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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)1615号 判決 1972年2月10日

控訴人

ユニヴァーサルタクシー株式会社

右代理人

栗坂論

柳瀬兼助

被控訴人

栗須義久

他五名

右代理人

宮崎定邦

前田修

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所もまた原審と同様、控訴人のなした本件解雇はいずれも無効であつて、被控訴人らは控訴会社(以下会社という)の従業員たる地位を保有しているものと認め、被控訴人らの本件仮処分申請は、原職復帰および解雇の日以降本案判決確定まで一ケ月につき原判決認定の平均賃金額の割合による金員を毎月二五日限り支払を求める限度において理由があり、保証を立てさせないでこれを認容すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるからこれをここに引用する。

一、原判決八枚目表八行目までを「申請の理由一ないし三記載の事実は、被控訴人西川を解雇した日を除き当事者間に争いがなく、被控訴人西川を解雇した日時は、原審における被控訴人西川茂人本人尋問の結果により昭和四一年八月一八日であると認める」と改め、一〇枚目表九行目から一一枚目表一行目までを削る。

二、納金ストは一種の部分ストであり、それ自体としては、争議権行使の一態様として違法なものとはいえないが、納金ストは一面その走行料金が一時的に組合の手に抑留されることになるから、組合としては、会社のために最も確実かつ安全な方法で保管する義務があることは、さきに引用した原判決の理由説示に明らかなところである。しかしながら、争議行為としての納金ストの正当性という観点からすれば、それはたんに保管の確実性、安全性が担保されば足りるというものではない。けだし、元来納金ストは争議行為として争議目的達成のための手段として行われるものであるから、その実体はたんなる納金業務の拒否、すなわち、労務の不提供にとどまらず、使用者の所有に属する走行料金を抑留する目的をもつてなされた非権利者名義による銀行預金行為であり、その狙いは使用者が走行料金を取得することができず、その結果、使用者の資金運営に支障を来たさせ、あるいは、支障を来すべき虞れを生ぜしめて、使用者を経済的あるいは心理的に圧迫し、争議を有利に解決せんとするにある。そうであるから、もし使用者の負うべき危険およびその失なうことあるべき利益と労働者の主張貫徹により得べき利益との間に、社会通念上、甚だしい権利を失するような場合には、法の期待する労使対等交渉担保のため使用者のぎせいにおいて労働者を保護すべき範囲内とは認めがたいから、その行為は全体として、労組法一条二項の正当な行為の限界を逸脱したものというべきである(最高裁判昭和三三・九・一九刑集一二巻一三号三一二七頁)。本件についてこれをみるに、<疏明略>を総合すると次のような事実が疏明される。すなわち、

被控訴人らの属するユニバーサルタクシー労働組合(以下組合という)は、昭和四一年八月一九日会社との間に同年度夏期一時金問題について交渉が妥結し、その八割は一率に、その一割は各自の業績により、その一割は勤続年数を加味して配分するということに合意が成立し、非組合員も右配分方法に異存がなかつた。ところが、その勤続年数の点について、会社(非組合員もこれに同調)は、その一割は、組合、非組合別の勤続年数に応じて配分(以下分離配分という)することを主張したのに対し、組合は、右配分方法は従来の慣例を無視する不当なもので、全従業員を対象とする勤続年数に応じて配分(以下一率配分という)すべきことを主張して対立したが、会社は同月一五日非組合員の要望もあつて、分離配分による夏期一時金を先ず非組合員に支給し、組合は当初これを拒否していたが、結局同月二三日これを受領するに至つた。

以下分離配分と一率配分についてこれを詳説すれば、昭和四一年度夏期一時金支給時における組合員数は四二名、非組合員数は三三名であり、組合員の総勤続月数は二、〇九六ケ月、非組合員の総勤続月数は一、〇八五ケ月である。昭和四一年度の年間臨時給与として一人当り九万六、〇〇〇円を支給することは、組合、非組合員を問わず了承しており、ただ組合は夏期に一人当り四万三、〇〇〇円を主張し、非組合員は一人当り四万円を主張するので、年末には組合員に対しては五万三、〇〇〇円、非組合員に対しては五万六、〇〇〇円を支給することについても異論がなかつた。そこで夏期一時金のうち、年功手当分につき一率配分による場合と分離配分による場合における組合員一人当りの支給分(勤続月数一ケ月として)を計算すれば、次のような算式となる。

