大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)1713号 判決 1970年1月21日
理由
一、被控訴人が、その主張の頃、控訴人から本件(一)ないし(三)の各手形を、控訴人主張の金額で割引き、拒絶証書作成義務の免除を得て裏書取得し、これを所持していること、しかし、本訴提起当時には、既に本件各手形の振出人兼裏書人である控訴人の各手形上の債務は、各手形の満期から満一年の経過により、また引受人に対する本件各手形上の請求権も各手形の満期から満三年の経過により、いずれも時効によつて消滅していたことは、当事者間に争いがない。
二、そこで、控訴人の利得の有無について検討するに、《証拠》を総合すれば、控訴会社は、以前から訴外株式会社テルミーセールス、同株式会社テルミー名古屋セールス等と商取引があつたが、本件(一)、(三)の手形は、昭和三九年二月二五日に控訴人が振出し、同月二九日テルミーセールスが同社の控訴人に対する買掛商品代金支払のためこれを引受けまた本件(二)の手形は、同月二五日に控訴人が振出し、同年三月二日テルミー名古屋セールスが同社の控訴人に対する買掛商品代金支払のためにこれを引受けたものであることを認めることができる。
被控訴人は、本件各手形は、テルミーセールス、テルミー名古屋セールスの控訴人に対する融通手形である旨主張し、《証拠》中には、右主張に副うような供述部分もあるが、これは前掲の各証拠に比照してたやすく信用することができないし、他に右認定を覆えし、被控訴人の右主張事実を肯認するに足る確証もない。
そして、右認定のように、本件各手形が、テルミーセールス及びテルミー名古屋セールスの控訴人に対する買掛商品代金支払のための引受手形であつてみれば、前記のように、控訴人が、被控訴人から控訴人主張の金額で本件各手形の割引を受け、その後時効によつて、振出人兼裏書人としての遡求義務を免れた場合は、控訴人は、被控訴人から得た割引対価を確保するに至るとともに、他方引受人たるテルミーセールス及びテルミー名古屋セールスに対する自己の本件各手形金相当額の売掛代金債権も消滅するに至るから、本件各手形の引受人であるテルミーセールス及びテルミー名古屋セールスが、本件各手形金相当額を利得することはあつても、控訴人には何らの利得もないというべきである。
三、そうすると、控訴人に対し、本件手形債権の時効消滅を理由に、利得償還を求める被控訴人の本訴請求は失当であり、これを認容した原判決は不当といわなければならない。
よつて、原判決は民事訴訟法第三八六条によつてこれを取消し、被控訴人の本訴請求並びに本件附帯控訴は、いずれも棄却する。