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大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)1444号 判決 1972年6月16日

控訴人 世界長株式会社

右訴訟代理人弁護士 原田昭

同 吉川武英

被控訴人 上東信伊

右訴訟代理人弁護士 古高健司

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。<以下省略>。

理由

訴外世界長神戸商事株式会社(代表者吉田経太郎)が、売主本人の資格でしたか、控訴人の代理人の資格でしたかの点はさておき、同訴外会社(代表者吉田経太郎)と買主被控訴人との間で、昭和四一年一〇月三日、原判決末尾添付目録(一)記載の本件土地およびその仮換地上にある本件建物につき、代金を金三、〇〇〇万円とする売買契約が締結された事実は当事者間に争いがない。

そこで、右売買が数量指示売買であるとの被控訴人の主張についてまず判断するに、成立に争いのない甲第一号証(不動産売買契約書)末尾添付図面には、本件土地(仮換地先)を図示して各辺の長さを記入し、登記面積九二坪七六勺、敷地面積七四坪六八勺、坪当り四〇万円との記載のあることが明らかであり、原審証人根岸誠、同佐古井信一は、右図面を添付したのは、本件売買が数量指示売買であるためである旨を供述し、被控訴人本人も原審および当審において数量指示売買の主張に副う供述をするけれども、甲第一号証添付図面は、後記認定のとおりの経過で作成された参考図面にすぎず、同証人らおよび被控訴人本人の右供述は、後記各証拠と対比して措信できないし、他に右事実を認めうる証拠はない。かえって、<証拠>によると、次のような事実が認められる。すなわち、本件土地建物は、もと控訴人が所有し、昭和三六年三月三一日、いわゆる子会社の関係にある訴外世界長神戸商事株式会社に売渡されたもの(但し所有権移転登記未了)であるが、同訴外会社は、本件土地建物では手狭まなため、これを売却して他に適当な店舗を取得すべく、控訴会社で不動産の売買を担当している平島康行に、本件土地建物を代金三、〇〇〇万円以上で売却することを依頼し、右平島は大阪の不動産業者に金三、〇〇〇万円の売値で仲介を依頼したこと、不動産仲介業者である新神戸中央不動産取引所こと根岸誠は、この話を扇港土地こと藤井某なる者から伝え聞いて、買手を探すべく、顧客を勧誘する目的で、神戸市役所において仮換地の関係を調査し、甲第一号証(不動産売買契約書)の添付図面(複写器により複写されたもの)と同一内容の図面を作成し、これを店舗にそなえて、資料として顧客に見せていたこと、ところが、本件土地はもと神戸市葺合区琴緒町五丁目二番の八、宅地、九九坪四合三勺、仮換地面積七四坪六合八勺の一部であったのが、控訴人の取得前である昭和三一年一二月四日頃に分筆されて、現在の登記面積九二坪七合六勺、仮換地面積六九坪六合八勺となっていたのに、なんらかの手違いから(結局は根岸の調査の粗漏ということになる)、右図面には、登記面積は分筆後のものが記載されたが、仮換地の面積および各辺の長さは分筆前のものが記載されていたこと、右図面中、坪当り四〇万円との記載は、根岸が、前記藤井某からは坪当り四五万円とも聞いていたにもかかわらず、自己の誤った調査面積七四坪六八と、売主側の売値と聞いている金三、〇〇〇万円から逆算(建物価格は一応無視)して勝手に記載していたものにすぎず、反面、右図面に総額三、〇〇〇万円の記載はなかったこと、被控訴人は、かねてビル建設用地取得の斡旋を依頼しておいた不動産仲介業者の佐古井信一から、甲第一号証添付図面と同一内容の図面を示して、約七五坪、坪当り四〇万円、総額三、〇〇〇万円で買受けないかとの勧誘を受け、仮換地先の現地に案内を受けたうえで、金二、八〇〇万円でならば買受けたいと答えたこと、右金額は、被控訴人主張の建物価格を無視する計算方式によるときは、坪当り三七四、九三三円余(七五坪として計算しても三七三、三三三円余)という端数のついた割り切れない数額となり、被控訴人において坪単価により売買代金の額を定めようとしていたとは考えられないこと、その頃根岸は、訴外世界長神戸商事株式会社に対して、買手があるといって接触をはじめ、同訴外会社からも仲介の労をとるようにいわれたが、その際、同訴外会社からは、代金三、〇〇〇万円以上でないと売れない