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大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)202号 決定 1970年8月26日

抗告人 西畑すみ子(仮名)

相手方 西畑幸子(仮名) 外二名

主文

原審判を取り消す。

本件を和歌山家庭裁判所に差し戻す。

理由

抗告人の抗告の趣旨、理由は別紙のとおりである。

一  (1) 原審判は、被相続人西畑庄助の遺産として原審判書添付第一、第二目録に記載の各物件(以下第一物件、第二物件という)を認定し、相続人である妻西畑幸子、長女西畑すみ子、二女西畑道子、養子西畑喜一(現在は大谷喜一)の四名に対する遺産分割として、各物件(土地、建物)を鑑定評価のうえ、第一物件については幸子(法定相続分九分の三)と道子(同九分の二)の両名に対してはその相続分を合した九分の五に相当する物件を分割して共有取得させ、残余の九分の四に相当する物件をすみ子(法定相続分九分の二)の取得とし、第二物件については幸子、道子両名に同様九分の五に相当する物件を共有取得させ、残余の九分の四に相当する物件は喜一(法定相続分九分の二)の取得と定めた(但し各取得分の評価額の過不足は債務負担の方法で調整されている。)。

しかし、第一物件の合計評価額と第二物件の合計評価額とを比較すると著しい相違があるから、原審判のような分割方法をとると、すみ子と喜一の相続分は同率であるにもかかわらず両名の各取得物件の評価額は甚だしく均衡を失し、元来遺産分割は相続分に応じて公平にしなければならないとする法規上の要請に反することになる。

(2) 原審判は前記のような分割をした理由として、

(イ)  喜一とすみ子間において一旦第一物件はすみ子、第二物件は喜一の各単独所有とする旨の協議がなされ、その旨の登記手続もなされた事実、

(ロ)  第一物件については幸子、道子の両名とすみ子との間の訴訟の確定判決に基づき、すみ子の共有持分を九分の四とする所有権取得登記がなされていること、

(ハ)  喜一はすみ子に対し第一物件について何らの権利も主張していないこと、

等の諸点を重視したことによるものとしている。

(3) よつて検討するに、記録によると、さきに遺産分割を原因として第一物件全部をすみ子の単独所有、第二物件全部を喜一の単独所有とする所有権移転登記がなされたところ、幸子、道子の両名はみぎ登記原因たる遺産分割の協議成立の事実を争い、すみ子、喜一を被告として第一、第二物件に対する所有権(共有持分)確認および所有権移転登記抹消登記手続請求の訴訟を提起し、第一審で原告ら全部勝訴の判決があり、喜一は控訴しなかつたので第二物件についてはみぎ判決は確定し、すみ子は控訴したが控訴棄却の判決がなされ、これに対し更に上告し、上告審では所有権移転登記抹消登記手続請求部分を破毀して控訴審に差し戻し、差し戻し後の控訴審で、第一物件について、被控訴人幸子は九分の三、同道子は九分の二、控訴人すみ子は九分の四の各持分による更正登記手続を命ずる旨の判決をなし、この判決は確定したことが認められ、みぎ訴訟の経過については原審判においても認定しているところである。

してみれば、前記判決により遺産分割の協議成立の事実が否定された結果、第一、第二物件とも分割前の相続財産として各相続人の相続分に応じた共有関係となつたのであるから、以前にすみ子と喜一のみを相続人とする前提の下に両者間に如何なる協議がなされていてもすべて無効であり、本件遺産分割の審判に当つてはそのような協議のあつた事実はもはや考慮してはならないことである。

ところで、前記差戻し後の控訴審の判決で、第一物件につきすみ子の持分を九分の四とする更正登記手続を命じたのは、幸子は相続による共有持分九分の三、道子は同九分の二の限度を超える抹消登記手続を請求することは許されず、その権利関係に符合する共有持分の限度においてのみ更正登記手続の請求が許されるものとし、その結果としてその余の九分の四の共有持分は登記簿上すみ子に残ることになるから、幸子の持分を九分の三、道子の持分を九分の二、すみ子の持分の九分の四とする更正登記手続をなすべき旨の判決をしたまでのことであつて、みぎ判決によつて確定的な権利としてすみ子の共有持分権が九分の四と確定されたものではない。従つて更に喜一からすみ子に対し、喜一の持分を九分の二、すみ子の持分を九分の二とする更正登記手続の請求ができるわけである。

また、喜一はすみ子に対し、第一物件につき何らの権利をも主張していないというが、記録によると、本件の調停手続中において、喜一は遺産分割案として第二物件のうちの一部のみを取得する案を提示し、幸子、道子はその案に同調した事実が認められるけれども、調停が不調となつて審判に移行した以上、調停手続中の個々の相続人の分割案や一部の相続人間の協定等は一切白紙に還つたのであるから、審判においては各相続人の相続分に応じた分割をしなければならない筋合である。

(4) 要するに、原審判は、幸子、道子については一応相続分に応ずる取得分を定めたが、すみ子、喜一については何ら合理的な理由とならないことを斟酌して、安易に両名の相続分に添わない著しく衡平を失する分割方法によりそれぞれの取得分を定めたのは違法というべく、しかも、両者間の争いは別訴で解決すべきものとしたのは、一部遺脱の審判ともいえるし、いずれにしても原審判は取消しを免れない。

二  つぎに、原審判は第一、第二物件のみを遺産として分割の審判をしたが、幸子、道子から前記の訴訟が提起された経緯からみて明らかなように、相続人間において、第一、第二物件について紛争が生じたことから、当面みぎ物件について本件遺産分割の調停、審判の申立てがあつたものと考えられるが、およそ遺産分割の調停或は審判をなすに当つては、まず遺産の範囲を確定することを必要とするところ、記録を精査してみても、その他に遺産が存在するか否かの調査が行なわれた形跡のみられない本件にあつては、第一、第二物件のみを遺産としたことには疑問なしとしない。

そしてまた、記録によると、抗告人は調停手続中で、被相続人、西畑庄助は死亡直前頃田地五反を小作人であつた山形安雄に代金約五〇万円で売却し、その売得金を幸子、道子の両名に贈与した事実のあつたことを主張している。もしそのような事実があつたとすれば、その贈与金額は特別受益財産とし、これを遺産の価額に加算したものを相続財産とみなしたうえ、民法第九〇三条の規定に従つて処理しなければならないこととなる。しかるに原審判ではそのような特別受益財産(いわゆるみなし相続財産)の有無について何ら調査することなく遺産分割の審判をしたのは、この点においてもまた、相続財産を確定せずにした審判であつて不当とせざるを得ない。

三  以上の理由により、本件は更に事実調査のうえ遺産の範囲を確定し、適正衡平な分割方法を講じる必要があると考えるから、その余の判断をするまでもなく、原審判を取り消し、本件を和歌山家庭裁判所に差し戻すべきものとし、家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三上修 裁判官 長瀬清澄 古崎慶長)

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