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大阪高等裁判所 昭和45年(行コ)20号 判決 1974年10月15日

控訴人 山崎一二

被控訴人 西淀川税務署長

訴訟代理人 陶山博生 ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四〇年五月一九日付で控訴人の昭和三七年分の所得税について、その総所得金額を金二、四二四、〇九五円としてなした更正処分のうち金一、六二七、八〇〇円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次に付加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  控訴人代理人の主張

(一)  原判決七枚目表七行目の「二、五〇〇口、金二、五〇〇、〇〇〇」を「二、五五〇口、金二、五五〇、〇〇〇」と、同九行目の「一、八五〇口、金一、八五〇、〇〇〇円」を「一、九〇〇口、金一、九〇〇、〇〇〇円」と、同一一行目の「一、八五〇、〇〇〇円」を「一、九〇〇、〇〇〇円」と、同末行目の「三、六八四、二〇〇円」を「三、七三四、二〇〇円」と改める。

(二)  みなし譲渡ないし低額譲渡は、シヤウプ勧告に基づく昭和二五年の税制改正に淵源するといわれる。同勧告は、「厳格な課税理論に従えば納税者の資産の市場価値の一年内の増加額は毎年これを査定して課税すべきものであるが、これは困難であるので、実際には納税者がこれを売却した場合に課税すべきものとされている。この換価が適当な期間内に行われる限り課税の時期が若干遅れるだけで幣害はないが、無期限延期は防止する必要がある。そのため資産が贈与または相続によつて移転した場合にはその増加額を計算して贈与者または被相続人の所得に算入する措置をとることが必要である。」とした。

これに基づき所得税法にはみなし譲渡ないし低額譲渡に対する課税規定が設けられたのである。

しかし、所得税において、資産の値上り益(キヤピタルゲイン)自体を所得と考え資産が無償で贈与されたような場合にまで課税するという課税理論は、納税者の立場からみれば常識的に納得し難いものがある。そのため、このような擬制課税は、立法上疑問があるとの見解が有力であるばかりでなく、解釈論としてもこれらの措置は租税法律義に違反するとされている。

問題は譲渡所得の課税対象の把握の仕方が、当該資産が処分され、所有者の支配を離れて他に移転した場合とされている点である。抽象的な値上り益でなく、右のような方法で把握された具体的な値上り益が課税対象となる以上、所得税法の予定する純資産増加説に従う限り無償ないし低額譲渡の場合(特に譲受対価より低額の場合)、純資産は減少しこそすれ、増加していないから課税対象は存しないといわざるを得ないのである。

正当な対価による有償譲渡と対比して無償ないし低額譲渡の場合、不当に課税を免れるというのであればなぜ歴年毎に資産値上り益の課税をしないのであろうか。それが実施されるならば、右のような不公平は生じないのである。

歴年課税が技術的に困難であるとしてこれを放棄する以上、正当な対価による有償譲渡には課税がなされ、無償ないし低額譲渡には課税されないということがあつても、それは決して不公平ではない。一方には明白に対価が取得されて値上り益が実現しているのに対し、他方にはこれが実現していない点で、実質的経済的性質は全く異るものだからである。また、後者の場合に課税されないとしても、それで課税が不能となるのではなくて、譲受人が再度譲渡する時まで一時課税が延期されたに過ぎないのであつて、国庫主義的理解の点からみても決して不合理なものではない。

また、租税法では租税回避論との関係で実質課税の原則が主張される。この実質課税の立場からみると、無償譲渡がなされた場合には対象物件を譲渡人が譲受人に贈与したものとみるべきであり、低額譲渡の場合は、低額ながらも対価を得た部分は売買などの正当な価格による譲渡があつたものとし、それを超える部分は時価当額まで贈与する意思とみるべきである。従つて、相続税法に該当する場合は贈与税を、しからざる場合は、一時所得ないし雑所得として課税すれば足りるのである。

そして、租税負担の公平に眼を向けるとすれば、正当な対価による有償譲渡か、無償ないし低額譲渡かではなく、不動産の譲渡には値上り益でも課税するが、株式譲渡(ことに公開株)の場合には値上り益があつても課税しないという不公平こそ指摘すべきである。

また、元来、無償ないし低額譲渡課税は、無償ないし低額譲渡の場合に納税者が一旦時価相当額で売却し、譲渡所得を取得したうえで現金贈与をしたとみなすものであつて、国家課税権がその優越性の立場において私生活関係に介入し、著しく私的自治の原則を否認する制度であり、従つて、納税者の財産権の保障に違反するものである。

また、法人に対する譲渡の場合には昭和三七年法律第四四号による旧所得税法第五条の二第三項の排除規定がないのであるが、譲渡の相手が個人であろうと法人であろうと未実現利益が継承されるという経済的関係には変りはないのに、一方には経済措置があるが、他方にはそれがないというのは、譲渡所得課税を受ける納税者の立場に立つ限り平等原則違反である。

(三)  現金出資者がその出資株式を出資額以上に評価されることは商法上(例えば第二〇四条の四、第二四五条の三、第三四九条)は勿論、税法上(たとえば相続税の計算において法人に対する出資は実質的に計算されている。)も認められている。

このような法人に対する出資を実質的に把握する法技術に反して、低額譲渡の場合に、その対象物件の価額についてはこれを実質的に評価しながら、出資について形式的な名目額を固執することは、適正な評価に従い所得の発生移動が存するところに適正に税賦課を果そうとする租税法律主義に違反する。

(四)  被控訴人は、本件現物出資の対価を時価で評価する場合、その価額は本件出資物件の時価の半額を僅かに超える額であるから、本件出資物件の時価の半額に近い金額の譲渡所得につき税負担を不当に免れることになる旨主張する。

しかし、譲渡所得の課税対象である値上り益の課税庁による評価把握は決して絶対的なものでない。これは課税庁が正規の不動産鑑定士の鑑定に基いた場合でも同様である。そこで法は、低額譲渡に対する課税対象を「資産の譲渡時における価額の二分の一に満たない価額」に限定し、その範囲で課税の適正を期しているのである(旧所得税法施行規則第二条)。この二分の一以上(それは僅かにこえる場合であつてもよい。)である場合は、当該譲渡人に対する課税を留保し、次の資産の移転時にこれをも合わせた値上り益を課税対象として把握することで課税の適正を期しているというべきである。

従つて、本件出資の対価が本件出資物件の時価の二分の一を僅かでも超える場合に税負担を不当に免がれることになると主張することは、右取扱いをも否定するもので妥当でない。

