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大阪高等裁判所 昭和44年(く)39号 決定 1969年5月26日

少年 C・D(昭二八・一二・一一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由の要旨は、少年は非行時ならびに原決定時ともに一五歳であるから、原決定が少年を中等少年院に送致したことは少年院法二条三項に違背し、決定に影響を及ぼすべき法令の違反があり、また本件ぐ犯の内容が軽微であること、保護者らに指導監督の熱意があることおよび少年自身も現在においては改悛の情を示していることからみて原決定がした少年に対する収容保護の処分は著しく不当であるというにある。

案ずるに、少年院法二条二項は「初等少年院は、心身に著しい故障のない、十四歳以上おおむね十六歳未満の者を収容する。」と、同法条三項は「中等少年院は、心身に著しい故障のない、おおむね十六歳以上二十歳未満の者を収容する。」と各規定し、対象少年の特質の相異あるいは少年院の特色を考慮して、年齢による画一的処理の結果発生する不当性を是正しようとしているのであるから、年齢が十五歳である少年を中等少年院に送致した原決定のした処分をもつて直ちに前記法条二項三項に違反し、決定に影響を及ぼすべき法令の違反があるということはできない。

そこで本件少年に対する保護事件の記録全般を精査するに、少年は一一歳一〇か月で窃盗(すり)を行なつて以後一四歳未満時には同種の窃盗(すり、万引)をしばしばくり返したため五回にわたつて児童福祉法による保護措置を、一四歳に達した以後は窃盗(すり、万引)、臓物寄蔵、ぐ犯の非行があつたため家庭裁判所による試験観察の結果、保護観察処分をそれぞれうけていたものであるが、なおも一〇余名の非行性の強い少年との交遊を続け、保護者らの指導監督に服しないで、喫茶店等に外泊して盛り場を徘徊し、性病にまで感染しているところ、昭和四四年三月○○日大阪市内の喫茶店で知つた冬○某から現金約二〇、〇〇〇円を受け取り、中学校の同級生であつた石○こと金○春らと家出して大阪市内の深夜喫茶店、深夜映画劇場、右冬○某方等で寝泊りし、遂には同月二八日東京に行き、同都内の深夜映画劇場で寝たり、熱海市内の旅館で泊つたりした後、横浜市内を徘徊していた事実が認められるとともに、前記不良交友グループ内のいわゆるリーダー格であり、その性格においては嘘言癖をもち、自己本位的で自主的な統制力が弱く、忍耐心に欠け、情緒的には未熟であり、他方、その家庭環境をみるに、保護者らの間に融和性を欠き、少年に対する指導監督面にある程度の努力がなされてきたものの感情的であつて一貫性を欠いており、加えるに、少年は昭和四四年三月一一日大阪家庭裁判所において窃盗、臓物寄蔵の非行により保護観察に付されたばかりであることを思えば、少年は将来において罪を犯す虞があるとともに、もはやこれまでのような在宅保護をもつてこれを矯正することができない状態にたち至つたものといわなければならず、少年の知能程度が普通域にあることおよび少年が前記のような非行をはじめるに至つた契機のひとつとして同人の就学・転校の時の不手際もあげられないではないことその他所論の縷々あげる諸点を考慮しても、少年に対し収容保護の処分をすることもやむをえないところである。本件少年における前記のような非行の早発性・反覆性、不良交友ダループ内の地位の高い点、知能程度は普通域にあるものの自己本位的である点からみて、同人の年齢が十五歳であつても、同人における前記のような情緒的未熟さを矯正するならば犯罪的傾向も是正されるであろうと思われるのであるから、短期収容保護を内容とする中等少年院の存する以上、原決定が少年を中等少年院に送致する旨の決定をしたことは、前記少年院法二条二項三項に違背するとはいえず、違法でないことはいうまでもなく、著しく不当であるとは認められない。

結局、論旨はいずれも理由がない。

よつて少年審判規則五〇条、少年法三三条一項により、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 杉田亮造 裁判官 吉川寛吾 裁判官 村上保之助)

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