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大阪高等裁判所 昭和44年(う)1301号 判決 1975年1月24日

本店の所在地

大阪市東成区大今里本町四丁目五番地

名称

下村諸機株式会社

代表者氏名

下村清之佐

本籍

大阪市東成区南中本町一丁目一六八番地

住居

大阪市東成区大今里西一丁目九番一九号

職業

会社役員

氏名

下村清之佐

年令

明治三七年三月六日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、昭和四四年七月一八日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人両名から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 羽鹿照夫 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人金子新一作成の控訴趣意書、控訴理由補充書、再答弁書および弁護人奥戸新三、同金子光一連名作成の控訴理由の一部撤回並びに一部補足についてと題する書面(弁護人金子新一作成の控訴趣意書第一点は、同第二点とともに事実誤認の理由として主張するにとどめ、理由不備の主張を撤回)に記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

第一、事実誤認の控訴趣意について

所論は要するに、原判決は、被告会社(下村諸機(株))の帳簿上、被告会社が東栄鋼業(株)から仕入れたものと記帳されている鋼材のうち、東栄鋼業(株)の仕入先が優鉄と記帳されている分(昭和三五年度八、九三六、二九五円、昭和三六年度一〇〇、五五〇、九六二円)について架空仕入があるとし、但しそのうち、被告会社が被告人下村個人から東栄鋼業(株)を経由して買い受けた特殊鋼一、四〇〇トン、九、五〇〇万円(その内訳、昭和三五年度、二〇〇トン、一三、五七一、四三〇円、昭和三六年度一、二〇〇トン、八一、四二八、五七〇円)は実仕入と認められるので、前記の金額より右九、五〇〇万円を差し引いた分が実質上の架空仕入額であると認定している。しかしながら、被告会社が東栄鋼業(株)から仕入れた鋼材で同社の仕入先が優鉄と記帳されている分のうちには、被告人下村個人が東栄鋼業(株)に売渡した特殊鋼一、四〇〇トンのほかに、東栄鋼業(株)が他から仕入れた鋼材も含まれており、被告会社の買掛帳には品名、数量、金額のうち総計数量(水まし)の点を除く限り、品名金額に仮装はない。そして、仮りに優鉄なるものが実在しない架空の会社であったとしても、被告会社と東栄鋼業(株)との間に鋼材の売買があり、その受渡しがなされ、代金は約束手形と小切手で完済されているのであるから、その取引を目して架空のものとすることはできない、というのである。