(五)  1 被控訴人は、更正処分の理由の追加差し換えは、それが更正処分の主文に該当する客観的な課税標準や、税額を変更しない限り自由であると反論する。しかし、これは更正権を全く実体法的にしか把握しない誤つた見解である。更正権は、実体法的に根拠があることは勿論、それがなされた手続が合法かつ正当であることが必要である。納税者には更正処分をめぐつてそこに計上された客観的な課税標準が存するか否かと同時に、公正合理的な手続で所得の認定を受けたか否かの利益が保障されねばならない。

しかも、この手続保障のなかで、除斥期間を遵守しているか否かは至極簡単明白な事柄である。本来ならば、既に五年を経過してその理由では更正処分を行えない時期には、過去に別の理由とはいえ一度更正処分がなされた以上何年経過後でも理由の差し換えが可能であるというのでは、納税者の右手続保障を受ける権利は害され、かつ行政の法的安定を企図した除斥制度に背馳することとなる。

2 控訴人は、仮に本件の現物出資を時価で九五五、〇〇〇円と評価するとしても、訴外会社は同族会社であるからその行為計算の否認規定に従い否認して、時価との差額八七九、二〇〇円を控訴人の譲渡所得の総収入金額に算入すると主張する。

しかし、本件課税処分は、控訴人個人の昭和三七年度の所得税であつて、訴外会社の収支が行為計算の否認に基づきどのようになろうとも全く関係ないものといわなければならない。

3 仮にそのことが控訴人の所得に関係するとしても、低額譲渡課税の更正処分とは別に現在に至つて同族会社の行為計算の否認により控訴人の所得を理由づけることは前記正当手続保障の理論から許されない。

4 なお、被控訴人が原処分時ないし原審で主張した本件出資物件の時価額一、八三四、三〇〇〇円を都築ないし小野鑑定に従つて増額し、控訴人の主張する本件出資の対価の時価が本件出資物件の時価の二分の一以下であると主張することも右と同じ理由により許されない。

二  被控訴人代理人の主張

(一)  原判決三枚目裏一行目の「〇・九五」の次に「坪」を加える。

(二)  同一〇枚目表一行目を、「同二(三)の主張のうち、訴外会社の設立時における資本金額が金二、五五〇、〇〇〇円、出資口数が二、五五〇口であることは認めるが、その余は争う。」と改める。

(三)  譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨と解されている。すなわち、課税の対象となるのは年々に発生している資産の増加益であり、この増加益について、その資産が譲渡等所有者の支配を離れて他に移転(以下単に「譲渡等」という。)したときに、その所有者に課税するのが譲渡所得課税の本質であるから、本来、譲渡所得の発生には現実に譲渡の対価を取得したか否かを問わないものということができる。

そうとすれば、対価を伴わない資産の移転においても、その資産につきすでに生じている増加益は、その移転当時の資産の時価に照らして具体的に把握できるものであるから、同じくこの移転の時期において右増加益を課税の対象とするのを相当と認め、資産の贈与、遺贈のあつた場合においても右資産の増加益は実現されたものとみて、これを旧所得税法第九条第一項第八号の譲渡所得と同様に取扱うべきものとしたのが同法第五条の二(現行所得税法第五九条)の規定なのである。されば、右規定は決して所得のないところに課税所得の存在を擬制したものではなく、また応能負担の原則を無視したものともいいがたいのである。

控訴人は、暦年課税を主張するけれども、すべての種類の保有資産について暦年ごとに評価し、課税することは技術的に困難であり、納税者にとつても極めて繁雑である。

そこで、有償無償にかかわらず、等しく譲渡等の機会に公平に課税するものである。

また、資産の移転毎に課税しないでこれを飛越させると、本来資産の元の所有者が負担すべき税額を新たな所有者が負担することになるのである。さればこそ、「みなし譲渡」の規定の適用を受けない場合は、新たな所有者は、前所有者の負担すべき税額も自己が負担することとなる旨を了知しておく必要があり、旧所得税法第五条の二第三項(現行所得税法第五九条第二項)に定める税務署長に提出するみなす譲渡の規定の適用を受けない旨の書面については「遺贈・贈与又は譲渡を受けた者が当該書面を提出する者から当該書面の写しの交付を受けて当該書面に記載された事項を確認したことを証する書面を添付しなければならない。」(旧所得税法施行規則第二条の二)こととしているのである。

右に述べたようにみなし譲渡課税は、一般の譲渡所得と同様に資産の所有者に課税するのであるから、資産の受贈者や譲受人に課する贈与税と本質的に異るものであつて、控訴人の主張するように贈与税や一時所得に対する課税で足りるとすることはできないのである。

みなし譲渡の制度は、前記のとおり、すでに発生している資産の値上り益を譲渡等の機会に清算して課税しようとするものであるから、控訴人主張のように、「一旦時価で売却し譲渡所得を納付した上で現金贈与をしたとみなすもの」ではない。ただ、時価で売却した者との公平論からそのような比喩が用いられることもあるに過ぎない。

また、控訴人は、「私生活関係に介入し著しく私的自治の原則を否認する制度である。」と主張するけれども、贈与又は著しく低い価額による譲渡の場合に限つて例外としてこれを客観的価額(時価)により計算しようとする趣旨であつて、税法が当事者の自由契約を尊重し、これを前提にして課税しようとする建前をとることを意味するものであり、そのことの方が法的安定性に資するものである。

旧所得税法第五条の二第三項は個人に対する贈与又は低額譲渡にのみ適用されることは控訴人指摘のとおりであるが、それは個人と法人とは所得計算の方法が異なり、税率も異なつているためである。たとえば、旧所得税法においては譲渡所得の特別控除額、二分の一課税の制度(旧所得税法第九条第一項本文)短期譲渡と長期譲渡の区分(第九条第一項第八号)があるが、法人税法においてはこのような制度はない。また、税率についても所得税法は超過累進税率をとつているが、法人税法においては二段階税率をとつている。このように所得計算、税額計算について大きな相違があるにもかかわらず、譲渡等をした者に対する譲渡所得についての課税を、譲渡等を受けた法人に引継がせることは却つて不合理な結果を招来する。従つて、原則どおり譲渡等のときに清算して課税するのである。

