大判例

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大阪高等裁判所 昭和44年(う)400号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕本件事故現場は、南北線の西堀川通および東堀川通(その中間を川幅約9.35米の堀川が流れている)と東西線の御池通とが交差する非常に広い交差点で信号機によつて交通整理が行なわれていること、事故はそのうち西堀川通と御池通とが交差する部分において発生したものであつて、その部分だけでも東西の幅は、交差点西詰横断歩道の西端から右堀川にかかつている橋上道路の西端までで四〇米以上もあること、被告人は、昭和四〇年一二月九日午前八時四〇分ごろ軽四輪貨物自動車を運転し、西堀川通を南進し前記交差点北詰にさしかかり、南北止まれの赤の信号に従つて同所横断歩道手前で進行方向前から二列目、左側からも二列目の位置に停車した後、南北進めの青信号に従つて先行車に続いてその四、五米後方を漸次時速約一五粁まで加速して約一〇米進行した際、交差点の西側から被告人の右斜め前方を東進してくる被害者福山正六(当四二年)運転の第一種原動機付自転車右斜前方約二五米の地点に発見し、急停車の措置をとつたが及ばず、右原動機付自転車左側と自車右前部とが衝突し、このため右福山正六が路上に転倒し、加療見込約一ケ年要をする頭部外傷型、左側頭骨骨折等の傷害を負うたものであることが認められる。<中略>

被告人は原審公判廷において、右側にははつきりとは覚えていないが、三列くらいの車が停車していたと供述し、さらに差戻前第二審公判廷において、右側は五、六縦隊になつて車が止まつていたと供述し(ただし被告人が同公判廷において供述の一部として図示したのを見ると右側の車は四列となつている)、当審現場においては右側に四、五台くらい車が止まつていたと指示説明している。かように右側に停つていた車の台数そのものについては、被告人の供述はときとところにより一致しないきらいがあるが、右の如き左右の停止車両の状況などは、通常は信号待ちの僅かの時間に、しかも特別の関心をもたずに視界に入つてきた事象に過ぎず、これをその台数まで正確に記憶することは困難なことであり、この点の供述がやや一貫性を欠くとしても、直ちに虚偽の供述であるときめつけるべきでなく、むしろ被告人の右側に、正確な台数は判らないが、大体三列以上の縦隊になつて車両が信号待ちしていたとの趣旨においては終始一貫して供述していると理解すべきである。しかも原審における証人南部津(本件捜査にあたつた警察官)の証言、弁護人から同審に提出された写真八枚(いずれも中田久子撮影)および調査表(同人作成)並びに当審における検証調書によれば、本件事故発生時刻は同交差点における最も交通の輻輳した時間帯にあたり、その頃同交差点において信号待ちする南行車両の列が横に五、六列前後に六、七台に及ぶことはむしろ通常の状況であると認められ、その場合被告人が左から二列目に停止していたとすれば、右側には三、四列の車両があつたことになるから、被告人の前記弁解は右実情に合致し、かなりの信憑性があるものといわねばならない。ただ、右弁解は、原審での検証において被告人が衝突直前には右側には車がなかつたと指示説明していることと対比し、矛盾しているのではないか、或いは被告人の車の右側に何列もの車があり、これらが青の信号で一せいに発進したとすれば、被害者の車が被告人の右側の車の列に衝突せずに、すり抜けてきて被告人の車に衝突するということはありえないのではないかなどと疑問をもたれる余地があるけれども、これとても右方から来た被害者の車は単車であるから、早くこれを発見できた南進の右側の車から順次速度を調節し、これによつてできた先行車と後続車の僅かの間隙を被害者の車が縫うようにして被告人の車に接近してきたのではないかということも考えられないことではないし(後記の如く被害者の車の動向を明らかにすべき証拠のない本件においては、右の如き可能性を否定することはできないと思われる)、また衝突直前被告人の右側に車がなかつたとの指示説明の点も、右検証調書には右指示説明とともに、信号待ちの際、右側にも他の車が停止していたこと、或いは被害者の車を発見するまでは、他の車かげになつてこれが見えなかつた旨の被告人の説明も記載されており、これらを統一的に理解すれば、斜右約2.5米に被害者の車を発見した当時、被告人の右側真横には他の車はなかつたというくらいに解すべきではなかろうか。いずれにしても、被告人の右側には三列以上の縦隊になつて車両が信号待ちしていて、青の信号によりこれらが一せいに発進した旨の前記弁解をくつがえすに足りるものではないと考えられる。

およそ交差点手前で赤の信号で停止している自動車の前方に一台、右側に三列以上の車両がともに信号待ちしていて、これらが青の信号によつて一せいに発進した場合、前記自動車の運転者にとつて、先行車および右側の車両の列が視界を妨げ、右方への見とおしが全く不可能となる場合のあり得ることは否定できないことであり、被告人の車が運転席の低い軽四輪貨物自動車であればそのことはなお一層顕著であると思われる。従つて右状況で、なお右方の見とおしが可能であるかどうかを判断するためには、上告審判決の指摘する如く、さらに詳しく被告人の右側の他車の位置関係、台数、車の大きさにつき審理すべきであるとともに、被害者の車の事故前の動向を詳らかにしなければならないのであるが、被害者は本件被害により当時の記憶を全く喪失し証言不可能であるし、他に被告人が右斜前方2.5米の地点において、被害者の車を発見するまでの同車の進行状況(殊に被告人が被害者の車を発見した際、被害者の対面信号は既に赤を示していたと考えられるから、同人に信号無視がなかつたかどうかの点をも含めて)を明らかにする資料は発見できず、他方、被告人の右側並行車両の関係についても、被告人の右弁解以上に具体的なことは判明しないのである。そうすると本件においては、右方安全確認義務認定の前提として、先行車および右側並行車両の存在にかかわらず右方の見とおしが可能であつたことについて、或いは所論信頼の原則の適用を妨ぐべき事情の存在について、これらを肯認するに足りる証拠がないといわねばならない。従つて前示の如く、被告人が右方安全確認義務を怠つたとして本件に業務上過失傷害罪の成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認があるというべである。(三木良雄 西川潔 金山丈一)

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