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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)1121号 判決 1970年5月28日

被控訴人 阪神相互銀行

理由

一、控訴人主張の本件定期預金契約が、控訴人と被控訴人との間に成立したかどうかについて、以下順次判断する。

(1)  《証拠》によれば、真の預金者が誰であるかの点を除き、昭和四〇年四月二二日被控訴銀行(当時の名称、七福相互銀行)伊丹支店に対し預金者広田文男名義で期間一年、利率年五分五厘の約定による五〇万円の定期預金がなされ、預金同日銀行がその旨記載した預金証書を発行したことが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

(2)  そこで、右預金の真の預金債権者が控訴人であるかどうかについて検討するに、《証拠》を総合すれば、被控訴銀行の当時の伊丹支店長織田秀雄は訴外前川隆一から広田文男を紹介され、かつ同人に対する融資の依頼をうけたが、預金をしてもらえば貸金する旨述べたこと、そこで広田文男は訴外大久保芳郎に定期預金するための五〇万円の工面を依頼し、同人は取引先の訴外山岡遑に相談し同人からさらに控訴人に広田文男名義で五〇万円の定期預金をしてほしい旨依頼した結果、控訴人がこれを承諾して五〇万円を右山岡に交付し、昭和四〇年四月二二日広田文男の妻である広田ヨネが山岡とともに被控訴銀行の当時の伊丹支店に行き、前示認定のような五〇万円の本件定期預金をしたこと、右預金に際して広田ヨネは右金員の出所関係については被控訴銀行になんら述べず、また山岡も同様であつたので、被控訴銀行としては右預金者が広田文男であると信じたこと、そこで被控訴銀行は同年五月一〇日広田ヨネおよび前川隆一の連帯保証のもとに広田文男に対しアパート建設資金として一五〇〇万円を貸し付けたこと、もつとも右五〇万円の預金は貸付金の担保には供されなかつたこと、その後昭和四二年二月ごろ控訴人と山岡が本件定期預金証書を被控訴銀行伊丹支店に呈示して本件定期預金の支払を求めたが、同銀行は右定期預金が広田文男に対する貸付金債権の見合いとなつていることを理由として、控訴人に対する支払を拒絶したことの各事実が認められる。

(3)  もつとも、原審および当審証人大久保芳郎の証言中には、一方において控訴人の主張にそう部分があるけれども、この部分は他方、同証人は本件定期預金契約の際立会せず、また「私は銀行と交渉したことはありません」ので、「右定期預金が銀行との関係ではどういうことになつているのか判りません」旨証言している事実および前示認定事実を合わせ考えると、たやすく採りがたい。また、原審および当審における控訴本人の供述中には控訴人の主張にそう部分があるけれども、この部分は前示認定事実と対比して考えると容易に認めがたいだけでなく、控訴人は右定期預金契約に立会していないし、本件の全証拠によるも右契約の際、関与者が被控訴銀行に対し控訴人の使者ないし代理人として行為したことまでも認めることができない。そして、そのほかに被控訴銀行との間になされた本件定期預金契約の当事者が控訴人であることを認めるに足る証拠はない。

(4)  以上の事実によれば、広田文男は第三者を介して控訴人により支出をうけた五〇万円をもつて、妻広田ヨネを使者として、仮にそうでないとしても代理人として、被控訴銀行との間に広田文男を預金者とする本件定期預金契約をしたものというべきである。したがつて、本件定期預金の真の預金債権者は広田文男であるから、控訴人がその預金債権者であること、およびことを前提とする擬制承諾の主張は、失当である。

二、ところで控訴人は、控訴人を真の預金債権者として遇すべき商慣習がある旨主張するけれども、控訴人の立証はもちろん本件の全証拠によるも右商慣習を認めがたい。また、控訴人は本件定期預金債権の承継を主張するけれども、控訴人の立証だけではこれを認めがたく、そのほかにこれを認めるに足る証拠はない。したがつて、控訴人の右主張は、いずれも失当であつて採用することができない。

三、よつて、控訴人が被控訴銀行に対し本件定期預金ならびにこれに対する利息および利息相当損害金の支払を求める本訴請求は、すべて失当であり、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴はい理由がなから棄却

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