ところで、法人税法においては、所得概念につき当初から基本的には純資産増加説の考え方がとられており、従つて、いわゆるシヤウプ勧告の昭和二五年以後は所得税法と法人税法はともに純資産増加説を所得概念としてとつているのであるが、昭和四〇年の改正前の法人税法には、資産の無償譲渡の場合の課税規定は明文化されていなかつたのである。ところが同年の改正により「有償又は無償による資産の譲渡による収益」は法人の益金に含まれる旨規定されるにいたつたが(法人税法第二二条第二項)、ここに無償譲渡にかかる収益とは、いわゆるキヤピタルゲインを意味するものである。それにもかかわらず、シヤウプ勧告以前から資産の無償譲渡は、前記所得税法の場合と同様に法人税の益金増加の原因となると解されていたのである。そして、これは法人税法が総益金、総損金という包括的な概念で法人所得を計算しているのに反し、所得税法においては、所得を利子所得以下一〇種類に分類し、それぞれの担税力を考慮して各所得の種類別に計算方法を規定しており、譲渡所得についても、「資産の譲渡による所得は総収入金額からその資産の取得価額………を控除した金額とする」と定め(旧所得税法第九条第一項第八号)、いわゆるキヤピタルゲインをこの「譲渡所得」という範疇で捉えていたため、無償譲渡については「みなし譲渡」として概念的に明確にする必要があり、別途第五条の二の規定を設けたものに他ならず、結局所得概念上からも理論上当然の事情を規定したに過ぎないのである。

無償譲渡であつても、すでに発生している値上りによる増加益は課税所得として存在していることは前記のとおりである。そして、すでに発生した所得は、譲渡者の自由な意思で如何ように(有償であれ、無償であれ)これを処分しようと、それはすでに発生した課税所得とは直接何の関係もない筈である。控訴人は、「無償譲渡は純資産が減少こそすれ、増加するものではないにも拘らず、所得があると擬制するものである」旨主張するが、右は資産の譲渡による所得の発生は対価の取得に左右されるものでないことを誤解した見解であり、明らかに失当である。

(四)  控訴人は、控訴人の出資の価額も時価で評価すべきであると主張するけれども、これは次の理由により失当である。

1  訴外有限会社大生産業(以下訴外会社という)は、控訴人を中心としてその妻子等親族で構成された会社であり、社員山崎は控訴人の妻、同美恵子はその次女、同勝通はその次男、同光信はその三男、同敏夫はその四男、同澄子はその三女、同前田秀子はその長女、同西田正春はその義弟(妻崎の弟)の関係にあつて、法人税法上、一〇〇%の同族会社に該当するものである。そして、訴外会社においては、控訴人が実質上の支配者であり、本件現物出資については、控訴人は出資者であると同時に、被出資者である関係にあつたということができる。

2  ところで、控訴人が本件土地の価額を六五〇、〇〇〇円としたのは、控訴人も自認されるようにその勘で六五〇、〇〇〇円と評価したものであり、何ら客観性のないものであるところ、原審の二種類の鑑定の結果に照らしても、本件土地の正当な時価は、少くとも六五〇、〇〇〇円というような金額ではなく、それをはるかに上廻るものであつたことは明らかである。

3  いうまでもなく現物出資は、その価額に対応してその出資者に対し株式又は出資口数が与えられるものであるから、現物出資者としては、現物出資の目的たる財産が、より高額に評価されることを欲して出資するのが通常であり(そのため法も過大評価に備えた規定をおいている。商法一八一条、有限会社法一四条等)、これをことさら低額に評価して現物出資するがごときことは、まことに異例に属する事柄である。しかるに本件においては、前記のとおり控訴人は本件現物出資財産の適正な評価を行わず、あえて時価に比して著しい低額に任意評価して出資をなしたものであり、このような異例の行為は一般の非同族会社では到底ありえないことであつて、それは訴外会社が控訴人の同族会社であるが故に次のような理由からはじめてなされたものである。

すなわち、右のような低額の評価をすることによつて、控訴人は自己に対する譲渡所得による所得税の負担を減少させることが可能となり、また、その取得する出資口数を少なくすることによつて控訴人の相続人に対する相続税の減少も可能となるのである。しかも、訴外会社が控訴人の同族会社で、控訴人はその実質的支配権を有するものであり、配当金も控訴人の一族に帰する関係にあつて、たとえ評価額を低くすることにより控訴人の受ける出資口数が少数となつても、控訴人には出資者としての損失は何ら生じないのである。

4  本件現物出資財産をあえて時価よりも低額に評価して出資したことにつき、控訴人には、右のごとき利益が存したのであるが、これを容認した場合には、控訴人に対する譲渡所得による所得税の負担を不当に減少させるものであることは右にみたところからもすでに明らかである。そして控訴人は、本件現物出資財産たる土地の価額を時価に従つて一、八三四、二〇〇円(被控訴人認定額)と査定するのなら控訴人の受けた出資の価額も名目価額によることなく時価に従つて九五五、〇〇〇円と算定されるべきである旨主張するか、仮に出資の価額を九五五、〇〇〇円と評価したとしても一、八三四、二〇〇円という時価で譲渡した場合に比し、その半額に近い額の譲渡所得につき控訴人は所得税の負担を免れる結果となるのであり(別紙(1)参照)これが不当な結果であることは明らかである。

5  したがつて右九五五、〇〇〇円による本件現物出資(譲渡)は、本件当時の旧所得税法六七条一項(同族会社等の行為又は計算の否認)の規定を適用すべき場合に該当し、訴外会社の行為計算にかかわらず、被控訴人はこれを否認し、その認めるところにより、右時価との差額(一、八三四、二〇〇円から九五五、〇〇〇円を控除した額)は譲渡所得の総収入金額に算入しうることになるのである。したがつてその結果は結局、本件更正処分と同一に帰するのである。

6  なお、本件土地の評価額については、更正処分では一、八三四、二〇〇円と認定したものであるが、原審における二種類の鑑定の結果は、いずれもそれを上廻るものである。そして、仮りにこれらの評価額を基礎として前記控訴人の主張に沿う方法で低額譲渡の適用ある場合の対価の額を計算してみると別紙(2)~(4)のとおりであり、その結果は、時価の二分の一に満たないかまたはその二分の一の額を極く僅かに超えるに過ぎない。この面からみても控訴人の税負担を不当に減少させる結果となることは明白である。

(五)  控訴人は、更正処分の理由とは異つた理由づけを主張することは、三年ないし五年の除斥期間内に更正処分はなされなければならないことに違反して全く新たな更正処分をなすことになるから許されない旨主張するけれども、これは次の理由により失当である。

