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大阪高等裁判所 昭和43年(行コ)12号 判決 1971年12月21日

大阪市東淀川区十三東之町一丁目一一番地

控訴人

平山さよ

同所同番地

控訴人

平山美江

右両名訴訟代理人弁護士

川見公直

浜田行正

古川彦二

大阪市東淀川区木川東之町三-二

被控訴人

東淀川税務署長

山戸久夫

右指定代理人

上野至

葛本幸男

岩木昇

立川正敏

畑中英男

安岡喜三

右当事者間の所得税更正決定処分変更請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

控訴人らの、被控訴人が平山信六に対し昭和三九年一月二九日付でした昭和三六年分所得税の更正決定及び重加算税賦課決定のうち課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分の取消しを求める訴に関する控訴を棄却する。

原判決主文二、三、四項を次のとおり変更する。

被控訴人が平山信六に対し昭和四〇年四月一二日付でした昭和三六年分所得税の再更正決定及び重加算税賦課決定のうち、再更正決定の課税総所得金額金五、五五三、三一一円、重加算税賦課決定の税額金八八七、〇〇〇円をそれぞれ超える部分を取り消す。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人が平山信六に対し、昭和三九年一月二九日及び昭和四〇年四月一二日付でした昭和三六年分所得税の更正決定及び加算税賦課決定のうち、課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、控訴人ら訴訟代理人において、甲第七号証、第八号証の一、二、第九号証を提出し、当審証人松村格の証言及び控訴人平山美江本人尋問の結果を援用し、乙第一二、一四号証の成立は不知、第一三号証の成立は認めると述べ、被控訴人指定代理人において、乙第一二ないし第一四号証を提出し、当審証人田中栄次郎の証言を援用し、甲第七号証、第八号証の一、二、第九号証の成立はいずれも不知と述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。ただし、原判決六枚目表三行目、七枚目表二行目、八枚目表二行目、九枚目裏一行目、一〇枚目表一、四、五、一一行目、同裏三、一一行目、一一枚目表三、四、七、一〇、一一行目、同裏三行目、一四枚目裏三、四行目、一五枚目裏四行目に、それぞれ「原告」とあるのを、いずれも「平山信六」と訂正する。

理由

控訴人らの本件請求に対する本案前及び本案についての当裁判所の判断は、次に訂正または附加するほかは、原判決一七枚目表二行目から二六枚目裏末行まで及び二八枚目裏三行目から三二枚目裏一二行目までに記載の原判決理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

一、原判決一九枚目表一二行目の「考慮」の次に「す」を挿入し、二四枚目裏六行目に「甲第五号証」とあるのを「甲第六号証」に、七行目に「原告平山美江」とあるのを「平山信六」に、一二行目に「第五号証」とあるのを「第六号証」にそれぞれ訂正し、二五枚目裏末行の「争がなく」の次に 「成立に争いのない甲第四号証の一」を挿入し、二六枚目表一行目から二行目に「甲第四号証の一、二」とあるのを「甲第四号証の二」に、八行目に「同月」とあるのを「一〇月」にそれぞれ訂正し、三〇枚目表七行目の「なされないまま」の次の「に」を削除し、同裏末行に「弁論の全趣旨により」とあるのを「成立に争いのない甲第五号証の一及び三に押捺の山崎の印影との対照により」に訂正する。

二、原判決二六枚目表二行目の「原告平山美江本人尋問の結果」の次に、「当審における控訴人平山美江本人尋問の結果」を挿入する。

三、当審における控訴人平山美江本人尋問の結果中、右引用の設定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四、本件譲渡資産の取得費用のうち利子について。

