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大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)296号 決定 1971年3月30日

抗告人

植田精吾

他二四名

代理人

木村保男

他四八名

相手方

主文

一  原決定中抗告人植田精吾、杉浦きく、杉浦敏子、武川陽之助、大東芳次郎、大橋とめ、伊藤隆雄、多田佐恵子、細見栄次、井下喜夫、十七巳之助、田井中一枝、中井誠一、米田久野、細川勝巳の分を取り消す。

大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件についてみぎ抗告人らに対し訴訟上の救助を付与する。

二  原決定中抗告人植田祥子、嘉松幸一、生駒竜輔、半田俊雄、平川利一郎、吉森忠雄の分を取り消す。

前項の事件について、みぎ抗告人らに対し、鑑定および鑑定証人に関する費用に限り訴訟上の救助を付与する。

三  抗告人久保二郎、長井孝一、森島勇の本件抗告を棄却する。

四 抗告人岡山敏雄に関する本件訴訟救助の申立ては同抗告人の死亡によつて終了した。

五  本件申立て費用は一審、二審を通じ、相手方と主文第三項掲記の抗告人らとの間に生じたものは同抗告人らの負担とし、相手方と抗告人岡山敏雄との間に生じたものは、同抗告人(相続人)の負担とし、そのほかの抗告人らと相手方との間に生じた分は、相手方の負担とする。

理由

一抗告人らの申立の趣旨

(一)  原定を取り消す(ただし抗告人岡山敏雄をのぞく)

(二)  大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第七〇七七号大阪国際空港夜間飛行禁止等請求事件について、抗告人らに対し訴訟上の救助を付与する。

(三)  抗告人岡山敏雄の訴訟救助申立は、同人の死亡によつて終了した。

二抗告人らの本件抗告の理由

抗告人らは、民訴法一一八条によつて、前記訴訟事件の訴訟救助を付与されるのが相当である。

なお、抗告人岡山敏雄は昭和四五年一一月七日死亡したので、同抗告人の本件救助申立事件の終了宣言を求める。

三当裁判所の判断

(一)  抗告人岡山敏雄の抗告について

訴訟救助は、それを付与されたものの一身専属的性質を有するものであるから、訴訟救助を受けたものが死亡すれば、その救助の効力は消滅し、相続人に及ばない(民訴法一二一項一項)。

このように訴訟救助は、それを求めるものの一身専属的性質を有する以上、訴訟救助の申立てをしていたところ、一審で却下され、抗告中に死亡した場合、その地位が相続人に承継されず、相続人が訴訟救助の付与を得ようとするときに、改めて、本訴の係属する一審にこの申立てをするほかないと解するのが相当である。

本件記録によると、抗告人岡山敏雄は一審の却下決定(昭和四五年八月一一日)後である同年一一月七日死亡したことが認められるから、同抗告人の本件申立ては、相続人に承継されることがなく、終了したとしなければならない。

そこで、同抗告人の本件申立ては、死亡により終了した旨の宣言をする。

(二)  そのほかの抗告人の抗告について

(一) そのほかの抗告人(抗告人らという)の提起している大阪地方裁判所昭和四四年(ワ)第七〇七七号事件について、抗告人らが勝訴の見込がないでもないことは、本件記録によつて明らかである。

(二) そこで、次に、抗告人らは「訴訟費用を支払う資力なき者」に該当するかについて判断する。

(1)  「訴訟費用の支払う資力なき者」とは「自己とその家族の必要な生活を危くしないでは訴訟費用を支払うことのできない者」を指称するから、いわゆる生活扶助を受けている者よりも広いわけである。そうして、具体的には、自己とその家族の家庭生活の存続維持に欠くことのできない必要経費額と収入との相関関係を目安にしなければならない。

訴訟救助の制度は、訴訟に必要なすべての経費の支出を猶予するわけではなく、当事者が義務づけられる種々の支出のうち、裁判費用すなわち、当事者が裁判所に納入しなければならない費用についてだけ(民訴法一二〇条一項前段)で、これ以外の経費たとえば弁護士に対する費用、訴訟の提起のための調査、研究費などは当事者が負担しなければならない。従つて、この意味では、決して完全な制度ではない。それにも拘らず、この不完全な訴訟救助を付与するについて、貧困者を狭く制限するとき、この制度は、全くその機能を果し得なくなる。

