大阪高等裁判所 昭和44年(う)376号 判決
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〔判決理由〕控訴趣意第一点について。
論旨は原判示第一の窃盗の事実中、(1)窃盗犯罪事実一覧表の番号29の被害品約束手形八通のうち四通、(2)同40の被害品現金一三万円のうち三万円、(3)同54の被害品のうち財布、(4)同62被害品現金八万二〇〇〇円のうち六万七、〇〇〇円については、いずれも被告人の全く知らぬところであるから原判決はこれらの点において事実の誤認があるというのである。
よつて按ずるに、刑事訴訟法三八二条により原判決の事実誤認を主張するには、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを控訴趣意書に援用しなければならない、すなわち訴訟記録および原裁判所において取り調べた証拠に現われていない事実にもとづいて原判決の事実誤認を主張することは許されないのである。
ところで所論によると、原判決第一の窃盗事実中犯罪事実一覧表の番号29の事実を除いては控訴趣意書にそのような具体的事実の援用はなく、(もつとも同一覧表番号54の事実については被告人の司法警察員に対する昭和四三年七月一九日付供述調書を援用しており、同供述調書によると所論財布を現場に捨てた旨供述していることが認められるけれども、それはただ窃取後の贓物の処分についての供述であつて、窃取行為自体を否定するものとは考えられないからこの事実を以て右具体的事実の援用とは認められない。)また、記録を精査しても被告人は右の29の事実について後記のとおり捜査官に対し所論の供述をしているほかはすべてこれを認めており、原審公判廷においても右29の事実をも含めた全公訴事実を認め、弁護人もこれに反する主張を全くしておらず当審に至つてはじめて主張するに至つたものであることが明らかである。
ところで、原審において右の主張をしなかつた理由について、被告人は当時身体が衰弱していたため公訴事実について争う気力もなかつたからであるというのであるが、たとい身体が衰弱していたとしても所論のような主張は自らあるいは弁護人において十分なし得た筈であり、記録上もこれを妨げる事情があつたとは認められない。そうだとすると、所論のような主張は29の事実を除いては訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われない事実を援用するものであつて適法な控訴理由とはならないものといわざるを得ない。
もつとも刑事訴訟法三八二条の二第一項によると「やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実」であつて、控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても控訴趣意書に援用することが許されているけれども、被告人が主張するような事由は右法条にいう「やむを得ない事由」には該当するものとはいえないから、所論のような主張はもはや控訴審において主張立証できないものというべきである。(西尾貢一 瓦谷末雄・鈴木盛一郎)