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大阪高等裁判所 昭和43年(ネ)847号 判決 1971年12月21日

主文

原判決中被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し、金九九九、五六一円及びこれに対する昭和四一年三月一六日から完済まで日歩七銭の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用中控訴人と被控訴人との間に生じた分は、第一、二審とも全部被控訴人の負担とする。

この判決中控訴人勝訴部分は、控訴人において金七〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

控訴人代理人は、「原判決中被控訴人に関する部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一、〇〇八、六五九円及びこれに対する昭和四一年三月一六日から完済まで日歩七銭の割合による金員を支払え。訴訟費用中控訴人と被控訴人との間に生じた分は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

控訴人代理人は、請求原因及び抗弁に対する認否として、次のとおり述べた。

一  請求の原因

(一)  控訴人は、訴外株式会社水島螺子製作所(以下訴外会社という。)との間で、昭和三七年三月三日取引極度額を金二〇〇万円と定めて、手形取引約定書による継続的金融取引契約をした。その内容は、訴外会社の振出、引受、裏書もしくは保証した約束手形または為替手形であつて、訴外会社が控訴人に交付したものは、これによつて貸付を受けた場合であると割引を受けた場合であるとを問わず、すべて訴外会社がその手形上の債務を負い、同時に右手形金に相当する借入金債務を負うものとし、控訴人は、右手形上の債権或いは貸付金債権のいずれに基づいても請求できること、もし右手形が不渡りとなつたときは、訴外会社は、直ちにその手形を手形金額をもつて買い戻す義務を負い、かつ日歩七銭の遅延損害金を支払うこと、というものであつた。

被控訴人は、右契約の日に控訴人との間で、被控訴人が訴外会社の右契約上の債務を連帯保証する旨の契約を締結した。

(二)  控訴人は、右契約(以下本件契約という。)に基づき、訴外会社から、次のとおりの約束手形一一通を割引によつて取得した。

1金額    七六、〇〇〇円

満期    昭和三八年一〇月一八日

支払地   大阪市

支払場所  株式会社神戸銀行大阪駅前支店

振出地   布施市(当時)

振出日   白地

振出人   春日株式会社

受取人及び裏書人 訴外会社

2金額    二六三、七〇〇円

満期    昭和三八年一〇月一〇日

振出日   同年六月一〇日

受取人   訴外会社

その他の手形要件は1の手形と同じ

3金額    一六〇、〇〇〇円

満期    昭和三八年一〇月二五日

支払地   大阪市

支払場所  株式会社大阪銀行阿倍野橋支店

振出地   大阪市

振出日   同年六月一五日

振出人   大和機械工業株式会社

受取人及び裏書人 訴外会社

4金額    一〇八、〇〇〇円

満期    昭和三八年一一月八日

振出日   同年七月七日

その他の手形要件及び裏書人は3の手形と同じ

5金額    一八二、〇〇〇円

満期    昭和三八年一〇月四日

支払地   大阪市

支払場所  株式会社大阪銀行阿倍野橋支店

振出地   堺市

振出日   同年五月二〇日

振出人   真鍋博

受取人及び裏書人 訴外会社

6金額    一五〇、〇〇〇円

満期    昭和三八年一〇月二八日

振出日   同年六月一〇日

受取人及び第一裏書人 繁田金属製作所

第二裏書人 訴外会社

その他の手形要件は1の手形と同じ

7金額    二五二、〇〇〇円

満期    昭和三八年一一月二日

振出日   同年六月二〇日

受取人及び第一裏書人 繁田金属製作所

第二裏書人 訴外会社

その他の手形要件は1の手形と同じ

8金額    二〇〇、〇〇〇円

満期    昭和三八年一二月五日

振出日   同年七月三一日

その他の手形要件及び裏書人は1の手形と同じ

9金額    一〇〇、〇〇〇円

満期    昭和三八年一二月七日

振出日   同年八月一〇日

その他の手形要件及び裏書人は3の手形と同じ

10金額   二八〇、〇〇〇円

満期    昭和三九年一月二二日

振出日   昭和三八年九月五日

その他の手形要件及び裏書人は5の手形と同じ

11金額    一二五、〇〇〇円

満期    昭和三九年一月一八日

振出日   昭和三八年九月二日

その他の手形要件及び裏書人は3の手形と同じ

(三)  控訴人は、右各手形をそれぞれ満期に支払場所に呈示して支払いを求めたが、支払いを拒絶された。よつて、本件契約により、訴外会社は、右各手形を買い戻す義務を負い、控訴人は、訴外会社に対し、右手形金合計一、八九六、七〇〇円に相当する手形買戻代金債権と、各満期の翌日から完済までの日歩七銭の割合による遅延損害金債権を有することとなつた。