1  いわゆる白色申告書により確定申告をした者の所得についての課税処分の取消請求訴訟における審理の対象は、客観的に存在した課税標準等または正当な税額等であつて、課税処分が実体法上適法であるか否かは、当該課税処分が客観的に存在した課税標準等または正当な税額等の範囲内でなされたか否かにより決定されるものである。客観的に存在した課税標準等または正当な税額等を理由あらしめる主張は、一般民事訴訟法の理論によつて、単なる攻撃防禦方法にすぎないということになり、時機に遅れたものとして排斥されない限り、口頭弁論の終結に至るまで随時提出を防げられるものではない。

すなわち、被控訴人としては、右の制限を受けない限り、原処分当時あるいは審査請求についての審理の際にどのような主張、立証をしたかに関係なく、本件課税処分を正当とする理由として、本件訴訟の段階に至つて当該処分の同一性(控訴人の昭和三七年分所得税)を害さない範囲であらゆる主張、立証をすることができるのである。

2  また、被控訴人の前記(四)の主張は、客観的に存在した課税標準等または正当な税額等をあらためて具体的に確定し、その具体的租税債務としての存在を前提として主張しているものではなく(課税標準等自体に変動はなく、本来、その過大、過少による再更正の問題は生じない。-国税通則法第二六条)、単に被控訴人が本件課税処分において認定、計算した課税標準等または税額等が前記(四)で主張する理由によつてもまたそのまま維持されるべきものであることを主張しているにすぎない。本訴における被控訴人の主張理由が認められることによつて、本件課税処分により確定された課税標準等または税額等に変更をきたすものではなく、単に本件課税処分がそのままの内容で維持されるだけのことである。

(六)  控訴人は、本件課税処分は控訴人個人の昭和三七年分の所得税であつて訴外会社の収支が行為計算の否認に基づきどのようになろうとも全く関係ない旨主張するけれども、これは次の理由により失当である。

一般に、同族会社においては首脳者または少数の株主もしくは社員の意思によつて、会社の行為計算を自由にすることができ、会社と個人を通じて税負担を不当に軽減することが容易であることから、課税の公平を期するためにいわゆる同族会社の行為計算の否認規定が設けられている。すなわち、旧所得税法第六七条は、同族会社の行為又は計算でこれをそのまま容認すれば、その株主・社員又はその親族・使用人等(以下株主等という。)の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず税務署長の認定したところに従つて、右株主等の所得税の課税標準および税額を計算し、更正又は決定することができることが定められている。

相続税法においても同様の規定があり、同族会社の行為又は計算でこれをそのまま容認すれば株主等の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長の認定したところに従つて株主等の相続税・贈与税の課税価格を計算し更正又は決定することができるのである(相続税法第六四案)。

他方、同族会社自体については、当該同族会社自体の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認める行為又は計算は、その取引の相手方が何者であれ、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認定するところにより当該会社の課税標準又は法人税額を計算し更正又は決定することができるのである(法人税法第一三二条、旧法人税法第三〇条)。

三  証拠関係<省略>

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

一  1 原判決一六枚目裏一二行目の「必要………」から一三行目の「……解すべきであるから、」までを、「決して所得のないところに課税所得の存在を擬制したものではなく、またいわゆる応能負担の原則を無視したものでもない。のみならず、このような課税は資産を時価で売却してその代金を贈与した場合などの釣合いからするも、また無償や低額の対価による譲渡で、課税を回避しようとする傾向を防止するうえからも、課税の公平負担を期するために妥当なものというべきであるから、」と改める。

2 控訴人は、正当対価による譲渡の場合は値上り益は実現しているが、無償譲渡や低額譲渡の場合には値上り益はいまだ実現していないから、後者の場合に前者同様課税するのは不公平である旨主張するけれども、その主張がいわゆるみなし譲渡課税の趣旨に照らし失当であることは原判決理由二(一)の説示から明らかである。

控訴人は、また、無償譲渡や低額譲渡の場合には、正当対価による再譲渡の際に課税することができるし、低額譲渡の場合には正当対価との差額について贈与税などを賦課することもできるから、無償譲渡や低額譲渡の行われる毎に時価による譲渡とみなして課税するのは不合理である旨主張する。しかし、みなし譲渡課税は、原則として、資産の各所有者毎に蓄積された値上り益に対し課税することを目的とするものであるから、右主張の失当であることはいうまでもない。

3 控訴人は、株式譲渡の場合には不動産の譲渡の場合と同じく資産値上り益があつても課税しないのは租税負担の公平に反する旨主張する。

旧所得税法第六条は、非課税所得について定めをおき、その中で有価証券の譲渡による所得は一般にこれを非課税としながら、例外的に、同条第六号イ、ロ、ハに該当する場合には、これに課税することを定めていた。この規定が設けられるに至つた経緯を見ると、昭和二二年の所得税法の改正により株式の譲渡所得に課税されるようになつたが、昭和二八年以降、その所得の把握が困難でごく一部のまじめな申告に依存していたにすぎないため課税の公平を期しえない状況にあつたこと、および資本蓄積を急務とする当時の経済的要請から健全な証券市場の育成を図る必要があつたことから、有価証券の譲渡所得は一般に非課税とされた。しかし、その場合でも、有価証券の譲渡が継続的に行なわれ、ためにその所得が事業所得または雑所得に該当するときは、事業所得または雑所得として課税されていたが、昭和三六年の税法改正により、その旨を規定上明確にするために、前記第六条第六号イの規定が設けられた。

昭和三六年の税法改正においては、さらに、近時株式を大量に市場で買占め不当に株価をつり上げて株式の発行会社等に肩代りさせ巨利を得る者が現われ、このような巨額の譲渡所得でしかも健全な証券市場の育成を図るという趣旨から明らかに逸脱しているものまで非課税とするのは不合理であるということから前記第六条第六号ロの規定が、また有価証券の譲渡所得の非課税措置に乗じて、土地等を現物出資して株式を取得し、これを売却する方法等により土地等の譲渡取得課税を回避する事例が発生しており、このような租税回避を防止するために前記第六条第六号ハの規定が、それぞれおかれることになつた。

このように、有価証券(株式)の譲渡所得を原則的に非課税所得としたのは、有価証券取引と不動産取引との差異や課税技術上の困難性に由来するものであり、前記認定の事情に即応して例外規定も設けられているのであるから、旧所得税法第六条第六号の規定は決して不合理なものではないといわなければならない。

