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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)541号 判決 1969年11月28日

被控訴人 株式会社泉州銀行

理由

当裁判所もまた原審と同様、控訴人は法律上の原因なくして被控訴人の出捐により過払い金五八万五、〇〇〇円を利得し、被控訴人に同額の損失を及ぼしたものと認め、控訴人は被控訴人に対しその不当利得金五八万五、〇〇〇円およびこれに対する返還請求のあつた日の翌日たる昭和四一年五月九日以降支払済みまで年五分の割合による損害金を支払う義務あるものと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加するほか、原判決の理由説示と同一(ただし、原判決六枚目裏九行目の「被告本人尋問(第一、二回)」の次に「ならびに当審における控訴人本人尋問」を加える)であるから、これをここに引用する。

一、控訴人の提出した出金伝票(甲第一号証記載の金額が¥65000円と書かれてあり、一見すると六五〇、〇〇〇円の記載がなされているように見えるため、右払出事務を担当した預金係行員細野勝之は、控訴人において六五〇、〇〇〇円の払戻の請求をしたものと誤認し、かつ、同金員が残金として存在するものと即断し、同伝票に日付(4―21)、現金払出金(650,000円)、口座番号等を付記し、支店長代理北川信男の検印を得て同伝票を出納係に交付して右金員の出納方を依頼した結果、テーラ係行員津村準二を通じ一万円札の五〇万円束一束と一万円札一五枚計六五万円の現金が控訴人に交付されたことは、さきに引用した原判決に明かなところである。控訴人は当審における本人尋問において「私は六万五千円のつもりで受取つたのです。受領のときその場で数えませんでしたが、数えなくても、六万五千円か六五万円かは厚さで分ります」「過払いしたから返してくれといわれても、残金が六万五千円余りしななかつたのに、六五万円を払つてくれる筈はありませんし、どうなつているのか、私としては分りません」等供述しているが、他の供述部分と対比しても、その趣旨があいまいで、いまだ右認定を覆えすに足らず、また控訴人は右の払戻しをうけた金額が六万五〇〇〇円であつたことの根拠として、控訴人は吉岡某から遊覧飛行契約の解約に伴なう前受料金六万五〇〇〇円の返還請求をうけ、その資金として本件六万五〇〇〇円の払戻しをうけたものであつて、払戻しをうけた直後これをそのまま右吉岡某に交付し、吉岡某も何等不審を抱かずこれを受取つた旨を供述し、右の金額が六万五〇〇〇円に相違なかつた点を強弁するけれども、本件に顕われた前証拠によるも右吉岡某なる者が実在し、控訴人が同人に本件払戻しをうけた金員を交付したとの事実は全くこれを認めるに足らないので、控訴人の右の供述はこれを信用し得ず、他に前段認定を覆えすに足る新たな証拠はない。

従つてまた、控訴人の現存利益不存在の抗弁も採用のかぎりでない。

二、控訴人は、本件において被控訴人は控訴人の預金債務が六万五、三三八円しかないことを知りながら、右預金債務の弁済として六五万円を支払つたのであるから、その差額五八万四、六六二円については、民法七〇五条(非債弁済)によりその返還を請求できないと主張するけれども、右預金払出事務を担当した被控訴銀行行員は、控訴人において、その残金として六五万円の払戻請求金額の記載をしたものと誤認し、かつ、同金員が残金として存在するものと即断して、右預金債務の弁済として六五万円を交付したものであることは前段説示のとおりであつて、控訴人の全立証によるも、いまだ右認定を覆えし、被控訴銀行の担当係員において、当時、五八万五、〇〇〇円の過払金の範囲において債務の存在しないことを知つていたものとは認められない。なお、民法第七〇五条は、ある特定の債務の弁済として給付をしたが、実はその債務がなかつたという場合には、常に不当利得となる筈であるが(民法七〇三条参照)、もしその場合に債務の弁済として給付をなした者が債務の存在しないことを知りながらあえてこれをしたときは、例外としてその返還請求権を認める必要がないというのがその立法趣旨である。従つて、債務の存在しないことを知らなかつた場合には、その知らなかつたことにつき過失の有無を問わず、右七〇五条の適用はないので一般原則に立返つて返還請求権が認められるのである。被控訴人の銀行業務に職能分化の存することは推察するに難くないけれども、さればといつて、控訴人の主張するように、払出事務を担当した行員が控訴人の預金残高を知らなかつたとしても、被控訴銀行としては、容易に確認しうべき状況下にあつたのであるから、預金残高を知つていたというべきであるとするのは独自の見解というべく、右主張は当裁判所の採用しないところである。

右の次第で、被控訴人の本訴請求中、控訴人に対し前認定の不当利得金五八万五、〇〇〇円の返還および昭和四一年五月九日以降右支払済みまで年五分の割合による損害金の付加支払を求める部分は正当であつて、これを認容した原判決は相当で本件控訴は理由がない。

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