(四)  他方、訴外会社は、控訴人に対し、別表(1)記載のとおり各種預金を有しており、本件契約において、訴外会社が右買戻代金債務の履行を怠つた場合は、控訴人は、訴外会社の控訴人に対する預金その他の債権を受働債権として、その弁済期にかかわらず通知催告を要しないで、控訴人の訴外会社に対する右買戻代金債権と相殺できる旨の約定がなされていたので、控訴人は、右約定にもとづき差引き相殺勘定をすることとした。

そこで控訴人は、昭和三九年九月九日付書面で訴外会社に対し、右買戻代金と預金等との差額(ただし、その催告金額は、遅延損害金の計算間違い等により金八八四、一九八円)を同月一四日までに支払うよう催告した趣旨に則り、まず同月一四日現在の計算をもつて、前記約定による相殺勘定をすることとした。

同日現在の控訴人の訴外会社に対する買戻代金債権は、前記元金一、八九六、七〇〇円と、各手形満期の翌日から右九月一四日までの日歩七銭の割合による遅延損害金合計四〇〇、八九七円である。また、同日現在の訴外会社の控訴人に対する各種預金債権の明細は、別表(1)のとおりで、その元利合計は一、三一三、三〇〇円である(ただし、同表の別段預金三八、七三五円のうち二一、五五一円は、同日現在現実に存した預金債権ではなく、後日の計算により修正した計算上のものである。

すなわち、控訴人において、同日現在で差引勘定をして、買戻代金債権に充当した預金については、同日付の解約手続をすべきであつたが、取扱い支店においてこれを怠たり、昭和四〇年九月三〇日に至つて、右の解約処理手続を行なつた。そのため、昭和三九年九月一五日から昭和四〇年九月三〇日までの利息として、定期貯金五口につき計一九、一九三円、通知貯金につき二、三五八円、合計二一、五五一円の訴外会社の債権が自然的に増加する結果となつた。そこで、控訴人は、やむなく、これを訴外会社の利益勘定すなわち別段預金のあつたものとして処理し、他の別段預金扱い金一七、一八四円とともに、別段勘定が存在したものとして計算のうえ、手形買戻代金への充当処理をしたものである。)。

よつて、控訴人は、訴外会社の右債権のうち、定期積金解約金の一部三〇四、七〇三円を除いた金一、〇〇八、五九七円を、前記控訴人の訴外会社に対する債権のうち遅延損害金四〇〇、八九七円及び前記1ないし4の約束手形の買戻代金元金合計六〇七、七〇〇円に充当し、相殺計算をし、右除外した訴外会社の債権三〇四、七〇三円については、処理を留保した。

したがつて、昭和三九年九月一四日現在における控訴人の訴外会社に対する手形買戻代金債権は、計算上前記4ないし11の手形金の合計に相当する元金一、二八九、〇〇〇円となつた。

