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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)444号 判決 1970年2月25日

控訴人(原告) 赤松春男こと 角住冨夫

右訴訟代理人弁護士 木村順一

被控訴人(被告) 昭和温調工業株式会社

右代表者代表取締役 福田瑞穂

右訴訟代理人弁護士 中島三郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の申立

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金一七七万円およびうち金六七万円に対する昭和四二年一月三一日から、うち金一一〇万円に対する同年五月二一日からそれぞれ完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、被控訴代理人において、原判決事実摘示の請求原因の事実は認める。同7の事実中控訴人が原判決別紙手形目録記載の約束手形各一通(以下単に本件一ないし四の手形という。)を所持していることは認めるが、控訴人が手形金額相当の損害を被ったとの事実は争う。同7の一の事実は認める、と述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

三  当事者の証拠関係≪省略≫

理由

一  約束手形金請求について

控訴人が本件一ないし四の約束手形を所持していることは当事者間に争がない。しかし、本件各手形が被控訴人の振出によるものであるとの事実は、これを認めるに足りる証拠はなく、本件各手形は後記認定のように、被控訴会社大阪支店の従業員であった訴外宮田三郎らが偽造したものである。

したがって、被控訴人が本件手形を振出したことを前提とする本訴手形金請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  損害賠償請求(予備的請求)について

訴外宮田三郎が被控訴人の被用者であること、控訴人が本件各手形を取得したことは当事者間に争なく、≪証拠省略≫によると、同人は日下章とら共謀して、被控訴会社大阪支店に勤務していた昭和四一年九月一九日および昭和四二年一月一〇日頃、同支店長印等を無断で押捺して本件各手形を偽造したこと(本件各手形が宮田三郎の偽造によるものであることは予備的請求原因の関係では当事者間に争がない。)が認められる。

そこで、被控訴会社の損害賠償責任の有無について考えるのに、≪証拠省略≫によると、(1)被控訴会社は、ビルの冷暖房の設計工事施行等を営業目的とし、大阪支店にあっては、支店長の下に技術課と業務課があって、業務課には工事請負の入札、見積、契約等営業を担当する者四名と、請求、支払等経理を担当する者二名がいるにすぎず、技術課の一〇名等を含めても約二〇名が勤務する小規模の支店であること。(2)被控訴会社大阪支店長は、主として下請業者に対する小口の支払のため、本社の指示により小切手を振出す権限を与えられているが、手形振出の権限はなく、手形は支店の請求により本社において被控訴会社代表取締役名義で振出され、それが支店に送付されてくることになっており、したがって、大阪支店には手形用紙の準備もなく、これまで一通も手形を振出した事実がないこと。(3)本件手形に押捺されている被控訴会社大阪支店長の記名ゴム印、同支店の角印および同支店長の丸印は、いずれも大阪支店備付の印章で、常に印箱に入れ、夜間は金庫にしまっており、右支店長の丸印は、入札、契約等に使用するいわゆる営業用印あるいは業務用印であるが、小切手を振出すとき使用するいわゆる銀行用印あるいは会計用印と呼ばれる印章は別にあって、支店長が常に金庫にしまって保管しており、誰でも持出し、使用できる状態になかったこと。(4)宮田三郎は、昭和三八年七月一日から昭和四二年二月一日まで被控訴会社大阪支店に勤務し、昭和三九年六月頃までは業務課経理係において、その後は同課営業係において、前記(1)記載のような職務に従事していたが、その間手形振出の事務をとったことは一度もなかったこと。(5)本件一、二、三の約束手形は、宮田三郎が昭和四一年九月一九日頃、たまたま業務課長から、大阪市役所へ、持出しのできない被控訴会社大阪支店作成にかかる書類の訂正印を押捺に行くことを命ぜられ、支店長名の前記営業用丸印を預ったのを奇貨として、被控訴会社大阪支店において、株式会社大和銀行堂島支店から交付を受けた約束手形用紙の振出人欄に、前記(3)記載の各印章を押捺し、訴外日下章が他の場所で手形要件を記入して偽造したものであり、四の手形についても、昭和四二年一月一〇日頃、右と同様の機会に同様の手段をもって偽造したものであって、いずれも訴外日下章の依頼により、訴外金融業株式会社八洲商事の運転資金捻出のために振出したものであり、被控訴会社とは全く関係がないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上認定の事実によって明らかなように、手形振出行為が被控訴会社の全体としての事業の範囲内に含まれることはいうまでもないが、大阪支店長には手形振出の権限はなく、同支店には手形振出に関する事務は一切存在しないし、宮田三郎は、当時工事請負の入札、見積、契約等営業事務を担当していて、代金支払等の経理事務はその職務範囲外であったから、宮田の本件手形偽造行為は、被控訴会社の内部関係においてはもとより、いわゆる外形上も職務の範囲内に属するものとはいえない。

したがって、仮に控訴人がその主張のように、本件手形を割引いたことにより手形金額相当の損害を被ったとしても、被控訴人は控訴人に対し民法第七一五条による使用者としての損害賠償責任は負わないというべきであるから、控訴人の予備的請求もまた理由がない。

三  以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求をすべて理由ないものとして棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法第三八四条、第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣久晃 裁判官 島崎三郎 上田次郎)

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