本来、同じ所得税であつても、所得の種類や態様の異なるに応じてそれぞれにふさわしいような課税要件を定められることはむしろ当然であつて、株式の譲渡所得と不動産の譲渡所得との課税要件が一律でないことをもつて租税負担の公平に反するものということはできない。

4 控訴人は、無償ないし低額譲渡課税は、無償ないし低額譲渡の場合に納税者が資産を一旦時価相当額で売却し、譲渡所得を取得したうえで現金贈与をしたとみなすもので、国家課税権がその優越性の立場において私生活関係に介入し、著しく私的自治の原則を否認し、納税者の財産権の保障に違反する旨主張する。

しかし、前段の主張があたらないことは、原判決理由二(一)の説示から明らかであり、また、所得税法は、決して納税者が不動産を無償ないし低額で譲渡等をすることを制限したり、その効果を制限するものではないから、控訴人の主張は失当である。

5 控訴人は、本件現物出資の対価は、定款の記載にかかわらず、控訴人が出資の対価として取得した経済的利益、すなわち持分の経済的価格によつて判定すべきである旨主張する。

しかし、右経済的価格の判定は有限会社大生産業の実質的な財産内容に基かねばならず、一般に会社の実質的財産内容の調査は、必ずしも財務諸表のみで確認できない以上、頗る困難なことが少くないといわなければならない。現に、<証拠省略>を総合すれば、有限会社大生産業は、設立の頃金融機関から少くとも数百万円を超える金員を借入れ、これを加えて発足したものと推認せられ、従つて、控訴人主張のように資本金のみを会社財産として控訴人の持分の経済的価格を算定することはできないのである。これに対し、一般に会社の定款に記載された現物出資の対価は、法律の規制(商法第一六八条、第一七三条、有限会社法第七条、第一四条等)のもとに、出資者および他の発起人などの合意による評価に基づくものであるから、税法上も定款記載の対価を現物出資すなわち資産譲渡の対価と定めて課税することは決して不合理ではない。それ故、控訴人の本件現物出資の対価を有限会社大生産業の定款の記載に基づき六五〇、〇〇〇円とした被控訴人の措置に違法はない。

二  1 原判決一九枚目裏三行目の「金三、六八四、二」を「金三、七三四、二」と改める。

2 同二〇枚目裏末行目の「一丁目」を「三丁目」と改める。

3 同二〇枚目裏九行目の「第五号証、」の次に「第八ないし第一〇号証、」を加える 。

4 同二六枚目表八行目の「前顕乙第五号証、」の次に「第九号証」を加える。

5 同二三枚目表七行目に「消減」とあるを「消滅」と訂正する。

三  原判決理由中三の部分を次のとおり改める。

以上を要するに、控訴人主張の違法理由のうち法律上の主張はすべて失当であり、本件現物出資の対価の点については、行為計算の否認に関する争点を判断するまでもなく、これを六五〇、〇〇〇円とするのが相当であり、本件土地の出資当時の価格は一、九〇一、四五〇円と認められる。従つて、本件現物出資を旧所得税法第五条の二第二項、同法施行規則第二条の低額譲渡であるとした被控訴人の認定は違法ではない。

そして、旧所得税法第五条の二第二項、第九条第一項第八号に従い、右出資当時の価格の範囲内である一、八三四、二〇〇円を時価として、それから本件土地の取得価格として当事者間に争いのない九一、六一〇円および特別控除額一五〇、〇〇〇円を差引き、その残額の二分の一である七九六、二九五円を、控訴人が確定申告した所得金額に加算してなした本件更正処分に違法の点はないから、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴山利彦 東民夫 篠田省二)

別紙<省略>

【参考】一審判決(大阪地裁 昭和四一年(行ウ)第七五号 昭和四五年九月二四日判決)

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一 原告の請求原因一および二の事実は、すべて当事者間に争いがない。

そして、原告が、その昭和三七年の所得税について、昭和三八年三月一四日被告に対し、

不動産所得 金   一七二、八〇〇円

給与所得  金 一、四五五、〇〇〇円

総所得金額 金 一、六二七、八〇〇円

として確定申告したこと、および原告が昭和三七年六月一八日、自ら発起人となつて訴外会社を設立したが、その際同人所有の本件土地を右会社に現物出資することにし、これについて六五〇口(金六五〇、〇〇〇円)の出資口数を与えられたことも、また当事者間に争いがない。

二 したがつて、本件における争点は、原告が訴外会社に対し本件土地を現物出資したことが、原告の譲渡所得の発生原因となるかどうかということである。よつて、以下において、その点に関する原告の各主張について、順次検討することとする。

(一) 原告は、まず第一に、旧所得税法五条の二第一項および二項に規定されている、みなし譲渡ないし低額譲渡に対する課税は、租税法律主義に違反し無効である旨主張するので、この点について検討することとする。