よって案ずるに、原判決挙示の各証拠を総合すると、次の事実を優に認定することができる。すなわち、被告人下村清之佐は、同人の個人所有にかかる特殊鋼材一、四〇〇トンの売却をかねてから東栄鋼業(株)の松原満に依頼していたが、当時鋼材が値下りしていたため売却できなかった。そこで被告人下村は、これらの鋼材を自己の経営する被告会社(下村諸機(株))で使用することとし、昭和三五年からその今宮工場で順次使用していたが、前記松原と相談のうえ、東栄鋼業(株)からこれらの鋼材を仕入れた形式をとり、被告会社の帳簿上は昭和三五年一二月から昭和三七年一月にかけて仕入を計上した(押収してある昭和四四年押第三三八号の二、三の被告会社の買掛帳二冊、下村麻瑳男作成の昭和四三年九月二七日付証明書参照)。しかしながら、右仕入の実体は、売買の形式をとりながら、東栄鋼業(株)においては現物の数量を正確に把握せず、帳簿上の計上に当っては、被告人下村がその都度松原満に依頼して、鋼材の単価を時価に合わせる代りに数量的に水ましした納品書を作成させ被告会社の買掛帳に記帳し、被告人下村個人から東栄鋼業(株)への売上伝票は作成せず、東栄鋼業(株)においてその鋼材を優鉄から仕入れたごとく仮装してその仕入帳に記帳し(同号の五、六の東栄鋼業(株)の仕入帳二冊、同号の七、八の同会社の売上帳二冊、同号の二、三の被告会社の買掛帳二冊を比較対照)、仕入代金の支払については、被告会社より約束手形あるいは小切手を東栄鋼業(株)宛に振出し、前記松原は、約束手形の支払期日到来後その手形を落し、東栄鋼業(株)がとる手数料を差し引いた現金を被告人下村の許に届けていたものであり、東栄鋼業(株)の仕入先が優鉄と記帳されている分についての被告会社の買掛帳(同号の二、三)に記帳された鋼材仕入は、明らかに真実とかけ離れたものであって架空仕入であると言わなければならない。所論は、被告会社の買掛帳の記帳には、品名、数量、金額のうち総計数量(水まし)の点を除く限り、品名、金額に仮装はない、というのであるが、被告会社の買掛帳の記載が数量を除き金額その他の点では正しいとするならば、昭和三五年度は、特殊鋼二〇〇トンを八、九三六、二九五円、昭和三六年度は特殊鋼一、二〇〇トンを一〇〇、五五〇、九六二円でそれぞれ仕入れたことになり、この場合には特殊鋼の平均単価は、昭和三五年度四四、六八一円、昭和三六年度八三、七九二円となり、両年度の価格の差が余りにもひらきすぎるし、また、昭和三六年度については被告人下村さえ主張していないような高単価となるのみならず、本件全証拠に照らしても、当時における鋼材の対価としてそのような価格を認定すべき合理的な理由は何ら見当らない。そして、帳簿上特殊鋼としての記載がなされていないばかりでなく、被告会社の右買掛帳(同号の二、三)による仕入量と下村麻瑳男作成の昭和四三年九月二七日付証明書により認められる被告会社の右鋼材の使用量とを月別に対比すれば、被告会社は、本件特殊鋼を昭和三五年の当初から使用していたにもかかわらず、その仕入は昭和三五年一二月に至ってはじめてなされたことになり、昭和三六年度についても同様の矛盾が現われる。従って、被告会社の買掛帳の記帳は、全面的に事実とかけ離れた虚偽のものと言わざるを得ない。次に、所論は、東栄鋼業(株)の仕入先が優鉄と記帳されている分のうちには、被告人下村個人が同会社に売渡した特殊鋼一、四〇〇トンのほかに、東栄鋼業(株)が他から仕入れた鋼材も含まれている、というのである。なるほど、差戻前第一審第四回公判調書中(原判決の証拠の標目に差戻前第三回とあるのは、第四回の誤記と認める)の証人松原満の供述記載によると、優鉄からの仕入の中に二ケース、約九〇〇万円ぐらい東栄鋼業(株)の在庫を被告会社に実際に販売した分が混入している旨供述している部分がある。しかし、同証人は、同公判廷において検察官から関係帳簿を示されながら、具体的に何月何日のどの取引がそれに該当するのか答えることができず、この件に関する東栄鋼業(株)と被告会社との代金清算についての証言も曖昧であって、前記供述部分は到底信用することができない。更に、所論は、仮りに優鉄なるものが実在しない架空の会社であったとしても、被告会社と東栄鋼業(株)との間に鋼材の売買があり、その受渡しがなされ、代金は約束手形と小切手で完済されているのであるから、その取引を目して架空のものとすることはできない、というのである。被告会社は、その買掛帳に記帳した仕入代金合計一〇九、四八七、二五七円に相当する約束手形、あるいは小切手を東栄鋼業(株)宛に振出した事実を認め得るが、これは、前に認定したとおり、前記松原が右約束手形、小切手を期日に換金のうえ、手数料を差し引き現金を被告人下村の許に届け、東栄鋼業(株)に手数料を支払うことにより両会社の帳簿を整えるための手段にすぎず、被告会社の買掛帳の記載自体が全面的に事実とかけ離れ真実を反映したものでない以上、代金の支払だけが真実となるいわれはない。

