大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)106号 判決 1972年5月24日
理由
当裁判所も控訴会社は訴外川島乙成の使用者として、控訴人白河亨奉は控訴会社の代表者であつて、かつ、現実に右川島の手形等経理に関する業務の指揮監督をしていた者として、民法七一五条二項により各自右川島の不法行為(本件各手形の偽造、割引行為)により被控訴人の蒙つた損害を賠償すべきものと認定判断するものであつて、その理由は損害額につき認定を異にし従つてその部分を後記のごとく一部訂正し、なお次のとおり附加するほかは原判決理由欄に説示するところと同一であるからこれを引用する(但し原判決六枚目裏五行目の「三一、二年ごろ」とあるのは「四一、二年ごろ」と訂正する。)。
一、原判決理由三、の末項として次の一項を加える。
もとより控訴人白河亨奉が控訴会社の代表者として一般的業務執行権限を有することから直ちに民法七一五条二項を適用してその個人責任を問うことはできないが、しかし同控訴人は右のように控訴会社に常勤し現実に不法行為をなした被用者川島乙成を直接指揮監督していたのであるから同控訴人は民法七一五条二項の代理監督者に当たるものであり、この点の控訴人らの当審主張は採用し難い。
二、原判決理由五、を次のとおり改める。
五、《証拠》によれば、被控訴人は別紙手形割引表記載の割引日に(手形によつては振出日以前に割引いたものである。)、訴外藤田誠二を通じて訴外神東産業株式会社代表取締役村田孝から割引を依頼され、本件各手形が正当に振出されたものであると信じてこれを割引き、同人に各手形につき同手形割引表記載の割引日から満期までの期日分の日歩一一銭の割合で(尤も右各手形の満期が同表記載の満期のとおりであること、および割引率が日歩一一銭であつたことは当事者間に争いがない。)計算した割引料(同表記載の当裁判所認定の割引料欄記載の金額)を同表記載の手形額面(右手形額面についても当事者間に争いがない。)から差引いた残額を同表記載の当裁判所認定の交付額として合計二六一万〇七六九円を交付して本件各手形の所持人となつたことが認められ、右各手形が偽造であるとの理由で支払を受けられなかつたことは当事者間に争いがないから、被控訴人は右交付額合計二六一万〇七六九円の損害を蒙つたことが認められるが、これを越える分すなわち、右現実交付額に割引料を加えた手形額面額と同額の損害を蒙つたとは認められない。
けだし、右割引料相当額の如きは前記川島乙成らの不法行為(本件各手形の偽造行使行為)がなされたことによつて初めてその取得が期待されることになる筋合の一種の期待利益であつて、右不法行為がなかつたならば本来取得し得た筈の利益換言すれば不法行為がなされたため取得できなかつた利益ではないから、この分については本件不法行為により失つた得べかりし損害としてその賠償を求めることはできないと解せられるからである。
従つて被控訴人の本訴請求は前記認定の交付額の範囲においては正当であるが、これを越える部分(割引料相当額)については失当である。
三、原判決理由六、の次に七として次の一項を挿入する。
七、控訴人らは、被控訴人は本件各手形が偽造であることを知るや直ちに割引依頼人藤田誠二所有の時価四〇〇万円を下らない土地建物を担保にとり昭和四三年一一月三〇日付でその旨の登記も経由したから本件による損害は蒙つてないと主張し、《証拠》によれば右事実が認められるが、本件各手形の割引による不法行為は右各手形割引の日に成立しているものであり、その手形割引日が別紙手形割引表記載の昭和四三年八月三〇日と同年九月三〇日であることは既に認定したとおりであるから、右被害を受けた後に被控訴人がその損害回収の方法として右のような方策を講じたからといつて現実に損害を回収したことの立証がない以上被控訴人の本件不法行為による損害が消滅するとはいえない。控訴人らの右主張も失当である。
四、原判決理由七、を八にくり下げこれを次のとおり改める。
八、さすれば控訴人両名は被控訴人に対し各自前認定の金二六一万〇七六九円とこれに対する本件訴状が控訴人らに送達されたことが本件記録上明らかな昭和四四年五月二八日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、被控訴人の本訴請求は右の限度において正当として認容すべきであるがその余は失当として棄却すべきであり、これと一部認定を異にする原判決はその限度で変更を免かれない。
(裁判長裁判官 加藤孝之 裁判官 今富滋 上野国夫)