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大阪高等裁判所 昭和45年(ネ)809号 判決 1971年11月18日

第一審原告(第八〇九号事件被控訴人)

(第八七一号事件控訴人)

三好正太

代理人

杉谷義文

杉谷喜代

第一審被告(第八〇九号事件控訴人)

(第八七一号事件被控訴人)

サンキュータクシー株式会社

代表者

出口寿栄子

代理人

越智比古市

主文

原判決中第一審被告敗訴の部分を取消す。

第一審原告の請求を棄却する。

第一審原告の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告訴訟代理人は、第八七一号事件につき「原判決中第一審原告敗訴部分を取消す。第一審被告は第一審原告に対して金一二、九五五、〇〇〇円及び内金一一、七五五、〇〇〇円に対する昭和四二年八月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする」との判決及び仮執行の宣言、第八〇九事件につき控訴棄却の判決を求め、第一審被告代理人は、第八七一号事件につき主文第三、四項、第八〇九号事件につき主文第一、二、四項と各同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する主張及び証拠の提出援用認否は、第一審原告訴訟代理人において、

一、第一次的には自動車損害賠償保障法第三条にもとづく損害賠償を、第二次的には民法七一五条の規定にもとづく損害賠償を請求し、民法第七〇九条(第四四条)の主張は撤回する。

二、昭和四二年八月二二日、第一審被告の従業員で、事故車の当番乗務員であつた野田隆が無断欠勤をしたが、第一審被告はその事実を知りながら、事故車を同日朝から原判決末尾添付見取図の事故車の駐車地点に、エンジンキーをキーボックスに差込み、ドアの鍵もかけないまま放置していた。このような場合、第一審被告の車両の保管並びに運行責任者である営業課長浅倉秀雄としては、エンジンキーを抜き、事務所内の然るべき保管場所に保管し、無断運転を未然に防止すべき義務があるのに、同人はこれを怠つていた。たとえ第一審被告の車庫内とはいえ、人の出入りは容易で部外者の抑制が十分に行われず、裏門は開放せられたままであるから、エンジンキーを車内に放置すれば無断運転されることは十分予想され、現に約一箇月前にも同一犯人に車両の乗逃げをされ、七〇〇〇円のタクシー営業行為の末、路上に放置されていたことがあり、再度無断運転されることは十分予見できたはずであり、事故車の保管が杜撰であつたことは明白である。そして、右浅倉の車両の保管責任懈怠の過失が訴外川口力の無暴運転行為に加功して本件事故が発生したものである以上、第一審被告は民法第七一五条により使用者としての責任を負担しなければならない。

三、第一審被告は、警備員として野田、荻野の両名を監視の任に当らしめた旨主張するが、もともと同人らは警備の専従者ではなく、夜間の車両の故障に備えて当直していたにすぎず、駐車場内の見廻り、盗難防止等はしていない。同人らは、川口が侵入して事故車を裏門から乗り出したのも全く目撃せず事故発生後、警察から連絡あるまで事故車の盗難を知らなかつたものである。

四、自動車は、文明の利器であると同時に、運転の如何によつては多数人を殺傷する凶器となるもので、国が全自動車を強制的に保険に加入させる理由もここにあり、自動車はいわば潜在的凶器なのである。しかも、無断運転は、事故の帰責が往々にして困難であり、自己の車両でないことの安易さから、運転は無暴となりがちで、車故の発生率は通常のものを上廻ると思われる。盗難車による犯罪あるいは事故が多数発生していることは吾人の経験するところで、車両の盗難は事故を予見することが可能であり、相当因果関係があるといえる。と述べ、<証拠>略

第一審被告訴訟代理人において、

一、第一審原告は、運行供用者を抽象的一般的に当該自動車を自己のために運行の用に供している地位と解すべきであると主張するが、実際問題として、事故が発生した場合、具体的運行の内容が明確にされてから責任主体が決定される以上、それを無視して責任主体を抽象的一般的に定めることは不当である。

