大阪高等裁判所 昭和45年(ツ)26号 判決 1972年8月30日
上告人 大阪南ナショナルクレジット株式会社
右代表者代表取締役 丹羽幸三
右訴訟代理人弁護士 原田甫
被上告人 富沢哲男
主文
原判決を破毀する。
本件を大阪地方裁判所に差戻す。
理由
上告代理人は、原判決破毀の裁判を求め、被上告人は上告棄却の裁判を求めた。
上告理由は別紙の通りである。
上告理由第一点について
民法第一一三条に定める無権代理行為の追認は、明示の行為のほか、黙示の行為によってもこれを為し得ることは言うまでもないところ、追認により、他人に対し債務を負担すべき立場の者についてこれを見る場合、その者が右の債務を承認し、その全部又は一部の履行を為すことは、黙示の行為による追認としての典型的なものというを得べく、この場合、右の行為を無権代理に対する追認行為としての効力を肯定するにつき必要な前提としては、無効行為の追認(民法第一一九条但書)との対比上、追認を為す者において、それが無権代理行為を対象とするとの認識を有することを以て足るものと解するを相当とする。ところで、本件において原審の確定した事実によれば、被上告人は、上告人が主張する自己の連帯保証債務が、被上告人の妻において被上告人に無断で被上告人名義の連帯保証に関する契約書類に捺印したことに起因して、その履行を求められている事実を認識しながら、考慮の上、上告人に対して右連帯保証債務を承認し、これにより約定した第一回分割金を支払って、その一部履行をしたというのであり(右事実を上告人の請求原因と対照すると、被上告人は右の債務承認に際し、上告人の譲歩により期限の猶予等、本来の債務内容に比して若干の利益をも受けたことが窺われる)、右の行為は、それ自体で、無権代理に対する黙示の追認行為として肯定し得べきものというべきところ、原判決がこれを右の趣旨における追認として認めなかったことは、無権代理の追認に関する前示民法の法条の解釈を誤ったものといわざるを得ず、論旨は理由があり、原判決は、この点で破毀を免れないものというべきである。
よって被上告人の仮定抗弁の判断等につき更に審理を尽さしめるため、本件を大阪地方裁判所に差戻すを相当と認め、民事訴訟法第四〇七条第一項に則り、主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 宮川種一郎 裁判官 日野達蔵 平田浩)
<以下省略>