各証拠と比較して措信し難く、そのほかにはみぎ主張事実を証明する証拠はない。かえつて、原審証人尾上政実の証言と当審における被控訴人本人尋問の結果のうちの一部(前記被控訴人の主張に副う供述部分以外の部分)を総合すると、控訴会社は旧建物およびその附近の控訴会社所有の貸家の管理および家賃の集金を控訴会社の雇人である尾上政実にさせていたのであつて、藤本某はもと旧建物の一戸にあつた控訴会社本社の事務所が他に移転して空家となつた後その留守番としてみぎ一戸を無償で使用していた者で、控訴会社の貸家の管理人その他控訴会社を代理するなんらかの権限を有していた者ではなく、尾上政実が家賃を集金できなかつた場合に控訴人が藤本某にその月の家賃金を寄託して尾上政実に届けて貰つていたに過ぎないこと、したがつて、被控訴人が藤本某に本件土地の賃借を懇請して金三〇〇円を同人に渡したのが事実であるとしても、それは、藤本某に対して被控訴人を代理して控訴会社と本件土地の賃借の交渉をして貰い度い旨を依頼しただけのことで、控訴会社とその交渉をしたことにはならないし、また、藤本某が被控訴人に対して本件土地を使用して差支えない旨を告げても、控訴会社がみぎ土地の使用を承諾したことにはならないこと、ならびに、控訴会社は藤本某から被控訴人のみぎ賃借申出の交渉を受けたことがないことを認めることができる。そうすると、被控訴人が控訴会社との間の賃貸借契約に基づいて本件土地の賃借権を有する旨の被控訴人の主張は採用できない。

三、物件令または臨時処理法に基づく本件土地の賃借権について

なるほど、被控訴人は、本件土地を含む控訴会社所有の土地上にあつた控訴会社所有の旧建物の一戸をその罹災前に控訴会社から賃借していた者であるから、物件令四条一項により、賃借していた旧建物の敷地を、本建築物の所有以外の目的のため使用することができ、使用開始により、地主の承諾の有無に関係なく当該土地につき新に賃貸借があつたものとみなされる(同令四条二項)。従つて、被控訴人と控訴会社の間に賃貸借契約が成立した事実の認められないことは前認定のとおりであるけれども、被控訴人が本件土地にバラツク建の建物を建築した昭和二〇年九月頃、賃借していた旧建物の敷地部分に関する限り賃貸借が成立したものとみなされ、被控訴人は賃貸借に基づきみぎ土地を正当に使用する権限があつたわけである。被控訴人が賃借していた旧建物の敷金を受領したか否かはみぎ賃貸借の成立に影響を及ぼすものではない。

しかし、昭和二一年九月一五日施行の臨時処理法二九条により、物件令による賃貸借は同法施行後二年間に限り存続するものとされ、同法二条一項により同法施行の日より二年以内に地主に対し賃借の申出をしない限り、物件令による賃貸借は前記二年の存続期間の満了により終了することになる(臨時処理法三一条により、物件令による賃貸借は同法二条一項の規定の適用について借地権でないものとみなされる)。

そこで被控訴人から臨時処理法二条一項による賃借の申出があつたかどうかについて判断する。

(1)  被控訴人は、昭和二〇年八月頃、控訴会社の代理人である藤本某に対して、または同人を介して控訴会社に対して、臨時処理法二条一項による借地の申出をしたと主張するが、同法は昭和二一年八月二七日に公布されたのであるから、みぎ公布前にされた被控訴人主張の申出は通常の土地賃借の申出に過ぎず同法二条一項による借地の申出ではなかつたことが明らかである。なお、同法公布後同法二条一項による借地の申出の許された期間内(同法施行の日である昭和二一年九月一五日から二ヶ年以内)に被控訴人が控訴会社に対して同条項による借地の申出をしたことについては、被控訴人は主張も立証もしていない。

(2)  被控訴人は戦中や戦後程ない頃のように混乱した社会状況下では、罹災建物の賃借人は同建物の敷地に新に建物を建築してこれに居住し、同敷地の所有者がみぎ事実を認識すれば、同所有者に対し臨時処理法二条一項所定の申出をしたものと解すべきであると主張するが、同法の解釈上同条項の申出は書面または口頭をもつてする意思表示、またはこれと同視することのできる方法によるのが相当であつて、意思表示の相手方の所在を確認できないときは公示送達の方法もあるので、みぎ被控訴人の主張は採用できない。

以上のように、臨時処理法二条一項の申出をしたことは認められないので、被控訴人が同法により本件土地について使用権ないし賃借権を有する旨の主張は、その余の争点についての判断をするまでもなく理由がないことは明らかである。

四、和解契約による賃借権について

原、当審における被控訴人本人の各尋問の結果中にはこの点についての被控訴人の主張に副う供述があるけれども、控訴会社が被控訴人の本件土地についての賃借権を否認し、長年月に亘つて本件土地の賃料の受領を拒絶し続けて来たことは被控訴人も認めているところであつて、みぎ紛争の経過に徴し前記供述部分は到底措信し難く、そのほかにはこの点についての被控訴人の主張を証明する証拠はない。よつて被控訴人のみぎ主張は排斥する。

五、控訴会社の建物収去、土地明渡の請求について

以上のように、被控訴人が本件土地について使用権ないし賃借権を有することは認められないから、控訴会社が被控訴人に対し、本件土地所有権に基づいて、本件建物の収去、本件土地の明渡を求める本訴請求は正当として認容すべきものである。

六、結論

みぎ当裁判所の判断と異なる原判決は失当で取消すべきであるから、民訴法三八六条、九六条、八九条、一九六条を適用し主文のとおり判決する。

目録及び図面は一審判決と同一につき省略

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