二、第一審被告の被用者らは、第三者に対する加害行為をなんらしていない。事故車を窃取されたとき、第一審被告は、夜間当直者として営業課長浅倉秀雄のほか、盗難防止のための警備員として整備士野田和男、同荻好忠和を常駐させていたのであるが、同人らの不注意から事故車を窃取されたことは第三者に対する加害行為ではなく、第一審被告に対する債務不履行の要件を具備していても、第三者に対する不法行為としての要件は具備しておらず、第一審原告が訴外川口力から受けた損害の発生との間に相当因果関係もない。

三、自動車の運行管理者は道路交通法第七五条にその義務が規定され、整備管理者は道路運送車両法第五〇条にその選任が定められているが、前者は、運行それ自体が道路交通上一般人に直接影響を及ぼすためその義務を厳重に定めているのに反し、後者は、自動車の点検及び整備並びに自動車車庫の管理に関する事項を処理すると定めているのみである。運行のために車庫を出てから入庫するまでは運行責任者、入庫後出庫までは整備管理者と、両者の責任範囲は明確に分れている。本件の場合に、事故車の担当乗務員野間隆がエンジンキーを差し込んだまま、ドアの鍵もかけないで事故車を車庫内に放置し、裏門の一方の鍵をかけていなかつたことは、車庫内のことであり、運行管理者に責任はない。また整備管理者としても、車庫の構造及び車庫内での格納方法等については法的規制がなく、一般タクシー営業者においては、車庫内で点検、整備等をしたり、車庫外からの火災台風等の天災(本件の場合も事故車が窃取されたのは、台風一八号による注意報の解除後三〇分のことである)の場合の緊急避難にそなえて、自動車を移動できるように、エンジンキーを差し込み、ドアの鍵をかけないで格納し、車庫の出入口の扉にも施錠しないのが普通であり(車庫内に不法侵入をして車を盗むような悪質な泥棒にとつては前記の処置は問題でない)、整備管理者に責任があるとも一概にはいえず、しかも第一審被告はその欠点を補充するために警備員を常置していたのである。

四、事故車を盗取されたときに、警備員がこれに気付がなかつたのは、車庫内の自動車の天災、人災、ことに盗難を防止するため監視する任にある警備員として責任があるが、その責任は一般人に対するものではなく、第一審被告に対する義務上のもの、すなわち債務不履行上の責任である。この場合に警備員らの予見し、または予見し得べかりし事実は、自動車の盗取であり、その事実から通常の経過において生じる損害は、第一審被告の自動車紛失による物的損害そのものである。従つて、川口の事故車の運転による第一審原告の受傷という異常な結果までも予見できるものではなく、警備員がその責任を果さなかつたため盗取に気づかなかつたからといつて、第一審被告が本件事故による第一審原告の損害を賠償すべき義務はない。

五、かりに、第一審被告に本件事故の責任があるとしても、訴外川口が運転を誤り、本件事故を発生させたことにつき、第一審原告にも過失があつたから、過失相殺がなされるべきである。すなわち、第一審原告らは、当日堺市において飲酒酩酊し、その余勢をかつて、深夜にもかかわらず売春婦を求めて川口の運転する事故車に乗り込み、尼崎市の売春街初島に案内させる途中、本件事故現場に差しかかつたものであるが、その際、第一審原告らは、酔余、年若い川口の再三の制止にもかかわらず、うるさく話をもちかけ、運転に差支える程度に達したので、川口は遂にたまりかねて、静かにするよう後方に振り返つて注意をし、前方への注意を怠つた結果、本件事故を生じさせたものである。およそ乗客たるものは、運転者に対し運転を誤らせないよう、言動を慎しむべきであるのに、第一審原告はこれを怠り、本件事故を生じさせたのであるから、川口と第一審原告とは五分五分の責任がある。