以上のとおり、被告会社の帳簿上、被告会社が東栄鋼業(株)から仕入れたものと記帳されている鋼材のうち、東栄鋼業(株)の仕入先が優鉄と記帳されている分、すなわち

昭和三五年度 二〇四・二五〇トン 八、九三六、二九五円

昭和三六年度 二、四二五・〇三四トン 一〇〇、五五〇、九六二円

合計 二、六二九・二八四トン 一〇九、四八七、二五七円

の記帳部分は全く虚偽であり、これを架空仕入と認定した原判決の判断には誤りがない。

ところで、前記各証拠、殊に差戻後第九回公判調書中、被告人下村の供述記載によれば、被告会社の帳簿外に、実際には、被告会社は東栄鋼業(株)を経由して被告人下村個人所有の特殊鋼一、四〇〇トン(昭和三五年度二〇〇トン、昭和三六年度一、二〇〇トン)を買い入れ、その対価として合計九、五〇〇万円を支払ったこと、および、右鋼材一、四〇〇トンは、昭和三五年度に二〇〇トン、昭和三六年度に一、二〇〇トン使用し残品がないことを認めることができる。従って、被告会社が右特殊鋼の仕入に関し東栄鋼業(株)から仕入れたと記帳した合計一〇九、四八七、二五七円と実際の仕入代金九、五〇〇万円との差額一四、四八七、二五七円が両年度にわたる架空仕入の金額となる。但し、これを年度別に見れば、

昭和三五年度の被告会社の買掛帳には、八、九三六、二九五円が仕入として計上されているので、実際仕入金額の数量均分額一三、五七一、四三〇円との差額四、六三五、一三五円が簿外仕入として犯則預金として控除され、他方

昭和三六年度は右帳簿計上額一〇〇、五五〇、九六二円と実際仕入金額の数量均分額八一、四二八、五七〇円との差額一九、一二二、三九二円が架空仕入として犯則益金となる。

原判決が別口損益計算書において、昭和三五年度の損失として鋼材仕入一三、五七一、四三〇円、利益として架空鋼材仕入八、九三六、二九五円、昭和三六年度の損失として鋼材仕入八一、四二八、五七〇円、利益として架空鋼材仕入一〇〇、五五〇、九六二円を計上したのは相当である。

そして、前記の各証拠を総合すると、被告人は前述のとおり被告会社の公表経理上材料の架空仕入を計上したほか、原判示のとおり材料の期末たな卸高を過少に見積る不正経理を行って、

第一、昭和三五年度(昭和三五年二月一日から昭和三六年一月三一日までの事業年度)における被告会社の所得金額が二一、三一八、二一六円であり、これに対する法人税額が八、〇〇〇、九一〇円であったのにかかわらず、右所得金額中一七、一三九、九四五円を秘匿し、昭和三六年三月三一日所轄東成税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四、一七八、二七一円、これに対する法人税額が一、四八七、七一〇円である旨過少に記載した法人税確定申告書を提出し、右秘匿所得に対する法人税額六、五一三、二〇〇円を免れ、

第二、昭和三六年度(昭和三六年二月一日から昭和三七年一月三一日までの事業年度)における被告会社の所得金額が五〇、四二〇、六七六円であり、これに対する法人税額が一九、〇五九、八二〇円であったのにかかわらず、右所得金額中三五、〇二三、一八六円を秘匿し、昭和三七年三月三一日前記税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一五、三九七、四九〇円、これに対する法人税額が五、七五一、〇一〇円である旨過少に記載した法人税確定申告書を提出し、右秘匿所得に対する法人税一三、三〇八、八一〇円を免れた事実を認定できる。

(別紙、税額計算書参照)

原判決は、前記各年度の所得金額を適正に認定しながら、これに対する法人税額算出に際し、国税通則法(昭和三七年四月二日法律六六号)による改正前の国等の債権債務等の金額の端数計算に関する法律五条一項、六条、同法施行令二条、三条一項により端数計算をすべきであるのに右各法条を適用しなかったために、昭和三五年度において、法人税額を八、〇〇〇、九二二円と認定し、その結果逋脱税額を一二円多額に認定し、また昭和三六年度において、法人税額を一九、〇五九、八五六円と認定し、その結果逋脱税額を三六円多額に認定した。この点において原判決には事実の誤認があると言わねばならないが、右の誤認はいずれも判決に影響を及ぼすものとは認められない。結局論旨は理由がない。