<算式省略>

右算式によつて明らかなとおり、勤続月数一ケ月と仮定すれば、一率配分によつた場合と分離配分によつた場合における組合員一人についての差額は一二円で総額にして二万四、〇〇〇円にすぎないことになる。

ところで組合は、右のように会社が従前の慣例に反し、全従業員についての勤続年数に応ずる一割を組合員に支給しなかつたのは、差別待遇であると主張し、右分離配分によつて生じた差別待遇の撤回を求めて(ただし、右要求の趣旨は具体的には必ずしも明白とはいえないが)同年九月一日から同年九月三〇日まで納金ストを行ない、会社の所有に属する運賃収入約三一〇万円をその意に反して抑留し、兵庫労働金庫に被控訴人栗須(当時執行委員長)名義で預金したのであつて、その主張貫徹の手段として採用した金銭抑留については、争議解決まで無期限に行なうことを宣言し、会社に与える不利益の程度、すなわち、抑留限度に関しては何ら顧慮した形跡なく、全く無制限であつて、しかも同年一〇月一日スト解除後抑留金額に関し、控訴会社との間に紛議を生じ、同月二四日に至り、漸く会社側の計算に従つて返金されたことが認められ、控訴人のごとき中小企業に属するタクシー会社にとつて、右のごとき長期にわたる運賃収入の抑留が賃金運営の面において少なからざる打撃であることは推察するに難くない。そうだとすれば、本件において、他に特別の事情の認められない限り、使用者の負うべき危険およびその失なうことあるべき利益と労働者の主張貫徹によりうべき利益との間に社会通念上、果して権衡を失することなきや、即断を許さないものがある。しかし、仮りに争議行為が全体として違法の嫌いがあつたとしても、そのことから当然に、組合幹部が使用者との関係において懲戒責任を負うべき理由はない。けだし、組合幹部といえども、使用者との関係で組合幹部の故に特別に重い企業秩序維持に対する責任を負うべき合理的理由はなく、従つて、組合幹部がその権限と義務とに基づいて行なう行為、例えば争議行為の企画、指導等の行為につき、その具体的評価の面において懲戒解雇事由に該当する場合は格別、そうでない限り、組合幹部が機関活動として行なう行為につき、個人として使用者から懲戒責任を問われるべき性質のものではない。もしそうではなく、使用者にそのような責任追及が許されるとすれば、それは当該幹部に対する不利益取扱になるし、さらに支配介入にも該当するというべきである。

いま本件についてこれをみるに、<疏明略>を総合すると、次の事実が疏明される。すなわち、

当時被控訴人栗須は執行委員長、同西は書記長、同高見、同大北はいずれも執行委員の役職にあり、組合の中心となつて組合活動を行つていたものであること、特に組合が昭和四一年度夏期一時金闘争を行なうにつき会社との間に団体交渉を継続している途中において、会社の元取締役佐伯孝が会社の意を体し、非組合員に対してのみ貸付金名義で一人三万円を供与する挙に出たため、組合は従来より認められていた前借金制度を利用し、一人三万円を限度として運賃収入の内から前借するよう指令してこれに対抗してきたが、組合としては年間臨時給与についてはほぼ会社の主張を呑まざるをえない情勢となり、同年八月一九日交渉妥結したものの、会社は夏期一時金支給の段階で従来の慣行を無視し、一時金のうち年功部分についていわゆる分離配分を強行してきたこと、組合は同月二三日一旦会社の計算による夏期一時金を受領したものの、前段説示のとおり、分離配分によれば、組合員の平均年功が非組合員のそれを上廻るため、組合員については、同じ年功の非組合員より若干低い金額が支給されることとなり、その差異は金銭的には僅少とはいえ、比較的低賃金で働かされているタクシー運転手である組合員にとつて、非組合員との差別感からその動揺は黙過しがたいものがあつたこと、そこで組合は前年までの慣行どおり、年功手当分について一率配分によるべきことを主張して団体交渉を求めたが、会社は誠意を示さず、交渉が開かれても責任者でもない未成年者の梁願明を出席させて組合を無視するがごとき態度に出たため、組合は同年八月三一日臨時大会を開き、翌九月一日より納金ストに突入することを決議し、会社に対し組合員の水揚運行賃を執行委員長である被控訴人栗須において争議解決まで会社のため保管し、兵庫労働金庫に預金しておく旨通告し、本件納金ストを敢行するに至つたこと、これに対し会社は同年九月一九日被控訴人栗須、同西、同高見、同大北らを走行料金の費消横領、納金拒否の違法スト指令等の理由で懲戒解雇の挙に出たため、納金スト中止の方向に進まざるをえなくなつたこと、スト中止後抑留金員の返金が遅れ二四日という少なからざる期間を要したのは、会社が右懲戒解雇の意思表示後右被控訴人らはすでに会社の従業員でないとして、同人らとの交渉を拒否したことにもその一半の原因が存したことが窺知される。