六、また、第一審原告が本件事故による傷害につき船員保険法により給付を受けた保険金は、本件請求から減額されるべきである。

と述べ、<証拠>略

ほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一、第一審被告が四四台の営業車と九十余名の従業員を使用しているタクシー会社であり、本件事故車(営業用普通乗用自動車、大五け二二〇二号)を所有していたこと、及び訴外川口力が昭和四二年八月二三日午前一時五分頃、第一審被告に無断で事故車を運転していたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、右川口は、前記日時頃、大阪市港区市岡元町一丁目四五番地附近路上において、事故車を東から南西に向つて運転していたもので、その運転中、同番地先路上の市電安全地帯に事故車を接触させ、その衝撃で、事故車に同乗していた第一審原告を路上に転落させ、負傷させたことが認められる。

二、第一審原告は、本件事故は川口の事故車の無断運転によるものとはいえ、第一審被告が同車にエンジンキーを差し込んだまま車庫内に放置していたものを、同人が一時的に運転したにすぎず、第一審被告の運行供用者としての地位は保持されていたから、第一審被告は本件事故による損害を賠償すべき義務があると主張するのに対し、第一審被告は、本件事故は川口が事故車を窃取して、第一審被告の支配を排除し、川口自身のため運行の用に供していたときに発生したものであるから、第一審被告に運行供用者としての責任はない旨抗争するので按ずるに、<証拠>を綜合すると、次のような事実が認められる。

1、第一審被告は、肩書地の東西約四三メートル、南北約58.5メートルの土地のうち、東側約三分の二の部分を、事務所兼車庫の敷地として使用し(西側約三分の一は社宅建設予定地)、周囲を高さ約二メートルのブロック塀で囲み、北側の幅員約一五メートルの道路に面して正門を、南側の幅員約六メートルの道路に面して、中央部と西端の二箇所に、裏門を設けていた。正門は事務所の斜め前にあり、扉はないが、裏門は、いずれも事務所内部からの見とおしがきかず、ともに鉄製の扉が取り付けられていた。構内への自動車の出入りは、道路工事等のため正門からの出入りに支障があるような場合を除いて、正門が使用され、裏門は、通常、昼夜を問わず、扉が閉じられていて、ただ施錠はされていなかつた。構内には右事務所(建物の一部は運転手の休養室に使用)のほか、有蓋車庫兼洗車場や無蓋車庫その他の附属施設があり、その配置の機略は、原判決末尾添付見取図(既略図)記載のとおりである。右有蓋車庫兼洗車場は、トタン屋根を鉄骨で支持しているだけで、隔壁や扉は設けられていない。

2、昭和四二年八月二二日(本件事故の前日)午前一一時から翌日(事故当日)午前一一時までの事故車の当番乗務員であつた野田隆が無断で欠勤し、第一審被告の営業課長浅倉秀雄は、点呼によりこの事実を知つていたのに、同日朝から、事故車を、有蓋車庫のうち、南西隅の裏門に近い、前記見取図記載の事故車の駐車地点の附近に、エンジンキーを差し込み、ドアの鍵もかけないままの状態で(この点の事実自体は当事者間に争いがない)放置していた。もつとも、同月二一日午後九時、大阪管区気象台から、台風第一八号接近のため風雨波浪注意報が発令され、一時は、構内にある自動車をいつまでも移動できる態勢をととのえておく必要も存在したが、右注意報は、翌二二日午後一〇時三〇分に解除されており、台風の通過にともなつて、右のような必要性は、それ以前に事実上消滅していた。

3、川口は、タクシー車を盗み出して数時間タクシー営業をしたのち乗り捨て、小遣銭を得ようと企て、事故前日(二二日)の午後一一時頃、扉に施錠がなく、台風後のことでもあり、扉が開いていた裏門の一つから、第一審被告の構内に侵入し、事務所や構内に誰も見当らず、右のとおり裏門附近に、事故車がドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだまま置いてあるのを発見して、これに乗り込み、右エンジンキーによりエンジンを始動し、裏門から乗り出して事故車を勝手にタクシー営業行為をしているうちに、本件事故を発生させた。

