大阪高等裁判所 昭和45年(行コ)18号 判決 1972年2月18日
控訴人 王金添
被控訴人 神戸税務署長
訴訟代理人 下村浩蔵 ほか四名
主文
原判決を次の通り変更する。
被控訴人が控訴人に対して昭和四一年四月六日になした、控訴人の昭和三七年分所得税の再更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、総所得金額一〇、八九四、八四四円(不動産所得八三九、八七五円、給与所得二四八、〇〇〇円、譲渡所得九、八〇六、九六九円)を超える部分並びにこれに対応する所得税額と過少申告加算税の部分を取消す。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その二を控訴人、その余を被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四一年四月六日になした控訴人の昭和三七年分所得税の再更正及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
理由
一、控訴人主張のとおり、控訴人が昭和三七年分所得税の確定申告をなし被控訴人がこれに対して更正決定および再更正決定をし、控訴人が右再更正決定に対し異議、審査の手続を経たことは当事者間に争いがない。
二、被控訴人が主張する控訴人の昭和三七年中の総所得金額のうち、給与所得二四八、〇〇〇円については当事者間に争いがなく、不動産所得八三九、八七五円については控訴人において明らかに争わない(このことは当審における控訴人本人尋間の結果からも明白)から自白したものとみなされる。
三、そこで、譲渡所得について判断するに、控訴人は、原判決末尾添付目録記載の本件譲渡資産の譲渡の相手方は大光物産株式会社であり、右譲渡資産のうち建物の譲渡時期は、昭和三八年四月一五日であると主張するけれども、当裁判所は、被控訴人主張のとおり、譲渡の相手方は有楽土地株式会社であり、本件建物の譲渡時期も、その余の本件譲渡資産すなわち本件土地と同様、昭和三七年八月一日と認めるものであつて、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由中この点に関する部分の説示(原判決八枚目裏九行目から一一枚目表末行まで)と同一であるからこれを引用する。
1、原判決九枚目表六行目に「第一七号証および」とある次に「原審当審」を、同じ行の末尾に「および」とある次に「原審当審における」を付加する。
2、一〇枚目裏二行目から三行目にかけて「認められる」とある次に「(証拠省略によると、王金{亦金}が雑所得として申告した部分も全額が減額更正されたことが認められる)」を付加する。
3、一一枚目表二行目の「そして」から一一枚目表末行までを次のとおり改める。
「そして、証拠省略を綜合すると、(イ)昭和三七年八月一日、控訴人と大光物産との間、および大光物産と王金{亦金}との間では、いずれも本件土地のみの売買契約書が作成され、本件建物については翌三八年三月末日の評価により売渡すことを約束する旨の覚書が作成されているけれども、これと同じ日に作成された売主を王金{亦金}、その連帯保証人を控訴人、買主を有楽土地とする売買契約書<証拠省略>には、本件土地すなわち本件譲渡資産を一括して代金三、五〇〇万円で売渡す旨が記載されていること、(ロ)有楽土地から右昭和三七年八月一日に支払われた金二、三〇〇万円は、本件土地建物を一括した右代金の内金(手附金ではない)として支払われていること、(ハ)同月二日に本件土地の所有権移転登記を経由し、本件建物については所有権移転請求権保全仮登記がなされたにとどまつているが、本件建物は取毀しの目的で売買の対象に含められたもので、所有権移転登記をする実質的な必要も利益もなく、現に有楽土地への所有権移転登記を経ないままで取毀されて、減失登記がなされたこと等の事実が認められ、証拠省略もこの認定を左右するに足りず、他に右認定を動かすに足りる証拠はなく、右認定の事実によると、本件譲渡資金の売買契約は昭和三七年八月一日に成立し、本件土地建物を一括して売買代金債権、すなわち旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)第一〇条第一項にいう「収入すべき権利」が確定したものと認めるのが相当である。証拠省略によると、売買代金三、五〇〇万円のうち五〇〇万円の支払と、本件建物の所有権移転登記(現実に履行されなかつたことは前認定のとおり)及び本件上地建物の引渡の履行期が昭和三八年二月二八日と定められていたことが認められるけれども、これらの事実は、なんら前記認定判断を妨げるものではない。
したがつて、本件建物の譲渡により収入すべき権利は、本件土地の譲渡によるそれと同様に、昭和三七年八月一日に確定したものというべく、右収入を昭和三七年中の資産譲渡による収入とした被控訴人の認定に違法はない。」
四、本件譲渡資産の譲渡による収入金額は、証拠省略によると、金三、五〇〇万円であり、昭和三八年二月二八日頃までに全額支払われたことが認められる。