このような事情を考慮するとき、この制度の運用に当つては、「訴訟費用を支払う資力のない者」を社会通念上の貧困者と狭く限らず、訴訟救助制度上の貧困者という個有の概念づけをして、経済上の理由から、当事者の裁判を受ける権利が奪われないようにする必要がある。

(2)  この観点に立つて本件記録を精査する。

(イ) 昭和四四・四五年度の給与所得者の課税最低限は、夫婦、子供二人で金九〇万〇、一八五円、夫婦、子供三人で金一〇五万九、〇四〇円である。勿論これは、税制度上の政策に関するものではあるが、訴訟救助の基準を決定する一資料になる。

(ロ) 昭和四四年七月の全国金属労働組合加入の組合員の平均賃金は、最低金二万〇、九四二円から金二万九、五〇〇円まで、最高金六万八、〇〇〇円から金一〇万一、六〇〇円までである。これは、平均の収入を知るうえの一資料となる。

(ハ) 総理府統計局の家計調査報告によると、昭和四五年九月の大阪市の世帯当りの一か月の収入と支出は次のとおりである。

一世帯の人員数三、七九人、実収入金八万九、三二九円、実支出金八万一、九七四円、黒字七、三五五円

この数字からすると、金八万一、九七四円の収入のものは、全く余剰がないことになる。これを年収にすると、金九八万三、六八八円になる。

この額は、(イ)の課税最低限とほぼ一致する。

(ニ) 以上(イ)ないし(ハ)から結論づけられることは、年収金一〇〇万円までの者は、収入から生活費を控除したとき、全く余剰がなくなることになるから、これに該当する者は訴訟救助を付与すべき貧困者というに妨げない。

(3)  抗告人ら中これに該当する者は、別紙の当事者目録中乙申立人がこれに当るほか、同目録中丙申立人のうち、植田精吾、武川陽之助、伊藤隆雄、十七巳之助、中井誠一、細川勝已も、これに当ることは本件記録によつて明らかである。

従つて、前記の抗告人らに訴訟上の救助を付与するのが相当である。

(4)  さて、訴訟を提起し、これを維持するためには前述のとおり、裁判費用以外の種々の費用の支出が必要になるほか、とりわけ、いわゆる公害訴訟では困果関係と損害の立証に、多くの科学的資料を提出しなければならず、それが未開拓の分野に及ぶため、幾多の技術上、経済上の困難を伴うことは公知の事実であり、本件もその例外ではない。従つて、裁判費用中、鑑定費用と鑑定証人に要する費用の救助を付与することは、訴訟救助の制度にかなうとしなければならない。

そうして、この範囲は前記年収金一〇〇万円を超え年収金一二〇万円までとするのが相当である。この範囲を、これ以上広げると、たやすく訴訟費用の支弁可能の者にまで訴訟救助を与えることになり兼ねない。

本件において、この範囲の訴訟救助を付与することができるのは、別紙当事者目録中丙申立人のうち植田祥子、嘉松幸一、生駒竜輔、米田俊雄、平川利一郎、吉森忠雄である。

そうして、訴訟救助を与えることのできない者は、残りの久保二郎、長井孝一森島勇の三名である。なお、これら三名の者が生活に窮し訴訟費用の支弁ができない状態にあることが認められる資料はない。

(三)  むすび

以上の次第であるから、抗告人岡山敏雄と、同久保二郎、長井孝一、森島勇ををのぞく、そのほかの抗告人らについての本件訴訟救助の申立ては、その全部又は一部について理由があるから、これと異なる原決定を取り消して、主文一項、二項のとおりの決定をするが、抗告人久保二郎、長井孝一、森島勇の本件抗告は理由がないから主文第三項どおり抗告を棄却する。なお、抗告人岡山敏雄については、主文第四項のように終了宣言をする。

そこで、民訴法四一四条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり決定する。(三上修 長瀬清澄 古崎慶長)

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