かりに、相殺について意思表示を要するものとしても、控訴人は、前記九月九日付書面によつて、訴外会社に対し相殺の意思表示をした。

(五)  被控訴人は、訴外会社の控訴人に対する右処理後の残債務の弁済として、昭和三九年一〇月一二日から昭和四二年七月一一日まで三四回にわたり、別表(2)記載のとおり毎回一〇、〇〇〇円宛(ただし最終回は三、三一三円)、合計三三三、三一三円を支払つた。そこで控訴人は、この弁済金と、前記処理の際留保した定期積金解約金の一部三〇四、七〇三円及び控訴人が訴外会社に返還すべき組合出資金三三、〇〇〇円をもつて、訴外会社の控訴人に対する債務に充当計算をして、清算することとした。その内訳は、別表(3)のとおりである。すなわち、右三〇四、七〇三円の訴外会社の控訴人に対する債権を、昭和三九年一〇月一二日現在の控訴人の訴外会社に対する買戻代金残債権と相殺勘定することとし、昭和三九年九月一五日から同年一〇月一二日までの元金一、二八九、〇〇〇円に対する約定遅延損害金二四、三六二円(日歩七銭)に先ず充当し、次いで二〇万円を前記8の手形の買戻代金元金に充当し、残り八〇、三四一円を前記5の手形の買戻代金元金の内に充当した。よつて、右一〇月一二日現在、控訴人の訴外会社に対する買戻代金債権は、元金一、〇〇八、六五九円となつた。次に、被控訴人から弁済を受けた分を、その都度別表(3)のとおり遅延損害金の一部に充当し、組合出資金返還金三三、〇〇〇円は、昭和四二年七月一三日現在の遅延損害金の一部に充当計算した。その結果、遅延損害金は、昭和四一年三月一四日までの分の全部と一五日分の一部の弁済を受けたこととなつた。

(六)  よつて、控訴人は、現在訴外会社に対し、本件契約にもとづく手形買戻代金債権元金残額金一、〇〇八、六五九円と、これに対する昭和四一年三月一六日から完済までの日歩七銭の割合による遅延損害金債権を有することとなるから、連帯保証人である被控訴人に対し、その支払いを求めるものである。

二  抗弁に対する認否

被控訴人の抗弁事実のうち、合計三三三、三一三円弁済の事実は認めるが(その明細は別表(2)のとおり)、和解契約締結の事実、吉田義次が示談解決等の権限を有すること及び代理権ありと信ずべき正当事由があるとの事実は、いずれも否認する。

被控訴人訴訟代理人は、請求原因に対する認否及び抗弁として、次のとおり述べた。

一  認否

請求原因(一)の事実のうち、被控訴人が、控訴人と訴外会社との間の控訴人主張の継続的金融取引契約につき、取引極度額一〇〇万円の限度で連帯保証契約を締結したことは、認める。一〇〇万円を超える部分につき連帯保証契約を締結したことは否認する。

請求原因(二)ないし(四)の事実は知らない。同(五)の事実のうち、被控訴人が合計三三三、三一三円を弁済したとの点を除き(これは後記のとおり)、その余の事実は知らない。

二  抗弁

(一)  昭和三九年九月下旬、被控訴人は、当時の控訴人の放出支店長代理で、控訴人の代理人であり、債権回収について示談解決等の権限を有する吉田義次と折衝し、同人との間で、被控訴人が、当時控訴人から請求されていた本件保証債務金八八四、一九八円から、利息を控除し、元金六六六、六二五円の半額金三三三、三一三円を毎月一万円ずつ送金して支払い完済したときは、残債務を免除する旨の和解契約を締結した。

(二)  被控訴人は、右契約に従い、昭和三九年一〇月一二日から昭和四二年七月までの間に右金三三三、三一三円を完済した。よつて、被控訴人の債務は消滅した。

(三)  かりに、右吉田に前記の代理権がなかつたとしても、被控訴人及びその代理人福井正雄は、吉田が右の権限を有するものと信じており、一般の社会通念からしても、支店長代理が右のような和解契約をする権限があると信じるについて、正当な理由はあるというべきである。よつて、民法一一〇条により、前記和解契約は本人たる控訴人に効果を及ぼすものである。

証拠(省略)

理由

一  控訴人と訴外会社との間で、昭和三七年三月三日控訴人主張の内容の継続的金融取引契約が締結され、被控訴人が同日控訴人との間で、訴外会社の右契約による控訴人に対する債務につき連帯保証契約を締結したことは、保証極度額一〇〇万円の限度では、当事者間に争いがない。

