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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)338号 判決 1971年8月06日

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を被控訴人、その余を控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、控訴人がカナダ国に本店を置き、東京都及び大阪市に営業所を設け、国際貿易、各種商品の製造販売を業としている外国会社であつて、米国会社パーカー社の日本において有する登録第一七一八六七号商標「PARKER」、指定商品万年筆、鉛筆特に機械的鉛筆及びインキとする商標権につき、パーカー社との間の契約により、地域は日本国全域、内容は指定商品全部、期間は昭和三九年一月一日から二年とする専用使用権の設定を受け、その後設定契約を更新するとともに登録を更新してきたこと、昭和四三年年四月控訴人から税関当局に対し「PARKER」の商標を付した指定商品の第三者による輸入の差止を求める趣旨の「無体財産権侵害物品についての輸入差止申立書」が提出され、パーカー社が米国において製造しかつ「PARKER」の商標を付して拡布したところの、いわゆる真正商品についても差止を求める旨控訴人が大阪税関に表明したことは当事者間に争いがない。そして<証拠>によれば、右輸入差止申立書提出以後、税関では右商標の付されている指定商品は、真正商品の場合であつても、専用使用権者たる控訴人から輸入同意書の提出がないかぎり、関税定率法二一条一項四号所定の「商標権を侵害する物品」に該当するものとして、その輸入について許可を与えない方針をとつたこと、そのため被控訴人が香港所在の商社リリアンス・カンパニーから買いつけた真正パーカー万年筆六〇〇本について、控訴人の輸入同意書を得ないで昭和四三年五月二四日輸入申告をしたのに対し、大阪税関長は同年一〇月三一日付文書をもつて商標権者の輸入同意書の取得がないので輸入を許可できない旨の通知をなしたことが認められる。

二、本訴は、前記事情のもとに、控訴人が被控訴人のなす真正パーカー商品の輸入を妨害しているとし、被控訴人のなす前記商品の輸入販売行為につき、控訴人が本件商標専用使用権に基づく差止請求権を有しないことの確認と妨害の排除を求めるものである。

ところで<証拠>によると、パーカー社と控訴人との間の前記専用使用権設定契約は、その後パーカー社から控訴人に対し昭和四五年五月一五日付書面によりなされた通知により、同年七月一日解除の効果が発生し、同年八月一七日、同年六月二六日の権利放棄を原因として専用利用権の登録抹消がなされた(右抹消登録の事実は当事者間に争いがない)。右専用使用権の消滅にともない、控訴人が昭和四五年六月三〇日付をもつて専用使用権設定契約の終了を理由として、輸入差止申立を撤回した。(右輸入差止申立撤回の事実は当事者間に争いがない)。以上の事実を認めることができる。

そうだとすると、現在においては、本件商標専用使用権の存在を前提として、被控訴人のなすパーカー商品の輸入販売行為につき、控訴人が右専用使用権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める請求部分は、前提たる専用使用権を有しない(他人のいわゆる真正商品の輸入・販売に対しては、たとえ専用使用権者があつても、同使用権を行使できない。)と控訴人が主張しこれが認められること前記のとおりであるから、理由がないことが明らかである。また輸入販売の妨害禁止を求める被控訴人の請求部分が理由のないことは原判決の説示するとおりであるばかりでなく、さらに現在においては、税関当局に対する控訴人の輸入差止申立が撤回されたことは前記のとおりであり、ほかに被控訴人のなすパーカー商品の輸入販売行為につき、控訴人において妨害をしていると認めるに足る証拠はない。したがつて右請求部分はいずれにしても理由がないといわねばならない。もつとも、<証拠>によると、本件専用使用権につき、昭和四一年三月一日、昭和四〇年一二月七日の権利放棄を原因として当初の登録が抹消されたが、即日昭和四一年一月一日から二年間の専用使用権の登録、また昭和四三年三月七日、期間を同年一月一日から二年間とする変更登録、さらに昭和四四年七月一五日、期間を昭和四三年一月一日から六年間とする変更登録がそれぞれなされていること、この間に被控訴人は、控訴人の専用使用権に基づく輸入差止申立によりパーカー商品の輸入が妨げられたとし、昭和四二年中に大阪地方裁判所に妨害排除を求める仮処分申請と本案の訴提起をなしたが、その審理中に当該輸入申告につき控訴人から輸入同意書が提出された等の理由で、仮処分申請と訴を取下げたこと、しかるに、昭和四三年四月初め再び控訴人から税関当局に対し輸入差止申立書が提出されたため、被控訴人は控訴人の輸入同意書を得ないかぎり、パーカー商品の輸入許可を受けられなくなつたこと、前記昭和四三年五月二四日の輸入申告(パーカー万年筆六〇〇本分)については、控訴人の輸入同意書が得られないわけではなかつたが、輸入同意書の提出がないかぎり真正商品であつても輸入許可を与えないとの税関当局の処置を不当とし、あえて輸入同意書を得ないで輸入申告をしたこと、その後控訴人は同年八月一九日の輸入同意書を最後に以後これを交付しない旨表明するにいたつたことが認められる。

被控訴人は、右の事情から、控訴人が再び専用使用権の登録を行ない、これに基いて輸入差止申立書を提出するおそれがあるので、本訴における確認の利益、妨害禁止の必要性があると主張する。しかし右の事実からは確認の利益、妨害禁止の必要性があると認められないばかりでなく、前示<証拠>によれば、前記昭和四一年三月一日の設定登録は昭和四〇年一二月七日付契約に基づくものであるが、実質的には昭和三八年一二月二〇日の契約(存続期間昭和三九年一月一日から二年間)の期間延長をなすべきところ、パーカー社と控訴人間の右昭和四〇年一二月七日付契約が新規契約の形式をとつていたため、特許庁の指導により期間変更登録でなく、当初の登録の抹消及び新たな設定登録という方法がとられ、外資に関する法律に基づく認可手続、商標法による登録手続に日時を要し、昭和四一年三月一日登録したものであること、また昭和四三年三月七日の期間変更の登録は昭和四二年一二月二〇日付契約によるものであるが、前同様認可手続等に日時を要して登録がおくれたものであり、その間昭和四三年一月一日から右登録のなされるまで第三者に専用使用権を対抗できなかつたため、右登録後改めて税関当局に対し輸入差止申立書を提出するにいたつたこと、そしてパーカー社による昭和四五年五月一五日付書面による解除は、商標使用権を販売業者に認めないとのパーカー社の長期的政策によるものであることが認められ、被控訴人の非難は当らないから、いずれにしても被控訴人の前記主張は採用できない。

三、以上説示のとおり、被控訴人の本訴各請求はいずれも理由がないから、右請求のうち専用使用権に基づく差止請求権不存在確認を求める部分を認容した原判決は、その限度においてこれを取消し被控訴人の請求を棄却すべく、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとする。

訴訟費用の負担につき考えるに、原判決は右差止請求権不存在確認の請求を認容すべきものとしているのであるが、その判示は原審最終口頭弁論期日の時点において正当であり、その後の控訴人側の事情変更により被控訴人は右請求につき

棄却の判決を受けるに至つたものであつて、右訴の提起および維持は権利の伸張または防禦に必要な面がなかつたとはいえない。

そこで、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九〇条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(山内敏彦 黒川正昭 金田育三)

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