旨を伝えられたのみで、仮換地面積の説明を受けたり、坪当り単価についての話はなかったこと、結局、本件土地と建物を一括して代金三、〇〇〇万円で売渡す前示売買契約が成立するに至り、その契約書(甲第一号証)の末尾に前記図面が添付されたが、それは、契約書(本体)を用意した根岸が、当初買手を勧誘するために作成したものをそのまま添付したものであって、売主側として契約締結に関与した同訴外会社(代表者吉田経太郎)は初めてみる図面であったこと、外形上も、右図面は、契約書本体との間に割印はなされていたけれども、図面自体の作成者としては、「新神戸中央不動産取引所」という記名がされただけのものであったこと、右契約締結に際して、売買代金は土地建物を一括して金三、〇〇〇万円と定められたのみで、本件土地の面積による数量指示売買をするのであれば、当然話し合いが行われる筈の、土地と建物の価格の内訳、もし建物(二階建事務所兼倉庫、建坪六〇坪四合五勺、二階建坪二七坪二合一勺)を無償ないしは評価外とするのであればその旨の確認、仮換地の面積の確認、七四坪六八に坪当り四〇万円を乗じてえられる二九、八七二、〇〇〇円と代金額三、〇〇〇万円との差額のもつ意味等について話し合いのなされた形跡は全くないこと、根岸は、前記図面を契約書に添付する趣旨について、売主側にも買主側にも特別の説明をしておらず、ことに本件売買契約が数量指示売買である旨を述べてはいなかったこと、右契約書(甲第一号証)本体の不動産表示欄には、本件土地を登記簿上の地番面積によって表示されているのみで、仮換地の表示がなく、前記図面は、主として、本件土地が仮換地を指定されている土地であること、およびその仮換地先を図面によって特定する目的のために添付されたものと考えられること、右契約書の第九条には、印刷文言で「甲 (売主)は本日から(空白)日以内に土地の坪数を明確にし、土地の境界を乙に指示し地形図を交付しなければならない。其際坪数が増減しているときは速やかに、融和的に売買事項を定めるものとする。」と記載されていて、その抹消がなく、したがって右添付図面は、右第九条にいう地形図またはこれに匹敵するような正確な坪数を担保する意味合いをもつ図面として取扱われたものとはみられないこと、契約成立に先きだち、売主側においても買主側においても、本件土地の仮換地先を実測した事実はないこと、以上の事実が認められ、右認定の事実によると、本件売買契約は、土地、建物の各価格の内訳を定め、かつ土地について、その数量を確保する意味で仮換地の面積を表示し、かつその数量を基礎として売買代金の額が決せられたものであるとは到底認められず、登記簿の表示によって特定した本件土地(仮換地の指定ずみ)と、その仮換地上にある本件建物を一括して代金三、〇〇〇万円で売買する趣旨の通常の売買契約であり、甲第一号証の不動産売買契約書に添付された前記図面も、もともと不動産仲介業者である根岸が、顧客に見せて買受けを勧誘するための資料として勝手に作成(価格を、厳密には正確さを欠く坪単価で記載したのも、顧客に価格の高低の目安を端的に示すためと考えられ、反証はない)していたにすぎないものを、仮換地を示すために添付したまでで、結局それは参考図面の域を出るものではなかったと認められ、右添付図面と契約書本体との間に、訴外世界長神戸商事株式会社の代表者印と被控訴人の印による前記の割印が押捺されていることや、被控訴人がビル建設用地とする目的で、すなわち地上建物を取壊す目的で、本件土地を買受けた事実(本件土地が右目的につき何等の支障を与えるものでなかったことは、当審における被控訴人本人尋問の結果により明白である)も、前認定を覆えすに足りるものではなく、前示措信しがたい原審証人根岸誠、同佐古井信一、原審当審における被控訴人本人の各供述のほかに、右認定に反する証拠はない。

そうすると、本件売買契約が数量指示売買であることを前提として、売買代金の減額請求をし、控訴人に減額分の返還を求める被控訴人の請求は、本件売買契約の効果が控訴人に及ぶかどうか、その他の点について判断するまでもなく、右前提を欠く点においてすでに失当たるを免れないから、これを認容した原判決を取消して、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮川種一郎 裁判官 日野達蔵 平田浩)

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