右に疏明されたような事実関係のもとにおいては、本件納金ストが全体として正当な争議行為の限界を逸脱していないとは即断しがたいものがあつたとしても、被控訴人栗須、同西、同高見、同大北らが組合幹部として右争議中になした行為につき、その具体的評価の面においても、個人として、会社から懲戒責任を問われるべき筋合のものではない。してみれば、右被控訴人らに対し会社のなした懲戒解雇の意思表示は、解雇の事由を欠き無効であつて、同人らはその従業員たる地位を保有しているものというべきである。

以上の次第であるから、右の範囲で被控訴人らの申請を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、これを棄却し、控訴費用は敗訴当事者たる控訴人の負担として、主文のとおり判決する。

(浮田茂男 宮崎福二 舘忠彦)

(被控訴人の主張)

一、納金ストの合法性

納金ストは、原判決も認めるとおり、一種の部分ストとして合法である。ストライキは労働者が使用者との労働契約による労務提供を集団的に拒否するものであつて、憲法上保障された権利行使であるが、その拒否する労務提供が全部にわたろうと一部にであろうとその権利行使の合法違法は生じないというべく、納金ストも提供すべき労務のうち納金業務のみを拒否するものでそれ自体何ら違法の問題はない。

たゞ、納金ストの結果として、納金すべき料金等が組合ないし組合員の手元に抑留されることになるので、原判決も認めるとおり組合としてこれを会社のため安全確実に保管し会社の料金等に対する権利が不当に侵害されないようにすべき付随的な義務が生じるであろう。そして少くとも組合においてこの付随的な義務が履行される以上納金ストが何ら責められるべきところのない完全に正当な争議行為と考えられるのである。

納金ストについて、控訴人は生産管理による経営権排除にあたるかの如き主張をしているが、生産管理は「労働者の団体が争議の目的を達するため、使用者の意思に反し、使用者の工場事業場や設備資材等一切を自己の手に接収して、その占有(支配下)におき、使用者の指揮命令を排除して自己の手によつて企業経営を行う争議行為」(労働法講座三巻緒方節郎「生産管理」参照)であつて、納金ストの場合納金業務以外は使用者の指揮命令に従われているものであり、保管される料金等についても組合においてこれをほしいまゝに収受処分するものでないから生産管理とは異質なものである。なお、生産管理も争議の必要性、緊急性、管理の相当性、使用者の不利益の程度等により、必ずしも違法であるとは言えないものであることも付言する。

本件の場合は、次にのべるとおりいずれにしても何ら違法性はない。

二、本件納金ストの合法性

本件納金ストの実施状況は左のとおりであつて何ら違法性はない。

(1) 組合の要求の正当性

控訴人は、組合の要求が存在しないあるいは特定していない、一時金妥結後の要求は不当である等と主張しているが、本件納金ストでかかげられた要求ははつきりしており、且つ正当なものである。

当時会社が組合を嫌悪し数々の不当労働行為を行つて来ており(その詳細は原審証人藤川、長畑らの証言のとおりである)、そのため組合を脱退するものが出てきて組合員と非組合員との比率がほゞ半数になつて来ていた(厳密には未だ組合員の方が多数であつた)情勢下において、組合としては年間臨時給与についてはほゞ会社の一方的主張をのまざるをえなくなり、昭和四一年八月一九日妥結したものの、会社は夏期一時金支給の段階で更に従来の慣行を無視して一時金のうち年功部分についていわゆる「分離配分」を強行してきたのである。組合が一時金支給をうけたものゝ非組合員との明らかな差別扱いが慣行を無視して強行された以上配分の問題で慣行どおりのプール配分を要求したのは当然である。しかもこの要求は一旦支給した一時金の返却をうけて支給しなおすことをあくまで求めたものではなく(できればそうしてもらいたかつたが)、年間臨時給与として妥結しているのであるから年末一時金ではその調整が可能である以上、年末には差別をなくす措置をとつてほしいという最終的要求であつた。したがつて会社としては組合の要求が何であるかは十分知つているのであつて、何も組合が具体的に金額をかゝげて要求することもなかつたのである。尚、その交渉のなかで従来行われていたとおり非組合員、組合員に支給された金額の明細の明示も求め会社も一旦これを承知せざるを得なかつたのであるが、これを履行しなかつた事実があつた。

