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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)289号 判決 1970年9月28日

控訴人兼反訴原告

○○○○

代理人

大田直哉

被控訴人兼反訴被告

×××××

代理人

田岡嘉寿彦

新堂賢二

主文

本件控訴を棄却する。

本件反訴請求を棄却する。

控訴費用および反訴費用は控訴人兼反訴原告の負担とする

事実《省略》

理由

一、本訴について

<証拠>を総合すると、被控訴人は大正二年八月二三日訴外中井藤蔵および同ノブ間に出生した同人らの長女であること、控訴人は大正一二年二月頃広島市内で訴外△△△△(昭和一二年に死亡)と某女の間の婚姻外の子として出生し、出生後程なく△△の近親者らに連れられて東京に行き、出生届を受けることなく直ちに日本キリスト教矯風会の幹部であつた訴外守屋東に預けられ、東京市内に所在した矯風会の孤児養育施設でされていたが、昭和三年控訴人が五才の頃、矯風会の関西支部長であつた訴外林歌子の世話で、父△△も承諾の上で訴外中井藤蔵および同ノブ夫婦の養子として貰われることになり、同夫婦に引き取られたこと、当時中井藤蔵夫婦は、子として被控訴人があつただけで男の子がなかつたので、控訴人を養子にする意思で貰い受けたのであつたが、控訴人の父母がなに人であるか知らされていなかつたので、養子縁組の代諾権者も詳らかでなかつたし、関係者一同(△△、その近親者ら、前記矯風会の幹部らおよび藤蔵夫婦)は戸籍簿に私生児として登載されると本人の将来の妨げになり、養子として登載されると控訴人と藤蔵夫婦との間の愛情を阻隔するおそれがあると考えていたので、関係者間にみぎ養子縁組の話合いが始まつた当初から、控訴人を藤蔵夫婦の嫡出子として出生届をすることに合意が成立していたこと、そこで、藤蔵は、昭和三年一一月五日、控訴人が大正一二年二月一一日東京府豊多摩郡大久保百人町三五六番地において藤蔵とノブとの間の長男として出生した旨の出生届をして戸籍簿にその旨の登載を受け、その後控訴人を実子同様に養育したこと、中井ノブは昭和三五年三月一日死亡し、中井藤蔵は昭和三九年六月二一日死亡したこと、以上の事実を認めることができる。

そうすると、控訴人は中井藤蔵および同ノブ間の嫡出子ではなく、したがつて被控訴人と控訴人との間には血族としての姉弟関係はないのに、戸籍簿上はみぎ両者間に血族としての姉弟関係がある旨が記載されているわけであるから、みぎ戸籍簿上の記載の訂正を受ける前提として、被控訴人との間には姉弟関係の存在しないことの確認を求める被控訴人の本訴請求は、正当として認容すべきものである。

控訴人は、被控訴人と控訴人との間には義姉弟関係があるから、被控訴人の本訴請求は失当であると主張するのであるが、被控訴人の本訴請求は、前述のように、被控訴人と控訴人との間には戸籍簿に記載されているような血族としての姉弟関係がないことの確認を求めるものであるから、たとえ被控訴人と控訴人との間に義姉弟関係があつたとしても、同事実は被控訴人の本訴請求とは無関係で本訴請求を阻止する理由には当らない。控訴人のこの点についての抗弁は、被控訴人と控訴人間の義姉弟関係の存否について判断するまでもなく理由がないこと明らかである。

二、反訴について

未だ出生届のない幼児について養子縁組をしようとする夫婦(以下、便宜上、事実上の養父母と云う。)が、その便法として、その幼児(以下、便宜上、事実上の養子と云う)が自分らの嫡出子である旨の出生届をした場合には、みぎ事実上の養父母と事実上の養子との間には、たとえその後長年の間、事実上実の親子同様の生活を続けたとしても、養子縁組は成立しないと解するのが相当である。けだし、一般に虚偽の身分関係の戸籍記載を他の身分関係の届出に転換して有効と認めることは、身分関係を公証する公簿である戸籍の信用性を失なわせ、また身分関係の混乱を招くので好ましくないし、みぎのような便法は各種将来の紛争の種を蒔くおそれがあるばかりでなく、養父母としてふさわしくない者が養父母となるおそれもあつて、その弊害はみぎのような便法のもたらす利点(例えば事実上の出生上の恥辱を隠蔽し、事実上の養父母と事実上の養子間の愛情の破たんを防止する等)を凌駕するので、このような虚偽の身分関係の出現はできる限り抑圧するのが望ましいところ、みぎ便法を法律上有効な養子縁組手続として認めるときは必然的にこのような便法の利用を著しく助長することになるからである。

本件の場合、前認定の事実関係によると、訴外中井藤蔵と同ノブ夫婦は当時出生届未了の状態にあつた控訴人を養子とする意思で事実上控訴人を養育していた訴外守屋東から貰い受け、藤蔵が控訴人を便宜上藤蔵とノブ間の嫡出子として出生届をしたのであるが、前示の理由により、みぎ出生届をもつて藤蔵およびノブ夫婦と控訴人との間に養子縁組成立の効力を認めることはできない。たとえその後みぎ夫婦と控訴人が親子として長年共同生活をしても、みぎ当事者に養親子関係は成立するに由ないものと云わねばならない。そうすると、藤蔵およびノブの長女である被控訴人と控訴人との間には義姉弟関係はないわけであるので、みぎ義姉弟関係の存在することの確認を求める控訴人の反訴請求は失当として棄却を免れない。

三、結論

以上の理由により、本訴についての当裁判所の判断と同旨の原判決は相当で、本件控訴は棄却を免れず、控訴人の反訴請求も棄却すべきものであるので、民訴法三八四条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。(三上修 長瀬清澄 古崎慶長)

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