甲第一号証は、被控訴人の署名及び印影の成立については当事者間に争いがないから、真正に成立したものと推定される。原審並びに当審における被控訴人本人尋問の結果中には、被控訴人が甲第一号証に署名押印した時は、第一条の金額欄は空白であつて、被控訴人としては、保証の極度額を一〇〇万円とする趣旨で署名押印したものであるという部分がある。しかし、右本人尋問の他の部分を総合すると、甲第一号証に被控訴人が署名するに際し、保証を頼みに来た訴外会社の代表取締役米川正夫との間で、借入れ額は一〇〇万円程度を目安とするという趣旨の会話が交わされたに過ぎず、保証の極度額を一〇〇万円に限定するとの明確な合意がなされたものではないことが認められる。そうだとすると、債務極度額の欄を空白にしたまま連帯保証人としての署名押印をした以上、後に右空白部分に二〇〇万円と記入されたからといつて、これを被控訴人の意思に基づかないものとすることはできない。よつて、前記本人尋問部分は、甲第一号証が真正に成立したとの推定を覆えすには足りない。

右甲第一号証によると、控訴人と被控訴人との間の連帯保証契約は、債務極度額、したがつて、保証極度額を二〇〇万円として締結されたものであることが認められる。原審並びに当審における被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前記と同様の理由で措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  原審における証人吉田義次の証言により真正に成立したことが認められる甲第二ないし第四、第六ないし第八号証、右甲第三、第六号証との対照により真正に成立したことが認められる甲第一一号証の一ないし四、成立に争いのない乙第一号証及び右証言によると、控訴人の請求原因(二)及び(三)の事実が認められる。この認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被控訴人は、昭和三九年九月下旬に控訴人との間で、訴外会社の控訴人に対する本件契約に基づく債務の元本残額六六六、六二五円の半額である三三三、三一三円を被控訴人が完済したときは、その余の被控訴人の保証債務を免除する旨の契約を締結したと主張するので、これについて判断する。

原審並びに当審における証人福井正雄の各証言及び被控訴人本人の各尋問結果中には、右主張にそう部分があるが、後記の証拠に照らし、にわかに措信できない。また、被控訴人が控訴人に対し、昭和三九年一〇月一二日から昭和四二年七月までの間に三四回にわたり、毎月一万円宛、最終回は三、三一三円、合計三三三、三一三円を支払つたことは、当事者間に争いがないが、この事実も、次に述べるとおり、債務免除を裏付ける事実とはならない。

かえつて、乙第一号証、原本の存在及び成立につき争いのない乙第二号証、当審における証人竹内栄三の証言により真正に成立したことが認められる甲第一五号証、右証言、原審並びに当審(第一回)における証人吉田義次の各証言(後記措信しない部分を除く。)、原審並びに当審における証人福井正雄の各証言及び被控訴人本人の各尋問結果(いずれも前掲部分を除く。)を総合すると、次の事実を認めることができ、被控訴人の主張する債務免除はなされていないことが認められる。

控訴人は、昭和三九年九月九日付書面により、放出支店長名をもつて、訴外会社及び被控訴人に対し、本件契約に基づく残債務金八八四、一九八円(ただし、この金額は、控訴人において遅延損害金の計算を誤つたため、実際に存した債務額より少い。)を五日以内に支払うよう催告した。当時訴外会社は倒産し、代表者の米川は行方をくらませていた。右催告書を受取つた被控訴人は、これを一度に支払う能力がなかつたので、友人の福井正雄とともに、同月下旬ころ控訴人の放出支店に赴き、右債務の処理につき同支店長代理の吉田義次と折衝した。その交渉過程において、吉田が被控訴人に対し、「保証人としての誠意を見せてほしい。せめて元金の半額を責任持つてもらいたい。あとは米川に請求するから。」という趣旨のことを述べた。これは、吉田が、被控訴人の立場に同情したことと、できるだけ債権の回収をはかりたいという自己の職責上の要求とから、元金の半額を払つてくれたら、あとは米川から取立てるよう努力して、それ以上に被控訴人に累が及ばないよう配慮しようという趣旨で述べたもので、元金の半額を超えるその余の債務について被控訴人の保証債務を免除する意思表示をしたものではなかつた。ところが、被控訴人は、吉田の右発言を残額免除の趣旨と誤解し、その点を充分に確認しないまま、元金の半額を支払えばその余の責任を免れるものと思い込んで、元金の半額を支払うことを決意した。そこで、被控訴人は、支払い方法につき、被控訴人が給料生活者で経済的余裕のないことを吉田に説明して、毎月一万円宛の分割払いとすることにつき吉田の承諾を得て交渉を終り、前記のとおり、同年一〇月一二日を初回として三四回にわたり、合計三三三、三一三円を控訴人方に送金して支払つた。