さらに重要なことはこの要求はたしかに金額的にみればわずかゝもしれないが、組合組織破壊攻撃としては会社の分離配分強行は極めて効果的であるということである。従来からの数々の差別攻撃に加えてこのような明確な差別扱いがなされゝば金額の多少を問わずとくに低賃金で働かされているタクシー運転手である組合員にとつてその動揺は著しいものがあり急速に組織が破壊されるおそれがあつた。かゝる組合の団結を破壊する悪質な不当労働行為には直ちに組合として反対しこれを排除する緊急の必要があつたのである。

尚、この要求の正当性は会社が昭和四二年度以降は昭和四〇年までになされていたとおりプール配分をなしている事実からも裏付けられる。よつて被控訴人のこの点の主張は全く理由がない。

(2) 納金ストに及んだ理由

右のような組合の正当な要求にもかゝわらず会社が全くこれに応じないばかりか誠意ある団交すらひらかない状態で組合としてはやむなく納金ストをなすに至つたのであるが、もしこの場合全面的に労働提供を拒否してストライキに入るとすれば、ストやぶりによりストライキの効果、即ち使用者の正常な業務を阻害する効果が期待できなかつたのである。現に同年春も組合はストライキをおこなつたのであるが、会社は臨時に運転手を雇い入れてタクシーを運転させ何らその業務を阻害されることはなかつたのである。したがつて、組合としては納金業務だけを拒否する納金ストを行う以外に争議の効果をあげるべき方法はなかつたのである。控訴人が主張するようないたずらに会社業務を妨害するような悪意はなかつたのである。

(3) 料金の保管の安全性と確実性

この点は原判決が認定しているとおり、組合は被控訴人栗須をして専従保管責任者と決め、集計、兵庫県労働金庫へ預金事務にあたらせたのである。そして、組合あるいは組合員がこれに一切手をつけず確実安全に保管されたのである。その水揚げ額は会社への運転日報提出により会社はこれを十分知ることができたもので何ら会社にとつて不安を感じるような保管方法でもなかつた。また、納金スト終了後も会社と組合との間で利息計算までして双方納得の上で確実に会社に料金が納金されているのである。この納金が多少遅れたかの如き主張もあるが、双方がそれぞれの立場で計算しこれをつきあわせるために多少日時を要したゝめであつて、遅延と評価されるほどのものではないというべきである。

なお、控訴人は組合が保管した料金を一部無断費消した疑いがあるかの如き主張をなしているが、いかなる根拠によりかゝる主張をなすのか不明であり、実際費消の事実は全くない。

(4) 会社に積極的損害はない

争議行為の本質が使用者の正常な業務を阻害することにある以上、労務提供拒否の結果会社に損失が生じることは当然の前提である。これは通常のストライキであろうと納金ストであろうと変わらない。会社に損失を生じない争議行為しか許されないとすれば憲法が労働者の権利を保障した意味は全くなくなつてしまうのである。

本件では控訴人は赤字が生じていると主張しているが、仮りにこれが事実としても右にのべた如く何ら争議行為を違法ならしめる根拠とはなりえないのみならず、控訴人会社がいわゆる同族会社であつて、代表者一族の資産はこの赤字など問題にならないほどのものである。更に組合員は納金スト中すべて賃金カットを受けている事実、組合で保管された料金は前述の如く安全確実に後日会社に納金されている事実からしても会社には殆ど経済的損失はなかつたものといわねばならない。

勿論、一般論として組合が争議行為の結果として当然生じる損失以上に違法に不必要な積極的損害を加えたときは争議行為そのものが違法性は生じないとしても、その損害につき組合に賠償責任はあろうが本件ではそのような損害は全くないのである。

