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大阪高等裁判所 昭和46年(く)56号 決定 1971年10月28日

少年 T・O(昭三一・五・三〇生)

主文

原決定を取り消す。

本件を京都家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告申立の趣意は、附添人坪野米男作成の抗告申立書に記載のとおりであつて、要するに、本件非行の態様は軽視しがたいものであり、非行当時の交友関係は悪く、父の保護能力も欠けていたのであるが、昭和四六年四月一四日に叔父T・Hの家庭に引き取られ、○中学校から○中学校に転校以後の少年の生活態度の一変、学業成績の著しい向上、交友関係及び家庭環境の改善、保護能力の増大、したがつて非行が全くなくなり、高校進学を目ざし向上の意欲に燃えて勉学にいそしみ、在宅のまま十分更生し得る状況にあつたのに、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当であるから、取り消されるべきである、というのである。

そこで、少年保護事件記録及び少年調査記録並びに当裁判所における事実取調の結果を検討して案ずるに、本件非行は、少年が、(一)昭和四五年一二月中旬から昭和四六年一月二六日頃までの間に、友人数名とともに多衆の威力を示して中学生らを脅迫したという暴力行為等処罰に関する法律違反一回、いずれも友人との共謀による中学生に対する恐喝一回、恐喝未遂一回、窃盗五回、中学生に対する暴行一回、計八回の非行をし、(二)昭和四六年三月上旬から同年四月七日に至るまでの間に、友人との共謀による窃盗五回、単独による窃盗六回、友人との共謀による恐喝一回、計一二回の非行をしたという事案であつて、少年は右(一)と(二)の各非行の中間の昭和四六年二月二六日に原裁判所で、昭和四五年一〇月二四日の友人三名とともに共同して中学生三名に対し暴行を加えたという暴力行為等処罰に関する法律違反保護事件につき保護観察に付されたこと、(右(一)の事件中の大部分は右保護観察決定当時原裁判所に判明していた。)があるのに、右決定を受けて間もない頃から約一ヵ月の間に、右(二)の一二回にわたる非行に及んだもので、そのうち初めは友人に誘われ追従して犯行に加わつたものが、のちには単独で犯行を繰り返しており、少年の非行は相当すすんでいたことがうかがわれ、しかも、少年が非行に陥つた環境及び保護者の保護能力についてみると、少年の家族は、もとは、京都市立病院の雑役として勤務する父と母及び三つ年下の妹の四名であつたが少年が京都市立○○中学校に入学して間もない昭和四四年四月一八日頃母が情夫と駈落ちして行方不明となつてからは、母欠損家庭となり、その後同年一一月初頃父及び妹とともに京都市○○区○○○○○○○××の×の○○○○×○×××○に転居して○○中学校に転校し、中学二年に進級した頃から次第に不良交友を持つようになり、三日に一度宿直勤務をする父の不在をねらつて、少年の家がその溜り場となり、昭和四五年一〇月に至つて、前記保護観察処分を受けた事件を起し、ついで前記の如く本件各非行に及んだもので、少年の迎合型、他人志向型で自主性に乏しい性格にも問題はあるであろうが、少年には小学六年生当時万引をして警察の補導を受けたことが一回あるほかには○○中学校に転校するまでには非行はなく、また後記の如く叔父方に引き取られ○○中学校に転校してからは何らの非行もないから、○○中学校での不良交友、母の欠損、父の保護能力の欠如という環境及び保護能力の劣悪さが本件非行の大きな原因となつていることがうかがわれるのであつて、以上の少年の非行、○○中学校在校当時の環境及び保護能力の劣悪さのみをみれば、原決定の収容処分も肯けなくはない。しかしながら、少年は、昭和四六年四月七日警察に検挙されて帰宅したのち、同月一四日に、叔父(父の異母弟)で、○○○○○○○○○○○○○をし、○○中学校PTAの役員もして教育に理解のあるT・H方に引き取られ、その地区の○○中学校三年に転校して以来、叔父の熱心な指導監督のもと、叔母及び高校二年生、中学三年の従兄らの協力によるあたたかい家庭で生活し、○○中学校の校長をはじめ担任教諭らの少年を含む○○地区の生徒に対する熱心な補習指導により少年自身も過去の自己を反省するとともに、高校進学をめざして意欲的に勉強に取りくみ、昭和四六年八月三日少年鑑別所に観護措置をされる(昭和四六年七月九日に前記(二)の事件及び(一)のうちの窃盗一件が家庭裁判所に事件送致されたためになされた。)に至るまでの約四ヵ月間の短期間ではあつたが、不良交友との切り離し、環境及び保護関係の著しい改善の結果、保護観察の遵守事項を守り、学業成績が著しく向上したことが認められ、○○中学校当局の少年に対する熱心な指導は、PTA役員である少年の叔父から強く依頼されたからというものではなく、学校当局の生徒一般、ことに○○教育に対する熱意から出たものであり、少年の意欲的な学習も、単に少年院送致をおそれての弥縫的な意図からのものではなく、少年鑑別所での収容生活においても適応意図を示していたことがうかがわれるのであつて、以上の諸事情を考慮すると、このような状況下にある少年を、従来の環境及びそのもとでの非行並びに本件の一部の非行につき共犯者である他の少年に対する処分との権衡を重視するあまり、本少年を少年院に送致することは、折角明らかに適応意図を示しつつある少年の向上の芽をつむこととなり、かえつて少年の保護上好ましくない結果を招くおそれがあるから、原裁判所としては、少年を試験観察に付するか、審判を続行するかして、今しばらく少年の行動を見きわめたうえで少年院に送致すべきか否かを決すべきであつたといわなければならない。したがつて、そういうことなくして、直ちに少年を初等少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当というべきであるから、取消を免れない。論旨は理由がある。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消して、本件を原裁判所である京都家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中勇雄 裁判官 尾鼻輝次 小河厳)

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