第二、量刑不当の控訴趣意について

所論は要するに、原判決が被告会社を、原判示第一の事実につき罰金一六〇万円に、原判示第二の事実につき罰金三三〇万円に処した刑の量定は重きに失し不当であるというのであるが、所論にかんがみ記録並びに証拠物を精査し、当審における事実調の結果をも参酌して検討するに、被告会社の代表取締役である被告人下村は、東栄鋼業(株)の松原満に働きかけ、両年度にわたり合計一〇九、四八七、二五七円に上る鋼材の取引がなされたごとく両社の帳簿に記帳させ、これが発覚を防ぐため被告会社において仕入高に相当する約束手形や小切手を東栄鋼業(株)宛に振出し、前記松原をして約束手形は期日が来てから手数料を差し引いた現金を被告人下村の許へ届けさせるなど、極めて巧妙悪質な手段を用いて被告会社の所得金額を秘匿したものであり、期末たな卸高の過少見積りを加えて、両年度における被告会社の逋脱税額は判示のとおり相当の高額である。右犯行の態様特にその手段の巧妙悪質なることおよび結果の重大性を考えると、所論のごとき事情を斟酌しても原判決の量刑が重過ぎるものとは認められない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 戸田勝 裁判官 萩原壽雄 裁判官 梨岡輝彦)

別紙

税額計算書

<省略>

控訴趣意書

被告人 一、下村諸機株式会社

代表者 下村清之佐

二、下村清之佐

昭和四四年(う)第一三〇一号

右の者に対する法人税違反被告事件について控訴理由として左の通り陳述いたします。

昭和四四年一二月一五日

右弁護人 金子新一

大阪高等裁判所

第六刑事部御中

第一点 原判決には理由不備の違法がある。

一、 法人税逋脱の罪となるべき事実を構成する所得金額を確定するに当つては、その前提として当該事業年度の総益金及び総損金の内容をなす個々の益金、即ち総資産の増加又は減少の原因となるべき各箇の具体的事実を証拠により認定する必要がある(東京高裁昭和三九(う)第一二三一号同四一年三月一六日判決)と高裁判例が示している。

二、 ここに原判決理由中(罪となるべき事実)から(証拠の標目)ついで(証拠説明)にすすみ、その第一項、即ち「両年度の簿外鋼材仕入とある全文七行の文字全文を引用する。それによると被告会社が一、四〇〇トンの鋼材を総額九、五〇〇万円で買取りその代金を支払つた事実を認めることができるけれども、右取引の都度の数量単価が明らかでないため、各年度の取引数量に応じて右対価の額を均分して各年度の簿外鋼材仕入高を認定したというに止まる。されば均分した金額が何程に算定したかの認定は何処にもないのである。事業年度が弐事業年度に亘る故に算定し得べき関係にては定らず根源が弐事業主間の私法上の取引即ち売買であるから具体的に年度毎に何程なりと確定してこそ自然である。債権債務が0となつたのか、若しくは何れかの側に負債が残存したものか、被告人会社とその代表者を処罰する本件にあつては判決理由の何処かに於て限定せられていなければならない筋合のものである。

三、 本件に於て検察官は起訴に当りては「公表経理上、材料の架空仕入を計上し」とはうたつているが、簿外鋼材仕入とは言及していないのである。それでもなおかつ起訴状の罰となるべき事実が円単位の金額で免脱法人税額を表示しているのであるから「材料棚卸高の過少評価金額と合算する必要からしても、個々の取引内容は明確にせられなければならない。原判決の理由末尾には、別口損益計算書なる添付書類は実在するが、東京高裁判決が示す昭和三五、三六年度の各総益金及び総損金の内容をなす個々の益金又は、損金については、原判決そのものが自ら自認する如く明らかになし得なかつたものである。この限度に於て原判決には理由不備の違法がある。

第二点 原判決には事実の誤認がある。

一、 原判決理由中の弐枚目第二項には「両年度の架空鋼材仕入」なる一項がある。その項目の証拠説明により、被告会社が東栄鋼業から仕入れたものとして記帳されている鋼材のうち東栄鋼業の仕入先が株式会社優鉄と記帳された分の特殊鋼材一、四〇〇トンの仕入を簿外と認定したことに応じて、架空仕入れと認定した」との判示がなされていることは明らかである。