ところで、所得税は、ある特定の個人について一定期間内に発生した経済的利益であるところの所得に着目して、当該個人に対して賦課されるのであるが、経済的利益といつても、資産の評価益などのように、未だ実現されていないものについては、これを一年ごとに査定して所得として把握した上、これに対して課税するということは、技術的に多くの困難を伴うので、資産が他に譲渡されることなく、単にその値上りによる評価益が生じているにすぎない場合には、これに対しては課税しないこととし、そのかわりに、資産が売却その他の事由により他に譲渡されて、資金その他の物に評価され、譲渡時までに蓄積された当該資産の値上り等の増加益である。未実現の経済的利益が顕現した場合には、この蓄積されてきた経済的利益を譲渡時におけるその年分の所得として認識把握した上、課税の清算を行うことにしているのであつて、これが譲渡所得における基本的な課税原理である(旧所得税法九条一項八号、新法三三条)。譲渡所得に対する法律の建前がこのようなものであるとすると、譲渡所得として課税をなすためには、資産の値上り等による増加益が現金その他の物に換価されること、換言すれば、正当な対価を得てなされる資産の有償譲渡であることが、必ず必要であるように思えるのである。しかし、譲渡所得に対する課税を、正当な対価を得てなされる資産の有償譲渡の場合に限定するとすれば、対価を全く得ないでなされる無償譲渡の場合(遺贈または贈与の場合)とか、あるいは正当な対価を得ないでなされる有償譲渡の場合(低額譲渡の場合)には、譲渡者に対しての課税を全くなし得なくなる場合も生ずることになるが、これでは、未実現であるとはいえ、譲渡時までに資産の値上り益という形で発生していた経済的利益を譲渡者の自由な処分に委ねてしまうことになり、その結果、資産の値上り益を一年ごとに把握して課税するのは困難であるという技術的理由によつて、課税が遅延していたにすぎないのに、本来なら未実現の経済的利益が顕現すべきはずの資産の譲渡によつて、かえつて、譲渡者の意思により、ついに譲渡所得としての課税を全くなし得なくなる場合も生ずるということになるばかりか、このような事態を放置するとすれば、租税の回避行為を誘発することも考えられるのである。そこで、法律は、租税公平負担の見地に立つて、このような事態に対処するため、遺贈(包括遺贈および相続人に対する遺贈を除く。)または贈与(相続人に対する贈与で被相続人たる贈与者の死亡に因り効力を生ずるものを除く。)により、資産の移転があつた場合(無償譲渡の場合)においては、遺贈または贈与の時において、その時の価額により資産の譲渡があつたものとみなして譲渡所得を算出することとし(旧所得税法五条の二第一項)、また著しく低い価額の対価で資産の譲渡があつた場合(低額譲渡の場合)においては、その譲渡の時における価額により、当該資産の譲渡があつたものとみなして譲渡所得を算出することとする(同条二項)という特別の規定を設け、更に、右にいう著しく低い価額というのは、資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない価額とする(旧所得税法施行規則第二条)としているのである(新法においても同趣旨の規定が所得税法五九条、同法施行令一六九条にある。)。もつとも、この旧所得税法五条の二第一項または第二項の規定に従つて譲渡所得を算出するとすれば、無償譲渡の場合には、譲渡者は資産の移転をなすことによつて、まさに担税力を減少しているにもかかわらず課税されることになり、また所得概念をいわゆる純資産増加説に従つて理解するとすれば、譲渡者の資産は減少しこそすれ増加する余地が全くないにもかかわらず、所得があるものと擬制された上課税がなされることになるし、また、低額譲渡の場合においても、たとえ所得の増加、したがつて担税力の増加が多少認められる場合であつても、時価と実際の譲渡価額との間の差額については、結局前同様に所得の存在が擬制された上課税がなされることになるのであつて、いずれの場合においても、租税法の体系上、特異な課税根拠規定であることは否めない。しかしながら、所得の存在を擬制するといつても、立法によつて恣意的に擬制しているわけではなく、原則的には所得に包含されない未実現の経済的利益を、無償譲渡または低額譲渡の場合に限つて、所得の中に包含せしめているにすぎないのであり、しかも、譲渡者としては、正当な対価を得て有償譲渡をなすことも可能であつたにもかかわらず、自らの意思によつて、無償譲渡または低額譲渡という方法により、資産の譲渡をしたのである。これに加えて、このようなみなし譲渡等に関する規定が設けられていないとすれば、前叙のとおり、租税の回避行為を誘発することが考えられ、そうすれば、かえつて正当な対価を得て有償譲渡をした者との間で、租税負担に関して不公平が生じるのである。更に、みなし譲渡等の規定が適用されることによつて蒙るかもしれない譲渡者の不利益を緩和するため、昭和三七年法律第四四号によつて、旧所得税法五条の二に第三項が新設されることになつた(昭和三七年分以後の所得税について適用がある。-右法律附則二条)が、これによれば、資産の譲渡が個人に対してなされた場合には、譲渡者が政府に対して、みなし譲渡等の規定の適用を受けない旨、および当該遺贈または贈与もしくは譲渡に関する明細を記載した書面を提出したときは、みなし譲渡等の規定の適用が排除されることになつている。なお、旧所得税法一〇条五項によれば、同法五条の二第一項または二項の規定の適用を受けたものは、受遺者、受贈者または譲受人が当該遺贈もしくは贈与または譲渡を受けた時において、その時の価額により、これを取得したものとみなす、と定められているから、低額譲渡によつて譲渡を受けた者が後日第三者に当該資産を再譲渡する場合に、その取得価額として控除される金額は、低額のままの譲受価額ではなく、当該資産の取得のときに正当な価額とみなされたその金額である。それ故、低額譲渡の場合に、一旦譲渡者に対して適正価額に基づいて譲渡所得の課税をしたにもかかわらず、更に譲渡を受けた者に対し、再譲渡の価額と低額の譲受価額との差額について、再度譲渡所得の課税をなすというがごとき二重課税の問題は、生じる余地がない。

以上において検討してきたところに従えば、旧所得法五条の二第一、二項に規定されているみなし譲渡等に関する規定は、必要でもあり、かつ一応の合理性をも有しているものと解すべきであるから、租税法律主義に反するところはないと解するのが相当である。

したがつて、原告の右主張は失当であつて、採用することができない。

(二) 原告は、第二に、仮に低額譲渡に対する課税が許されるとしても、その譲渡の類例の中に法人に対する出資を含ましめることは違法である旨主張するので、この点について検討することとする。

まず、資産の値上り益のような未実現の経済的利益については、これを所得に包含せしめて課税するようなことはせず、当該資産が売却その他の事由により他に譲渡されて、譲渡時までに蓄積されてきた未実現の経済的利益が顕現し、あるいは顕現したものとみなされる場合には、この蓄積されてきた経済的利益を譲渡時におけるその年分の所得として認識把握した上課税の清算を行なうというのが、譲渡所得に対する課税であることは、前示のとおりである。

それ故、資産の値上り益である未実現の経済的利益が顕現し、あるいは顕現したものとみなされる場合には、譲渡所得としての課税の清算をなすことが必要であるということになるから、旧所得税法九条一項八号にいう資産の譲渡とは、このような課税の清算を必要とする、資産の第三者に対する一切の移転を指すものと解すべきであつて、昭和二六年一月一日直所一-一、国税庁長官通達「所得税法に関する基本通達について」一三六に挙げられている、売買、交換、競売、公売、収用、物納および法人に対する出資等は、その例示にすぎないものというべきである。そして、法人に対する現物出資という態様により資産の譲渡がなされた場合においても、譲渡者(出資者)が法人より取得したとみられる対価については、これを算定不能と解すべきではなく、法人の定款に記載される、当該資産の価格および譲渡者に与えられる株式の数または出資口数(商法六三条、一六八条一項、有限会社法七条参照)によつて、容易にその金額を算定しうるものと解せられるのである。したがつて、法人に対する現物出資が、旧所得税法五条の二第二項にいう、著しく低い価額で資産の譲渡がなされた場合に該当するかどうかは、右のような方法により算定された対価と、当該資産の譲渡時における正当な価額とを対比することによつて、判断せられるべきことになるのである。

