大阪高等裁判所 昭和44年(行コ)42号 判決
大阪市東淀川区木川東之町三の二
控訴人
東淀川税務署長
三浦権八
右指定代理人
上野至
同
葛本幸男
同
河合昭五
同
村上睦郎
同
岩木昇
同
中西一郎
大阪市東淀川区瑞光通六丁目一七番地
被控訴人
田中光子
右訴訟代理人弁護士
原田甫
右当事者間の頭書事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、
主文同旨の判決を求め、
被控訴代理人は、
本件控訴を棄却する、
控訴費用は控訴人の負担とする、
との判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠関係は次のとおり訂正、附加するほかは原判決事実摘示のとおりであるので、これを引用する。
(訂正)
(1) 原判決二枚目裏一〇行目九枚目表二行目および一一枚目表二行目の「昌夫」とあるを「昌男」と
(2) 同八枚目裏八行目「三人」とあるを「二人」と
(3) 同一〇枚目裏九行目「二の(一)」とあるを「三の(一)」と各訂正
(附加)
証拠関係(当審における提出、援用分)
一、控訴人
(1) 乙第一三号証、第一四号証の一ないし四
(2) 証人村上睦郎、同詫間由也の各証言
(3) 甲第三号証の成立を認める。
二、被控訴人
(1) 甲第三号証
(2) 証人山崎虎次の証言
(3) 被控訴本人の供述
(4) 乙第一三号証中官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。乙第一四号証の一ないし四の成立は認める。
理由
一、被控訴人の請求原因(一)の事実、控訴人主張のような確定申告を被控訴人がした事実、これに対し淀川税務署長がその主張のような更正および賦課決定をした事実、被控訴人が訴外山本信一に本件資産を売り渡した事実(但しその代金、売買日時は除く)、右税務署長の権限を控訴人東淀川税務署長が承継した事実は当事者間に争いがない。
二、まず本件資産売買の日時、代金について検討する。
(1) 原審証人庄司鉄夫の証言ならびに同証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二、三(ただし乙第一号証の一のうち官署作成部分の成立は争いがない)によれば有限会社淀川製作所の顧問をしていた庄司税理士が、右会社の帳簿に基づいて作成した、有限会社淀川製作所より淀川税務署長宛の、昭和三七年五月一日より三八年四月三〇日に至る事業年度法人税額確定申告書添付の同年度決算報告書中、「固定資産内訳書」に「土地、一三二坪二、東淀川区瑞光通(取得価格)二、五五〇、〇〇〇円、(摘要)三七、一二、東淀川区上新庄、田中虎次、一三二坪二」と記載されていることが認められ、
(2) 原審証人宮崎昭の証言ならびに同証言により真正に成立したと認められる乙第二号証によると淀川税務署法人課に勤務をしていた同証人が有限会社淀川製作所の顧問をしていた庄司税理士の事務所に行き、当時同会社代表取締役であった訴外山本信一(本件資産の買受名義人)立会の上同事務所においてあった右会社の金銭出納簿、領収書を調べた結果、有限会社淀川製作所が取得した本件資産の代金は三七年十二月二五日に現金二、〇五〇、〇〇〇円、三八年四月一〇日に現金五〇〇、〇〇〇円が支払われた様に記載されていたことが認められ、
(3) 成立に争いのない乙第一四号証の一ないし五と当審証人詫間由也の証言を総合すると、昭和三七年一二月二八日、官庁の御用納めの日に山本信一が詫間司法書士の事務所に来て本件資産の被控訴人より山本信一への売買による所有権移転登記手続を依頼したこと、同司法書士は、同日は御用納めなので登記は同年中にはできず、来年になるがよいか、と念を押したところ、それでよい、というので、右登記手続を引き受け、同人の持参した、登記申請を委任する山本信一の委任状(乙年一四号証の二)、被控訴人の委任状(乙第一四号の三)の年月日欄に昭和三七年一二月二八日付と記入しおき、右山本が持参した同年一二月一七日付被控訴人の印鑑証明書(乙第一四号の四)、同年同月二六日付山本信一の住民票抄本、被控訴人名義の本件資産の売渡証、権利証と共に預り、年が明けて昭和三八年一月九日に大阪法務局北出張所に右所有権移転登記手続をしたことが認められる。
以上認定の(1)、(2)、(3)の各事実に前記争いのない事実を総合すると、本件資産は昭和三七年一二月に被控訴人より山本信一に代金二、五五〇、〇〇〇円で売却され、うち、二、〇五〇、〇〇〇円は同年一二月二五日に、残五〇〇、〇〇〇円は昭和三八年四月一〇日に支払われたこと並に右所有権移転登記申請手続の司法書士への依頼は昭和三七年一二月二八日に完了していることが認められる。原審ならびに当審証人山崎虎次の証言中右認定に反する部分は前記証拠に照らし採用できず、被控訴人本人尋問の結果(原審分)は右認定を左右するに足りない。
そして右認定事実関係のもとでは本件資産の譲渡所得の帰属年度は、控訴人主張のとおり昭和三七年度であり、右譲渡所得についての収入金額は右代金額二、五五〇、〇〇〇円であるといわねばならない。ただし、一般に収入金額の所得年度帰属の決定基準は権利確定の時にこれを求むべく、資産譲渡によって発生する譲渡所得について収入金額の権利確定の時期は当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であるから(最判、昭和四十年九月二四日民集一九巻一六八八頁)、本件における如く、資産の譲渡が売買により行われ、売買契約の締結、代金の大部分の支払、所有権移転登記の司法書士に対する依頼がいずれも昭和三七年度内におこなわれている以上当該資産についての所有権は昭和三七年度内に買主に移転していること明かで、代金の一部(残代金)が翌年に支払われたとしても、現金主義をとらないで権利確定主義をとる、所得税法(昭和四〇年改正前のそれ。以下旧法という。)一〇条一項にいわゆる「収入すべき金額」は右代金額全額がこれに当るというべきであるからである。してみれば、控訴人が本件資産売買による譲渡所得の帰属年度並にその収入金額の認定を誤った違法は認められず、被控訴人の主張は理由がない。
