大阪高等裁判所 昭和46年(う)1578号 判決 1972年8月03日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二月および罰金一万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人小島孝作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
まず職権をもつて調査するのに、原判決はその罪となるべき事実の第七において、被告人は、昭和四六年二月二四日午後四時二〇分頃、京都市伏見区向島橋詰町観月橋南詰付近道路を、普通乗用自動車を運転して通行するに際し、同所は京都府公安委員会が道路標識によつて右折を禁止した場所であるから、前方の道路標識の表示に注意し、右折禁止の有無を確認して運転すべきであるのに、この義務を怠り、同所が右折禁止の場所であることに気づかないで、右自動車を運転して右折進行した旨、過失による右折禁止違反(昭和四六年法律第九八号による改正前の道管交通法七条一項違反)の事実を認定していて、この事実は原判決挙示の関係証拠によつて優に認められるからこれに対しては、過失により右改正前の道路交通法一一九条一項一号の罪を犯した者として、同条二項を適用すべく、かつ、この場合、それが罰金のみに当る罪であるので、懲役刑選択の余地がないのに、原判決はその法令の適用欄において、同条二項を挙示することなく、故意による右折禁止違反の場合と同様、同条一項一号のみを挙示したうえ、これにつき懲役刑を選択する旨を判示している。従つて、原判決はこの点において法令の適用を誤つたものというべく、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。そして、本件は被告人の全部控訴にかかるものであり、かつ、原判決中懲役刑の言渡をした部分は原判示第一ないし第六の罪に右第七の罪をも加えて刑法四七条を適用して処断されており、他方、罰金刑を言渡した部分である原判示第八の罪については、右第七の罪につきその法令の適用を是正した場合、これとあわせて同法四八条二項を適用処断することとなるので、結局、原判決はその全部について破棄を免れない。
なお、職権をもつて調査すると、記録および当審での事実取調の結果によれば、被告人は、原判示第四および第五の各最高速度違反の罪につき、その違反を現認した警察官からその都度右各違反事実について告知(道路交通法一二六条一項本文参照)を受けたうえ、各反則金相当額を仮納付し(同法一二九条一項本文参照)、その後公示(同条二項参照)の方法により警察本部長の通告(同法一二七条一項前段参照)を受けたことが認められる。しかし、右各違反は被告人がその有する自動車運転免許の効力を停止されている間に犯されたものであること記録上明らかであるので、被告人は道路交通法一二五条二項にいう反則者でなく、ひいて反則者でない被告人に対してなされた前記告知、仮納付、通告はいずれも無効というべく、同法一二九条三項、一二八条一項による反則金納付の効果を生ずるに由ないものといわざるをえない。従つて、原判示第四および第五の罪については同法一二八条二項の適用がなく、これについてなされた本件公訴の提起は適法であると解するのが相当である。
以上の次第で、原判決は、論旨(量刑不当の主張)に対する判断をまつまでもなく、さきに述べた理由により、全部破棄を免れないので、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条によりこれを破棄したうえ、同法四〇〇条但書によりさらに判決することとする。
原判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人の原判示第一の所為は昭和四六年法律第九八号による改正前の道路交通法(以下単に旧法という。なお、旧法を適用するのは右法律第九八号附則五条による。以下同じ)一一九条一項一号、四条二項、道路交通法施行令(以下単に令という)二条一項に、原判示第二の所為は道路交通法(以下単に法という)一一九条一項一〇号、七二条一項後段に、原判示第三の(一)ないし(五)の右所為は各法一一八条一項一号、六四条に、原判示第四ないし第六の各所為は各旧法一一八条一項三号、六八条、二二条二項、九条二項、昭和四六年政令第三四八号による改正前の道路交通法施行令(以下単に旧令という。なお、旧令を適用するのは右政令第三四八号附則一二項による。以下同じ)七条に、原判示第七の所為は旧法一一九条二項、一項一号、七条一項、九条二項、旧令七条に、原判示第八の所為は法一二一条一項九号、一〇七条一項三号に該当するので(なお、以上各罪の罰金刑の寡額または科料の額については、刑法六条、一〇条により昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項または二条二項による)、右第一、第二、第三の(一)ないし(五)、第四ないし第六の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を、また第八の罪につき所定刑中罰金刑をそれぞれ選択するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条、一〇条により刑および犯情において最も重い第三の(一)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により右第七および第八の各罪につき定められた罰金額を合算し、かつ同法四八条一項により右懲役刑および罰金刑を併科することとして、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役二月および罰金一万円に処し、なお同法一八条をも適用して、主文のとおり判決する。
(河村澄夫 滝川春雄 岡次郎)
<参照>
原審判決の理由中罪となるべき事実(抄)
被告人は、
第三 普通自動車の運転免許を有しているものであるが、京都府公安委員会より昭和四五年一〇月二三日から昭和四六年四月二〇日まで運転免許停止処分を受け、同期間中運転免許の効力を停止せられているに拘わらず、右期間中
(一) 昭和四五年一一月一六日午後七時五〇分頃同市東山区山至西野楳本町地先道路において、普通乗用自動車を運転し
(二) 昭和四六年一月一二日午後一時二八分頃同区山科音羽山等地町地先道路において、普通乗用自動車を運転し
第四 前記第三の(一)記載の日時・場所において、京都府公安委員会が道路標識によつて最高速度を五〇キロメートル毎時と定めた右道路を、右最高速度をこえる六八キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転し
第五 前記第三の(二)記載の日時・場所において、同公安委員会が道路標識によつて最高速度を五〇キロメートル毎時と定めた右道路を、右最高速度をこえる七四キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転し
たものである。