二、 判示文言自体によつて被告会社の帳簿そのものに東栄鋼業から仕入れたものなりとの記帳のあることは動かせない。自ら記帳せられたといいつつ簿外即ち被告会社の公表帳簿外の仕入れと断定してはならないのは当然である。次に本件は東栄鋼業株式会社の法人税法違反事件ではないのである、されば株式会社優鉄と東栄鋼業との売買取引内容の実体を確認しないとも、被告会社と東栄鋼業との取引とを目し架空仕入れと断定するのは簿外の認定と併せ明白な誤認である。本来弐以上の経済主体間に契約が存在し、特殊鋼という名の商品の移動があり」代金が小切手と約束手形で決済せられている事実を目し(差戻後の第十回公判手続調書参照)簿外とか架空取引と断ずることは出来ない筈のものである。然るに敢て簿外と認定したことに応じて架空仕入れと認定した限度に於て原判決には重大なる事実の誤認がある。

第三点 刑の量定の不当について

一、 本件について(1)起訴状に始まり差戻前の(2)一審判決と(3)差戻後の原判決に至るまで三度罪となるべき事実の判示がなされた。三回共之に対応する所得金額、法人税額、秘匿金額、免脱法人税額等に加え言渡罰金額を対照表と題し作成すると末尾の第一表通りである。

二、 次ぎに視点を異にし、脱漏所得金と税額とを基本に判決せられた罰金の額とを勘案し両者の比率計算をなして見ると別紙二表の通りである。して見ると刑罰としての賦課率正しくは科刑率は、所得割で約一割弱で不変、税額割を例にとると弐割五分から弐割四分台にあり差戻前の判決の量定より、原判決の量定が僅かに軽くなつていると見る事が出来る。結論として脱漏所得とその税額に対し一定の量刑基準があり、それに従つた判決がなされたものと考えられる。

三、 一般事件殊に自由刑に対する事件に対しては、長期化した裁判事件に対し特別の量刑判決の言渡のあることは事実が之を証明している。それは慣例的とも受けとれる。

四、 本件は売上除外の脱税事件ではない。起訴から判決に至るまで架空という問題部分を除き本質が棚卸資産の過少評価問題の事件であつた。之に対し原審公判手続は昭和四三年一月三〇日の第一回公判から昭和四四年七月一八日の第十七回の公判に至るまで、数多くの出廷を余義なくせしめられた。被告会社代表者はその間経済活動停止の浮目にあつた事は当然であつたとしてもその間の心労は絶大のものがあつたのである。本件が起訴に至るまでの関係人それも会社従業員に加え取引先までも加え多大の日数を取調係官に提供し続けたのである。差戻前の第一審裁判活動の日数についても亦差戻の日数におとらぬものがあつたのである。差戻後の公判過程に於て調書にこそ出てはいないが口の内でどうなと判決してほしいと放言した事実は一切ならずあつたのである。それをあくまで控訴を維持したそのわけは、重加算税の額が多大であること、架空という名の下に、会社財産を代表者個人が利用しているとの税務当局の現実の別の課税の追打ちが毎年度ある事に起因している。被告会社と代表者にとつては、起訴前の調査期間と差戻前の第一審裁判期間を加味すると昭和三十五年と六年の事件としてはあまりも九年間に亘る長期にすぎたものである。精神的苦痛に加え物質面の損失もあまりにも多大であつた。

五、 然るに原判決が別紙第二表が示す如く一般脱税事件の新件なみの量刑基準の量刑言渡をなしたのは不当といわざるを得ない。然も差戻前の脱漏所得の金額が別表第二表に示す如く合計九百弐拾五万九千六百六拾壱円減少した事実があるに拘らずその状情酌量の事実が主文に示されていないのは正しくなく且甚しく不当である。

第一表

罰となるべき事実の起訴と判決との対照表

<省略>

以上

第二表

(下村諸機株式会社の明細表)

<省略>

以上

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