控訴人らは、本件譲渡資産を取得するためにその代金を銀行等から借り受けたため銀行利子等金七〇七、二五五円を支出していると主張するので、これについて判断する。

(一)  当審における控訴人平山美江本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第七、第九号証、成立に争いのない乙第八号証、当審証人田中栄次郎の証言により真正に成立したことが認められる乙第一二、第一四号証、当審証人松村格、同田中栄次郎の各証言及び原審並びに当審における控訴人平山美江本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)によると、平山信六は、香辛調味料の製造販売を目的とする光食品工業株式会社(以下光食品という。)の代表取締役をしていたのであるが、同会社が昭和三五年四月ころ即席チキンラーメンの製造販売をはじめたところ、注文が殺到したので、光食品は、江商株式会社(以下江商という。)と提携して、同社から資金を得てその事業を拡張することになり、とりあえず工場敷地の購入資金として同年一〇月一五日金五〇〇万円の融資を受け、これを本件譲渡資産の購入資金の一部に当てたことが認められる。しかし、前掲各証拠によると、江商は、右五〇〇万円の融資に当り、光食品との間で、江商が光食品の製造する即席チキンラーメンの中京以西の西日本地区総発売元となる旨の契約を結び、その取引によるメリツトを考慮して、当初は右五〇〇万円の融資金について利息の約定をしなかつたこと、江商は、昭和三六年五月一三日付書面で光食品に対し、ラーメンの売行きが減退してきたことを理由に、それまでの両社の業務提携条件の一部を改め、江商が光食品から受取つていた光食品の西日本地区直処分の江商宛眠り口銭を同年四月一日から取り止め、かわりに右融資金五〇〇万円に対する金利を同日から日歩二銭四厘の割合で請求したいから諒解を得たい旨の通告をしたこと、光食品は、右五〇〇万円を同年一一月一〇日までに四回に分けて完済したこと、右通告にもかかわらず、五〇〇万円完済までの間にこれに対する金利が光食品から江商に支払われた事実は、江商の経理帳簿にいかなる勘定科目をもつても記載されていないこと、以上の実が認められる。これを総合すると、結局右五〇〇万円に対する金利は支払われないままに終つたものと認めることができる。

原審並びに当審における控訴人平山美江本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  当審における控訴人平山美江本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第八号証の一、二及び原審並びに当審における同控訴人本人尋問の結果によると、光食品は、昭和三五年一〇月一〇日訴外申載和から金三八〇万円を、利息月三分、弁済期同年一二月三一日の約で借り受け、右弁済期に約定利息三〇四、〇〇〇円を支払つたことが認められる。してみると、原審並びに当審における控訴人平山美江本人尋問の結果は措信できない部分が多いけれども、そのうち、申載和から借りた右三八〇万円は、本件譲渡資産の買入資金の一部に当てたものであり、利息は、光食品から支払つた後、平山信六から光食品に償還されたとの部分は、一概に排斥できない。

一般に、必要経費の点も含め、課税所得の存在については課税庁に立証責任があると解すべきであるから、被控訴人は、その主張を維持するためには、右認定事実と証拠を覆えし、申載和からの借入れの不存在、または借入れたとしてもその借入れ金が本件譲渡資産の買入資金に当てられていないこと或いは、前記利息を平山信六が支払つていないことを立証しなければならないが、その立証はない。

したがつて、前記利息三〇四、〇〇〇円は、本件譲渡所得の算定に当り、譲渡資産取得費用のうちに算入しなければならない。

(三)  本件譲渡資産の買入代金一、八〇〇万円のうち、右(一)、(二)に認定の合計八八〇万円を除くその余の九二〇万円を、平山信六がどこから調達したかは、明らかでない。当審における控訴人平山美江本人尋問の結果中「購入代金一、八〇〇万円の借入内訳は、住友銀行十三支店、富士銀行十三支店、申載和、平山個人の金、会社の持金、江商でした。」とあるのによれば、銀行からの借入金も含まれているかのようであるが、原審における同控訴人本人尋問の結果中「銀行の利子は、つきません。申載和さんと江商に対する利子が約七一万円ほどついたと思うんです。」とあるのに対比すると、当審における右尋問結果には疑問がある(銀行から無利息で借りられるはずはないから)。また、成立に争いのない乙第一三号証によつても、昭和三六年一〇月五日現在においては、光食品、平山信六ともに、銀行からの多額の借入金債務はないことが認められる。

必要経費の点を含め、課税所得の存在については、課税庁たる被控訴人に立証責任があることは、さきに述べたとおりであるが、必要経費の存在を主張、立証することが納税者にとつて有利かつ容易であることに鑑み、通常の経費についてはともかくとして、控訴人らの主張する利息のような特別の経費については、その不存在について事実上の推定が働くものというべきであり、その存在を主張する納税者は、右推定を破る程度の立証を要するものと解するのが公平である。