当時、第一審被告の営業課長浅倉秀雄、整備士野田和男、同秋好忠和の三名が当直者として前記休養室にいたが、川口が事故車を乗り出し、窃取したことには全く気付かず、本件事故発生の知らせを受けて、はじめてこれを知つた。

4、右川口と第一審被告との間には、雇傭関係その他の人的関係はなんら存在しない。

5、川口は、自動車の運転資格を持つていないが、以前自衛隊員であつたときに自動車の運転技術を習得しており、本件事故前にも、深夜タクシー会社に侵入してタクシー車を盗み出し、タクシー営業をして利益を得ていたことが四回あり、そのうちの一回は、本件事故の二〇日余り前の同年八月一日午前二時頃、第一審被告の構内に侵入し、運転手が食事のためエンジンキーを差し込んだまま本件の場合とほぼ同じ場所に駐車させていたタクシー車を窃取し、タクシー営業をしたうえ、大阪市西淀川区内に乗り捨てたものであつた。しかし、第一審被告が、この第一回目の盗難のあと、本件事故までに盗難防止のための具体的な対策を構じた形跡はない。

6、なお、事故車の車体には「サンキュー」と第一審被告名が大書され、その所有者が第一審被告であることは、一見して明瞭であつた。

以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、右認定の事実によると、本件事故を発生させた訴外川口力は、第一審被告との間になんら人的関係のない第三者であつたのであり(人的関係の不存在)、川口は事故車を勝手にタクシー営業行為に使用し、第一審被告の利益に反して、自己の利益を得たうえ(運転利益の帰属の不存在)、乗り捨てる意図のもとに事故車を盗み出したもので、従つて自身で第一審被告に返還する意思はなく(返還予定の不存在、車体に「サンキュー」と大書されているため、乗り捨てたあと第一審被告になんらかの方法で回収される蓋然性が存在することは、容易に考えられるところであるが、川口がその責任において返還を予定していたとは認められない)、その運転につき事後的に第一審被告の許容を期待しうるような関係には全くなかつた(許容の予測可能性の不存在)のであるし、また、事故車の保管状況からみても、ドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだままであつた(事故車の保管方法の杜撰なことが、第一審被告の担当従業員の第一審被告に対する債務不履行責任上の過失とはなつても、本件事故との間に因果関係の存在を認め難いことは、のちに認定する)とはいえ、一般人の通行の用に供される道路上に、あたかも一般通行人の運転を許容するかのように、一般通行人が極めて容易に運転できる状況のもとに放置していたというわけのものではなく、周囲をブロック塀で囲まれた第一審被告の営業所内に保管していたのに、川口は、扉が開いていたとはいえ、深夜裏口からタクシー車を盗み出すつもりで侵入し、事故車を窃取したものであつて、これらの事情を総合すると、事故車に対する第一審被告の支配は、川口が事故車を盗み出したときに排除せられ、本件事故のときには右川口のみが事故車の運行を支配し、運行利益も同人に帰属していたものというべく、本件事故につき第一審被告に運行供用者としての責任があるとすることはできない。

従つて、本件事故につき第一審被告に運行供用者としての責任があることを前提として、第一審被告に対し自動車損害賠償保障法第三条の規定による損害賠償を求める第一審原告の請求は、その前提を欠く点において、すでに失当たるを免れない。