つぎに、旧所得税法五条の二第三項は、資産の譲渡を受ける者が個人である場合に限つて適用されることになる結果、譲渡を受ける者が個人である場合には、譲渡者が政府に対し、同条一項および二項のみなし譲渡等の規定の適用を受けない旨、および当該遺贈または贈与もしくは、譲渡に関する明細を記載した書面を提出したときは、みなし譲渡等の規定の適用が排除されるにもかかわらず、譲渡を受ける者が法人である場合には、このような取扱いの適用を受ける余地が全くないことは、原告の指摘するとおりである。しかしながら、譲渡を受ける者が個人である場合と法人である場合とによつて、取扱いにこのような差異が生じているのは、譲渡所得における所得金額の計算(旧所得税法九条一項)と、法人における所得金額の計算(旧法人税法九条一項)とが異なつており、また税率も所得税(旧所得税法一三条)と法人税(旧法人税法一七条、一七条の二)とでは異なつているために、譲渡者に対する譲渡所得としての課税を法人に引き継がせることが妥当ではなく、譲渡者において、譲渡時に必ず課税の清算をなすべきものとされた結果であつて、このことを捉えて、平等原則に反するということはできない。

したがつて、原告の右主張も失当であつて、採用することができない。

(三) 原告は、第三に、本件土地の価額を、被告が主張するように、時価に従つて金一、八四三、二〇〇円と査定するのなら、原告が訴外会社より割当を受けた出資の価額も、一口金一、〇〇〇円という名目価額によつてではなく、時価に従つて計算すべきであり、そうすると、訴外会社の設立時における資産は少くとも金三、六八四、二〇〇円であつたことになつて、原告が割当を受けた六五〇口は金九五五、〇〇〇円を下らないことになるから、本件土地の現物出資は旧所得税法五条の二第二項にいう低額譲渡には該当しない旨主張するので、この点について考えてみることとする。

なるほど、原告が本件土地を現物出資することによつて、訴外会社に対し少くとも金九五五、〇〇〇円という経済的利益に相当する持分権を取得するに至つたことは事実である。しかしながら、原告が本件土地を現物出資することによつて訴外会社より取得した対価は、(二)において判示した方法により算定すべきであるところ、<証拠省略>によれば、本件土地の価格は、訴外会社の定款において金六五〇、〇〇〇円と評価され、原告に対し一口金一、〇〇〇円に相当する出資口数が六五〇口与えられていることが認められるから、原告が本件現物出資により訴外会社から取得した対価は金六五〇、〇〇〇円と解すべきことになるβ仮に原告の主張するような計算方法を採用するとすれば、訴外会社に対し現金を出資したものは、原告の負担において、実際に出資金として出捐した金額よりも多額の金額を出資したものとみなされるという奇妙な結論を承認せざるを得なくなる。

したがつて、原告が主張するような計算方法によつては、本件土地の現物出資が低額譲渡に該当しないとみることはできない。

(四) 原告は、最後に、原告が本件土地を金六五〇、〇〇〇円と見積つたのは決して下当ではないから、本件土地の現物出資は低額譲渡に該当しない旨主張するので、本件土地の出資時に次ける正当な価額について、検討することとする。

(1) まず、<証拠省略>によれば、つぎのような事実を認めることができる。

原告は、昭和一九年三月二九日、豊国土地株式会社より、本件土地を含む、大阪市西淀川区野里東一丁目二四番地、田約七〇九坪の土地を買い受けた。当時右土地の約半分の部分で稲が作られており、また右土地の約三分の一の部分は蓮池であつた。稲が作られている部分は、その後漸次減小しながらも、昭和三〇年頃まで継続して存在した。そして昭和三〇年四月二六日には公簿上の地目が田より宅地に変更された。それ以後原告は右土地の一部を数次にわたつて他に売却した結果、昭和三七年頃には三〇〇坪余りが原告の所有地として残存していることになつた。原告は、倉庫業を営む訴外会社を設立するに当たり、昭和三七年五月八日右三〇〇坪余りの土地を六筆に分割した上、そのうちの一筆である本件土地を訴外会社に対して現物出資することとし、その余の五筆の土地も訴外会社に使用させることにした。訴外会社は本件土地を金六五〇、〇〇〇円と評価した上、原告に対し一口金一、〇〇〇円の出資口数六五〇口を与えた。訴外会社は原告およびその一族八人の計九人を社員にして、昭和三七年六月一八日設立され、右三〇〇坪余りの土地上に、建坪約二三〇坪の倉庫を建設した。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(2) つぎに、本件現物出資がなされた当時における本件土地の状況について、考えてみる。

<証拠省略>によれば、昭和三六、七年当時における、本件土地を含む前示三〇〇坪余りの土地は、堤防に沿つた道路面より約二、三〇センチメートル低くなつていて、塵挨などが捨てられていたため、右道路側が少し高くなつた、ゆるく傾斜をもつ湿地であつたが、池のようにはなつていなかつたことが認められ、右認定に反し、本件現物出資の当時右三〇〇坪余りの土地の一部は蓮池であつたという、<証拠省略>は、前掲各証拠と対比して信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 更に本件土地に要した整地費用について、考えてみる。

<証拠省略>によれば、本件土地を含む前示三〇〇坪余りの土地を整地するについて、坪当たり約金一、〇〇〇円に相当する費用を要し、訴外会社がこの整地費用を支出したことが認められる。

なお、<証拠省略>の中には、訴外会社は、倉庫において鉄材を保管するため、倉庫建築の基礎工事としてコンクリート製の杭を打ち、この費用として、金七、六二四、六八八円を支出した旨の供述部分があるが、この費用は、右供述自体からも明らかなように、前示三〇〇坪余りの土地そのものの利用価値を高めるために要したものではなく、特殊な用途に使用される訴外会社の倉庫の建築の基礎工事として支出されたものであり、<証拠省略>によれば、訴外会社もこの点を正当に理解して、昭和三八年五月三一日現在における貸借対照表に計上されていた建物付属設備勘定金七、六二四、六八八円を、昭和三九年五月一三日現在における貸借対照表では、建設仮勘定金七、七三一、一四七円とともに消減せしめて、これらを建物勘定金一七、二二八、一四九円および設備勘定金八一、四四三円に振り替えるという会計処理をしており、その反面、土地勘定は、右のいずれの貸借対照表においても金六五〇、〇〇〇円のままであることが認められる(右認定に反する証拠はない。)から、倉庫建築の基礎工事に要した費用をもつて、本件土地整地費用の一部であると認めることはできない。

