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大阪高等裁判所 昭和44年(ラ)303号 決定 1969年10月20日

抗告人 大阪市

右代表者・市長 中馬馨

右代理人弁護士 林藤之輔

同 中山晴久

右指定代理人事務吏員 平敷亮一

<ほか二名>

相手方 野田和子

<ほか六名>

主文

一、原決定を取り消す。

二、相手方野田和子は別紙目録(一)記載の建物を

同辰己礼子は同目録(二)記載の建物を

同木村久吉は同目録(三)記載の建物を

同星野周治は同目録(四)記載の建物を

同牧野治は同目録(五)記載の建物を

同高原達郎は同目録(六)記載の建物を

同高原勲は同目録(七)記載の建物を

それぞれ抗告人に明け渡せ。

三、本件手続費用は第一、二審とも相手方らの負担とする。

(本件仮処分の申請中別紙物件目録記載のアーケードの撤去を求める部分は当審における取下げにより終了した)。

理由

一、本件抗告の趣旨および理由は別紙に記載のとおりである。

二、当裁判所の判断は次のとおりである。

一件記録によれば、抗告人は大阪市設小売市場条例に基いてその所有にかかる別紙物件目録記載のジュラルミン張鉄骨造スレート葺平家建店舗一棟内に市設船場小売市場を設置し、右建物内の各店舗(以下旧店舗という)毎に市長の許可を受けた者をしてこれを日常生活必需品の販売に使用させてきたこと、相手方らは主文掲記の(一)ないし(七)の旧店舗について市長の許可を受け、これを使用して日常生活必需品の販売を営んでいたものであること、ところが旧店舗はその敷地部分が後段認定のごとく、都市計画街路築港深江線の区域に存するため、右都市計画事業の進行に応じこれを収去することが必要となったので、抗告人は旧店舗より西方約一五〇メートルに位置する西横堀川阪神高速道路下に新店舗を建設し、昭和四二年四月一日旧店舗使用者全員に対し同年五月末日をもって店舗の使用許可を取り消し、新店舗について同年四月末日までに使用許可申請があれば、これを許可する旨の内容証明郵便を発し、該書面は相手方星野周治、同高原達郎に同月三日、同高原勲に同月一七日、その余の相手方らに同月二日それぞれ送達されたこと、その結果、相手方ら以外の旧店舗使用者一五名は、この機会に市設小売市場での営業をとりやめることにした者一名を除き全員が前記指定期間内に新店舗の使用許可申請をなし、同年八月八日には旧店舗の明渡しと新店舗への移転を完了したが、相手方らは移転反対の立場を固執し、前記使用許可取消の通知に記載された期限の過ぎた昭和四二年六月一日以降もこれを占有使用していること、前記小売市場は小売市場条例に基いて「市民の消費生活の安定に資することを目的」として設立せられた公けの施設であって、公共用に供する行政財産であり、従って、市場内に店舗を有する小売商人は公法上の使用許可処分に基いて市場を使用するものであることにつき一応疏明あったものと認めうべく、右認定を左右すべき疏明がない。してみれば、行政財産である本件小売市場の使用許可については、地方自治法第二三八条の四第五項に基づき公用または公共用に供するため必要を生じたことにより、許可の取消しができる性質のものであり、相手方らは前認定の使用許可取消し処分により昭和四二年五月末日限り旧店舗の占有権原を喪失したものといわなければならない。

ところで≪証拠省略≫によれば、都市計画街路築港深江線は大阪港を起点とし、大阪市のほぼ中央を東西に貫通して東大阪に達する幹線街路で、南北幹線の御堂筋線とともに大阪都市計画街路網の骨格を形成するものであって、相手方らの占有する旧店舗の建物敷地は右築港深江線の南側歩道部分に位置するため、右建物部分のみ関連工事が停滞し、このままでは街路の築造と地下鉄本町駅出入口の開設が不能の事態となるおそれがあること、すなわち、築港深江線の前述部分のみならず、車道部分についても道路地下理設物の移設ができなくなったため、道路築造工事は万国博覧会開設時以後に持ち越されるような事態に立到った場合、増大する交通の円滑化を目的とする幹線街路が本件旧市場建物の所在箇所における工事未了のため著しい機能低下を招くのみならず、工期の点からみて、地下埋設物の工事ができない以上、地下鉄本町駅の南側出入口を開設することもまた不可能となり、地下鉄一号線(南北線)および四号線(東西線)の両地下鉄幹線の連絡駅たる本町駅が一部機能不全のまま営業を余儀なくされ、その結果、日々右の出入口を利用する約二万人と推定せられる市民が交通事故の危険性の高い平面街路を迂回、横断しなければならない不便を忍ぶことになるという抗告人の主張事実は一応疏明せられたものと認められ、右のごとき事実関係のもとにおいて、相手方らをして旧店舗の占有を継続させるにおいては、徒らに都市計画事業の遂行を遅延させ、抗告人に著しい損害を被らしめる虞あるものと認められ、これを防止するため、いわゆる明渡断行の仮処分をなす必要があるものというべく、本件仮処分の申請を保全の必要性について疏明がないとして却下した原決定は到底取消しを免れない。

よって原決定を取消し、抗告人の本件仮処分を認容すべく、手続費用は第一、二審とも相手方らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小石寿夫 裁判官 宮崎福二 舘忠彦)

<以下省略>

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