大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)356号 決定
〔主文〕原審判を取り消す。
本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻す。
〔理由〕抗告人の抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。
当裁判所の判断
本件記録によると、被相続人吉村浩次は昭和三二年五月一六日死亡し、その妻吉村はつ、右両者間の子吉村五郎、国枝まき子、吉村雄治、吉村きくの五名が相続人であつたが、吉村はつは昭和三五年二月六日死亡し、同人の相続分を右四人の子が相続したので、結局被相続人吉村浩次の遺産については右四名が平等の割合で相続したことになつたこと、本件相続開始当時被相続人所有名義の原審判書添付物件目録記載の田および溜池合計一七筆(以下本件土地という)が存在したこと、本件土地は自作農創設特別措置法(以下自創法という)第一六条(第二九条第二項において準用する場合を含む)により昭和二二年一〇月二日と同二三年二月二日の二回に被相続人に売り渡され、いずれも昭和二五年四月一四日所有権取得の登記を了したものであること、が認められる。
原審判では、本件土地は相手方吉村五郎が昭和一九年頃前所有者松原幸一郎から借り受けて耕作していたが、その後代金二万円で買い受け、相手方の所有となつたけれども、所有権移転登記未了のまま経過しているうち、自創法により相手方が売渡しを受けることになつたが、何らかの手違いから被相続人吉村浩次名義に売渡されたものであつて、登記簿上の名義人は被相続人であつても実質は相手方の所有に属するものであると認定し、本件土地は被相続人の遺産ではないと判断している。
しかし、一件記録を精査するに、本件土地が自創法により被相続人吉村浩次に対し売渡処分がなされる以前に相手方吉村五郎がこれを買受けたことを認定できる的確な資料はない。もつとも、吉村雄次、国枝まき子の各審問調書によると、同人らは相手方が前所有者松原幸一郎から買受けた旨を述べているし、証人河合盛一の証言中にも同趣旨の証言もみられるが、これらをよく検討してみれば、いづれも臆測によるものか或は本件相続開始後に相手方がそのように主張しているのを聞いて、そのまま述べているに過ぎないことが認められるのである。
仮に相手方吉村五郎が本件土地を買受けていたものであるとしても、農地調整法(昭和二七年一〇月二一日農地法の施行により廃止)第四条により、農地の所有権移転は都道府県知事の許可又は市町村農地委員会の承認がなければ効力を生じないものであるところ、右の許可或は承認を得た形跡はないから、本件土地の所有権移転は無効といわねばならない。
また、本件土地は自創法により相手方吉村五郎に売渡されることになつていたのを手違いにより売渡しの相手方が被相続人吉村浩次になつたものと原審判では認定しているが、そのような手違いのあつた事実を認定し得る資料は皆無である。仮に売渡し処分当時本件土地の耕作者が相手方であつたとしても、被相続人に対する右売渡し処分が当然に無効となるものではない。いわんや、本件記録によれば、耕作者が相手方であつたか、または被相続人であつたか、或は両者が共同して耕作していたかは必ずしも判然とせず、また、右売渡し処分のあつた当時には相手方は○○町に転任していたと認められ、一方被相続人は本件土地の所在する○○村(現在西宮市○○町)に居住していたので、被相続人が在村者として売渡しを受けたものともみられるのである。
以上いずれの点からみても本件土地が被相続人古村浩次に対してなされた売渡し処分の効力を否定すべき根拠はないのに、本件土地は実質上相手方吉村五郎の所有に属するものとたやすく認定し、遺産分割の対象とならないと判断した原審判は不当である。
ところで本件土地は、昭和四一年一月一七日受付で相手方吉村五郎の単独名義で相続に因る所有権移転登記がなされたが、右登記手続に当り、他の三名がそれぞれ「婚姻の際被相続人から、すでに財産の贈与を受けており、被相続人の死亡による相続については、相続書相続分の存しないことを証明します。」と記載し記名押印した証明書が提出され、それによつて相手方単独の名義で所有権移転登記がされたのであるが、他の三名の相続人が被相続人から生前贈与を受けた事実はなく、右証明書は全く虚偽の事実を記載したものであることが本件記録から明らかである。相続人のうち国枝まき子、吉村雄治は本件土地が元来相手方の所有であると思つて、相手方から要求されるままに右証明書に押印したものと認められ、抗告人は、四分の一の相続分のあることを主張したが、相手方から説得されてとりあえず金一五万円を受領することにして調印を承諾し、後日相手方が本件土地を処分した売得金から配分を受けることを期待した事情がうかがわれる。従つて本件土地が前認定のとおり遺産である以上、相手方の単独所有権取得は相続人間においては効力を生じないものというべく、改めて遺産分割をなすのを相当とする。
以上の理由により本件抗告は理由があるから、原審判を取り消し、本件を神戸家庭裁判所尼崎支部に差し戻すのを相当とし、家事審判規則第一九条第一項により主文のとおり決定する。
(三上修 長瀬清澄 岡部重信)