以上の事実を認めることができる。原審並びに当審(第一、二回)における証人吉田義次の各証言中右認定に反する部分は措信できない。

よつて、被控訴人は、連帯保証人として、主債務者たる訴外会社が本件契約により控訴人に対して負担する債務を支払わねばならない。

四  当審における証人吉田義次の証言(第二回)により真正に成立したことが認められる甲第一七号証の一ないし三、第一八号証、第一九ないし第二二号証の各一、二、第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証、第二六ないし第二八号証の各一、二、前掲甲第一号証、右証言及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

昭和四〇年九月三〇日現在、訴外会社は、控訴人に対し、定期積金、定期貯金等合計一、三一三、三〇〇円の預金債権を有していた。

本件契約に対しては、訴外会社が手形買戻代金債務の履行を怠つた場合は、控訴人が右債権と訴外会社の控訴人に対する預金その他の債権とを弁済期にかかわらず通知催告を要しないで任意に相殺することができる旨の約定がなされていた。そこで控訴人は、同日訴外会社の控訴人に対する前記預金債権につき預金契約の解約手続をしたうえ、右預金債権と本件契約による買戻代金債権とを相殺勘定することにした。そして、その預金債権による買戻代金債権への充当の時点を、計算上昭和三九年九月一四日に置くことにし、同日現在で計算した訴外会社の定期積金、定期貯金及び通知貯金の額は、別表(1)のとおりであるので、同日から実際に解約処理をした昭和四〇年九月三〇日までの間に定期貯金及び通知貯金につき生じた利息等、同日現在で訴外会社に対する債務として計上しなければならないもの合計三八、七三五円を、昭和三九年九月一四日現在の別段預金勘定として別表(1)のとおり計上して、計算上の数額を合わせたうえ、この債権合計一、三一三、三〇〇円のうち、定期積金債権(これには利息がつかない。)の一部三〇四、七〇三円を除いた金一、〇〇八、五九七円を、同日現在の買戻代金債権の遅延損害金全額四〇〇、八九七円と、元金のうち請求原因(二)記載の1ないし4の手形買戻代金に相当する六〇七、七〇〇円に充当して、帳簿処理をし、右除外した三〇四、七〇三円については充当処理を留保した。

他方、前記の被控訴人が控訴人に弁済した金三三三、三一三円については、控訴人において受領の都度債権への充当処理をしていなかつたので、被控訴人が右金員を全部弁済した後に、控訴人において、前記の処理を留保した定期積金残額三〇四、七〇三円及び控訴人が訴外会社に返還すべき組合出資金三三、〇〇〇円と右弁済金とを合わせ、合計六七一、〇一六円を、請求原因(五)で主張しかつ別表(3)に記載のとおり、本件買戻代金債権の元金及び遅延損害金に充当して帳簿処理し、訴外会社の控訴人に対する債権をゼロとしたうえ、残つた買戻代金元金一、〇〇八、六五九円及びこれに対する昭和四一年三月一六日から完済までの約定の日歩七銭の割合による遅延損害金の支払いを、原審における昭和四二年七月一五日付請求の趣旨訂正申立書により訴求して、当審に至つた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

五  ところで、被控訴人の抗弁(一)には、被控訴人が支払つた金三三三、三一三円は、これを元本に充当する旨の合意が被控訴人と吉田との間でなされたとの主張が含まれていると解することができ、かつ、昭和三九年九月下旬の前記折衝において、吉田が、せめて元金の半額を責任持つてもらいたい旨の要求をし、被控訴人がこれを承諾して、当時請求を受けた元金の半額に相当する金三三三、三一三円を支払つたものであることは、さきに認定したとおりであるから、吉田と被控訴人との間では、右弁済金を元金に充当する旨の合意が成立したものといわねばならない。ところが、控訴人は、右弁済金を別表(3)のとおり遅延損害金に充当している。