そして、他に整地費用に関する前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(4) そこで、以上の各認定事実を考慮しつつ、本件現物出資がなされた当時における本件土地の正当な価額について、更に考察を進めることとする。

本件においては、本件土地の出資時における正当な価額を認定する資料として、<証拠省略>が存在する。ところで、右二つの鑑定結果が相違するのは、まず小野鑑定が昭和四二年一〇月二五日現在における本件土地の更地価格を一平方メートル当たり金三〇、〇〇〇円(三・三平方メートル当たり約金一〇〇、〇〇〇円)と査定しているのに対し、都築鑑定が昭和四四年三月一八日現在における本件土地の更地価格を三・三平方メートル当たり金一四〇、〇〇〇円と査定していることである。この点について、小野鑑定は、査定の理由として、近隣同類型地の取引事例、鑑定先例等により各事例の時点の修正、事情の補正をなし、立地、環境、画地の条件(地形、地積、街路の関係等)等土地価格を形成している諸要因を比較考慮したと、抽象的に述べているにすぎないのに対し、都築鑑定は、同じく査定の理由として、対象土地の位置する西淀川区の土地価格は、同区で最も賑いを呈している国鉄塚本駅前(柏里町二丁目四八)の商業地域(福徳相互銀行向側喫茶店付近、三・三平方メートル当たり金八〇〇、〇〇〇円~金一、〇〇〇、〇〇〇円程度)を最高限として、同区の最西部である工業地域(中島町附近、三・三平方メートル当たり金五〇、〇〇〇円~金七〇、〇〇〇円程度)を最低限として形成されているようである。対象地の近隣は戦前よりの老朽化した建物(主に住宅や中小工場)が多いため、急速な発展動向はなく、土地価格にあつても略横ばい状態を呈しており、都市計画道路淀川北岸線沿いの宅地で三・三平方メートル当たり金二〇〇、〇〇〇円を形成しているが、対象地の如く同線より北へ入ると価格も極端に低下し、三・三平方メートル当たり金一二〇、〇〇〇円~金一五〇、〇〇〇円程度となる(地元精通者の弁を分析)旨述べて、その理由を具体的に示しているので、都築鑑定に従つて、本件土地の昭和四四年三月一八日現在における更地価格は、三・三平方メートル当たり金一四〇、〇〇〇円であると解すべきである。そして、都築鑑定が、右更地価格より本件現物出資の時点である昭和三七年六月一八日現在の更地価格を認定するに当たり、大阪国税局管内路線価格、固定資産課税台帳による固定資産評価額、全国市街地価格推移指数、地域別全国市街地価格推移指数(工業地)、地域別六大都市市街地価格推移指数(工業地)、および消費者物価の費目別特殊分類別上昇率(家賃地代)の各変動推移指数ならびに本件地域独自の地価変動率を考慮して、二〇〇パーセントの調整をした上、本件土地の出資時における更地価格を三・三平方メートル当たり金四六、六六〇円と認定したこと、および、本件土地が地盛りをしていなくて湿地であつた場合には、盛土費用として三・三平方メーートル当たり約金一、〇〇〇円の費用が必要であるが、この盛土費用を要すること、および湿地であることなどによる市場性減価として、二〇パーセントの修正を施すことが、妥当であるとした上、本件土地の出資時における最終的な評価額を、金一、九〇一、四五〇円(三・三平方メートル当たり金三七、三二〇円)であると鑑定評価しているのは、前記認定事実にも照らし、すべて合理的かつ妥当なものであるとして、是認することができる。

なお、前示のとおり、本件土地は金六五〇、〇〇〇円と評価されて訴外会社に現物出資されたのであるけれども、<証拠省略>によれば、右の評価額は原告個人の見積りによるもので客観性に乏しいものと認められる。また<証拠省略>によれば、原告は、豊国土地株式会社より買い受けた土地約七〇九坪のうち、一九四坪四合八勺を昭和三〇年四月二〇日前田季子に対して金二九一、七二〇円で、また同じく三七坪一合三勺を同年一〇月二〇日守田要に対して金六〇、〇〇〇円で、それぞれ売却したことが認められるが、これらの売買実例は、本件現物出資の当時より相当以前のものであるのみならず、<証拠省略>によれば、前田季子は原告の身内であること、およびこれらの売買価格は原告個人の評価によるもので客観性に乏しいものであることが認められるから、右売買実例をもつて、本件土地を評価する上での参考資料とすることはできない。更に、<証拠省略>によれば、昭和三二、三年頃、某電気商が野里本通りの表通りに面した土地を坪当たり金二〇、〇〇〇円で買い受けたこと、および山崎光信が昭和四三年二月に本件土地より川沿いに約二〇〇メートル離れたところで、建坪二〇〇坪の工場付の土地二四〇坪を坪当たり金九五、〇〇〇円で買い受けたことが認められ、また<証拠省略>には、証言時(昭和四四年二月二〇日)における本件土地付近の土地の時価は坪当たり金五〇、〇〇〇円から金七〇、〇〇〇円である旨の供述が存するが、これらはいずれも今一つ具体性に欠けるので、本件土地を評価する参考資料としては十分でないといわざるを得ない。

そして他に都築鑑定の前示価額を覆すに足りる証拠はない。

したがつて、原告の右主張もまた失当であつて、採用することができない。

三 そうすると、本件現物出資の当時における本件土地の正当な価額は金一、九〇一、四五〇円ということになるから、被告が、この金額の範囲内において、本件土地を金一、八四三、二〇〇円と評価し、原告の金六五〇、〇〇〇円と評価してなされた本件現物出資を低額譲渡であると認定した上、旧所得税法五条の二第二項、九条一項八号に従い、譲渡所得として、金一、八三四、二〇〇円より取得価額金九一、六一〇円(取得価額については原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。)および特別控除額金一五〇、〇〇〇円を差し引いた金額の二分の一である金七九六、二九五円を算出し、これを原告が確定申告をした所得金額に加算してなした本件更正処分には違法な点がない。

四 よつて、原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 日野達蔵、喜多村治雄、仙波厚)

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