三、被控訴人の請求の原因(三)の主張について判断する。
成立の争いのない甲第一号証、証人長谷川昌男の証言、被控訴人本人尋問の結果(原審分)に弁論の全趣旨を総合すると、本件資産は同所一五番宅地一八七坪(以下分筆前の本件資産という)より昭和三七年七月五日分筆されたものであるが、訴外長谷川昌男は、昭和三七年五月一日、訴外伊良皆喜次郎から金一、〇二四、〇〇〇円を借り、被控訴人は、右債務について保証人となることを承諾したところ、訴外長谷川昌男は被控訴人に無断で分筆前の本件資産を右債務の担保に提供(同月八日、分筆前の本件資産について代物弁済の予約を原因とする所有権移転請求権保全仮登記および抵当権設定の登記を経由)し、後日これを知った被控訴人が右担保提供による右訴外人の債務の保証を承諾していたところ、同訴外人が右債務の支払をしないので、被控訴人は、同控訴外人に代って、右債務の支払をしなければならなくなったことが認められる。この認定に反する証人山崎虎次の証言(原審第一回分)は、右各証拠、および弁論の全趣旨に照らして信用し難く、ほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。
成立に争いのない甲第一号証、乙第七号証、証人村上睦郎(原審分)の証言によって成立が認められる乙第八号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる乙第三号証の二、証人山崎虎次(原審第一、二回分)、同村上睦郎(原審分)の各証言、被控訴人本人尋問の結果(原審分)に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人の夫であった訴外山崎虎次は、被控訴人の右保証債務の弁済について、訴外伊良皆喜次郎と交渉し、右保証債務については元本を支払うことで、分筆前の本件資産の担保権を消滅させることの合意をし、昭和三七年六月二二日、右元本を支払い、分筆前の本件資産についての同訴外人のための所有権移転請求権保全仮登記の抹消を得たこと、被控訴人は当初右弁済資金を分筆前の本件資金を分筆前の本件資産を売却することによって得ようとしたが、右土地上には、訴外山本信一外一名の建物があり、同訴外人から敷地の買取に応じないため、これを断念し、同年六月九日、訴外大阪商業信用組合から金三〇〇万円を借り(実際に利用できるのは金一、三八四、四二五円)、同訴外組合に対しては本件資産とは別の被控訴人所有の不動産を担保に提供したが、被控訴人の夫であった訴外山崎虎次は、右借入金を自己の営業資金に流用し、被告訴人もこれを承諾していたこと、訴外伊良皆喜次郎に対する弁済は、訴外山崎虎次が、右流用金を回収していたことが認められ、ほかにこの認定を覆えすに足る証拠はない。
成立に争いのない甲第二号証、証人村上睦郎の証言(原審分)によれば、被控訴人は昭和三七年一二月二五日、訴外大阪商業信用組合に対して、金一五〇万円を支払い、同日現在の同訴外組合に対する借入金がなくなっていることが、認められ、ほかにこの認定を覆えすに足る証拠はない。
そして、弁論の全趣旨によれば、右一五〇万円の支払は、本件資産の売却金によってなされたものと認められる。
また、前記本件資産の売却についての認定事実に証人庄司鉄夫同山崎虎次(原審第一回分)の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、訴外山本信一は、前記のとおり一旦本件資産の買取を拒絶したが、それは資金がなかったためであり、自己の経営する有限会社淀川製作所について設備投資をすることに熱心であつたので、昭和三七年一二月頃資金の目途もついたので、被控訴人に対して本件資産の買取の申入をしたことが認められる。
以上の認定事実を総合すると、本件資産の売却は被控訴人の前記保証債務履行のためになされたものではないと認めるのが相当であるから、爾余の点について判断をなすまでもなく旧所得税法一〇条の六、二項を適用、準用をする余地がないものといわねばならない。よってこの点に関する被控訴人の主張は採用できない。
四、以上によれば本件資産譲渡についての譲渡差益の計算関係は次のとおりとなる。
イ 収入金額二、五五〇、〇〇〇円(前認定のとおり)
ロ 取得価格一一八、九九八円(この計算関係は成立に争いのない甲第一号証、乙第一二号証の一、二、証人河村昭三の証言によって成立が認められる乙第一一号証、同証人の証言により、原判決事実摘示三、(一)、(Ⅰ)、5記載の控訴人主張のとおり認められる)
ハ 譲渡差益二、四三一、〇〇二円(イ-ロ)
してみれば、淀川税務署長が被控訴人申告にかかる譲渡差益三、五〇八、六六五円(成立に争いのない乙第四号証によって認める)に本件資産譲渡の右差益を追加計上してこれを合計五、九三九、六六七円とし、これより特別控除一五万円を差引き残額を1/2すれば譲渡所得金は二、八九四、八三三円となるから、淀川税務署長が右額を譲渡所得として計上してなした本件更正処分並に過少申告加算税の賦課決定処分については被控訴人のために取消すべき不利なかしはないから、控訴人主張の配偶者控除の点に誤りがあるかどうかを判断するまでもなく、これが取消を求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきである。よって、これと結論を異にする原判決は相当でないのでこれを取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 増田幸次郎 裁判官 道下徹 裁判官中村三郎は退官につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 増田幸次郎)