三、そこで、第一審被告の車両保管ならびに運行責任者である浅倉秀雄の事故車の保管上の過失と本件事故の間には相当因果関係があるから、第一審被告はその使用人として、民法第七一五条にもとづく損害賠償の義務があるとの第一審原告の予備的請求原因について判断するに、前認定の事実によると第一審被告は、事故車を窃取された二〇日余り前にも、深夜、エンジンキーを差し込んだまま構内に駐車させていたタクシー車を窃取され、乗り捨てられたことがあるのに、盗難防止のための具体的な対策を構じた形跡はなく、事故車を窃取されたときにも、当直者である営業課長浅倉秀雄は、事故車のドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだまま事故車を長時間放置し、かつ裏門の一つを開いたままとしておき、このことが川口に事故車の窃取を可能ならしめる一因となり、また当直にあたつていた右浅倉及び第一審被告の整備士野田和男、同秋好忠和は、休養室にいて窃取された事実に気付かなかつたのではあるけれども、右のような事故車の保管上の手落ちは、右浅倉及び野田、秋好らの、第一審被告に対する職務上の義務違背、すなわち債務不履行責任上の過失とはなりえても、川口の事故車窃取という不法行為自体について、その共同不法行為者としての過失責任を認めることに関しても、相当因果関係の点ですでに困難というべきであり、まして、川口が事故車を運行することにより発生させた本件事故と、前記のような保管上の手落ちとの間に相当因果関係があるものとは到底認められない。このことは、過失よりも強い原因である故意に関して、自動車を貸し与えた場合に、借主が運転資格を有していないとか、飲酒していたというような特段の事故予見可能事情のない限り、借主が事故を発生させても、貸主が自動車を貸し与えた行為自体をとらえて、右事故と相当因果関係のある不法行為とすることができないこと(自動車の売渡人についても、運行支配や利益の問題を別論として、因果関係だけについて論ずるときは、右と同様に立論される)からも明らかである。第一審原告は、潜在的凶器であり、ことに無断運転の場合には、運転者への帰責が往々にして困難であり、自己の車両でないことの安易さから運転が無暴となりがちで、事故発生率も通常の場合を上廻ると思われ、車両の盗難は事故を予見できると主張するのであるが、たとえ無断運転ないし泥棒運転であつても、好んで事故を起す者はなく、事故そのものは多く運転上の注意の不足という運転者たる人の意思によつて左右される性質のものであり(因果関係中断原因)、自動車を潜在的凶器といい、あるいは走る兇器と呼ぶのも、所詮は比喩的表現にすぎず、保管と事故との関係の緊密性は、爆発物のようにその保管自体から直接事故が発生する可能性が強いことから、ひいてその保管方法自体に細心の注意が要求されるものとは、おのずからその性格を異にするものがあり、また保管自体から生ずる危険性よりも、その使用に関して生ずる危険性の方が遙かに強い刀剣や銃砲等のいわゆる凶器類の域にも達しない(これらの凶器類でさえ、その使用者の過失に因る結果が、単純譲渡人の譲渡行為にまで帰責される場合は稀である)というべきである。結局自動車についてはそれが道路上に、あたかも、運転資格を問うことなく、一般通行人の運転を許容するかのように、一般通行人の誰でもが極めて容易に運転できる状況に自動車を放置したため、運転無資格者や泥酔者が運転し、所有者がこれらの者に運転を許容したのと同視できるような故意に近い重過失のある特殊な場合はさておき、少くとも本件のように、周囲をブロック塀で囲んだ営業所の構内に保管されていた自動車が盗み出された場合には、保管上の手落ち自体をとらえて、運転自体の過失から生じた事故との相当因果関係を肯定し、これを以て、保管上の過失による事故としての不法行為とすることはできない。

従つて、右相当因果関係の存在を前提とする第一審原告の予備的請求もまた理由がない。

四、そうすると、第一審原告の請求はすべて失当として棄却すべきものであるから、原判決中、第一審原告の請求を一部認容した部分は、第一審被告の控訴にもとづいてこれを取消して、第一審原告の請求を全部棄却し、第一審原告の控訴は失当であるから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。(宮川種一郎 林繁 平田浩)

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