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大阪高等裁判所 昭和46年(う)1019号 判決 1972年4月20日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人花房秀吉作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、控訴趣意第一点及び同第二点の一、法令適用の誤り及び事実誤認の主張について。

所論は、要するに、児童福祉法三四条一項六号にいう「淫行」とは、刑法一八二条所定の「淫行」と同様に、姦淫行為を意味し性交類似行為は含まれないものと解すべきところ、原判決は、罪となるべき事実三乃至五において、被告人が児童たる渡辺朝広、中野和親、浜崎惣一をして為さしめた本件シヨーをもつて性交類似行為の一種であり「淫行」にあたると判示しているが、右は法令の解釈を誤り、ひいては事実を誤認したものであつて違法である、と主張するものである。

しかしながら、児童福祉法三四条一項六号にいう「淫行」には性交そのもののほか性交類似行為をも含むと解すべきものであることは原判決の詳述するところであり、当裁判所もまたこの見解を変更する必要をみない。しかしてかく解することは右「淫行」の解釈の範囲内に属するものであつて、未だ憲法三一条の罪刑法定主義に反するものとは認められない。しかるところ、本件証拠によれば、原判示三、四の事実において被告人が児童たる渡辺朝広、中野和親をして為さしめた「強姦シヨー」なるものは、いわゆる強姦を模したシヨーであつて、同児童等が相手役たる安富子と舞台に登場し、同児童等が同女の着衣をはぎとり、次いで同児童等も全裸となつてこれに打ち重なり、男女性交の場面を模するものであり、原判示五の事実において被告人が児童たる浜崎惣一をして為さしめた「白黒」と称するシヨーは、同児童が相手役たる高橋登美子や岩橋幸子と共に舞台上で全裸となり、互に打ち重なつて男女性交の場面を模するものであつて、これ等の場合、いずれも両性器が接触することはあつても没入するまでには到つていないとしても、それ等が同条項の「淫行」に含まれる性交類似行為の一種に該当すると認められることは明かである。従つて、原判決には所論の如き法令適用の誤り、事実誤認の廉はなく、論旨は理由がない。

三、控訴趣意第二点の二、事実誤認の主張について。

所論は、要するに、原判決は、罪となるべき事実一、二において、被告人が雇傭した児童たる佐島敏信、井上高徳を自己の支配下に置いたと認定しているが、被告人は自己の支配下に置いた事実はない、と主張するものである。

しかしながら、本件証拠によれば、原判示一、二において被告人が雇傭した児童たる佐島敏信、井上高徳との間には、勤務時間と勤務内容及びそれに対する報酬を定めて雇傭契約を締結し、一旦出勤した以上、出入口が一個所しかない一〇坪位の店舗からは被告人の承諾なくしては無断で外出したりすることはできず、営業時間である午後六時頃から午後一二時頃までの間は被告人の指揮監督の下にボーイとして客に対する飲食物の提供、接待その他の勤務に服していたと認められること原判決も認定しているとおりである以上、被告人が同児童等の意思を左右できる状態におくことにより使用、従属の関係が認められる場合に該当するものと判断するのが相当である。同児童等はいずれも自己の住居から通勤し、給料も日給制であり、また雇傭契約といつても同児童等の意思でいつでも破棄できる状況にあり、且つ、少くとも同児童等との間には遅刻、早退、欠勤に対し給料を差引く等特段の制裁に関する約定がなかつたことは認められるとしても、被告人は右営業時間内は同児童等を自己の支配下に置いたものというべきである。しかして、児童福祉法三四条一項九号にいう「自己の支配下に置く」とは右の如き時間内の支配をも含むものと解すべきこと原判示説示のとおりであるから、原判決には所論の如き事実誤認の廉はなく、論旨は理由がない。

三、控訴趣意第二点の三、事実誤認の主張について。

所論は、要するに、原判決は、罪となるべき事実一乃至五において、各児童を雇傭するに際し、適切な年齢確認の方法を尽さなかつたと認定しているが、被告人としては可能な限り年齢確認に努め、同児童等がいずれも満一八歳以上であると信じて雇傭したものであつて被告人には過失はない、と主張するものである。

しかしながら、本件証拠によれば、被告人は原判示一乃至五の各児童を雇傭するに際し、各児童の外観や自己が満一八歳以上の者である旨の陳述を信用し、家族に対する問合せ、戸籍謄抄本、住民票謄本の取寄せなど、使用者として確実でしかも容易になし得る年齢確認の方法を尽さないまゝ雇傭したものであつて、佐島敏信、井上高徳に対しては、同児童等がさきに警察署に検挙され取調を受けた事実があつたことから、同児童等に対してはその年齢を警察署に間い合せてもよいかと念を押し、また、渡辺朝広、浜崎惣一については、その年齢を同児童等がそれまで勤務していたクラブ、キヤバレーに問合せ又はその友人について確認する方法を講じた事実は認め得るが、これをもつてしては未だ十分に年齢確認の方法を講じたとはいい難く、結局、児童福祉法六〇条三項但書にいう年齢確確について過失がなかつた場合に該当するとは認められないこと原判決の判示するとおりである。従つて、原判決にはこの点においても所論の如き事実誤認の廉はなく、論旨は理由がない。

四、控訴趣意第三点、量刑不当の主張について。

所論は、要するに、原判決の量刑は重きにすぎ不当である、と主張するものである。

しかしながら、本件記録及び当審における事実取調の結果によつて明かな本件犯行の動機、態様、規模、罪質、営業期間、雇傭した児童の数、被告人の前科、殊に、昭和四〇年一二月一五日大阪家庭裁判所において児童福祉法違反罪により懲役一年二月に処せられた累犯前科のあること、及び昭和四三年六月三日大阪簡易裁判所において風俗営業等取締法違反罪により罰金七、〇〇〇円に処せられている事実に徴すると、被告人に有利な所論の各事情を勘案してみても、原判決の刑が重きにすぎ不当であるとは認められないから、論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条、一八一条一項本文により、主文のとおり判決する。

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