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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)3号 判決 1970年4月22日

控訴人 前尾庄一

右訴訟代理人弁護士 河田功

被控訴人 森本貴一こと 山中一郎

主文

原判決及び手形判決(昭和四四年(手ワ)第八三六号事件)を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は当審口頭弁論期日に出頭せず、かつ答弁書その他の準備書面をも提出しなかった。

≪以下事実省略≫

理由

被控訴人が控訴人振出の手形として挙示する甲第一号証の振出人名義部分の成立は控訴人の否認するところであるので、右甲第一号証(横書き手形用紙を用いたもの)の表面振出人欄を検するに、同欄には「京都府宮津市住吉一七五七番地、近畿開発株式会社」なる記名と右会社名の下方に、これに添えて「前尾庄一」なる記名があり、さらに右両記名の右横に「近畿開発株式会社、社長之印」と刻した丸い印影が押捺されていることが認められる。右「印影」が、控訴人個人の印鑑に基く印影であることは控訴人の争うところで、被控訴人の全立証によるも、右が控訴人個人印の印影であることは認められないばかりか、右認定事実によると、むしろ右印影は、訴外人たる近畿開発株式会社の代表者印の印影と認められる。これを控訴人が、自己の個人印として使用していることを認めるに足る何等の資料もない。のみならず、前記の「記名」についても、これを控訴人個人の記名と見ること(即ち、前認定の住所と会社名の記載を控訴人「前尾庄一」の単なる肩書と見ること)は甚だ困難であって、右記載はむしろその文字の大きさ、形態、位置関係に照らして、訴外人たる前記会社の記名と解するを相当とする。尤も、右を訴外会社の記名として見るとき、会社名と個人名との関連ともいうべき右個人の会社に対する資格(代表者又は代理人の意味を持つ表示)が欠けているけれども、記名者本人と見るべき会社自身の記載は明らかに存在するから、単に、これに併記ないし添記された個人名につき、右会社との関連の記載が洩れているからといって、軽軽に、右会社名が記名者本人を表わすことまで否定せらるべきではない。のみならず、右記名に附加された印影には、前認定の通り、明らかにその印が会社代表者用印鑑たることの文字が顕出されているのであるから、右印影を綜合斟酌するにおいては、本件手形振出人の記名捺印は明白に前記訴外会社のそれと認むべきであって、到底控訴人個人の記名捺印とは解することはできない。なお≪証拠省略≫によれば右訴外会社は実在し登記されていることが認められるから、右会社の表示自体が実質的に控訴人個人の表示であると解する訳にもゆかない。

以上の判断によると、本件手形たる甲第一号証は、控訴人個人の作成、振出とは認められないから、控訴人が本件手形を振出したことを前提とする被控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。そうすると右請求を認容した手形判決を認可した原判決は失当であるから、右両判決はいずれもこれを取消し、被控訴人の請求を棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長判事 宮川種一郎 判事 竹内貞次 村上博巳)

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