被控訴人は、金三、五〇〇万円のほか韓宗欽なる者に三回に分けて支払われた計一、六一七万円も右譲渡による控訴人の収入に帰属する旨主張し、証拠省略によると、有楽土地が韓宗欽なる者に対し、被控訴人主張のとおり、三回に分けて合計一、六一七万円を本件建物の移転補償並びに立退料名下に支払つたことが認められるけれども、右金員が控訴人の収入に帰属することについては、本件全証拠によるも、直接これを認めうる的確な証拠はない。被控訴人は、右事実を推測させる間接事実として、右金額が、本件譲渡資産の代替地として控訴人が有楽土地から買受けた代金額と一致していること、韓宗欽がその領収証に記載した住所に居住せず、外国人登録もなされていないこと等の事実を主張するけれども、右控訴人主張の事実は、それ自体としてなお右韓宗欽の受領した金員が控訴人(被上告人)の収入に帰属したことを推測させるに十分とはなしがないのみならず、証拠省略によると、(イ)控訴人が買受けた代替地の代金は、本件譲渡資産の代金と相殺して決済されており、韓宗欽には現実の支払がなされていて、支払方法において全く関連性がなく、数額の一致ということのほかには、両者の関連を認めうるような事実が見出せず、数額の一致も単なる偶然のことがらにすぎないこと、(ロ)有楽土地の社員である中村重之は、右一、六一七万円の支払に際し、三回とも、控訴人立会のもととはいえ、韓宗欽と名乗る実在の人物にその支払をしていること、(ハ)韓宗欽は、控訴人と有楽土地との間の売買交渉の途中で、有楽土地に対し、本件建物新築のときその下請をしたが、下請代金の完済を受けていないので、本件建物につき権利があると主張してきた者で、控訴人(被上告人)は、韓宗欽の右申出を否定し、その解決を一切有楽土地にまかせ、自分では無干渉の立場をとつたので、有楽土地は、控訴人との間の売買交渉とは一応切り離して、韓宗欽と交渉し、解決金の意味で前示金員を支払つたものであること等の事実が認められるのであつて、右認定事実に徴すると、代替地の代金との一致や、韓宗欽が領収証上の住所に居住せず、外国人登録もなされていないとの事実があつても、韓宗欽なる者が、仮名であつたかどうかは別として、全く架空の人物であり、同人の受領した一、六一七万円が控訴人に帰属すると認めるのは困難である。
したがつて、韓宗欽なる者に支払われた右一、六一七万円も本件譲渡資産の譲渡による控訴人の収入金額に含まれるとする被控訴人の主張は理由がなく、本件譲渡資産の譲渡による収入金額を五、一一七万円とした被控訴人の認定は、三、五〇〇万円の限度においては適法であるが、それを超える部分はその認定を誤つたものといわねばならない。
五、本件土地建物(居住用部分、事業用部分の内訳を含む)の取得価額、必要経費(同上内訳を含む)、および昭和三八年法律第六五号による改正前の租税特別措置法第三五条(以下同様)の規定による「取得した居住用財産」の取得価額が被控訴人主張のとおりであることは、証拠省略を綜合してこれを認めることができる。
そこで、控訴人の譲渡所得の金額を算出するに、居住用財産の譲渡による譲渡所得金額は、前認定の収入金額(譲渡価額)三、五〇〇万円に居住用部分の割合(〇・一六九九)を乗して算出される居住用財産の譲渡による収入五、九四六、五〇〇円が、取得した居住用財産の取得価額である八、八八三、七五六円に満たないことは明らかであるから、租税特別措置法第三五条第一項第二号の規定により、なかつたものとみなされ、事業用財産の譲渡による譲渡所得のみが課税の対象となるところ、その収入金額は、前記三、五〇〇万円から居住用財産の譲渡による部分を控除した二九、〇五三、五〇〇円であり、取得価額は、本件土地の取得価額五四六、四一六円から、これに〇・一六九九を乗じた居住用部分に相当する九二、八三六円を減した事業用部分の取得価額四五三、五八〇円に、本件建物の事業用部分の取得価額七、八二三、二六〇円を加えた八、二七六、八四〇円で、他に必要経費一、〇一二、七二二円があるから、右収入金額二九、〇五三、五〇〇円から取得価額八、二七六、八四〇円および必要経費一、〇一二、七二二円を控除した残額は、一九、七六三、九三八円となる。そして、この金額から、旧所得税法第九条第一項により、一五〇、〇〇〇円を控除して、一〇分の五を乗じて算出される事業用財産の譲渡による譲渡所得金額は、九、八〇六、九六九円であることが明らかである。
六、すると、控訴人の昭和三七年分所得税の総所得金額は、右譲渡所得九、八〇六、九六九円、前認定の不動産所得八三九、八七五円、給与所得二四八、〇〇〇円の合算額一〇、八九四、八四四円であつたものというべく、被控訴人のなした本件更正及び過少申告加算税の賦課決定は、総所得金額を右認定の限度とする範囲内では適法であるが、これを超える部分は違法であるから、本件再更正と過少申告加算税賦課決定の取消を求める控訴人の請求は、右違法な部分の取消を求める限度において理由があり、これを全部棄却した原判決を変更して、右理由のある限度で控訴人の請求を認容し、その余の部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮川種一郎 林繁 平田浩)