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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)418号 判決 1971年6月24日

控訴人 株式会社 典宝

右代表者代表取締役 福田善太郎

右訴訟代理人弁護士 金子新一

同 金子光一

被控訴人 孫圭鎬

右訴訟代理人弁護士 中西清一

同 筒井貞雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。大阪地方裁判所昭和四二年(ケ)第三四九号不動産競売事件につき同裁判所が作成した代金交付表のうち、被控訴人に対する配当額金八四一、六三一円とあるのを取消し、これを控訴人の配当額に追加する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、控訴人において甲第一、二号証を提出し、被控訴人において右甲号各証の成立を認めると述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  控訴人が、訴外金淑子を債務者とし同人所有の本件不動産について、昭和三八年一一月八日および昭和三九年二月七日にそれぞれ債権極度額を金一〇〇万円とする主張のような各根抵当権設定登記を経たこと、控訴人がその主張の日に任意競売の申立をし、右申立記入登記の後に被控訴人が本件不動産につき控訴人主張のような根抵当権設定登記手続をしたこと、控訴人主張の経過を経て競落許可決定がなされ、主張のような代金交付表が作成されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  控訴人の主張は、根抵当権者の有する債権元本と利息または遅延損害金の合計額が当該根抵当権の債権極度額を超える場合に、配当を要する後順位抵当権者や一般債権者がないときは、超過部分についても右根抵当権者に競売代金を交付すべきことを当然の前提とするものである。そこでその当否について次に検討する。

(イ)  普通抵当権は特定の債権を担保するために設定され、対抗要件としての登記において右債権額が明示されるから、元本債権に関する優先弁済権の範囲は第三者にとって明らかである。しかし、時の経過にしたがい増大する利息、遅延損害金等については、これが多額にのぼり、後順位抵当権者等に不測の損害を与えることがあるので、民法三七四条は優先弁済を受けうる利息等の範囲を限定している。すなわち同条は抵当権により担保される債権の範囲を限定したものではなく、抵当権者が他の債権者に対して優先弁済権を主張しうる範囲を制限した規定であり、したがって右規定は抵当権設定者に対する関係においてはその適用がないと解される。そうすると、抵当権の目的物件が競売換価された場合、後順位の担保権者や配当を要する一般債権者が存しないときは、抵当権者は競売代金から債権元本および最後の二年分の利息のみならず、延滞利息、遅延損害金全部の弁済が受けられるのであって、普通抵当権の場合にあっては、控訴人の主張するような競売代金の交付がなされることがありうるわけである。

(ロ)  次に根抵当権は、将来増減変動すべき一団の不特定の債権を、設定行為をもって定めた極度額の限度において担保する抵当権である。その被担保債権は、債権の発生原因とされた基本契約の終了その他元本債権の特定を生ずべき時期までは流動的であるが、右時期に至って根抵当権の担保すべき元本債権は確定し、かくて根抵当権はこの確定した元本と利息、遅延損害金等を担保することになる。しかして、被担保債権である右元本、利息等の合計額が債権極度額(判例ならびに取扱実務上は、根抵当権設定登記の記載いかんにより債権極度額と債権元本極度額とに分け、後者に限り民法三七四条の適用を認めているが、本件は前者の場合であるから、以下これに限定して考える)を超える場合には、優先弁済権の範囲が右極度額に限られることはいうまでもないが、根抵当権の性質上、その行使自体も債権極度額の範囲に限定されるものと解するのが相当である。これを普通抵当権における民法三七四条の制限と較べてみると、後者は前示のとおり第三者に対する優先弁済権の範囲を制限するにすぎず、抵当権行使の限度を画するものではないのに対し、根抵当権における債権極度額は優先弁済権の範囲を限定するだけでなく、さらに進んで被担保債権についての根抵当権行使の限度、換価権の限度をも示すものということができる。

したがって、根抵当権における債権極度額の右制限は根抵当権設定者に対する関係にも及び、競売代金をもって根抵当権者の被担保債権をその極度額の限度で支払ってなお剰余を生じ、しかも後順位担保債権者や配当を要する一般債権者が存しない場合には、その剰余金は根抵当権設定者に交付されるべきであって、根抵当権者が債権極度額を越えてなお被担保債権を有していても、競売手続として右根抵当権者に剰余金を交付すべきではないと解するのが相当である。

してみると、根抵当権に関しては控訴人の前記前提を採用することはできない。

三  控訴人は、本件配当期日において、根抵当権設定者兼債務者たる訴外金淑子に対し、本件各根抵当権によって担保される貸付債権元金各一〇〇万円と、これに対する遅延損害金各五九万九四二〇円の債権を有していたというのであるが、右元金と損害金の合計各一五九万九四二〇円のうち、債権極度額に相当する各一〇〇万円については本件不動産の競売代金から弁済を受けることができ、競売裁判所が作成した代金交付表においても控訴人に対し合計二〇〇万円の交付がなされることになっているのであって(ただし、本件の場合は法定充当に関する民法四九一条の規定にしたがい、まず損害金から充当されるべきである)、控訴人は本件競売手続においては右限度の弁済で満足するのほかない。しかして、前説示にしたがえば、控訴人はその有する被担保債権中、本件各根抵当権の債権極度額合計二〇〇万円を越える部分については、本件競売手続によってそもそも弁済を受けえないのであるから、競売代金より右極度額相当金を支払った残余額がどのように配当、交付されようと、控訴人はこれについて何ら異議を申し立てうる筋合いではない。

しからば、被控訴人に対する配当を不当として代金交付表の是正を求める控訴人の本訴請求は、控訴人、被控訴人の根抵当権の対抗、配当手続における優劣などを論ずるまでもなく、理由のないことが明らかであるから棄却を免れず、これと結論を同じくする原判決は相当である。よって、本件控訴を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤孝之 裁判官 今富滋 藤野岩雄)

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