よつて、吉田が、右のような民法四九一条一項所定の順序と異なる充当の合意をする権限を有したかどうかについて判断する。

原審における証人吉田義次の証言によると、当時吉田が控訴人の放出支店長代理の地位にあつたことが認められる。しかしながら、支店長代理という肩書それ自体から、その地位にある者が、対外的な営業上の代理権を有する者と判断することはできず、かえつて、当審における証人竹内栄三の証言によれば、支店長代理というのは、単なる内部的な職制上の名称であつて、営業に関する決済権限や対外的代理権限は何も有しないものであることが認められる。そして、本件において具体的に吉田が前記のような弁済充当の合意をする代理権を有したことを認めるに足りる証拠は何もない。

被控訴人は、民法一一〇条の表見代理を主張するが、基本代理権の存在について何ら主張しないのみならず、支店長代理という肩書が前記のようなものである以上、相手が支店長代理であるということだけで、その者が代理権を有すると信ずべき正当な事由であるということはできない。したがつて、被控訴人の抗弁は理由がない。

そうすると、被控訴人と吉田との間の前記充当の合意は、本人たる控訴人に効果を及ぼすに由なく、控訴人が被控訴人の弁済金を別表(3)のとおり民法四九一条一項所定の原則に従つて遅延損害金に充当したことをとがめるわけにはいかない。

六  別表(3)の充当には、一部明らかな誤りがあり、次に述べる限度で修正を免れない。すなわち、まず同表上部に、昭和三九年九月一五日から同年一〇月一二日までの二八日分の遅延損害金を二四、三六二円と記載してあるのは、一日分不足の計算違いであつて、二五、二六四円が正しい。したがつて、控訴人が同年一〇月一二日現在の時点をとつて充当処理した定期積金の留保分三〇四、七〇三円を、まず右遅延損害金二五、二六四円に充当し、残りの二七九、四三九円を元金に充当すると、同日現在の元金残は、一、〇〇九、五六一円となる。

次に、被控訴人が初回に一万円を弁済したのが右同日であることは当事者間に争いがないが、控訴人は、この一万円を、別表(3)のとおり同月一三日から同月二七日までの遅延損害金に充当している。しかしながら、弁済金は、弁済を受けた時点で存する債権に充当しなければならないのであつて、弁済を受けた日以降に発生する遅延損害金に充当することは許されない。したがつて、同月一二日弁済を受けた一万円は、前記三〇四、七〇三円に加えて同日現在の債権に充当すべきであり、その結果同日現在の元金残は、九九九、五六一円となる。

同年一一月一一日以降の弁済金及び昭和四一年七月一三日の時点で控訴人が充当処理した組合出資金は、いずれもその弁済または充当処理の時点において、その時までに生じた遅延損害金の額に満たないから、全部遅帯損害金に充当するのは正当である。しかし、別表(3)の充当の記載は、昭和三九年一〇月一二日現在の元金が右のとおり修正されるから、順次修正を余儀なくされ、計算すると、遅延損害金は、昭和四一年三月五日分までの全部と同月六日分のうちの一七二円が弁済されたこととなる。

したがつて、被控訴人は、控訴人に対し、元金九九九、五六一円と、昭和四一年三月六日分の遅延損害金の残額五二七円及び同月七日から完済まで右元金に対する日歩七銭の割合による遅延損害金を支払う義務がある。しかし、遅延損害金については、控訴人は、同月一六日以降の分しか訴求していないから、それより前の分については認容するわけにはいかない。

七  そうすると、控訴人の本訴請求は、金九九九、五六一円とこれに対する昭和四一年二月一六日から完済まで日歩七銭の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容すべきであり、これと結論を異にする原判決は、一部取消しを免れない。よつて、原判決中被控訴人に関する部分を変更して、本訴請求中右理由ある部分の請求を認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言につき、民訴法九六条、八九条、九二条、一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(別表1)                (預金勘定)             (39.9.14現在)

<省略>

(別表2) (米田庸蔵支払表)

<省略>

(別表3)

<省略>

<省略>

<省略>

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