三、幹部責任

以上述べ来つた如く本件納金ストは合法な争議行為であり、これを理由に会社が解雇等の処分をなすことはゆるされないのであるが、百歩ゆずつて仮りに本件納金ストが違法なものであつたとしてもそれだけで被控訴人らを解雇することは許されない。即ち本件納金ストのように、組合員全員の民主的討議の下に決議され実行に移された場合には、その責任は全く組合自体が負うのである。組合幹部は組合に対して組合統制者として責任を負うことはありうるとしても、当然に対外的に即ち使用者に対して特別の責任が導き出されるべき何らの根拠もないのである。争議行為全体が違法であるからといつて、あるいは争議行為の一部に違法行為があつたからといつて、それが直ちに組合幹部の責任に結びつくのでなく、前者にあつては組合自体あるいは組合員全体がいわゆる民事免責を失い、損害賠償義務を負うことゝなり、後者にあつては違法行為をなした個々の組合員の責任が問題となるだけである。

本件の場合、仮りに納金ストが違法であるとしても、会社の被控訴人らに対する本件解雇処分が不当労働行為であることに変りがないというべきである。

四、その余の被控訴人西川、同船越の処分が不当労働行為である事実、本件解雇は解雇権の濫用であつて無効である事実等はすべて原審で述べたとおりである。

(控訴人の主張)

一、納金ストの不当性

1 被控訴人栗須・西・高見・大北ら(以下被控訴人らと略称)は、控訴人会社が昭和四一年度の夏季一時金の配分について原資を組合員と非組合員に分離して配分を行なつたことに対して差別待遇をしたと主張して、いわる納金ストの暴挙に出たのである。しかしながら夏季一時金の支払いについては、組合側は控訴人らとの交渉が妥結せず、右妥結を待つて非組合員に支給することは四囲の状勢から不可能になつたのであつて、非組合員従業員らの強い要望もあり、当時の組合と非組合員らとの組織勢力は相半ばしていたので、先づ支給したのである。

次に組合とは、八月十九日四一年度年間臨時協定書(疏甲第九号証)に基き遅れて支給したのである。

ところが被控訴人らは既に夏季一時金を受領しておりながら、組合外の未組織従業員らに対する夏季一時金について遡及して、これが取消しを迫るためにいわゆる納金ストを強行したのである。

このストが不当であることは、

(一) 既に組合は会社との協定書により、夏季一時金を受領して後になされた著しく信義則に反したストであること、

(二) 非組合員との差額について金額的な要求は何ら示さず、従つてストによつて獲得すべき経済的利益が特定していないこと、

(三) 第三者である非組合員に支給した夏季一時金の取消を求めるが如き不当な要求を含んでいること(このことは甲第五号証の通告書にもある通り)会社に「猛省をうながすため」と言うが如く何等の経済的要求を含まぬストであること、

(四) 非組合員、組合員との間に差別待遇を理由とするが、非組合員と組合員との差額は勤続年数一ヶ月につきわずかに十二円で、組合員勤続総月数二、〇九六月で、金額として総計二万四千円強にすぎないに拘らず、中小企業に致命的な長期納金ストを許すが如きは労使対等の原則に著しく違反する。

このように組合側の納金ストは、その理由を欠き、その必要性もなく、又一旦協定書に調印して、一時金の支給後になされた点で、その時期的な緊急性もなかつたものである。被控訴人らは会社側の業務を妨害する悪意に基いて納金ストを行なつたものと言わざるを得ない。

二、次に本件の納金ストの手段方法は、善良なる管理者としての注意義務に違反する程度の杜撰なものであつて、毎日の水揚料金も適格に把握されず、現に疏乙第二四号証に示すように日々の計算に過不足があり、総額において(十月一日現在)会社側入金予定三、一一六、七三〇円に対し組合側預金三、〇九九、〇一〇円で差引一七、七二〇円の不足を来している。又月々会社の管理下においては、料金不足或は運転手の一時借用等が毎月二十数件位があつたが納金スト中は全然これが把握されておらず一部走行料金の無断費消の疑問も残されており、このような生産管理方式による経営権の排除は法の認容していないところである。

三、本件納金ストは昭和四一年一〇月一日に解除されたのに拘らず、控訴人らに納金ストの金が返還されたのは一〇月二四日であり、しかも計算は相違しているのであつて、このような犯罪行為がストの名で許されることは許されないのであつて原判決は事実を誤認しているがために判断を誤つたものである。

尚、中小企業である控訴会社は納金ストにより疏乙第二五号証の如き経理上赤字に苦しんだことを附言する。

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