本件においては、前記の当審における控訴人平山美江本人尋問の結果程度の、抽象的であいまいな供述によつては、前掲の他の証拠と対比し、右推定を覆えすには足りず、他に右の推定を覆えすに足りる証拠はない。

したがつて、控訴人らの主張する銀行からの借入金の利子はないものといわねばならない。

五、以上の認定によると、本件譲渡資産の取得費用(取得価額)は、土地対価一、八〇〇万円、仲介手数料二五万円、整地費一、六一〇、七〇〇円、登記料一六、二七七円、申載和に対する利子三〇四、〇〇〇円、雑費一〇万円、以上合計二〇、二八〇、九七七円となる。

六、以上認定の事実にもとづいて、平山信六の本件譲渡所得を算出すると、それは、譲渡価額金三、一四〇万円から、取得費用(取得価額)二〇、二八〇、九七七円及び譲渡経費七〇〇、六〇〇円を差引き、更に特別控除額金一五万円を控除し、それに一〇分の五を乗じた金額、すなわち金五、一三四、二一一円となる。

七、そうすると、平山信六の昭和三六年分所得税の総所得金額は、譲渡所得金五、一三四、二一一円不動産所得金六九、〇四〇円、給与所得金四五五、〇〇〇円を加算した金五、六五八、二五一円となり、課税総所得金額は、右総所得金額から、当事者間に争いのない社会保険料控除額金一四、九四〇円及び基礎控除額九万円を控除した金五、五五三、三一一円となる。

八、従つて、被控訴人が昭和四〇年四月一二日付で平山信六に対してした再更正決定のうち、課税総所得金額金五、五五三、三一一円を超える部分は、所得がないのに課税した違法なものとして、取消しを免れない。

九、次に、重加算税について判断する。

本件についての確定申告期限は、昭和三七年三月一五日であるから、加算税については、国税通則法附則第九条により、従前の所得税法(昭和二二年法律第二七号)第五七条が適用されることになるが、前記認定の事実から、平山信六は、所得税額の計算の基礎となるべき事実(譲渡資産の譲渡額及び取得額)を隠ぺい仮装し、それにもとづき確定申告書を提出していたことが明らかである。

平山信六のした確定申告の内容が、原判決添付別表一(A)欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、それにもとづいて算出される要納付税額は、同欄記載のとおり一六六、八九〇円である。また、前記認定の平山信六の課税総所得金額金五、五五三、三一一円を基礎にして税額を算出すると、一、九八六、四八九円となるから、これから源泉徴収税額を引いた金一、九四一、七八九円が要納付税額となる。したがつて、この認定による要納付税額から申告による要納付税額を差引いた差額金一、七七四、八九九円が、隠ぺいされた事実にもとづく所得に対する税額となり、この金額(ただし、一、〇〇〇円未満の端数は切捨て)に一〇〇分の五〇を乗じて得た金八八七、〇〇〇円が重加算税額となる。

よつて、被控訴人が昭和四〇年四月一二日付で平山信六に対してした重加算税賦課決定のうち右金八八七、〇〇〇円を超える部分は、違法なものとして、取消しを免れない。

一〇、以上のとおりであるから、控訴人らの本件訴のうち、被控訴人が平山信六に対し昭和三九年一月二九日付でした昭和三六年分所得税の更正決定及び重加算税賦課決定のうち課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分の取消しを求める訴は不適法であつて、これを却下した原判決は正当であり、この訴についての控訴は理由がないから、これを棄却することとする。

次に、被控訴人が平山信六に対して昭和四〇年四月一二日付でした昭和三六年分所得税の再更正決定及び重加算税賦課決定のうち課税総所得金額金四、〇四九、九八四円を超える部分の取消しを求める請求は、課税総所得金額金五、五五三、三一一円を超える部分及び重加算税額金八八七、〇〇〇円を超える部分の限度で理由があるから、これを認容すべきであり、これと一部結論を異にする原判決は、その限度で取消しを免れず、本件控訴は一部理由があるから、原判決中右請求にかかる部分を変更して、右理由ある部分の請求を認容し、その余の請求は失当であるから、これを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条、第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 入江教夫 裁判官 高橋欣一)

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